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第十一章:「異星からの来訪者」
第百四十二話:「宇宙船編隊」
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夜明けの空は、いつもと同じはずだった。
だがその朝、烈陽国の都の上空に、陽光を覆い隠すほどの影が現れた。
人々が目をこすり、空を仰ぎ見ると、それは鳥でも雲でもなく、整然とした編隊を組む無数の巨大な飛行物体であった。
「……また戦か?」
「いや、あれは……人の造りしものではない」
囁きはやがて叫びとなり、都市の広場から市場まで騒然とした。
同じ頃、蒼嶺国の沿岸でも報告が相次ぐ。昼なお黒い影が海を横切り、航行中の船を巨大な翼のように覆い隠したという。船員たちは祈りの言葉を叫び、震える手でそれを指さした。
国際連盟はただちに緊急会合を招集した。
会場に集う各国の代表の表情には、恐怖と苛立ちが入り混じっている。
「我らは直ちに防衛態勢を取るべきだ!」
「いや、無闇に攻撃して敵意を買えばどうなる!未知の相手に挑む余力が、この星に残っているのか!」
「それでも、空を覆い尽くすほどの軍事力を見せつけられて黙っていられるか!」
強硬派と穏健派が激しく衝突し、議場は怒声に包まれる。
烈陽国の代表は毅然と声を上げた。
「私たちには、対話を試みる義務がある。初代武神の時代より、空から来たりし者の伝承は残っている。ならば――それが真実である可能性をまず確かめるべきだ」
一瞬、議場は凍りついた。
伝説とされてきたものが、現実の前触れであるかもしれない。その認識が胸に突き刺さる。
その頃、リンは静かに古文書を開いていた。
“蒼天より訪れし光の群れ、星に裁きをもたらす”――。
それは、単なる神話の一節ではなかったのかもしれない。
やがて、空を覆う飛行物体の群れは、何も告げず、ただ軌道を変えることなく漂い続けた。
それが「侵略の兆し」なのか「接触の予兆」なのか、誰も断定できなかった。
ただ一つ確かなのは、この星が再び大きな岐路に立たされたという事実だけだった。
夜明けの空を覆う無数の飛行物体は、烈陽国の都だけでなく蒼嶺国の沿岸、さらには各国の空にまでその影を広げた。
人々は震え、兵は槍を握りしめ、学者は口々に神話を思い返した。
国際連盟の議場はただならぬ緊張に包まれていた。
代表たちは口々に叫ぶ。
「防衛を!直ちに迎撃の準備を!」
「いや、攻撃の意志があるかどうかすら定かではない!」
「しかし空を覆うあの数を見よ!たとえ友好を装っても、いつ牙を剥くか分からぬ!」
強硬派と穏健派の対立は激化する。だがやがて、議場を仕切る議長が静かに槌を打った。
「――まず知ることだ。我らはまだ、彼らが何者で、何を望んでいるのかを知らぬ」
一瞬の沈黙が広がる。
烈陽国の代表も立ち上がり、毅然と述べた。
「目的を探ることなく剣を抜けば、この星は滅ぶ。だが無防備でいることも愚かだ。よって――探ると同時に、備えるべきだろう」
その言葉に、多くの代表がうなずいた。
こうして議場は結論を得る。
ひとつ、彼らの目的と出自を探るための調査団を結成すること。
ひとつ、念のため各国は防衛の構えを取り、必要な備えを進めること。
二つの決議は賛成多数で可決され、議場の空気はようやく落ち着きを取り戻した。
だがその外、空を覆う飛行物体群は依然として沈黙を保ち、ただ星を見下ろし続けていた。
それが「裁き」か「希望」か――誰もまだ知る由もなかった。
リンと玲霞は烈陽国を後にし、山岳地帯を越えて古き伝承の地へと向かっていた。
そこは「初代武神が最初に現れた」と呼ばれる場所。険しい山の中腹にひっそりと佇む石碑は、幾度の戦乱にも崩れることなく今も残されていた。
道中、景嵐からの連絡が届く。
「そちらに合流する。……どうやら今は四武神が揃うべき時のようだ」
やがて星華、天翔も加わり、歴代の力を継ぐ四人が顔を揃える。
「ここが……初代武神を讃える石碑」
玲霞が息を呑んだ。石碑は風化してなお力を放ち、古代文字は誰にも読めぬはずなのに、不思議と心に意味が響いてくるようだった。
その時だった。
空が、震えた。
遠く、天を覆うように飛行物体の編隊が現れる。その機体群は静かに光を放ち、石碑と同じ輝きを返す。
まるで呼応するように、石碑は淡く脈動を始め、重々しい唸りが大地を伝った。
「これは……!」
リンが声を上げた瞬間、光は四武神の胸奥へと流れ込む。
――声なき声。
――記憶なき記憶。
それは言葉ではなかった。映像の断片、感覚の奔流。
初代武神が異星から降り立った情景。
彼がこの地に「力」を託した理由。
そしてその力が、この星を護るための「楔」であったこと。
「……っ!」
景嵐は眉をひそめ、星華は思わず涙をこぼした。
天翔は天を仰ぎ、拳を握りしめる。
リンは黙したまま光に耐え、その奥底に眠る真実を必死に受け止めていた。
四武神は悟る。
――自らの存在は、この星の外から来た者たちと深く結びついているのだ、と。
石碑と天空の光はなおも脈動し続け、まるで次なる問いを彼らに突きつけているかのようだった。
光が一層強さを増し、四武神の心を深く揺さぶった。
それは映像とも言えず、夢とも違う――過去の記憶の奔流。
リンの胸に流れ込んだのは、大いなる飛来の光景だった。
虚空を裂いて現れる巨大な船団、そこから降り立った一人の戦士。
初代武神はただの侵略者ではなかった。彼は「逃亡者」であり、「守護者」でもあった。
滅びゆく故郷を離れ、新たな安住の地を求め、この星に辿り着いたのだ。
景嵐が見たのは、力の誓いの瞬間。
初代武神はこの星の民を前に剣を突き立て、言葉を残した。
「この地に生きる者よ、我が力を分け与えよう。だがこの力は守るためにのみ使え」
それは星を支配するためではなく、侵略から星を護るために与えられた力だった。
星華の胸には、別れの情景が刻まれた。
初代武神は仲間を連れてはいなかった。
彼は孤独だった――最後まで共にあったのは、この星で彼を受け入れた一人の女性だけ。
その女性こそ、この地に新たな血脈を残し、武神たちの始まりとなったのだ。
星華の心は痛んだ。自らが継ぐ力は、愛と孤独の果てに残された証なのだと。
天翔に流れ込んだのは、未来への警告。
宇宙を覆う闇、群れなす無数の影。
初代武神が恐れていたのは、それらが再びこの星に降り立つことだった。
「いずれ来る――星を呑み込む影が。汝らはその時、守り抜けるか」
声なき声が胸を締め付け、天翔は思わず拳を握りしめた。
やがて光は収まり、四人は同じ石碑の前で息を荒くしていた。
それぞれ異なる記憶を受け取ったことを直感で理解し合う。
「……私たちが、星を護るための存在……?」
リンが呟くと、他の三人も無言で頷いた。
石碑は静まり返った。
しかし天空を漂う飛行物体は未だ消えず、まるで次の行動を見届けるかのように、冷ややかに光を放ち続けていた。
だがその朝、烈陽国の都の上空に、陽光を覆い隠すほどの影が現れた。
人々が目をこすり、空を仰ぎ見ると、それは鳥でも雲でもなく、整然とした編隊を組む無数の巨大な飛行物体であった。
「……また戦か?」
「いや、あれは……人の造りしものではない」
囁きはやがて叫びとなり、都市の広場から市場まで騒然とした。
同じ頃、蒼嶺国の沿岸でも報告が相次ぐ。昼なお黒い影が海を横切り、航行中の船を巨大な翼のように覆い隠したという。船員たちは祈りの言葉を叫び、震える手でそれを指さした。
国際連盟はただちに緊急会合を招集した。
会場に集う各国の代表の表情には、恐怖と苛立ちが入り混じっている。
「我らは直ちに防衛態勢を取るべきだ!」
「いや、無闇に攻撃して敵意を買えばどうなる!未知の相手に挑む余力が、この星に残っているのか!」
「それでも、空を覆い尽くすほどの軍事力を見せつけられて黙っていられるか!」
強硬派と穏健派が激しく衝突し、議場は怒声に包まれる。
烈陽国の代表は毅然と声を上げた。
「私たちには、対話を試みる義務がある。初代武神の時代より、空から来たりし者の伝承は残っている。ならば――それが真実である可能性をまず確かめるべきだ」
一瞬、議場は凍りついた。
伝説とされてきたものが、現実の前触れであるかもしれない。その認識が胸に突き刺さる。
その頃、リンは静かに古文書を開いていた。
“蒼天より訪れし光の群れ、星に裁きをもたらす”――。
それは、単なる神話の一節ではなかったのかもしれない。
やがて、空を覆う飛行物体の群れは、何も告げず、ただ軌道を変えることなく漂い続けた。
それが「侵略の兆し」なのか「接触の予兆」なのか、誰も断定できなかった。
ただ一つ確かなのは、この星が再び大きな岐路に立たされたという事実だけだった。
夜明けの空を覆う無数の飛行物体は、烈陽国の都だけでなく蒼嶺国の沿岸、さらには各国の空にまでその影を広げた。
人々は震え、兵は槍を握りしめ、学者は口々に神話を思い返した。
国際連盟の議場はただならぬ緊張に包まれていた。
代表たちは口々に叫ぶ。
「防衛を!直ちに迎撃の準備を!」
「いや、攻撃の意志があるかどうかすら定かではない!」
「しかし空を覆うあの数を見よ!たとえ友好を装っても、いつ牙を剥くか分からぬ!」
強硬派と穏健派の対立は激化する。だがやがて、議場を仕切る議長が静かに槌を打った。
「――まず知ることだ。我らはまだ、彼らが何者で、何を望んでいるのかを知らぬ」
一瞬の沈黙が広がる。
烈陽国の代表も立ち上がり、毅然と述べた。
「目的を探ることなく剣を抜けば、この星は滅ぶ。だが無防備でいることも愚かだ。よって――探ると同時に、備えるべきだろう」
その言葉に、多くの代表がうなずいた。
こうして議場は結論を得る。
ひとつ、彼らの目的と出自を探るための調査団を結成すること。
ひとつ、念のため各国は防衛の構えを取り、必要な備えを進めること。
二つの決議は賛成多数で可決され、議場の空気はようやく落ち着きを取り戻した。
だがその外、空を覆う飛行物体群は依然として沈黙を保ち、ただ星を見下ろし続けていた。
それが「裁き」か「希望」か――誰もまだ知る由もなかった。
リンと玲霞は烈陽国を後にし、山岳地帯を越えて古き伝承の地へと向かっていた。
そこは「初代武神が最初に現れた」と呼ばれる場所。険しい山の中腹にひっそりと佇む石碑は、幾度の戦乱にも崩れることなく今も残されていた。
道中、景嵐からの連絡が届く。
「そちらに合流する。……どうやら今は四武神が揃うべき時のようだ」
やがて星華、天翔も加わり、歴代の力を継ぐ四人が顔を揃える。
「ここが……初代武神を讃える石碑」
玲霞が息を呑んだ。石碑は風化してなお力を放ち、古代文字は誰にも読めぬはずなのに、不思議と心に意味が響いてくるようだった。
その時だった。
空が、震えた。
遠く、天を覆うように飛行物体の編隊が現れる。その機体群は静かに光を放ち、石碑と同じ輝きを返す。
まるで呼応するように、石碑は淡く脈動を始め、重々しい唸りが大地を伝った。
「これは……!」
リンが声を上げた瞬間、光は四武神の胸奥へと流れ込む。
――声なき声。
――記憶なき記憶。
それは言葉ではなかった。映像の断片、感覚の奔流。
初代武神が異星から降り立った情景。
彼がこの地に「力」を託した理由。
そしてその力が、この星を護るための「楔」であったこと。
「……っ!」
景嵐は眉をひそめ、星華は思わず涙をこぼした。
天翔は天を仰ぎ、拳を握りしめる。
リンは黙したまま光に耐え、その奥底に眠る真実を必死に受け止めていた。
四武神は悟る。
――自らの存在は、この星の外から来た者たちと深く結びついているのだ、と。
石碑と天空の光はなおも脈動し続け、まるで次なる問いを彼らに突きつけているかのようだった。
光が一層強さを増し、四武神の心を深く揺さぶった。
それは映像とも言えず、夢とも違う――過去の記憶の奔流。
リンの胸に流れ込んだのは、大いなる飛来の光景だった。
虚空を裂いて現れる巨大な船団、そこから降り立った一人の戦士。
初代武神はただの侵略者ではなかった。彼は「逃亡者」であり、「守護者」でもあった。
滅びゆく故郷を離れ、新たな安住の地を求め、この星に辿り着いたのだ。
景嵐が見たのは、力の誓いの瞬間。
初代武神はこの星の民を前に剣を突き立て、言葉を残した。
「この地に生きる者よ、我が力を分け与えよう。だがこの力は守るためにのみ使え」
それは星を支配するためではなく、侵略から星を護るために与えられた力だった。
星華の胸には、別れの情景が刻まれた。
初代武神は仲間を連れてはいなかった。
彼は孤独だった――最後まで共にあったのは、この星で彼を受け入れた一人の女性だけ。
その女性こそ、この地に新たな血脈を残し、武神たちの始まりとなったのだ。
星華の心は痛んだ。自らが継ぐ力は、愛と孤独の果てに残された証なのだと。
天翔に流れ込んだのは、未来への警告。
宇宙を覆う闇、群れなす無数の影。
初代武神が恐れていたのは、それらが再びこの星に降り立つことだった。
「いずれ来る――星を呑み込む影が。汝らはその時、守り抜けるか」
声なき声が胸を締め付け、天翔は思わず拳を握りしめた。
やがて光は収まり、四人は同じ石碑の前で息を荒くしていた。
それぞれ異なる記憶を受け取ったことを直感で理解し合う。
「……私たちが、星を護るための存在……?」
リンが呟くと、他の三人も無言で頷いた。
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