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第十章:「孤立する正義」
第百三十一話:「制裁の時代」
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ヴェルテリス北部での戦乱がようやく沈静化した頃、遠く離れた国際会議の場では、新たな戦いが始まっていた。
磨き上げられた大理石の床、各国の旗が並ぶ円卓に、ドレイヴァと蒼嶺国の代表団は誇らしげに腰掛けていた。
「我らは自国を守るために剣を執ったに過ぎません」
ドレイヴァの外務卿は冷徹な眼差しで各国の代表に語りかける。彼の背後には、改ざんされた戦場映像が投影されていた。そこではヴェルテリス側が無人兵士を先に動かし、ドレイヴァの村を襲撃したかのように映し出されている。
「このように我々は被害を受け、正当防衛として立ち上がったのです」
場内はざわめきに包まれ、幾人かの代表がうなずいた。
一方で烈陽国代表、守武財は立ち上がった。
「それは虚構だ! 事実は逆だ。ドレイヴァこそ我らの領土に火薬を仕掛け、戦を仕掛けてきたではないか!」
彼の声は会場に響いたが、その勢いを削ぐかのように蒼嶺国の代表が冷笑を浮かべる。
「ならば証を示すがよい。だが現に此度の戦では、烈陽国は禁じられた兵器を使ったではないか。無人兵士や鉄の龍を――」
その言葉に、場内の視線が一斉に守武財へ注がれた。
やがて議長の口から下されたのは冷酷な勧告だった。
「烈陽国、ヴェルテリス、魏志国、壯国、晋平国――。汝らは秩序を乱したと認められ、国際社会からの経済制裁を受けることとする」
その瞬間、守武財は歯を食いしばり拳を握り締めた。
――正義を貫いたはずの彼らが、逆に裁かれるとは。
その報せは瞬く間に各国へ伝わり、烈陽国の都にも重苦しい空気が広がった。物資は途絶え、商人は取引を恐れ、民は不安に駆られた。
リンはその報を聞くと、庭に佇み、夜空を仰いだ。
「正義とは……誰が裁き、誰に認められて初めて成り立つものなのだろうな」
彼の横で景嵐は黙って拳を固め、燃える瞳を夜空へ向けるのだった。
経済制裁の布告から数週間。烈陽国の都は、かつてないほどの沈鬱な空気に包まれていた。
交易の港に並んでいた船は次第に姿を消し、商人たちは商品を積むことを躊躇した。市場では香辛料や絹布が値上がりし、民は小さな袋を握りしめてため息を漏らす。
「どうしてこうなったんだ……俺たちが何をしたっていうんだ」
行き交う民の声は、不満と不安とで重く曇っていた。
宮廷の一角では、守武財と玲霞、そしてリンと景嵐が顔をそろえていた。
玲霞は机上に山と積まれた報告書を手に取り、深刻な面持ちで言う。
「食料備蓄は三か月が限界です。加えて輸入が止まれば、薬草や鉱材も足りなくなる。無人兵士の維持すら難しくなるでしょう」
「まるで我らが侵略者のように言い募られ、誰も耳を貸そうとしない……」
守武財の声は苦渋に満ちていた。
その場にいたカイリも、不安げな顔で口を開く。
「ぼくのせいなのかもしれない……僕が王に据えられたから……」
「違う」
景嵐がきっぱりと否定する。
「罪はお前にはない。だが――このままでは確かに、国は衰える」
重苦しい沈黙が落ちたとき、リンが静かに口を開いた。
「……正義が孤立したのではない。我らの正義を信じきる力が、試されているのだ」
その言葉に、皆の視線が集まる。
だが、街中ではそうはいかない。
「烈陽国のせいで、俺たちは飢えるんだ」
「ヴェルテリスの戦なんて関係ないのに……!」
不満を募らせた一部の民衆が集まり、宮廷の門前で声を荒げ始めていた。
彼らの叫びは、やがて小さな火種となり、国の内側を揺るがす兆しを見せていた――。
戦場の煙がまだ地平線に残る頃、国際評議会の大広間では熱気と緊張が入り混じっていた。蒼嶺国の代表が大陸地図を掲げ、力強く言葉を放つ。
「ヴェルテリスは自国防衛を装いながら、周辺諸国の安定を脅かしている! 烈陽国、魏志国、壯国、晋平国──彼らも同調して軍備を強化しているではないか。これは平和秩序への挑戦だ!」
その声に呼応するように、ドレイヴァの代表も冷ややかな微笑を浮かべて続けた。
「我々はただ真実を訴えているに過ぎません。彼らは“正義”を名乗るが、その実態は覇権と野心。国際社会はもう騙されるべきではない」
列席する各国の代表がざわめき、視線は一斉にヴェルテリス側へと向けられる。ヴェルテリスの代表は必死に反論を試みるが、準備された証拠の数々──捏造された軍事資料や改ざんされた映像が次々と提示され、声は次第にかき消されていく。
烈陽国の代表も立ち上がり、「我々は侵略など一切していない」と訴えたが、冷たい笑いと皮肉混じりの拍手で受け流されるばかりだった。
やがて議長が静かに宣告する。
「国際評議会は、ヴェルテリスおよび烈陽国、魏志国、壯国、晋平国に対し、当面の経済制裁を科す。各国との通商・金融取引は制限される」
その瞬間、大広間に重苦しい沈黙が落ちた。五カ国の代表たちの顔は一様に蒼白となり、国際社会の冷酷な裁断が現実として突きつけられる。
正義を信じ戦ってきたはずの国々は、今や孤立無援の立場へと追い込まれたのだった。
磨き上げられた大理石の床、各国の旗が並ぶ円卓に、ドレイヴァと蒼嶺国の代表団は誇らしげに腰掛けていた。
「我らは自国を守るために剣を執ったに過ぎません」
ドレイヴァの外務卿は冷徹な眼差しで各国の代表に語りかける。彼の背後には、改ざんされた戦場映像が投影されていた。そこではヴェルテリス側が無人兵士を先に動かし、ドレイヴァの村を襲撃したかのように映し出されている。
「このように我々は被害を受け、正当防衛として立ち上がったのです」
場内はざわめきに包まれ、幾人かの代表がうなずいた。
一方で烈陽国代表、守武財は立ち上がった。
「それは虚構だ! 事実は逆だ。ドレイヴァこそ我らの領土に火薬を仕掛け、戦を仕掛けてきたではないか!」
彼の声は会場に響いたが、その勢いを削ぐかのように蒼嶺国の代表が冷笑を浮かべる。
「ならば証を示すがよい。だが現に此度の戦では、烈陽国は禁じられた兵器を使ったではないか。無人兵士や鉄の龍を――」
その言葉に、場内の視線が一斉に守武財へ注がれた。
やがて議長の口から下されたのは冷酷な勧告だった。
「烈陽国、ヴェルテリス、魏志国、壯国、晋平国――。汝らは秩序を乱したと認められ、国際社会からの経済制裁を受けることとする」
その瞬間、守武財は歯を食いしばり拳を握り締めた。
――正義を貫いたはずの彼らが、逆に裁かれるとは。
その報せは瞬く間に各国へ伝わり、烈陽国の都にも重苦しい空気が広がった。物資は途絶え、商人は取引を恐れ、民は不安に駆られた。
リンはその報を聞くと、庭に佇み、夜空を仰いだ。
「正義とは……誰が裁き、誰に認められて初めて成り立つものなのだろうな」
彼の横で景嵐は黙って拳を固め、燃える瞳を夜空へ向けるのだった。
経済制裁の布告から数週間。烈陽国の都は、かつてないほどの沈鬱な空気に包まれていた。
交易の港に並んでいた船は次第に姿を消し、商人たちは商品を積むことを躊躇した。市場では香辛料や絹布が値上がりし、民は小さな袋を握りしめてため息を漏らす。
「どうしてこうなったんだ……俺たちが何をしたっていうんだ」
行き交う民の声は、不満と不安とで重く曇っていた。
宮廷の一角では、守武財と玲霞、そしてリンと景嵐が顔をそろえていた。
玲霞は机上に山と積まれた報告書を手に取り、深刻な面持ちで言う。
「食料備蓄は三か月が限界です。加えて輸入が止まれば、薬草や鉱材も足りなくなる。無人兵士の維持すら難しくなるでしょう」
「まるで我らが侵略者のように言い募られ、誰も耳を貸そうとしない……」
守武財の声は苦渋に満ちていた。
その場にいたカイリも、不安げな顔で口を開く。
「ぼくのせいなのかもしれない……僕が王に据えられたから……」
「違う」
景嵐がきっぱりと否定する。
「罪はお前にはない。だが――このままでは確かに、国は衰える」
重苦しい沈黙が落ちたとき、リンが静かに口を開いた。
「……正義が孤立したのではない。我らの正義を信じきる力が、試されているのだ」
その言葉に、皆の視線が集まる。
だが、街中ではそうはいかない。
「烈陽国のせいで、俺たちは飢えるんだ」
「ヴェルテリスの戦なんて関係ないのに……!」
不満を募らせた一部の民衆が集まり、宮廷の門前で声を荒げ始めていた。
彼らの叫びは、やがて小さな火種となり、国の内側を揺るがす兆しを見せていた――。
戦場の煙がまだ地平線に残る頃、国際評議会の大広間では熱気と緊張が入り混じっていた。蒼嶺国の代表が大陸地図を掲げ、力強く言葉を放つ。
「ヴェルテリスは自国防衛を装いながら、周辺諸国の安定を脅かしている! 烈陽国、魏志国、壯国、晋平国──彼らも同調して軍備を強化しているではないか。これは平和秩序への挑戦だ!」
その声に呼応するように、ドレイヴァの代表も冷ややかな微笑を浮かべて続けた。
「我々はただ真実を訴えているに過ぎません。彼らは“正義”を名乗るが、その実態は覇権と野心。国際社会はもう騙されるべきではない」
列席する各国の代表がざわめき、視線は一斉にヴェルテリス側へと向けられる。ヴェルテリスの代表は必死に反論を試みるが、準備された証拠の数々──捏造された軍事資料や改ざんされた映像が次々と提示され、声は次第にかき消されていく。
烈陽国の代表も立ち上がり、「我々は侵略など一切していない」と訴えたが、冷たい笑いと皮肉混じりの拍手で受け流されるばかりだった。
やがて議長が静かに宣告する。
「国際評議会は、ヴェルテリスおよび烈陽国、魏志国、壯国、晋平国に対し、当面の経済制裁を科す。各国との通商・金融取引は制限される」
その瞬間、大広間に重苦しい沈黙が落ちた。五カ国の代表たちの顔は一様に蒼白となり、国際社会の冷酷な裁断が現実として突きつけられる。
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