『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

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第十章:「孤立する正義」

第百四十一話:「ドレイヴァの正義」

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国際連盟の議場にて、次々と突きつけられる証拠の山に追い詰められたドレイヴァ代表団。
やがてその弁舌は、単なる弁明を超えて「自らの正義」を語り出す。

「我らドレイヴァは、民の未来を護るために動いてきただけだ。
 隣国が力を増し、我らの民が不安にさらされるとき、どうして静観していられようか。
 交易の混乱も、反乱への関与も、すべては周辺諸国の暴走から民を守るため──
 これを正義と呼ばずして何を正義と呼ぶのか!」

代表の声が議場に響く。堂々たる主張。
だがその内容は、外から見れば侵略や干渉を「自衛」と言い換えたにすぎない。

議場に集う各国代表は一瞬、言葉を失った。
「正義」という美名で包まれた利己の論理。
そこには、どの国も自らが同じ罠に陥り得るという恐怖が潜んでいたからだ。

──凍りつく空気。

烈陽国の代表が静かに口を開く。
「……つまり、あなた方の正義とは『他国を犠牲にしても自国が栄えればよい』ということか」

その問いに、ドレイヴァ代表は揺らがぬ表情で答える。
「我らの民の命以上に尊いものがあるなら、教えていただきたい」

その場の空気は鋭い刃のように張り詰め、誰もが胸の内で思った。
──正義とは、いつだって声高に叫ぶ者の都合によって形を変えるのだ、と。


烈陽国代表が卓上に積まれた証拠文書を指し示す。
「では、この間諜の記録と、工作活動の証拠は何だ。
 これをも正義と呼ぶのか」

次々と各国代表が立ち上がり、ドレイヴァの過去の侵略、密偵、資源の搾取を突きつける。
机を叩きながら糾弾する声が重なり、議場は怒りの渦に包まれていった。

「正義を語る者が、裏で国を蝕むとは!」
「もはや同盟を口にする資格はない!」

声が飛び交い、やがて轟音のような糾弾となる。

ドレイヴァ代表の声はかき消され、議場に孤立した。
正義を主張したはずが、その場に突きつけられた現実は「有罪」の烙印でしかなかった。

議場を覆っていた怒号がようやく収まると、議長が重々しく口を開いた。

「これより、連盟としての暫定決定を下す。
 第一に──ドレイヴァ政府は議会を閉鎖し、いかなる決議も停止せよ。
 第二に──今後の裁定について、無条件で連盟の判決に従うことを誓約せよ。
 第三に──民衆に対しては経済的措置を一切禁じる。民を盾に取ることは許されぬ」

場内に緊張が走る。
ドレイヴァ代表は歯を食いしばり、汗を浮かべながら椅子を握りしめた。
それはもはや「同盟国」としての立場を失い、「裁かれる側」として扱われた瞬間だった。

「……承知した」

しぼり出すような返答に、ざわめきが広がる。
彼らの眼差しは怒りと屈辱に満ちていたが、反論の余地はなかった。

外では報道官が集まった群衆に向けて決定を伝える。
民衆は不安と安堵の入り混じった声をあげた。
「戦は避けられるのか」
「だが政府はどうなる」
そんなざわめきが夜の街に広がっていく。

議場を後にしたドレイヴァ代表団は、重い沈黙に包まれていた。
その目に宿るのは屈辱と同時に、次なる一手を探る暗い光。

ドレイヴァ代表の顔は蒼白となった。
背後から突き刺さる各国の視線──もはや拒否する余地はない。

「……承知した」

掠れた声で答えた瞬間、場内の空気が揺れた。
全てを呑まされたのだ。
同盟国としての威厳は砕かれ、ドレイヴァは「裁かれる側」へと転落した。

しかし、そこで連盟議長はさらに言葉を続けた。

「加えて──連盟諸国は、ドレイヴァ民衆に対し経済的制裁を行わぬことをここに誓う。
 罪を問われるのは政府であり、民ではない」

議場にどよめきが広がる。
その言葉は、民衆にとっては救いの光であった。
だが政府代表にとっては、屈辱の烙印でもあった。

重苦しい足取りで議場を後にするドレイヴァ代表団。
彼らの胸中には、連盟への従属を余儀なくされた悔しさと、次なる策を探る暗い決意が渦巻いていた。

連盟国の判決は、静かに、しかし確実に下された。

「ドレイヴァ国王並びに主要政府要人は、今後一切の政治活動を禁ずる。
 その地位を剥奪し、一般の庶民として生活し、税を納めることを義務とする」

その一文は、処刑を望んでいた強硬派の代表の声を押し潰すかのように響き渡った。
「死」を免じられた一方で、それ以上の屈辱── 王族としての誇りも、権力も剥ぎ取られ、ただの人として地に落ちる。

議決の瞬間、ドレイヴァの王族・要人たちの間に動揺が走る。

「……死よりも恥を忍んで生きよというのか!」
「我らは王族だぞ! 庶民と同じ列に並べというのか!」
「おのれ、こんな判決は飲めるか!」

憤怒の声が議場を震わせる。
しかし、その背後に立つ監視の兵たちが、一切の抗議を許さぬ冷たい眼差しを向けていた。

国王は蒼白な顔で呟いた。
「……わしは王族とはいえ、政府の傀儡に過ぎなんだ。だが、この屈辱は……」

決議は絶対である。
拒むことは即ち、連盟国が用意する強制収容施設へ送られることを意味していた。
生きて辱を受けるか、拒んで闇に葬られるか──選択の余地はなかった。

王族の栄光は砕け散り、ドレイヴァは新たな時代の入口に立たされた。
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