『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

文字の大きさ
132 / 146
第十章:「孤立する正義」

第百三十一話:「制裁の時代」

しおりを挟む
 ヴェルテリス北部での戦乱がようやく沈静化した頃、遠く離れた国際会議の場では、新たな戦いが始まっていた。
 磨き上げられた大理石の床、各国の旗が並ぶ円卓に、ドレイヴァと蒼嶺国の代表団は誇らしげに腰掛けていた。

 「我らは自国を守るために剣を執ったに過ぎません」
 ドレイヴァの外務卿は冷徹な眼差しで各国の代表に語りかける。彼の背後には、改ざんされた戦場映像が投影されていた。そこではヴェルテリス側が無人兵士を先に動かし、ドレイヴァの村を襲撃したかのように映し出されている。

 「このように我々は被害を受け、正当防衛として立ち上がったのです」
 場内はざわめきに包まれ、幾人かの代表がうなずいた。

 一方で烈陽国代表、守武財は立ち上がった。
 「それは虚構だ! 事実は逆だ。ドレイヴァこそ我らの領土に火薬を仕掛け、戦を仕掛けてきたではないか!」
 彼の声は会場に響いたが、その勢いを削ぐかのように蒼嶺国の代表が冷笑を浮かべる。
 「ならば証を示すがよい。だが現に此度の戦では、烈陽国は禁じられた兵器を使ったではないか。無人兵士や鉄の龍を――」

 その言葉に、場内の視線が一斉に守武財へ注がれた。
 やがて議長の口から下されたのは冷酷な勧告だった。
 「烈陽国、ヴェルテリス、魏志国、壯国、晋平国――。汝らは秩序を乱したと認められ、国際社会からの経済制裁を受けることとする」

 その瞬間、守武財は歯を食いしばり拳を握り締めた。
 ――正義を貫いたはずの彼らが、逆に裁かれるとは。

 その報せは瞬く間に各国へ伝わり、烈陽国の都にも重苦しい空気が広がった。物資は途絶え、商人は取引を恐れ、民は不安に駆られた。

 リンはその報を聞くと、庭に佇み、夜空を仰いだ。
 「正義とは……誰が裁き、誰に認められて初めて成り立つものなのだろうな」
 彼の横で景嵐は黙って拳を固め、燃える瞳を夜空へ向けるのだった。


 経済制裁の布告から数週間。烈陽国の都は、かつてないほどの沈鬱な空気に包まれていた。

 交易の港に並んでいた船は次第に姿を消し、商人たちは商品を積むことを躊躇した。市場では香辛料や絹布が値上がりし、民は小さな袋を握りしめてため息を漏らす。
 「どうしてこうなったんだ……俺たちが何をしたっていうんだ」
 行き交う民の声は、不満と不安とで重く曇っていた。

 宮廷の一角では、守武財と玲霞、そしてリンと景嵐が顔をそろえていた。
 玲霞は机上に山と積まれた報告書を手に取り、深刻な面持ちで言う。
 「食料備蓄は三か月が限界です。加えて輸入が止まれば、薬草や鉱材も足りなくなる。無人兵士の維持すら難しくなるでしょう」
 「まるで我らが侵略者のように言い募られ、誰も耳を貸そうとしない……」
 守武財の声は苦渋に満ちていた。

 その場にいたカイリも、不安げな顔で口を開く。
 「ぼくのせいなのかもしれない……僕が王に据えられたから……」
 「違う」
 景嵐がきっぱりと否定する。
 「罪はお前にはない。だが――このままでは確かに、国は衰える」

 重苦しい沈黙が落ちたとき、リンが静かに口を開いた。
 「……正義が孤立したのではない。我らの正義を信じきる力が、試されているのだ」
 その言葉に、皆の視線が集まる。

 だが、街中ではそうはいかない。
 「烈陽国のせいで、俺たちは飢えるんだ」
 「ヴェルテリスの戦なんて関係ないのに……!」
 不満を募らせた一部の民衆が集まり、宮廷の門前で声を荒げ始めていた。

 彼らの叫びは、やがて小さな火種となり、国の内側を揺るがす兆しを見せていた――。

 戦場の煙がまだ地平線に残る頃、国際評議会の大広間では熱気と緊張が入り混じっていた。蒼嶺国の代表が大陸地図を掲げ、力強く言葉を放つ。

「ヴェルテリスは自国防衛を装いながら、周辺諸国の安定を脅かしている! 烈陽国、魏志国、壯国、晋平国──彼らも同調して軍備を強化しているではないか。これは平和秩序への挑戦だ!」

 その声に呼応するように、ドレイヴァの代表も冷ややかな微笑を浮かべて続けた。
「我々はただ真実を訴えているに過ぎません。彼らは“正義”を名乗るが、その実態は覇権と野心。国際社会はもう騙されるべきではない」

 列席する各国の代表がざわめき、視線は一斉にヴェルテリス側へと向けられる。ヴェルテリスの代表は必死に反論を試みるが、準備された証拠の数々──捏造された軍事資料や改ざんされた映像が次々と提示され、声は次第にかき消されていく。

 烈陽国の代表も立ち上がり、「我々は侵略など一切していない」と訴えたが、冷たい笑いと皮肉混じりの拍手で受け流されるばかりだった。

 やがて議長が静かに宣告する。
「国際評議会は、ヴェルテリスおよび烈陽国、魏志国、壯国、晋平国に対し、当面の経済制裁を科す。各国との通商・金融取引は制限される」

 その瞬間、大広間に重苦しい沈黙が落ちた。五カ国の代表たちの顔は一様に蒼白となり、国際社会の冷酷な裁断が現実として突きつけられる。

 正義を信じ戦ってきたはずの国々は、今や孤立無援の立場へと追い込まれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...