『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第三章:「運命の交差」

第三十八話:「護国の矢、破壊の血脈」

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烈陽の空は薄曇り、午後の光が戦場を淡く染める。護国烈は城壁の上から厳かな沈黙のまま、矢を握り締めた。
「これで止められるか……」彼の声は風に消される。

一斉に放たれる矢。無数の黒い影が空を切り裂き、景嵐に向かって降り注ぐ。兵たちの息が凍る瞬間、風牙はわずかに身を強張らせる。

しかし、景嵐の瞳は一切の動揺を見せない。ゆるやかに構えを変え、矢を体で受け止め、刹那のうちに周囲の石塊を盾として利用する。矢は音もなく弾かれ、散りゆく。

「……愚かだ」景嵐の低い呟きが戦場に響く。矢の嵐は彼に届かず、護国烈の戦術は完全に読み切られていた。

遠視玄は高所の塔からその光景を見下ろし、眉をひそめる。守財武に向けて迅速な伝令を放つ。
「景嵐の動き、予想以上。護国烈を援護せよ、事態が変わりつつある」

守財武は地図と兵の配置を瞬時に頭に入れ、冷静に護国烈の元へ指示を送った。
戦局は刻一刻と変化し、烈陽国の四天王たちと景嵐との死闘の幕は、さらなる緊迫を増していく。

烈陽国の中枢、城塞の頂。
護国烈の号令とともに、数百の弓兵が一斉に弦を引き、矢の雨を景嵐めがけて放つ。

「……なるほど、来るか」

景嵐の瞳は冷徹そのもの。薄曇りの光の中、矢が降り注ぐ。だが、その動きは驚異的な速さで計算され、全ての矢を視界に収める。矢はまるで景嵐の周囲で空を裂く紙屑のように舞うが、彼の姿は微動だにせず、冷たい微笑が唇に浮かぶ。

「……駒に過ぎぬ」

一歩、そしてまた一歩。景嵐の足元から、矢はまるで自らの意思を持つかのように弾かれ、あるいは寸前でかわされていく。護国烈の矢はその緊張と集中力を誇示するが、景嵐の計算の前では、すべてが意味を失う。

そして、静寂の間に、景嵐は動いた。
その一瞬、空気が変わる。矢の雨を突き破り、彼の体が疾風のごとく護国烈の前に迫る。

「……受けて立つ」

掌を振るい、一閃。矢は空中で散り、地面に落ちる。護国烈の顔に、初めて焦りが走る。数百の矢が、まるで景嵐の掌の内で無力化されたかのように消え去ったのだ。

「……貴様が、破壊の血脈か」

護国烈の低い声に、わずかに震えが混ざる。しかし景嵐の冷徹な瞳は、戦場の全てを掌握したかのように一点の迷いもない。

「これで終わりではない。お前の盾も、この一撃で崩れる」

景嵐は矢を避けただけでなく、その反動を利用して疾走を開始。護国烈の布陣を切り裂くため、次なる攻撃の軌道をすでに計算し、敵陣の奥へと踏み込む。

矢の雨の中、破壊の血脈は静かに、しかし確実に形勢を逆転させ始めた。

景嵐は無駄な動きひとつなく、兵の群れを切り裂き、あっという間に屍の山を築いていく。弓矢、槍、刀——どれも彼の計算された動きの前では無力化される。戦場はまるで景嵐を中心に回転しているかのように混沌と化す。

しかし護国烈の瞳に宿る焔は、さらなる強さを帯びて光を増していた。老将の目には恐怖も迷いもなく、ただ戦士としての誇りと覚悟だけが燃え盛る。

「景嵐……敗れたり!」

護国烈の咆哮が響き渡る。地鳴りのようなその声に合わせるかのように、大地が裂けた。城塞の石壁も、兵の足元の土も、ひび割れとともに震動する。

景嵐は一瞬、足元が沈む感覚を覚えた。地面が割れ、裂け、まるで戦場そのものが景嵐を飲み込もうとするかのようだった。

だが、その瞳は揺らがない。冷徹な微笑を浮かべ、わずかに身体を沈めながらも、瞬時に裂けた地面を踏みしめて前進を続ける。地面の裂け目が避けられない障害なら、それを力と速度で乗り越えるだけ——景嵐の進撃に、ためらいは存在しなかった。

大地の裂け目を越え、再び護国烈の前に立つ景嵐。その背後には、既に幾百の兵の屍が累々と積まれ、戦場は完全に彼の掌握下にあることを示していた。

「……これが、破壊の血脈の力か」

護国烈は声を震わせながらも、戦士としての誇りを胸に戦いを続ける。大地が裂けようとも、焔のような瞳で景嵐を見据えるその姿に、戦場のすべてが息を呑んだ。

景嵐の冷徹な眼差しは、ただ一つの目的に向かっている——護国烈の前に立ちはだかる、最後の障壁を突破すること。

景嵐の猛攻を、百戦錬磨の護国烈は冷静に捌き続けた。老将の一挙一動は緻密で、まるで景嵐の攻撃パターンを読み切っているかのようだった。剣圧の一瞬の狂いも許さず、若き破壊者を完璧にコントロールする。

「……さすが百戦錬磨。見事だ」
景嵐の瞳にわずかに戦慄が走る。これほどの相手を、これほどの力で制御されるとは想像を超えていた。

その時、高所に控える遠視玄の視線が、戦場のあらゆる動きを捕らえる。
「守財武殿、異変あり。景嵐の動きに揺らぎが生じております」

守財武は静かに指先を動かし、秘匿されし秘密兵器を作動させる。烈陽国全土に張り巡らされた、精緻に設計された罠と装置の連動――景嵐の動きを制限し、追い詰めるための仕掛けだった。

「……なるほど、これが四天王の総力か」
景嵐は鋭く状況を見渡し、冷徹に分析する。しかし、目の前に迫る脅威は圧倒的で、自由を奪われたその瞬間、初めて戦場での危機感が彼の全身を貫いた。

護国烈の異常な粘りと、守財武の暗躍する戦略――二つが景嵐の前に立ちはだかる。戦場の空気は張り詰め、誰もが息を呑む。若き破壊者ですら、この瞬間だけは危機に直面していた。
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