『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第三章:「運命の交差」

第三十九話:「風牙死す」

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戦場の煙と硝煙が空を覆う中、景嵐は護国烈と守財武の挟撃に追い詰められていた。次の一手が、死か生かを分ける。

「……このままでは――」
景嵐の視界がわずかに揺れる。その瞬間、背後から凄まじい衝撃が響き渡った。

「景嵐様!」

風牙が突如として姿を現す。全身に傷を負い、無数の矢が彼の身体に突き刺さっていた。それでも風牙はカッと目を見開き、仁王立ちのまま景嵐を守る。矢の重みで身体は揺れるが、決して膝をつかない。

「俺が……守る!」

景嵐の声が戦場に轟く。しかし風牙は答えることなく、ただ景嵐の前に立ち続けた。その姿はまるで、不死の守護者が立ちはだかるかのようであった。

護国烈の一撃、守財武の罠、爆風の衝撃――すべてを受け止める風牙。景嵐は胸を打たれながらも、彼の犠牲により無傷で立ち上がることができた。

戦場の煙が晴れると、風牙は仁王立ちのまま動かなくなっていた。無数の矢が貫いたその身体は、まるで彫像のように凛として最後の瞬間を迎えていた。

「風牙――!」

景嵐の叫びが戦場に響く。胸を打つ痛みと同時に、深い悲しみと誇りが胸を満たす。風牙は忠誠の証として、自らの命を差し出し、主を守り抜いたのだ。

景嵐は拳を握り、風牙の犠牲を胸に刻む。冷酷な戦士である彼でも、この瞬間だけは心を揺さぶられ、守るべきものの重みを改めて知る。

「……風牙、俺は必ず、お前の命に応える」

戦場に残るのは血と硝煙だけではない。守護者の魂が景嵐の胸に宿り、破壊の血脈は再び炎を上げる。


戦場に響く風牙の最期の声。景嵐の胸に突き刺さった痛みは、怒りと決意に変わった。守護者の犠牲が、無慈悲な戦の渦中に立つ彼をさらなる覚悟で満たす。

護国烈が鋭い眼差しを景嵐に向け、再び矢を放つ。守財武は遠くから冷静に状況を見据え、秘密兵器の準備を整えている。だが景嵐は一歩も退かない。

「……終わりではない」

冷たい声が戦場に落ちる。景嵐の動きは無駄なく正確、まるで戦場そのものが彼の思考の延長であるかのようだ。目の前に立ちはだかる護国烈の攻撃を、寸分の狂いもなく捌き、逆に隙を突く。

矢を避け、砲撃の影を踏み、景嵐の突撃が護国烈の前に迫る。風牙の犠牲を胸に刻んだ力が、全身を満たす。彼の眼差しは凍てつく鋼のごとく、もはや後退も躊躇も存在しない。

守財武は静かに眉をひそめる。遠視玄が伝える景嵐の動きの変化を聞き、計略をさらに調整しようとする。しかし、その目の奥には微かな焦りが覗く。景嵐の歩みは、もはや予測を超えた軌道を描き始めていた。

戦場に立つ全ての者の心が、息を呑む。圧倒的な強者の存在感が、再び烈陽国の谷間に轟く。

「……これが……俺の道だ」

景嵐は突如、護国烈の布陣を切り裂き、一気に距離を詰める。矢の雨、火薬の煙、叫喚の渦——すべてが彼の前では障害にすぎない。

護国烈も、守財武も、この男が風牙の犠牲を乗り越え、冷酷な闘志をさらに増幅させていることを悟る。戦場の流れが、確実に景嵐へと傾き始めていた。

戦場を覆う矢雨を切り裂き、景嵐の一歩一歩は静寂を切り裂く刃のごとく正確無比だった。無駄な動きは一切なく、兵たちの声も叫びも、彼の耳には届かない。風牙の犠牲を胸に、全身が凶暴な鋼のように緊張していた。

護国烈の矢は次々と飛ぶ。しかし景嵐は寸分の狂いもなく避け、盾や装甲を切り裂き、矢の雨の中を突き進む。兵たちの悲鳴と鎧の衝撃が戦場を震わせるが、そのすべてを景嵐は冷徹に、計算された速度で踏み越えていく。

「……ここで止めるわけにはいかん」

呟く声は静かだが、戦場に響く空気すら凍らせる。護国烈は必死に剣を振るい、景嵐の突撃を捌く。老将の動きは百戦錬磨の技術である。しかし、景嵐は全く退かず、間合いを詰めながら一瞬の隙を待つ。

背後に迫る火薬の煙と砲撃の轟きも、景嵐の足を止められない。遠視玄が伝える景嵐の動きの異常を見て、守財武は秘密兵器を発動させるべく手を動かす。しかし、その視界に入る景嵐の姿は、まるで戦場そのものを支配するかのように異様に冷酷だった。

矢が胸をかすめ、盾を打ち砕き、兵たちの叫びが耳に刺さる。だが景嵐は止まらない。一歩一歩、護国烈に迫る。老将の瞳に焦りはないが、身体がすくむ。百戦錬磨の剣士であっても、この速度と精度、そして冷徹さを兼ね備えた相手を前に、守ることしかできない瞬間が迫る。

「……終わりだ」

景嵐は短く呟くと、護国烈の前に跳躍し、剣と拳を交錯させた。剣戟が火花を散らす。護国烈は数合の打ち合いで全力を尽くすが、景嵐の動きは無駄なく正確で、力と速度の合わさった一撃一撃が老将の防御を削ぎ落としていく。

ついに護国烈は膝をつき、剣を支える腕が震える。景嵐の冷たい眼差しが、その全身を貫く。残響の中で、兵たちは静まり返る。景嵐は無言で護国烈の首に手をかけ、力を込める。老将の瞳には、戦士としての誇りと覚悟が映るが、もはや止めることはできない。

景嵐の手が護国烈の首を抑え上げる瞬間、戦場に静寂が訪れる。矢が飛び交い砲火が轟く中、圧倒的な静寂——それは冷徹なる勝者の到来を告げる沈黙だった。

景嵐は護国烈の首を力強く掲げる。その冷徹な眼差しと無慈悲な動きは、戦場に立つすべての者の視線を凍らせるほどの圧倒的威圧感を放っていた。計算し尽くされた戦いの果てに——景嵐はここに、戦場の頂点として存在した。
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