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第1話「隣に越してきたのは、完璧すぎる“何か”だった。」
しおりを挟む探偵・真木誠(まき まこと)、30歳。元刑事。
都内の片隅、小さな雑居ビルの一室を改装した探偵事務所で、今日も一人で書類と睨めっこしていた。
「……やっぱり、人手が足りないな」
ため息をつき、誠は残ったコンビニのコーヒーを流し込む。
開業して半年、依頼はぼちぼちだが、現地調査から報告書作成までをすべて一人でこなすのは正直、限界がある。
“助手募集”の貼り紙は出してあるものの、応募は皆無。せめて、多少気が利いて常識のある人材が現れてくれれば……。
そのとき、ドアの向こうから「ドサッ」という大きな音が聞こえた。
「……引っ越し?」
不審に思い廊下に出ると、隣の部屋に段ボールを運び込む女性の姿があった。
長い黒髪、整った顔立ち、モデルのような体型に、不釣り合いなほど大きな荷物を一人で軽々と持ち上げている。
「……引っ越し屋さん、いないの?」
「いません。すでに終了しました」
きっぱりとした口調。見た目とは裏腹に、どこか機械的な話し方だった。
「初めまして。天音ユリカ(あまね ゆりか)と申します。以後、お隣としてご迷惑をおかけしないよう、配慮いたします」
「真木誠、探偵やってます。よろしく……って、引っ越し業者何人分の荷物運びました?」
「20箱です。平均13.4キロ。時間換算で37分12秒。想定より4.7分遅れましたが許容範囲です」
「……え?」
目をぱちくりする誠を無視して、ユリカはさっさと段ボールの山を運び終えた。汗ひとつかいていない。
それから数日後──
誠はある簡単な浮気調査の報告書作成に追われていた。
張り込み写真、GPS記録、聞き込みメモ……それらを整理するだけで3時間はかかる。もう嫌になりそうだった。
そのとき、ユリカがインターホン越しに声をかけてきた。
「助手、募集中なんですよね?」
「え?」
「先日貼ってあった紙、拝見しました。お役に立てるかと思いまして」
戸惑う誠に、ユリカはさらっと言う。
「なお、刑法第38条第1項に基づき、“故意”がなければ刑事責任は問われません。過去の調査記録を確認しましたが、法的瑕疵が散見されます。補佐が必要かと」
「……え?」
誠は、ぽかんとした。
パソコンを数秒覗いただけで全てを読み取り、しかも法的な誤りを指摘する謎の隣人。
なのに、カップラーメンにお湯を入れずに食べようとしたり、男女の空気にはとことん鈍感だったり──。
その日から、探偵・真木誠と“宇宙人的”隣人・天音ユリカの、奇妙で笑えるバディ生活が始まった。
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