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第十一章:「異星からの来訪者」
第百四十三話:「四武神の議論」
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石碑の前に立つと、天より飛来した光が大地の碑文と共鳴し、四武神それぞれの胸奥へと言葉にならぬ声が流れ込んでくる。
最初に口を開いたのは星華だった。
「……この声、まるで私たちの心を試すように響いています。初めの武神は、私たちが忘れてきた“理”を託そうとしているのではありませんか?」
天翔が腕を組み、険しい顔で頷く。
「だが、それが真実かどうかはわからん。そもそも、空から来た存在が我らと同じ理を尊ぶ保証はない。むしろ、我らを導くふりをして従わせようとしている可能性もある」
景嵐は静かに目を閉じ、流れ込んでくる映像の断片を確かめるように言った。
「光が語るのは“始まりの地”と“終末の門”。それは単なる寓話ではなく、現実に繋がる記録のようだ。初めの武神は、外から来た存在に対して、我らの地を守るために立ち上がった……そう映じます」
リンは三人の意見を聞きながら、己の胸のざわめきを抑えきれずにいた。
「……ならば問いたい。この声は警告か、それとも導きか? もし初めの武神が外から来た存在を退けたのだとしたら、同じように我らも備えねばならない。しかし、もし彼らが共に生きることを選んだのなら、拒絶だけでは未来を閉ざすことになる」
星華は真剣に頷く。
「そうですね……。選ぶのは、今を生きる私たち。初めの武神の記憶は道標であっても、答えそのものではないのでしょう」
天翔は口元に苦笑を浮かべた。
「道標か……だが、道標が指し示す先が断崖絶壁であるかもしれんぞ。俺は簡単に信じる気にはならん」
景嵐が静かに二人を見やり、石碑に手を添える。
「信じるか否かは置いておきましょう。ただ、この光が我らを選んだのは事実。その意味を掴まずに進めば、次に来る“試練”を越えることはできない」
四人の視線が石碑の光に集まる。その輝きは、まるで四武神の議論を見守るかのように一層強く脈打っていた。
光が石碑の紋様を駆け抜けるたびに、四人の胸奥に映像が重なる。
大地を裂き、天空を焦がす炎。そこに立つひとりの武神の影。
リンが息を呑む。
「……これは、過去の戦い……?」
景嵐は眉を寄せた。
「外から来た存在は、力によって支配しようとしたのだろう。初めの武神はその時、ただ戦うだけでなく、この地を守るため“理”を刻んだ。石碑はその証だ」
星華の声は震えていた。
「ならば私たちも、その理を継がねばならないのでは? 平和を望むなら、争いを避ける道を……」
すかさず天翔が遮る。
「甘い! 力なくして理を語っても、誰も耳を貸さぬ。初めの武神が戦ったのは事実だろう? ならば、いざという時に備え、我らも剣を抜く覚悟を決めるべきだ」
石碑が再び眩い光を放つ。その光は、まるで四人の議論を試すかのように強弱を繰り返した。
リンは光に手をかざし、三人を見回す。
「……どちらも正しい。だが、私たちに課せられたのは“どの道を選ぶか”ではなく、“どう選ぶか”なのかもしれない。初めの武神が残したのは勝利の記録ではなく、選択の記憶なのだ」
星華が小さく頷き、景嵐も静かに目を閉じる。天翔はしばらく沈黙したのち、ふっと笑った。
「……なるほどな。導くふりをして惑わす存在か、あるいは未来を託す光か。俺たちが決めねばならん、というわけか」
光はやがて静まり、石碑の輝きは再び穏やかな脈動に戻った。
四武神の心には、それぞれ異なる答えの萌芽が芽生えていた。
石碑の光が収まると、四人の間に重苦しい沈黙が落ちた。
最初に口を開いたのは天翔だった。
「やはり俺は力を備えるべきだと考える。未知の存在が頻繁に姿を現す以上、話し合いだけでどうにかなるとは限らん。剣を取る覚悟なくして、この地は守れぬ」
星華がすぐに反論する。
「でも、力で迎え撃てばまた新たな争いを生むだけよ。初めの武神はただ戦ったのではなく、“争いを終わらせるために戦った”のではないの? その理を継ぐなら、まずは対話の道を模索すべきだわ」
景嵐は両者を見比べ、低く唸るように言った。
「理屈では星華の言葉も尤もだ。しかし、歴史を見よ。外から来る者は常にこの地を乱してきた。理を説く前に、敵が理を理解できる存在かどうか確かめねばならない。だからこそ、俺は“備えを固めつつ探る”という中庸を選ぶ」
リンは腕を組み、深く息を吐いた。
「三人の考えがそれぞれ正しいです。しかし、これではまとまらないですね……。初めの武神が残したのは“力か、理か”の答えではなく、きっと――選び続けるための試練です」
天翔が眉をひそめる。
「選び続ける……か。つまり決して一つの答えに辿り着けぬ道を歩むというのか?」
リンは静かに頷いた。
「そうです。光は私たちを導くのではなく、問いかけている。力に傾けば争いに呑まれる。理に傾けば無防備となる。どちらにも偏らず、歩みを止めないことこそが――」
その言葉を遮るように、石碑が突如として激しい光を放ち、四人の視界を飲み込んだ。
心の奥底に、初めの武神の声とも思える響きが流れ込む。
『汝らが選ぶ答えは一つにあらず。道は常に揺らぎ、その揺らぎこそが未来を紡ぐ』
四人の胸に残ったのは、確固たる解ではなく、さらに深い問いであった。
最初に口を開いたのは星華だった。
「……この声、まるで私たちの心を試すように響いています。初めの武神は、私たちが忘れてきた“理”を託そうとしているのではありませんか?」
天翔が腕を組み、険しい顔で頷く。
「だが、それが真実かどうかはわからん。そもそも、空から来た存在が我らと同じ理を尊ぶ保証はない。むしろ、我らを導くふりをして従わせようとしている可能性もある」
景嵐は静かに目を閉じ、流れ込んでくる映像の断片を確かめるように言った。
「光が語るのは“始まりの地”と“終末の門”。それは単なる寓話ではなく、現実に繋がる記録のようだ。初めの武神は、外から来た存在に対して、我らの地を守るために立ち上がった……そう映じます」
リンは三人の意見を聞きながら、己の胸のざわめきを抑えきれずにいた。
「……ならば問いたい。この声は警告か、それとも導きか? もし初めの武神が外から来た存在を退けたのだとしたら、同じように我らも備えねばならない。しかし、もし彼らが共に生きることを選んだのなら、拒絶だけでは未来を閉ざすことになる」
星華は真剣に頷く。
「そうですね……。選ぶのは、今を生きる私たち。初めの武神の記憶は道標であっても、答えそのものではないのでしょう」
天翔は口元に苦笑を浮かべた。
「道標か……だが、道標が指し示す先が断崖絶壁であるかもしれんぞ。俺は簡単に信じる気にはならん」
景嵐が静かに二人を見やり、石碑に手を添える。
「信じるか否かは置いておきましょう。ただ、この光が我らを選んだのは事実。その意味を掴まずに進めば、次に来る“試練”を越えることはできない」
四人の視線が石碑の光に集まる。その輝きは、まるで四武神の議論を見守るかのように一層強く脈打っていた。
光が石碑の紋様を駆け抜けるたびに、四人の胸奥に映像が重なる。
大地を裂き、天空を焦がす炎。そこに立つひとりの武神の影。
リンが息を呑む。
「……これは、過去の戦い……?」
景嵐は眉を寄せた。
「外から来た存在は、力によって支配しようとしたのだろう。初めの武神はその時、ただ戦うだけでなく、この地を守るため“理”を刻んだ。石碑はその証だ」
星華の声は震えていた。
「ならば私たちも、その理を継がねばならないのでは? 平和を望むなら、争いを避ける道を……」
すかさず天翔が遮る。
「甘い! 力なくして理を語っても、誰も耳を貸さぬ。初めの武神が戦ったのは事実だろう? ならば、いざという時に備え、我らも剣を抜く覚悟を決めるべきだ」
石碑が再び眩い光を放つ。その光は、まるで四人の議論を試すかのように強弱を繰り返した。
リンは光に手をかざし、三人を見回す。
「……どちらも正しい。だが、私たちに課せられたのは“どの道を選ぶか”ではなく、“どう選ぶか”なのかもしれない。初めの武神が残したのは勝利の記録ではなく、選択の記憶なのだ」
星華が小さく頷き、景嵐も静かに目を閉じる。天翔はしばらく沈黙したのち、ふっと笑った。
「……なるほどな。導くふりをして惑わす存在か、あるいは未来を託す光か。俺たちが決めねばならん、というわけか」
光はやがて静まり、石碑の輝きは再び穏やかな脈動に戻った。
四武神の心には、それぞれ異なる答えの萌芽が芽生えていた。
石碑の光が収まると、四人の間に重苦しい沈黙が落ちた。
最初に口を開いたのは天翔だった。
「やはり俺は力を備えるべきだと考える。未知の存在が頻繁に姿を現す以上、話し合いだけでどうにかなるとは限らん。剣を取る覚悟なくして、この地は守れぬ」
星華がすぐに反論する。
「でも、力で迎え撃てばまた新たな争いを生むだけよ。初めの武神はただ戦ったのではなく、“争いを終わらせるために戦った”のではないの? その理を継ぐなら、まずは対話の道を模索すべきだわ」
景嵐は両者を見比べ、低く唸るように言った。
「理屈では星華の言葉も尤もだ。しかし、歴史を見よ。外から来る者は常にこの地を乱してきた。理を説く前に、敵が理を理解できる存在かどうか確かめねばならない。だからこそ、俺は“備えを固めつつ探る”という中庸を選ぶ」
リンは腕を組み、深く息を吐いた。
「三人の考えがそれぞれ正しいです。しかし、これではまとまらないですね……。初めの武神が残したのは“力か、理か”の答えではなく、きっと――選び続けるための試練です」
天翔が眉をひそめる。
「選び続ける……か。つまり決して一つの答えに辿り着けぬ道を歩むというのか?」
リンは静かに頷いた。
「そうです。光は私たちを導くのではなく、問いかけている。力に傾けば争いに呑まれる。理に傾けば無防備となる。どちらにも偏らず、歩みを止めないことこそが――」
その言葉を遮るように、石碑が突如として激しい光を放ち、四人の視界を飲み込んだ。
心の奥底に、初めの武神の声とも思える響きが流れ込む。
『汝らが選ぶ答えは一つにあらず。道は常に揺らぎ、その揺らぎこそが未来を紡ぐ』
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