55 / 80
五章『ムークラウドの街の いへん』
五十二話『親友との ちゃっと』
しおりを挟む――― …
洞窟を出ると、眩しい太陽が俺とカエデを歓迎した。
その外は、一面の草原。ムークラウドまで続く、長い、長い草原がどこまでも広がっている。
しかしそんな事を感動する暇もなく…。
頭の中に響いた声は、まるで数年ぶりに再会するように感じる、懐かしい後輩の声だった。
『センパイ!センパイなんですねっ!!』
「ゆ… 悠希…!? 悠希なんだよな、この声…!!」
間違いようがなかった。
何度も、何度も聞いた、後輩の声に違いない。
俺が戸惑っていると、頭の中に違う声が混ざってくる。
『真っ! 良かったぜ、ようやく通信が繋がった…! この野郎、心配させやがって…!!』
「け、敬一郎か…!2人とも、無事なんだな!」
俺も。そして通信の向こうの敬一郎も、歓喜の声を交わしながら、お互いに涙ぐんでいるのが分かる。
――― 生きていた! 悠希も、敬一郎も… 無事だった!
俺はその事実が分かっただけで、嬉しさが全身に広がる。
そしてそれは、悠希と敬一郎も同じ様子だった。
魔力船から落ちた俺。 そして、魔力船でグランドスの戦艦から無事に逃げて、生き延びたであろう悠希と敬一郎。
お互いに生存が確認できなかった者達の無事が、今確認できたのだ。 こんなに嬉しい事はないだろう。
ゲームでの死が、現実世界での死に繋がるムゲンセカイで、生き延びるというのはこれほどまでに有難いものなのだろうか。
俺達は、涙を啜りながら笑い、そして通信を続けた。
カエデが、俺のその様子を不思議そうな表情で見つめ… 恐る恐る聞いてくる。
「あの、マコトさん…」
俺は食い気味にカエデに言った。
「生きていたんだ! 俺の親友が! 今、魔法で俺の頭の中に喋ってくれてるんだ!」
「! ほ、本当ですか…!? ま、マコトさんのお仲間が…!」
その報告に、2人を知らないカエデも嬉しそうな表情をしてくれた。
『カエデ…? マコト、誰かそこに居るのか?』
「あ、ああ、ごめん…。 ええと、詳しい話は会ってからにしたいんだけど… 敬一郎達は今、ムークラウドから通信してるんだよな?」
『… いや、それが違うんだ。 そういう真は、何処にいるんだ?』
違う?どういう事だ? 魔力船はやはり墜落してしまったのだろうか。
「俺は… あのまま神樹の森の中に落ちてさ。 色々あったけれど、どうにか森から出る事が出来たんだ」
『… なるほど。電波障害みたいな事になってたワケか。 アレから何日か経ってるけど、俺も悠希も、毎日お前に向けて通信してたんだ』
『でも一向に繋がらないからまさか… と思っていたんだ。 でも、通信使いの人が言うには、魔法が届かない場所にいる可能性もある、って…』
『信じていて良かったぜ。さっき、急に通信が繋がったってワケさ。お前が生き延びる算段をしないであそこから落ちたなんて考えたくないからな』
…俺が生きていると信じて、ずっと語り掛けていてくれたわけか。その事実に、また涙を流しそうになる。
しかし、俺は疑問を口にした。
「通信使いって…どういう事だ?そういえばお前も悠希も、魔法は使えないワケだよな?今どうやって喋ってるんだ?」
「そもそもムークラウドにいないって… 今どこから話してるんだよ」
『ええとな。こっちも色々ワケありでさ。 … うおっ、わ、分かったよ…。 悠希に変わるわ』
頭の中の声が何やらバタバタすると、悠希の慌てた声が聞こえてきた。
『デブセンパイばっかりズルいっス!私にも喋らせてほしいっス!』
「は、はは… 分かったよ。 えーと、悠希… 事情を説明してくれるかな」
俺の言葉に、悠希は嬉しそうな鼻息を聞かせてくれた。 通信越しの表情が見えるようだ。
『えーと、まず… ちょっとワケありで、今私達は、ムークラウドに戻れないんス。事情は合流してから喋りたいんですけれど… センパイはまさか、ムークラウドに向かってるんじゃ…?』
「あ、ああ。その予定だけど…」
『 ダメです!! 』
悠希の慌てた様子の大声が頭に響いた。
『という事は、ムークラウドには辿り着いてないんですよね?もし近くにいたら、すぐに離れてください!今、ムークラウドに行っちゃいけないっス!』
「え… どういう事だよ…!?今行っちゃいけないって…?」
おかしい。
俺達はムークラウドで合流する予定だったはずだ。それなのに、近づいちゃいけないって…。 あそこは安全な街なワケだし、周りにもスライミーしか魔物がいないから…。
しかし、悠希は鬼気迫る様子で俺に話し続ける。
『とにかく、合流してから話すっス。 センパイ、もしムークラウド方向に向かっていて神樹の森から出たのなら… 『イオット』という村がある筈なんです』
「! イオット。 そこに2人ともいるんだな?」
『ええ。あと魔力船の運転をしてくれていた町長の執事さんも一緒に。 …でも、この村… 魔法使い達が暮らしている隠れ里みたいなところでして、見つけるのがかなり難しくて… ええと、どうしよう…』
焦っている様子の悠希を落ち着かせるように、俺は通信で声を運んだ。
「大丈夫だ。 …カエデ、イオットの場所は分かるか?」
俺が振り返ると、カエデは何やら大きな紙を広げていた。 どうやらクヌギさんに書いてもらったこの辺りの地図らしい。
「えと… はい。 師匠の地図の通りなら、一日も経たずにイオットに到着できるハズです。マコトさんの魔力があれば、村の存在は視認できるらしいですし…」
「カエデ、ありがとう。 …悠希、一日経たずにそちらに到着できるそうだ」
『わあ、良かった! …ええと… なんか、誰かそこにいるんスか?』
「こっちの説明も合流してからするよ。仲間が出来たんだ。 イオットの村まで案内も出来るらしい」
『わー、早く会ってみたいっス!こっちも色々状況が変わったところで… とにかく、それじゃあイオットの村までは無事に着けるんスね』
「ああ。急いでそっちに行ってみるよ」
『了解っス!私もデブセンパイも、待ってますから! … 無事に着いてくださいよ、センパイ』
「任せとけ。…それじゃあ、またな」
『 … はい! 待ってるっス!』
少し名残惜しそうな声を残して、悠希と敬一郎との通信は切れた。
――― …
「… マコトさん!お仲間さん生きていて… 本当に良かったですね!」
カエデが猫耳をピョコピョコさせ、尻尾を振って嬉しそうに俺に言ってくれた。まるで自分の事のように喜んでいる。
「ああ… 本当にありがとう、カエデ。おかげ様で、合流できそうだよ。さっきも言った通り、イオットの村に今いるらしい」
「はい。どちらにしろ立ち寄る予定の場所でしたから良かったですね! …えと…」
カエデは再び大きな地図を広げて、草原の下に置くと小さなコンパスのような道具を持って方向を見定める。
「西南西の方向。徒歩で行けば…5、6時間歩けば村があるみたいですね。がんばりましょう」
「オッケー。…道中も一応魔物が出てくると思うし、気を引き締めていこう。 …すまないな、カエデ。俺の用事に付き合わせて」
「いえ。武者修行ですから!ボクはマコトさんについていくだけです」
文句の一つも言わずに、カエデは荷物を纏めて歩く支度をしてくれた。本当に、礼儀のできた弟子だ。師匠に感謝せねば。
徒歩で、5、6時間か。
普段の俺なら愚痴りたくなるくらい離れた距離だが… 今はそんな感情は微塵もない。
仲間と再会できる。
その喜びが全身に活力剤のように広がり、俺に足を進めさせた。
「それじゃあ… 行こう! イオットの村へ!」
「おーっ!」
俺と、猫耳の少女は、広い草原の中を、まだ見ぬ魔法使いの隠れ里に向けて歩き始めた。
――― …
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。
お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる