『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

文字の大きさ
143 / 146
第十一章:「異星からの来訪者」

第百四十二話:「宇宙船編隊」

しおりを挟む
夜明けの空は、いつもと同じはずだった。
だがその朝、烈陽国の都の上空に、陽光を覆い隠すほどの影が現れた。
人々が目をこすり、空を仰ぎ見ると、それは鳥でも雲でもなく、整然とした編隊を組む無数の巨大な飛行物体であった。

「……また戦か?」
「いや、あれは……人の造りしものではない」

囁きはやがて叫びとなり、都市の広場から市場まで騒然とした。

同じ頃、蒼嶺国の沿岸でも報告が相次ぐ。昼なお黒い影が海を横切り、航行中の船を巨大な翼のように覆い隠したという。船員たちは祈りの言葉を叫び、震える手でそれを指さした。

国際連盟はただちに緊急会合を招集した。
会場に集う各国の代表の表情には、恐怖と苛立ちが入り混じっている。

「我らは直ちに防衛態勢を取るべきだ!」
「いや、無闇に攻撃して敵意を買えばどうなる!未知の相手に挑む余力が、この星に残っているのか!」
「それでも、空を覆い尽くすほどの軍事力を見せつけられて黙っていられるか!」

強硬派と穏健派が激しく衝突し、議場は怒声に包まれる。

烈陽国の代表は毅然と声を上げた。
「私たちには、対話を試みる義務がある。初代武神の時代より、空から来たりし者の伝承は残っている。ならば――それが真実である可能性をまず確かめるべきだ」

一瞬、議場は凍りついた。
伝説とされてきたものが、現実の前触れであるかもしれない。その認識が胸に突き刺さる。

その頃、リンは静かに古文書を開いていた。
“蒼天より訪れし光の群れ、星に裁きをもたらす”――。
それは、単なる神話の一節ではなかったのかもしれない。

やがて、空を覆う飛行物体の群れは、何も告げず、ただ軌道を変えることなく漂い続けた。
それが「侵略の兆し」なのか「接触の予兆」なのか、誰も断定できなかった。

ただ一つ確かなのは、この星が再び大きな岐路に立たされたという事実だけだった。
夜明けの空を覆う無数の飛行物体は、烈陽国の都だけでなく蒼嶺国の沿岸、さらには各国の空にまでその影を広げた。
人々は震え、兵は槍を握りしめ、学者は口々に神話を思い返した。

国際連盟の議場はただならぬ緊張に包まれていた。
代表たちは口々に叫ぶ。

「防衛を!直ちに迎撃の準備を!」
「いや、攻撃の意志があるかどうかすら定かではない!」
「しかし空を覆うあの数を見よ!たとえ友好を装っても、いつ牙を剥くか分からぬ!」

強硬派と穏健派の対立は激化する。だがやがて、議場を仕切る議長が静かに槌を打った。

「――まず知ることだ。我らはまだ、彼らが何者で、何を望んでいるのかを知らぬ」

一瞬の沈黙が広がる。
烈陽国の代表も立ち上がり、毅然と述べた。

「目的を探ることなく剣を抜けば、この星は滅ぶ。だが無防備でいることも愚かだ。よって――探ると同時に、備えるべきだろう」

その言葉に、多くの代表がうなずいた。

こうして議場は結論を得る。
ひとつ、彼らの目的と出自を探るための調査団を結成すること。
ひとつ、念のため各国は防衛の構えを取り、必要な備えを進めること。

二つの決議は賛成多数で可決され、議場の空気はようやく落ち着きを取り戻した。

だがその外、空を覆う飛行物体群は依然として沈黙を保ち、ただ星を見下ろし続けていた。
それが「裁き」か「希望」か――誰もまだ知る由もなかった。

リンと玲霞は烈陽国を後にし、山岳地帯を越えて古き伝承の地へと向かっていた。
そこは「初代武神が最初に現れた」と呼ばれる場所。険しい山の中腹にひっそりと佇む石碑は、幾度の戦乱にも崩れることなく今も残されていた。

道中、景嵐からの連絡が届く。
「そちらに合流する。……どうやら今は四武神が揃うべき時のようだ」
やがて星華、天翔も加わり、歴代の力を継ぐ四人が顔を揃える。

「ここが……初代武神を讃える石碑」
玲霞が息を呑んだ。石碑は風化してなお力を放ち、古代文字は誰にも読めぬはずなのに、不思議と心に意味が響いてくるようだった。

その時だった。

空が、震えた。
遠く、天を覆うように飛行物体の編隊が現れる。その機体群は静かに光を放ち、石碑と同じ輝きを返す。
まるで呼応するように、石碑は淡く脈動を始め、重々しい唸りが大地を伝った。

「これは……!」
リンが声を上げた瞬間、光は四武神の胸奥へと流れ込む。

――声なき声。
――記憶なき記憶。

それは言葉ではなかった。映像の断片、感覚の奔流。
初代武神が異星から降り立った情景。
彼がこの地に「力」を託した理由。
そしてその力が、この星を護るための「楔」であったこと。

「……っ!」
景嵐は眉をひそめ、星華は思わず涙をこぼした。
天翔は天を仰ぎ、拳を握りしめる。
リンは黙したまま光に耐え、その奥底に眠る真実を必死に受け止めていた。

四武神は悟る。
――自らの存在は、この星の外から来た者たちと深く結びついているのだ、と。

石碑と天空の光はなおも脈動し続け、まるで次なる問いを彼らに突きつけているかのようだった。
光が一層強さを増し、四武神の心を深く揺さぶった。
それは映像とも言えず、夢とも違う――過去の記憶の奔流。

リンの胸に流れ込んだのは、大いなる飛来の光景だった。
虚空を裂いて現れる巨大な船団、そこから降り立った一人の戦士。
初代武神はただの侵略者ではなかった。彼は「逃亡者」であり、「守護者」でもあった。
滅びゆく故郷を離れ、新たな安住の地を求め、この星に辿り着いたのだ。

景嵐が見たのは、力の誓いの瞬間。
初代武神はこの星の民を前に剣を突き立て、言葉を残した。
「この地に生きる者よ、我が力を分け与えよう。だがこの力は守るためにのみ使え」
それは星を支配するためではなく、侵略から星を護るために与えられた力だった。

星華の胸には、別れの情景が刻まれた。
初代武神は仲間を連れてはいなかった。
彼は孤独だった――最後まで共にあったのは、この星で彼を受け入れた一人の女性だけ。
その女性こそ、この地に新たな血脈を残し、武神たちの始まりとなったのだ。
星華の心は痛んだ。自らが継ぐ力は、愛と孤独の果てに残された証なのだと。

天翔に流れ込んだのは、未来への警告。
宇宙を覆う闇、群れなす無数の影。
初代武神が恐れていたのは、それらが再びこの星に降り立つことだった。
「いずれ来る――星を呑み込む影が。汝らはその時、守り抜けるか」
声なき声が胸を締め付け、天翔は思わず拳を握りしめた。

やがて光は収まり、四人は同じ石碑の前で息を荒くしていた。
それぞれ異なる記憶を受け取ったことを直感で理解し合う。

「……私たちが、星を護るための存在……?」
リンが呟くと、他の三人も無言で頷いた。

石碑は静まり返った。
しかし天空を漂う飛行物体は未だ消えず、まるで次の行動を見届けるかのように、冷ややかに光を放ち続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...