『隣の宇宙人に恋して──銀河の片隅で愛を叫ぶ〜誰か助けてください〜』

キユサピ

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第5話 「私、嘘をついたことがないので──恋の駆け引きは想定外」

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「おかしいと思いませんか?人間って、どうして恋愛を語る時、嘘をつくんですか?」

天音ユリカが放ったそのひと言に、探偵・真木誠は、朝のコーヒーを吹きこぼす寸前だった。

「いきなりどうした」

「今日の依頼と関係があるんです。恋愛詐欺ですよね?依頼人の女性は、“本気だった”と信じてた相手に、二百万円を持ち逃げされたって……」

「まぁ、そうだな。被害届はまだ出してないって言ってたけどな」

「つまり彼女は、“信じた自分が馬鹿だった”と認めるよりも、“彼が本気で好きだったんじゃないか”と信じたい。どこかでそう考えてる。私にはその心理が理解できません」

ユリカは真面目な表情だった。しかも、コーヒーカップを口元に運びながら、既に本日の依頼者である川崎奈津美のSNSアカウントを5つ特定し、彼女の“投稿削除履歴”まで辿っていた。

「いや、助手になってまだ数日だよな?どうしてそんなに早く……」

「人間は、削除するとき、指の動きが一定のパターンを作ります。あと、SNSの既読通知時間が不自然に早い時は、複数端末で操作されている可能性が高いんです。普通の人間なら、気付きません」

「……誰か説明してくれよ、それ」



依頼人・川崎奈津美は、35歳。外資系保険会社に勤務しており、婚活アプリで出会った男に二百万円を貸したまま、連絡が途絶えた。

「一度だけ会った時……彼、泣いたんです。“母が入院してる、助けてくれ”って。私、もともと結婚する気もあったから」

そう語る奈津美の指には、細い金の指輪が残っていた。

「その男、名前は?」

「坂井俊介。年齢は……31歳。誕生日の話をしたとき、教えてくれたから多分本当」

「彼の本名、住所、勤め先は?」

「……全部知らないんです。LINEと電話だけで。でも、駅前のカフェで会って……あのときは確かに、優しかった」



その夜。

「詐欺って、嘘をついた時点で詐欺なんですよね?」

ユリカは、誠の机でカップ麺をふーふーしながら聞いた。3分より前に蓋を開けたことは、一度もない。

「民事と刑事は違う。だが、“恋愛感情があった”という建前があれば、詐欺に問うのは難しい場合もある。とくに証拠がないと、警察は動かない」

「それも“嘘”に含まれるとしたら?」

「お前、どこかで“嘘をつけない人種”って言ってたな」

「はい。私は生まれてこのかた、嘘をついたことがありません」

「信じるとして、じゃあ“恋”はどうだ?」

ユリカはスプーンを止めた。

「……それは、まだ定義が不明瞭です。データの蓄積も少ないので」

「正直すぎるめ」



翌日、調査は進展した。

ユリカの解析によって、坂井俊介は別名義の銀行口座を使い、複数の婚活アプリに登録していたことが判明。しかも、彼の現在の居場所を特定するまでにかかった時間は、たったの26分。

「現住所、都内某所。表向きは中古家電の買取業者、でも過去にはホストクラブ勤務歴あり。今は無職。30人以上の女性とやり取りしてる履歴があります」

「ユリカ……お前、警察だったらクビになってるぞ」



詐欺師・坂井俊介に接触したのは、ユリカだった。

わざと駅のホームでぶつかり、彼の落としたスマホを拾って渡す。次の瞬間、目を合わせて、笑顔で言った。

「あなた、川崎奈津美さんに“母親が入院中”って言ってましたよね?」

「……は?誰?」

「私、記憶力が異常に良いんです。あなたの顔も、声も、話した単語も全部記憶してます。今も録音してます。ここで、正直に話しませんか?」

坂井は逃げなかった。どころか、目を逸らしてうつむいた。

「……本当に、母は病気だったんだ。だけど金が足りなくて、最初は……最初は、カモにしようと思った。でも……奈津美さんは優しかったから……途中で、本気になってたんだよ」

「でもあなたは、彼女に何も説明しなかった。
奈津美さんに返すお金は詐欺で稼ごうと思っていたのですか?」

ユリカは冷静だった。嘘が介在する余地がなかった。



奈津美は、全てを聞いたあと、ポロポロと涙を流した。

「最低。でも……救われた気がします。少なくとも、私は……信じたくて信じてたから」

誠はそっとハンカチを差し出した。

「恋と嘘は、共犯みたいなもんですよ」

奈津美は去り際、誠の名刺を見つめながら笑った。

「探偵って、もっと怖い人かと思った」



事務所に戻った夜。誠がコーヒーをいれる間、ユリカはじっと誠を見ていた。

「真木さん。……私は、あなたが嘘をつく時も、すぐ分かると思います」

「……おい、怖いこと言うなよ」

「でも、今日は嘘つかなかったから。だから……少しだけ、嬉しかったです」

静かに言って、ユリカは自室に戻った。

誠は窓の外を見上げた。誰にも見せてない、ほんの少しの苦笑を浮かべながら。

「こっちの気持ちまで読まれそうで、気が抜けねぇよ……」



〈To Be Continued〉
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