Destiny epic

ミヤビ

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第9話 「追憶の翠」

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数年前。AEGIS本部研究室にて。
「ーで、例の報告の件はどうなった?」
「それなんですが...その....現場でありえない事が起こりまして....」
「どういうことだ?報告に上がった少年というのは無事なのか?」
「謎の未確認敵性存在がいたという報告は確かですが...隊員が現場に向かった時にはもう...全て終わっていました。」
「....間に合わなかったのか?」
「いえ..."逆"です。隊員たちが現場について最初に送られてきた報告が...」
「"神が現れた"...と。」
「なんとも抽象的な言い方だな。どういうことだ?」
「その少年が...謎の光を発していたそうです。そして、周りには血みどろで倒れている未確認生物...」
「恐らくは...少年がなんらかの方法で全て蹂躙したものかと...。」
「馬鹿な...!我々の部隊でさえ殲滅の報告は一度もなかったはず...!それを...たった一人の少年が....!?」

少年の名は、ローラン。
かつて、悪魔を屠るとされた"神"のごとき存在。
少年は、とある小さな小屋にて、周りの住民の通報を受け、発見された。この少年は偶然にも、叔父にAEGIS研究員の人間がおり、この情報は幸いにもすぐに手に入った。

その当時は、悪魔についてまだ人々の認知も薄く、未確認生物として全世界の政府が総力を挙げて研究を行なっていた。
そうして出来上がった組織、それこそが「AEGIS」であった。神話において、最強の盾とされる名を冠している。
「未確認生物から人類を守る」という組織の基本理念にも、その意識が反映されていた。

「AEGIS」が悪魔について研究を行なっていた頃に見つかったこの少年。少年は、先の会話にもあった通り、人間では倒すことのできない悪魔をたった一人でねじ伏せた。

この報告を受け、AEGIS本部はその少年を保護し、研究を行った。本来は殺すことができないはずの悪魔に攻撃を加え、消滅させた。人間でありながらも明らかに人とは違う"力"ー。数々の書物や資料を読み漁り、一致するものがないか調べた。当の少年からはなにも見つからず、強いて言えばうなじにある謎の"あざ"のようなものだった。

そうして調べ続けていると、ひとつだけ、一致するものがあった。それが、「神話」に関する黙示録だった。その本に記されていた、"能力者"の記述、それに少年は一致したのである。
AEGISは少年はこの少年が"七英雄セブンス"と呼ばれる者の一人だという見解を出し、少年の叔父である一人の研究員の管轄下で保護を続けることにした。
ーだが、少年はそれ以来一向に能力を発揮させなかった。しかも、悪魔の軍勢は勢いを増すばかりで、組織は焦りを見せていた。そこで、組織は少年を監禁し、さらなる研究をする事を望んだ。だが。

-鳴り響くサイレン。その音に包まれて、一人の男が廊下を走っていた。そして、とあるガラス張りの部屋にたどり着く。
「!....叔父さん、この騒ぎは一体...?」
「奴らに見つかった。これ以上は拷問だと言ってるだろうに、なぜわからないんだ...!!!」
そう言いながら研究員は、持っていたカードを機械にスキャンし、キーボードにパスワードを打ち込む。そして、手早くドアを開けた。
「出るぞ!ここから逃げるんだ!!」
「えっ...どうして...!?この前、外には出られないって...」
「...今さら事情が変わってね。もうこれ以上ここには置いておけない。...さあ、奴らがくる前に、早く!」
そうして少年は手を引かれるまま、本部を出て、遠くの森の奥の奥まで逃げ続けた。
そして、研究員は組織の追っ手をうまく巻き、自らの研究所へと少年を連れた。

...
「......これからどうするの....?」
「君をあの組織から引き離せたのはいいものの、参ったな...」
「...なんで、みんな僕を特別に扱うの?」
「え?」
「僕だって、誰かと遊んだりしたかった...でも、毎日毎日、検査の日々...それが終われば、またあの部屋でひとりぼっちで...」
「......あのままあそこにいれば、きっと良くない事をされていた。...大丈夫だよ。君は独りじゃない。私がついている。」
「...もし、君が願うなら...君の友達を創ってあげよう。」
「え......叔父さん、できるの??」
「これでも研究者の端くれだ。やれるだけやろう。」
「ローラン....私の願いはね....君がいずれ、七英雄の一員として世界を救ってくれる事を望んでいる。この頃、また悪魔達が出没するようだ。この世界が奴らの手に沈む前に....」
「その時は...頼んだ。」
「......うん。わかったよ叔父さん。」

それから研究員の男は、少年と二人で生活した。研究員の男は、シャルル、と言った。
シャルルは、ローランの友達を創るべく、"クローン"の研究に勤しんだ。
だが、"友達を創るべく"、というのはほんの建前に過ぎなかった。
シャルルが求めたのは、ローランに負担をかけず、能力を覚醒させる方法だった。そこで、ローランと同じ遺伝子を持ったクローンを出来るだけ多く製作し、能力覚醒の確立と上げ、このいずれかの中から能力の覚醒者を出す、という事を考えていた。
かくして、出来上がった数は11体。コストや技術的にもこれが限界だった。
オリジナルのローラン含め12体。シャルルはそれぞれに名前をつけ、子供のように育てた。
「わあ...すごい...!君の名前は?」
「僕の名前はアストルフォ!君は?」
「僕はローラン!よろしくね!」
ほんの僅かな期間だったが、和気藹々と、12体とシャルルは暮らした。

そして、努力が実り数体に、"異能力"の兆候が見られた。ある者は時折身体が透ける事があり、またある者は予知のようなものを行なった。明日は雨が降る、というのを予知夢で見たらしく、その次の日は本当に雨が降った。
「博士!あのねあのね、今日も怖い夢見たの...!」
「はは、オリヴィエは怖がりだね...一体どんな夢を見たんだい?」
「博士がね....怖い博士になっちゃうの....とても忙しそうで...なんだかすごい焦ってたの。」
「なんだ...私なら、きっと大丈夫さ......」

時は流れーー。ローランだけは成長し、13歳となった。シャルルの有能な助手として務めるようになり、いつしかシャルルのことを"博士"と呼んでいた。クローン達は成長せず、その当時のローランそっくりのままでいた。
そんなある日。
「博士!!アストルフォ君が!!」
「どうしたローラン...!」
「ア...アストルフォ君が....急に倒れて......」
つかの間の平和は、長くは持たなかった。

「こ....これは...!」
クローンの一人が倒れていた。肌はすでに冷たく、息をしていなかった。
「なぜだ....一体どうして....昨日も普通にしていたのに.....」
「他の子達も、今は普通に活動できているはずだ...一体何が....」
しかし、悲劇はこれで終わらなかった。
次の日、また次の日と、クローン達が謎の死を遂げる。
理由がわからないまま、ただただ見ているしかできなかった。
シャルルは衰弱し、低迷した。
「こんなはずじゃ...私の考えが間違っていたのか...!?」
「能力の因子の血が流れた者を...まして複製するというのは....おこがましいことだったのか...??」
「は...博士.....。」
「....もう君しかいない。」
「えっ....?」
「こうなった以上、もう能力を発現できるのは君しかいないんだ!!」
"シャルル博士"はついに壊れた。
計11体を謎の死によって失ったシャルルは焦燥に駆られた。
「博士...!?」
「すまない....これも世界を救うためだ。」
シャルルはローランに意識を飛ばす薬を投与する。
「そん....な.....博士.....っ」
「信じて.....たのに......」

シャルルはローランをカプセルへと閉じ込め、改造を施し始めた。その頭脳を、ヒトの領域を超えた力とするために。
そこにはもう、負担をかけまいと奔走したシャルルの姿はどこにもなかった。


ローランの最終調整を行なっていたある日ー。
コンピュータに打ち込んでいたシャルルは何かに気づく。
「...何?意識が...戻っている....?」
「起きている....だと....!?どうやって!?....まさか...!!」
カプセルの中の液体の中で、ローランは、ゆっくりと目を開いた。
うなじのアザは、"紋章"となり、緑色に光っている。
「ーーついに目覚めたか!」
ローランは能力に目覚めた。ローランの周囲に緑色の光が満ちていく。
それはあの時、最初に報告に上がった時と酷似していた。
ーーだが。
その目には意識がなかった。無意識。つまりは、能力に乗っ取られている状態だった。
シャルルの周囲に光が満ちると、シャルルの体を光が飲み込んでいく。四肢を飲み込んで、光の粒子へと変わっていく。
「ぐっ...腕が.....!」
「く、ふふ...そうか....私を贄にして完全になろうというわけか....」
「いいだろう!世界を救うためなら、この身だって捧げてやる!!」
「....あとは......頼んだぞ....ローラン。」
「最後にその手で.....僕を殺してくれ。」
ーー光は完全にシャルルを飲み込み、あっという間に霧散し、消滅した。
その光はローランの元へと還り、ローランは再び目を閉じる。
そこから、神の長い眠りが始まったのだ。


それから数年後、二人の人間によって救われることはまた別の話。

to be continued...
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