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第36話「バイトの口は閉じられた」
しおりを挟む──探偵事務所のポストに、一通の封筒が届いたのは、曇天の午後だった。
「手紙……?」
誠が封を切ると、中には五千円札が一枚と、線の震えた走り書きのメモが一枚。
『調べてほしい。友達が消えた。割のいいバイトだって言ってた。スマホも、家もそのまま。警察に言ってもダメだった。お前らしか頼れない。──K』
無記名、送り主不明。だが、メモの裏にはもう一行だけ、震える字があった。
『ネットカフェ 4番席のロッカー。袋の中。』
「これ……ガチのやつかもしれませんね」
誠が神妙に言うと、ユリカはすでに立ち上がっていた。
「行きましょう。今すぐ」
⸻
指定されたネットカフェ。
ユリカはロッカールームで該当の番号を探し出し、
すばやくロックを開ける。
中には黒いビニール袋。中身は──
• 黒い無地のTシャツ(タグなし)
• 焼け焦げたSIMカード
• メモ用紙に雑な英数字の羅列
「闇バイトですね、典型的な」
ユリカの声は平坦だが、目の奥に光が宿っていた。
⸻
調査を進めると、“K”の友人・伊吹翔太の存在が浮上した。
彼も同じ高校に通っていたが、すでに学校には来ていない。
「急に金持ちになったと思ったら、姿消したんだよね……。
あいつ、スマホの中に『ナビ』って名前のアプリ入れてたんだ。ログインしたら、指示が出てくるって」
ユリカは捨てられていたスマホのクラウドから、バックアップ情報を復元。
「ナビ」は実在しないアプリ名だったが、
裏で動作していた通信履歴は、警察署近くのフリーWi-Fiを経由していた。
—
「中学生に、指示を出してたのが……警察内部の端末だった可能性がある、ということです」
「……マジかよ……」
誠は思わず息を呑んだ。
⸻
警察関係の知人を通じて情報を探るが、返ってくるのはどれも素っ気ない言葉。
「少年の逃走?よくある話でしょ」
「なんでもかんでも裏があると思うのは探偵の悪い癖だよ」
「“黙っててやってんだから”さ」
──その一言に、ユリカの動きが止まった。
「今、何て言いました?」
電話の向こうが沈黙する。
誠は顔色を変えた。
「……言っちまったな、あの男」
⸻
調査の末、発覚したのは、生活安全課の一部職員が
“高額バイト”という名目で未成年者に「見張り」「運搬」「受け渡し」の仕事をさせていた事実。
見返りとして、報酬の一部が仲介役であるその職員に流れていた。
Kは、その構図に気づき、離れようとしていた。
──それ以来、消息は途絶えていた。
⸻
「正義の名のもとに、人の人生を商品みたいに使うなんて……」
ユリカが低く呟く。
「“割のいいバイト”って言葉が、どれだけの若者を餌にしてきたか、あの人たちは分かってるんでしょうか」
—
最終的に、ユリカの収集した証拠と、匿名通報を使った真木の手引きで、
内部関係者は処分保留のまま異動となった。
一切、報道されることはなかった。
⸻
数日後。事務所に再び封書が届く。
今度は少し丁寧な字で、こんな言葉が綴られていた。
『ありがとうございました。
Kはまだ見つかってない。でも、誰かが動いてくれたこと、
あいつにも伝えます。──友人より』
—
「伝わるといいですね」
ユリカがぽつりと呟くと、誠はコーヒーを差し出しながら言った。
「世の中には、“ちゃんと見てる人”がいるってだけで救われる人もいる。
それが探偵って仕事の本質かもしれないな」
—
ユリカは手紙をしばらく見つめた後、
机の引き出しに丁寧にしまった。
五千円札も、そのまま一緒に。
それは、命の重みと、誰かが誰かを信じた証として──
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