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第十章:「孤立する正義」
第百四十話:「蒼嶺国の決断」
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蒼嶺国の王都・蒼天宮。
龍旗がはためく広間で、重臣たちが一堂に会していた。
「……またドレイヴァか」
年老いた宰相が、深いため息を漏らす。
烈陽国使節団への尾行者がドレイヴァのスパイであることが発覚してから、蒼嶺国内では一気に緊張が走った。
本来、同盟国として互いの領土を尊重し不可侵を約したはずの盟約を、ドレイヴァが一方的に破ったことは明白だった。
「我らにドレイヴァの後見は不要だ。
軍事も経済も、この大地と空の龍たちが支えておる」
龍騎士団長がきっぱりと言い放つ。
確かに蒼嶺国は、飛竜や地龍といった生きた龍を擁し、空からも地上からも外敵を寄せ付けない堅牢な国力を誇っていた。
さらに豊かな鉱脈や森林資源、山岳の清水など自給自足できる資源も揃い、他国に依存する必要はほとんどない。
「この件でドレイヴァがどう釈明するかだな」
王の目は鋭く細められた。
「場合によっては、同盟解消も辞さぬ」
その決意の言葉は、議場を重く震わせた。
――一方その頃、ドレイヴァ王都。
「な、なんということだ……!」
執務室で国王の側近たちは顔を青ざめさせていた。
蒼嶺国の不満がついに公となり、さらに烈陽国が両国に対し「スパイ活動の証拠提示」を正式に要求してきたのだ。
しかも烈陽国だけではない。魏志国や壯国、晋平国といった同盟国も呼応し、共同で調査団を編成する動きが始まっていた。
「蒼嶺国まで失えば、我らは完全に孤立するぞ!」
「いや、それ以前に不可侵条約違反を認めれば、国際的な非難は避けられん」
部屋中に焦燥の声が飛び交う。
王の眉間には深い皺が刻まれ、ただ一言、低く呟いた。
「烈陽国……我らを追い詰める気か」
国際社会の視線は、今まさにドレイヴァに突き刺さろうとしていた。
蒼嶺国の宮廷では、重々しい会議の場が設けられていた。尾行者が捕縛された際の証拠と証言が並べられ、誰が見ても「ドレイヴァの独断での潜入」であることは明らかだった。
「不可侵条約を一方的に破ったとあれば、我らの立場も揺らぐ。これを看過すれば、蒼嶺の威信は地に堕ちるぞ」
大臣たちが口々に怒りを吐き、王は静かに頷いた。
蒼嶺国は軍事的にも資源的にも自立しており、もはやドレイヴァに依存する必要はなかった。内心では、彼らの強圧的な外交姿勢にうんざりしていたため、今回の件は「同盟解消」の大義名分となり得たのだ。
その知らせはすぐさまドレイヴァに届いた。王城では動揺が広がり、宰相は机を叩いて叫んだ。
「なぜ勝手な真似をしたのだ! 蒼嶺を敵に回せば、我らが孤立するではないか!」
将軍らは顔を伏せ、スパイの行動を「現場判断」として処理しようと必死に弁明するが、もはや取り繕えぬ状況だった。
さらに烈陽国が仲裁役として動き、両国に対して「証拠の提示と公正な調査」を要請した。烈陽国は同盟網の要であり、その言葉は重く、無視できるものではなかった。
蒼嶺国は自信に満ちた態度で証拠を突き付ける構えを見せ、ドレイヴァは体面を守ろうと必死に策を巡らす。だが、烈陽の調査団が動員される以上、虚偽やごまかしは通用しない。
──この件を機に、同盟関係の均衡は大きく揺らぎ始めた。
蒼嶺国の王は、烈陽国の使者にこう告げた。
「もしドレイヴァが誠意を示さぬならば、我らは同盟の鎖を断ち切る。蒼嶺の誇りは、決して侵されぬ」
宮廷に響いたその言葉は、ドレイヴァの未来を大きく左右する宣告となった。
烈陽国が動いたことで、事態はさらに大きなうねりを生んだ。烈陽は単独で調査に乗り出すのではなく、国際連盟国の議場へと問題を提起したのだ。
「不可侵条約に違反する行為が発覚した以上、これは二国間の問題に留まらぬ。国際秩序そのものを揺るがす行為である」
その一声により、連盟は即座に特別調査委員会を設置。加盟国から選ばれた調査官が蒼嶺とドレイヴァ双方に派遣された。
蒼嶺国は堂々と証拠を提示した。尾行者の身元、携帯していた暗号文書、さらに過去の不審な越境事例との関連。全てが一本の線で繋がり、ドレイヴァによる組織的な工作活動を裏付けるものだった。
「まさか、ここまで掘り返されるとは……」
ドレイヴァ王宮の宰相は蒼白になり、王も玉座で拳を握りしめた。
調査はさらに進む。これまで周辺諸国で発生した不可解な事件──失踪した商人、撹乱された交易路、傭兵の買収、地方反乱の背後支援──それらすべてにドレイヴァの影がちらついていたことが次々と明らかになっていった。
国際連盟の議場では各国の代表が非難の声を上げる。
「同盟の信頼を裏切る国家に未来はない!」
「このような国を野放しにすれば、秩序は崩壊する!」
烈陽国の代表も厳しい調子で追及する。
「蒼嶺の件は氷山の一角に過ぎぬ。ドレイヴァはもはや自らの野心のため、友好と信義を踏みにじったのだ」
圧倒的な包囲網の中で、ドレイヴァは苦しい弁明を重ねるしかなかった。しかし証拠の山は否応なく真実を物語り、やがて「連盟からの制裁」という言葉すら囁かれ始める。
──こうして、かつて強大な影響力を誇ったドレイヴァの威光は、国際的な舞台で急速に失墜していった。
龍旗がはためく広間で、重臣たちが一堂に会していた。
「……またドレイヴァか」
年老いた宰相が、深いため息を漏らす。
烈陽国使節団への尾行者がドレイヴァのスパイであることが発覚してから、蒼嶺国内では一気に緊張が走った。
本来、同盟国として互いの領土を尊重し不可侵を約したはずの盟約を、ドレイヴァが一方的に破ったことは明白だった。
「我らにドレイヴァの後見は不要だ。
軍事も経済も、この大地と空の龍たちが支えておる」
龍騎士団長がきっぱりと言い放つ。
確かに蒼嶺国は、飛竜や地龍といった生きた龍を擁し、空からも地上からも外敵を寄せ付けない堅牢な国力を誇っていた。
さらに豊かな鉱脈や森林資源、山岳の清水など自給自足できる資源も揃い、他国に依存する必要はほとんどない。
「この件でドレイヴァがどう釈明するかだな」
王の目は鋭く細められた。
「場合によっては、同盟解消も辞さぬ」
その決意の言葉は、議場を重く震わせた。
――一方その頃、ドレイヴァ王都。
「な、なんということだ……!」
執務室で国王の側近たちは顔を青ざめさせていた。
蒼嶺国の不満がついに公となり、さらに烈陽国が両国に対し「スパイ活動の証拠提示」を正式に要求してきたのだ。
しかも烈陽国だけではない。魏志国や壯国、晋平国といった同盟国も呼応し、共同で調査団を編成する動きが始まっていた。
「蒼嶺国まで失えば、我らは完全に孤立するぞ!」
「いや、それ以前に不可侵条約違反を認めれば、国際的な非難は避けられん」
部屋中に焦燥の声が飛び交う。
王の眉間には深い皺が刻まれ、ただ一言、低く呟いた。
「烈陽国……我らを追い詰める気か」
国際社会の視線は、今まさにドレイヴァに突き刺さろうとしていた。
蒼嶺国の宮廷では、重々しい会議の場が設けられていた。尾行者が捕縛された際の証拠と証言が並べられ、誰が見ても「ドレイヴァの独断での潜入」であることは明らかだった。
「不可侵条約を一方的に破ったとあれば、我らの立場も揺らぐ。これを看過すれば、蒼嶺の威信は地に堕ちるぞ」
大臣たちが口々に怒りを吐き、王は静かに頷いた。
蒼嶺国は軍事的にも資源的にも自立しており、もはやドレイヴァに依存する必要はなかった。内心では、彼らの強圧的な外交姿勢にうんざりしていたため、今回の件は「同盟解消」の大義名分となり得たのだ。
その知らせはすぐさまドレイヴァに届いた。王城では動揺が広がり、宰相は机を叩いて叫んだ。
「なぜ勝手な真似をしたのだ! 蒼嶺を敵に回せば、我らが孤立するではないか!」
将軍らは顔を伏せ、スパイの行動を「現場判断」として処理しようと必死に弁明するが、もはや取り繕えぬ状況だった。
さらに烈陽国が仲裁役として動き、両国に対して「証拠の提示と公正な調査」を要請した。烈陽国は同盟網の要であり、その言葉は重く、無視できるものではなかった。
蒼嶺国は自信に満ちた態度で証拠を突き付ける構えを見せ、ドレイヴァは体面を守ろうと必死に策を巡らす。だが、烈陽の調査団が動員される以上、虚偽やごまかしは通用しない。
──この件を機に、同盟関係の均衡は大きく揺らぎ始めた。
蒼嶺国の王は、烈陽国の使者にこう告げた。
「もしドレイヴァが誠意を示さぬならば、我らは同盟の鎖を断ち切る。蒼嶺の誇りは、決して侵されぬ」
宮廷に響いたその言葉は、ドレイヴァの未来を大きく左右する宣告となった。
烈陽国が動いたことで、事態はさらに大きなうねりを生んだ。烈陽は単独で調査に乗り出すのではなく、国際連盟国の議場へと問題を提起したのだ。
「不可侵条約に違反する行為が発覚した以上、これは二国間の問題に留まらぬ。国際秩序そのものを揺るがす行為である」
その一声により、連盟は即座に特別調査委員会を設置。加盟国から選ばれた調査官が蒼嶺とドレイヴァ双方に派遣された。
蒼嶺国は堂々と証拠を提示した。尾行者の身元、携帯していた暗号文書、さらに過去の不審な越境事例との関連。全てが一本の線で繋がり、ドレイヴァによる組織的な工作活動を裏付けるものだった。
「まさか、ここまで掘り返されるとは……」
ドレイヴァ王宮の宰相は蒼白になり、王も玉座で拳を握りしめた。
調査はさらに進む。これまで周辺諸国で発生した不可解な事件──失踪した商人、撹乱された交易路、傭兵の買収、地方反乱の背後支援──それらすべてにドレイヴァの影がちらついていたことが次々と明らかになっていった。
国際連盟の議場では各国の代表が非難の声を上げる。
「同盟の信頼を裏切る国家に未来はない!」
「このような国を野放しにすれば、秩序は崩壊する!」
烈陽国の代表も厳しい調子で追及する。
「蒼嶺の件は氷山の一角に過ぎぬ。ドレイヴァはもはや自らの野心のため、友好と信義を踏みにじったのだ」
圧倒的な包囲網の中で、ドレイヴァは苦しい弁明を重ねるしかなかった。しかし証拠の山は否応なく真実を物語り、やがて「連盟からの制裁」という言葉すら囁かれ始める。
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