『天翔(あまかけ)る龍』

キユサピ

文字の大きさ
144 / 146
第十一章:「異星からの来訪者」

第百四十三話:「四武神の議論」

しおりを挟む
 石碑の前に立つと、天より飛来した光が大地の碑文と共鳴し、四武神それぞれの胸奥へと言葉にならぬ声が流れ込んでくる。

 最初に口を開いたのは星華だった。
「……この声、まるで私たちの心を試すように響いています。初めの武神は、私たちが忘れてきた“理”を託そうとしているのではありませんか?」

 天翔が腕を組み、険しい顔で頷く。
「だが、それが真実かどうかはわからん。そもそも、空から来た存在が我らと同じ理を尊ぶ保証はない。むしろ、我らを導くふりをして従わせようとしている可能性もある」

 景嵐は静かに目を閉じ、流れ込んでくる映像の断片を確かめるように言った。
「光が語るのは“始まりの地”と“終末の門”。それは単なる寓話ではなく、現実に繋がる記録のようだ。初めの武神は、外から来た存在に対して、我らの地を守るために立ち上がった……そう映じます」

 リンは三人の意見を聞きながら、己の胸のざわめきを抑えきれずにいた。
「……ならば問いたい。この声は警告か、それとも導きか? もし初めの武神が外から来た存在を退けたのだとしたら、同じように我らも備えねばならない。しかし、もし彼らが共に生きることを選んだのなら、拒絶だけでは未来を閉ざすことになる」

 星華は真剣に頷く。
「そうですね……。選ぶのは、今を生きる私たち。初めの武神の記憶は道標であっても、答えそのものではないのでしょう」

 天翔は口元に苦笑を浮かべた。
「道標か……だが、道標が指し示す先が断崖絶壁であるかもしれんぞ。俺は簡単に信じる気にはならん」

 景嵐が静かに二人を見やり、石碑に手を添える。
「信じるか否かは置いておきましょう。ただ、この光が我らを選んだのは事実。その意味を掴まずに進めば、次に来る“試練”を越えることはできない」

 四人の視線が石碑の光に集まる。その輝きは、まるで四武神の議論を見守るかのように一層強く脈打っていた。
 光が石碑の紋様を駆け抜けるたびに、四人の胸奥に映像が重なる。
 大地を裂き、天空を焦がす炎。そこに立つひとりの武神の影。

 リンが息を呑む。
「……これは、過去の戦い……?」

 景嵐は眉を寄せた。
「外から来た存在は、力によって支配しようとしたのだろう。初めの武神はその時、ただ戦うだけでなく、この地を守るため“理”を刻んだ。石碑はその証だ」

 星華の声は震えていた。
「ならば私たちも、その理を継がねばならないのでは? 平和を望むなら、争いを避ける道を……」

 すかさず天翔が遮る。
「甘い! 力なくして理を語っても、誰も耳を貸さぬ。初めの武神が戦ったのは事実だろう? ならば、いざという時に備え、我らも剣を抜く覚悟を決めるべきだ」

 石碑が再び眩い光を放つ。その光は、まるで四人の議論を試すかのように強弱を繰り返した。

 リンは光に手をかざし、三人を見回す。
「……どちらも正しい。だが、私たちに課せられたのは“どの道を選ぶか”ではなく、“どう選ぶか”なのかもしれない。初めの武神が残したのは勝利の記録ではなく、選択の記憶なのだ」

 星華が小さく頷き、景嵐も静かに目を閉じる。天翔はしばらく沈黙したのち、ふっと笑った。
「……なるほどな。導くふりをして惑わす存在か、あるいは未来を託す光か。俺たちが決めねばならん、というわけか」

 光はやがて静まり、石碑の輝きは再び穏やかな脈動に戻った。
 四武神の心には、それぞれ異なる答えの萌芽が芽生えていた。

 石碑の光が収まると、四人の間に重苦しい沈黙が落ちた。
 最初に口を開いたのは天翔だった。
「やはり俺は力を備えるべきだと考える。未知の存在が頻繁に姿を現す以上、話し合いだけでどうにかなるとは限らん。剣を取る覚悟なくして、この地は守れぬ」

 星華がすぐに反論する。
「でも、力で迎え撃てばまた新たな争いを生むだけよ。初めの武神はただ戦ったのではなく、“争いを終わらせるために戦った”のではないの? その理を継ぐなら、まずは対話の道を模索すべきだわ」

 景嵐は両者を見比べ、低く唸るように言った。
「理屈では星華の言葉も尤もだ。しかし、歴史を見よ。外から来る者は常にこの地を乱してきた。理を説く前に、敵が理を理解できる存在かどうか確かめねばならない。だからこそ、俺は“備えを固めつつ探る”という中庸を選ぶ」

 リンは腕を組み、深く息を吐いた。
「三人の考えがそれぞれ正しいです。しかし、これではまとまらないですね……。初めの武神が残したのは“力か、理か”の答えではなく、きっと――選び続けるための試練です」

 天翔が眉をひそめる。
「選び続ける……か。つまり決して一つの答えに辿り着けぬ道を歩むというのか?」

 リンは静かに頷いた。
「そうです。光は私たちを導くのではなく、問いかけている。力に傾けば争いに呑まれる。理に傾けば無防備となる。どちらにも偏らず、歩みを止めないことこそが――」

 その言葉を遮るように、石碑が突如として激しい光を放ち、四人の視界を飲み込んだ。
 心の奥底に、初めの武神の声とも思える響きが流れ込む。

『汝らが選ぶ答えは一つにあらず。道は常に揺らぎ、その揺らぎこそが未来を紡ぐ』

 四人の胸に残ったのは、確固たる解ではなく、さらに深い問いであった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...