『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第二章: 「龍の試練」

第十八話:「武門対抗交流試合選抜試験」

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蒼龍門の稽古場に、朝の光が差し込む。道場の板の上では、リンが今日も汗を流していた。

「間合いを崩さず、呼吸を整えろ」
彩琳の声が、柔らかくも鋭く響く。リンは深く息を吸い込み、足の運びと拳の位置を確認する。外功の力と内功の呼吸を結びつけ、体全体を整えるのだ。

蒼龍門での修行は厳しい。外功は拳や脚の正確な動き、力の連動を磨く。一方、内功は体内に巡る気の流れを感じ取り、動きの中心を固める。呼吸と意識が、動きの速さや衝撃に直結する。

「覚えておくのよ、リン。内功の強さが外功の衝撃や速度になる。心技体、すべては表裏一体。力任せでは勝てない」
彩琳の指導は厳しくも的確で、リンは一歩一歩、理解を深めていく。

その日、リンは黄震と交流試合を想定した稽古に臨んだ。前回の戦いで受けた圧力を思い返しながら、足を滑らせ、拳を返す。内功で体の芯を保ち、外功で相手の力を受け流す。呼吸を調え、心を集中させることで、初めて技の一つひとつがしなやかに通じる。

弟弟子たちも互いに切磋琢磨し、稽古場に活気を与える。少年たちの間に、競争心と連帯感が自然に芽生えていった。

稽古を終え、リンは道場の片隅で独り呼吸を整える。
「自分の力……まだまだだ。でも、もっと強くなる」
少年の胸に、静かだが確かな決意が燃え上がる。

そのとき、蒼龍門の伝令が到着した。三か月後に開催される武門対抗交流試合の知らせだった。各門派から選抜された者たちが一堂に会し、腕を競う大会である。

彩琳はリンの肩に手を置き、柔らかく微笑んだ。
「リン、これからが本当の試練よ。焦らず、しっかり準備しなさい」

道場の板の上で、リンは拳を握りしめた。内功と外功、心と体。すべてを磨き上げ、三か月後の試合で自分の力を示す――その決意が、少年の胸に静かに燃え広がった。

稽古場の空気は、朝の光を受けてなお引き締まっていた。リンは深呼吸を整え、彩琳の指示に従って立つ。

「リン、まずは間合いの反復から。足運びを意識して、相手の中心線を崩すイメージで」

リンは朱雀流で学んだ前傾姿勢を取り、軽やかに左右にステップを踏む。外功の腕の動きと連動させ、体全体で力を受け流す。彩琳が一つひとつの動きを観察し、時折指摘する。

「もう少し、腰の回転を意識して。外功だけで押そうとするとすぐ弾かれるわ」

弟弟子たちも隣で稽古を始める。小柄な少年が俊敏な足さばきで突進し、リンが受け止める。
「はい、よく見て!」彩琳の声に、他の弟子たちも注目する。

続いて、内功を意識した訓練だ。リンは深く呼吸し、体内の気の流れを感じながら拳を前に出す。手のひらから伝わる衝撃は、ただの力任せではなく、内側から湧き上がる圧力と速度で相手に伝わる。

「内功を使えば、外功は単なる力ではなくなる。衝撃と速度は心と体から生まれるのよ」
彩琳が背後で補足する。弟弟子たちはそれぞれの技に気を巡らせながら、互いに軽く打ち合い、瞬間的な間合いと反応を磨いていく。

稽古の合間、リンは清蘭堂で手伝いをしていた薬屋の仕事にも励む。今日も薬の配達や調合の補助に精を出す中で、夫婦が用意した特別な調合薬を一服した。内功の流れが身体の奥まで染み渡り、先ほどまでの稽古で覚えた力がさらに研ぎ澄まされるのを感じる。

午後、彩琳は弟弟子たちを集めて指導を続ける。
「さあ、次は連携の稽古よ。互いの動きを読み、間合いを詰めたり緩めたりして、全体の呼吸を合わせなさい」

リンは小柄な弟弟子と組み、攻防を交互に繰り返す。外功の速さと内功の安定を意識しながら、相手の力を受け流しつつ、反撃の機会を探る。息を整えるたびに、体の芯が少しずつ強くなっていくのがわかる。

夕刻、稽古を終えたリンは板の上に座り、額の汗を拭う。彩琳がそっと寄り添い、微笑む。
「よく頑張ったわね、リン。三か月後の試合、本番で力を出せるよう、今の調子を続けなさい」

リンは拳を握りしめ、静かに答える。
「はい、彩琳様。全力を尽くします」

道場の板に夕日が差し込む中、少年の決意は確かに刻まれていた。三か月後、武門対抗交流試合――その舞台で自分の力を示す日が、確実に近づいているのを感じながら。

翌朝蒼龍門の道場に、早朝の静寂を破るように気配が満ちた。今日から、武門対抗交流試合に出場する代表5名の選抜試験が始まる。雷玄首長の穏やかな視線が、道場内の弟子たちを静かに見渡す。

「今日の選抜は、各自の実力と心構えを試すものだ。互いの力を認め合い、学ぶことを忘れるな」
雷玄首長の声が静かに響く。その場にいる弟子たちは、言葉の重みを噛み締め、姿勢を正した。

リンもまた、心を引き締める。朱雀流での修行、黄震との稽古、内功と外功の鍛錬……すべてが、この試験に繋がっているのだ。

彩琳は弟弟子たちを落ち着かせるように手を掲げ、ささやく。
「……リン、心を整えて。今日の試験は、力だけでなく、精神の成長も見られる」

選抜試験は、一対一の組手と応用動作、そして集団戦術の三段構え。
まずは一対一の組手から始まる。リンは深呼吸し、朱雀流の前傾姿勢で構えを取る。

「……よろしくお願いいたします」
相手は、蒼龍門内でも「大器」と称される黄震。重厚な構えと圧倒的な体躯で、リンに威圧を与える。

互いに間合いを測り、拳と蹴りの応酬が続く。リンは朱雀流で学んだ速さと読みで応じ、黄震は蒼龍門の重厚な力で押し返す。
「速さはあるが、軽い……」黄震の声が低く響く。

リンは踏み込み、斜めに力を逃がしつつ懐へ潜り込む。黄震の胸に手のひらが触れた瞬間、重圧が腕を通じて全身に伝わる。思わず後方に弾かれたリンだが、すぐに立ち上がる。

彩琳は弟弟子たちを制しながら、リンに小さく声をかけた。
「まだ終わりじゃない、リン。己を信じて、次の一手を考えなさい」

道場の奥、雷玄首長は静かにその様子を見つめていた。首長の隣には、蒼威老師が控え、リンの動きと表情を観察している。二人の眼差しが、リンに静かな圧力をかける。

選抜試験はまだ序盤。しかし、リンの心には、朱雀流で培った技と蒼龍門での新たな挑戦が、確かに結びつき始めていた。

その日、道場には緊張感と期待が交錯する中、選抜試験の鐘が鳴り響いた。リンと他の門弟たちは、それぞれの成長を示すべく、互いに戦いの準備を整える。



道場内は静寂と緊張に包まれていた。選抜試験の四枠はすでに決まっている。雷玄首長や蒼威老師もリンのその実力を認め、承認済みだ。

 しかし、最後の一枠――蒼龍門代表として武門対抗交流試合に出場するのは誰か――がまだ決まっていない。

「リン、朱雀流の技をここで出すことはできない。あくまで蒼龍門として戦うのだ」
彩琳が小声で告げる。

リンは眉をひそめる。朱雀流での修行が自分を形作ったことは間違いない。しかし外弟子である以上、朱雀流として試合に出ることは許されない。ここは蒼龍門としての力を示すしかない。

雷玄首長が静かに声を上げる。
「最後の一枠は、蒼龍門内での実力と心構えで決める。リン、そなたも含め、挑戦者はここでその力を示すのだ」

道場の中央には、リンと他の候補生が一列に並ぶ。互いに視線を交わすが、緊張と覚悟がその表情に刻まれている。
「……よろしくお願いいたします」
リンは深く一礼し、朱雀流で培った心技を一旦封印し、蒼龍門の技として振るう覚悟を固めた。

彩琳は弟弟子たちを制しつつ、低く呟く。
「……さあ、最後の枠を勝ち取るのは、誰か――」

雷玄首長の眼差しが、リンを含めた候補者全員を静かに巡る。
「互いに全力を尽くせ。ここで示すものが、武門対抗交流試合の戦いに直結する」

道場の空気が張り詰める中、リンの胸には初めての本格的な「蒼龍門としての戦い」への覚悟が芽生え始めた。

最後の一枠を巡る戦い――少年は、己の技と心でその座を勝ち取れるのか。静かに、その幕は開かれようとしていた。


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