『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第十章:「孤立する正義」

第百三十二話:「カイリの勇気」

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国際評議会の大広間は、厳かな緊張に包まれていた。各国の代表たちが長い机に並び、議事の行方を見守る。中央の壇上には、これまで傀儡として扱われてきた少年――カイリが立っている。

会場内の空気が張り詰める。誰もが息を呑み、わずかなざわめきさえも止まった。

カイリは深く息を吸い込み、静かに口を開いた。

「私は――新ヴェルリカ国の王として振る舞っていました。しかし、私は決して自ら望んでこの地位を得たわけではありません」

言葉は淡々と、しかし一つひとつが重く会場に響く。

「私はドレイヴァ国の計略により、ただの駒として利用されました。新国家建設のために、私の存在は操られたのです」

代表たちは息を呑む。今まで批判の声を上げていた者たちも、彼の眼差しから逃れられず、沈黙が支配する。

カイリは続けた。
「母――ノミの存在も、私が守ろうとした民も、すべては私の意思ではなく、圧力の中での行動でした。それでも、私は皆を守りたいと思いました。それが、私の唯一の選択です」

壇上の少年は、顔を上げ、会場を見渡す。
「私は恐れていました。しかし、今こうして皆さんの前に立ち、真実を語る勇気を持つことにしました」

その言葉に、会場には静かな感動が広がる。代表たちは互いに視線を交わし、やがて控えめな拍手が一つ、また一つと起こり、やがて大きな拍手に変わった。

カイリの声は冷静だが、確かな決意と勇気に満ちていた。
それは、傀儡として使われた少年の叫びであると同時に、真実を貫く一つの行動でもあった。

この瞬間、ヴェルテリスや烈陽国、魏志国、壯国、晋平国への経済制裁や国際的孤立の流れは、緩やかに変わり始めた。各国は、ドレイヴァの陰謀によって誤解が生じたことに気付き、対応を改める方向に舵を切る。

カイリは深く息をつき、壇上から一歩下がった。
「私の声が、皆さんに届いたなら――それだけで十分です」

会場には、真実を知った者たちの納得と安堵、そして少年の勇気に対する尊敬の念が満ちていた。

これにより、少年カイリは単なる駒ではなく、自らの意思で世界に影響を与え得る存在として、静かにその名を刻むこととなった。
カイリの告白が国際評議会を席巻してから数日。各国の外交官たちはその影響を慎重に検証していた。

ヴェルテリスや烈陽国、魏志国、壯国、晋平国――これらの国々は、ドレイヴァや蒼嶺国の巧妙な情報操作により、誤解と非難の対象となり、一時は経済制裁や国際的孤立の危機に立たされていた。しかしカイリの声が真実を伝えたことで、状況は大きく変わり始める。

国際評議会では、代表たちが次々と議論を重ねた。
「ドレイヴァは国際社会を誤導していた。ヴェルテリスとその同盟国は、あくまで自衛のための行動に過ぎなかったのだ」
「蒼嶺国も、ドレイヴァの策略に乗せられただけである」

やがて、経済制裁は段階的に解除され、孤立していた同盟国は再び国際貿易や外交関係に復帰する道を歩み始めた。

ヴェルテリスの首都では、藍峯や壮舷、景嵐、リンたちが会議室に集まった。
「カイリの勇気が、国際社会に真実を示してくれたようだな」
藍峯は静かに笑みを浮かべ、報告書を手にしながら呟いた。

景嵐は深く頷く。
「彼一人の声で、状況を覆せるとは……少年の成長は恐ろしいほどだ」

リンもまた、カイリの決意を思い返し、複雑な表情を見せた。
「利用され、脅されてもなお、自らの意思で真実を告げた……彼には学ぶべきものが多い」

その一方で、ドレイヴァや蒼嶺国は、国際的立場を失ったことに焦りを隠せず、国内での不満がくすぶり始めていた。
「どうして、あの少年が……!」
高官の一人が机を叩き、悔しげに叫ぶ。

だが、もはや時間は戻らない。国際社会は正しい情報を手に入れ、誤解は解けつつある。ドレイヴァや蒼嶺国の策略はもはや通用せず、外交的圧力をもろに受ける形となった。

ヴェルテリスの街角では、人々が少しずつ平穏を取り戻していった。経済活動も活発化し、通商路は再び開かれる。孤立の影から脱した同盟国たちは、互いに連携を深め、ドレイヴァのさらなる策謀に備える準備を始めた。

カイリはその様子を静かに見つめる。
「――僕の声で、少しでも世界を変えられたのなら……」

胸中に安堵と決意を抱きつつ、少年は自らの存在がもはや単なる駒ではないことを確信した。

世界は再び動き出した。誤解と孤立の波紋は収まりつつあるが、これを契機に、各国の思惑と駆け引きはさらに複雑化していく――。

そしてヴェルテリス、烈陽国、同盟国の間に、静かだが確かな連帯の絆が生まれつつあった。

ドレイヴァの首都では、貴族や高官たちの怒号が飛び交っていた。国際社会での立場悪化は、彼らの計画を根底から揺るがすものだった。

「どうして、あの少年に全てを握られてしまうのだ!」
高官の一人が机を叩き、怒りを露わにする。民衆の間でも「我らの努力は何だったのか」と不満が渦巻いた。

蒼嶺国でも同様であった。精強なるドラゴン騎士団を誇った彼らは、ヴェルテリスと烈陽国の連携の前に国際的信用を失い、国内での反発が強まる。王は冷汗を浮かべ、慎重な対応を迫られた。

その一方、ヴェルテリスの首都では、穏やかな活気が戻りつつあった。経済制裁は解除され、通商路は再び開かれた。カイリの告白は象徴的な希望となり、各都市で再建や復興の動きが活発化する。

「この静けさを、ただの休息にしてはならない」
藍峯は防衛計画の見直しを進め、玲霞の提案する無人兵士や飛行龍の増強を真剣に検討していた。

玲霞は戦略室の地図を指差しながら説明する。
「地上だけでなく、空と海、すべての境界線を強化しましょう。無人兵士を国境線に配置し、飛行龍を増やせば、昼夜問わず防衛が可能です」

景嵐は深く頷く。
「万全の備えがあれば、次の衝突も恐れることはない。だが、相手も黙ってはいないだろう」

リンは遠くを見つめながら言った。
「ドレイヴァと蒼嶺国……彼らはきっと、新たな策略を練ってくるはず。私たちは常に一歩先を読む必要がある」

ヴェルテリス、烈陽国、そして同盟国――その連携は固まりつつあった。しかし、世界の視線が注がれる中、次なる衝突の影が静かに迫っていた。

国際社会の誤解が解け、孤立から脱した同盟国たちは、今度は自らの防衛と抑止力を確立する番である。
その備えは陸上にとどまらず、空と海、そして技術の力によって守られることになるだろう。

だが、暗雲はまだ去っていない。ドレイヴァと蒼嶺国は、密かに次の一手を用意している。新たな策略と衝突の時代――その幕開けが、静かに、しかし確実に迫っていた。
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