『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第一章:「龍門」

第一話:「冬来りなば」

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冬の冷たい風が荒れ狂う、辺境の小さな村。
凍てつく大地に薄く積もった雪は、白く寂しい世界を覆い尽くしていた。

十五歳の李凌(リン)は、凍えながらも村の外れにある凍った小川のほとりに座っていた。
幼い頃に賊の襲撃で両親を失い、以来「親なし子」として村人の冷たい視線と差別に耐え、孤独な日々を送っている。

「いつか、強くなって……」
彼の瞳は寒さに負けない熱い決意をたたえていた。

その時、雪の中から一人の女武人がゆっくりと姿を現した。
彼女の名は白蓮(ハクレン)、かつて天下五傑と称された伝説の武人。

「こんな所で何をしている?」
彼女の声は凛と冷たく、それでいてどこか温かみがあった。

リンはその声に驚きながらも、胸の奥で何かが震えるのを感じた。
この出会いが、彼の人生を大きく変えることになるとは、その時まだ知らなかった――。

白蓮はリンの前にゆっくりと歩み寄り、その瞳をじっと見据えた。
「このまま、何も変わらずに終わると思っているのか?」
リンは答えられず、ただ俯くだけだった。

「強さは、生まれ持つものではない。求め、掴み取るものだ」
彼女の声は厳しくも力強かった。

「お前の中に眠る火は、小さくとも消えはしない。私がその火を燃え上がらせてやろう」

そう言うと白蓮は、リンの震える肩に手を置いた。
その手の温もりが、冷え切った彼の心に初めて灯をともしたようだった。

「私の弟子となれ。お前に剣と気を教えよう」

リンは一瞬ためらった。
だが、自分の未来がここで決まることを直感した。
「はい、師匠」

白蓮の瞳に微かな笑みが浮かんだ。

それからの日々は、厳しくも充実したものだった。
冬の厳しさ以上に、師匠の教えは厳しく、リンの肉体と精神を容赦なく鍛え上げていく。

白蓮の厳しい教えのもと、日々の修行に励むリン。
ある冬の朝、師匠に連れられ、彼は初めて道場の奥へと案内された。



そこには二人の若い武人が待っていた。
兄弟子の楊烈(ようれつ)は、引き締まった筋肉と鋭い眼差しを持つ、冷静沈着な男だった。
一方、姉弟子の蘭(らん)は、しなやかな動きと優雅な雰囲気を漂わせる女性で、朱雀流の技を巧みに操っていた。

「新入りの李凌(リ リン)か」

楊烈は無言でリンをじっと見つめた。

「ようこそ、弟弟子。これから共に修行を重ねていく仲間だ」
蘭は穏やかな微笑みを浮かべながらリンに手を差し伸べた。

リンは緊張しながらも、その手を握り返した。
「よろしくお願いします」

二人はリンの実力を試すように、軽く技を見せた。
鋭い突き、流れるような足さばき。
リンは自分の未熟さを痛感しながらも、決意を新たにした。

「負けるわけにはいかない……」

こうして、兄弟子と姉弟子との新たな絆が結ばれ、リンの修行の日々がさらに厳しく、そして刺激的なものとなっていくのだった。

冬の朝、凍てつく道場の庭先。
李凌が木製の木刀を握りしめ、黙々と素振りを繰り返していると、背後から鋭い声が響いた。

「おい、そこの新入り。手つきがまだまだ甘いな」

振り返ると、そこに立っていたのは兄弟子の楊烈だった。
彼の目は厳しくも、どこか期待を込めている。

「まだ始まったばかりだ。甘ったれた心では、この先の厳しい修行は耐えられんぞ」

リンは震える声で答えた。
「はい……でも、必ず強くなります」

楊烈は一歩近づき、鋭い視線でリンを見据えた。
「口だけなら誰でも言える。証明してみせろ」

そして、短く腕を振り上げたその動きは、ただの素振りとは思えないほど鋭く切れ味があった。

リンは負けじと木刀を握り直し、楊烈の動きを必死に追った。
「負けません……!」

二人の間に緊張が走る。
その厳しい空気の中で、リンは自分の未熟さを痛感しながらも、心の中で誓った。

「この楊烈にも負けないほど必ず強くなってやる」

ある日の夕暮れ、道場の縁側で凍えた手を温めていた李凌に、柔らかな足音が近づいてきた。
振り返ると、そこに立っていたのは姉弟子の蘭だった。

「寒い中よく頑張っているわね、李凌」
彼女の声は穏やかで、それでいて芯の強さを感じさせた。

リンは少し照れながらも、素直に答えた。
「ありがとうございます、蘭先輩。でも、まだまだです」

蘭は微笑み、そっとリンの肩に手を置いた。
「焦らなくていいわ。強さは一日にして成らず。私も昔は失敗ばかりだった」

その言葉にリンは少し救われた気がした。

「ところで、師匠や兄弟子が厳しいのはあなたのため。私もずっと教わっているけれど、彼女の教えはいつも的確よ」

蘭は空を見上げ、小さくため息をついた。
「私にも叶わぬ過去があるけれど、それでも前に進むしかないの」

リンは思わず尋ねた。
「蘭先輩の過去って……?」

蘭は少し間をおいて、静かに答えた。
「それは、いつか話すわ。でも今は、共に修行し、強くなりましょう」

その夜、リンは蘭の言葉に勇気をもらい、新たな決意を胸に抱いた。

冬の冷たい風が吹きすさぶ道場で、楊烈は木刀を握り締めながら静かにリンを見つめていた。
彼の瞳には、幼い頃の孤独と家族への反発が滲んでいる。

「家の期待は重い。だが、その重さに押し潰されるわけにはいかん」
楊烈はそう自らに言い聞かせるように呟いた。

一方、夕暮れ時の縁側で蘭は空を見上げ、遠い過去の悲劇を思い返していた。
「強くなること、それは私の宿命……」

彼女はリンに向けて微笑みを浮かべた。
「あなたも、いつか自分の運命と向き合う日が来るわ」


師匠の白蓮は若き頃より茶道に傾倒して居たが
数年前、白蓮は茶道の流派内で起こったある事件に巻き込まれ、大きな事故で重傷を負った。身体の一部に後遺症が残り、かつてのように自由に動けない日々を過ごしたこともあった。

しかし、その試練は彼女の心を強くし、技術だけでなく「精神の深さ」「心の美しさ」を追求する道を歩む決意を固めさせた。また、飛燕(朱雀流)に弟子入りし、武を極めた。乾いた砂が水を吸収するが如く白蓮の進歩は著しいばかりであった。驚異的な速さで朱雀流の師範まで上り詰めた。
弟子たちに厳しくも温かく接するのは、同じように困難を乗り越えてほしいという思いからだ。

重傷の影響で、たまに痛みや動きの制限に悩まされることもあるが、それを表に出さず、常に凛とした姿勢で弟子たちを導いている。
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