悪魔な彼女

ネコさん

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(改)出会い 瑠海闍視点

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先日事故に遭い肩の筋が切れた。

治りはしたが肩を上げることができない。
剣道においてそれは致命的な傷だ。

瑠海闍(るうと)は幼い頃から剣道一本だった。
朝は五時に起きて素振り。
道場から帰ってきても遅くまで自主練。
瑠海闍の生活は剣道が何よりも優先だった。


けれどもう木刀を振ることはできない。
ランニングはできたとしても剣道の試合に出ることができなければ意味はない。

剣道を続けることはできない。
医者に言われた瞬間世界が色褪せた。


瑠海闍は今までのすべてを失った気がした。
瞳は濁り、活力は無くなった。
そんな瑠海闍の回りには人がいなくなっていた。


一日中放心状態だった瑠海闍に寄り添ってくれたのは彼女だけだった。
自己主張があまりなく、髪は横でみつあみ、いつもうつむいている彼女。

剣道に熱中していたときはただ挨拶を交わす程度だった。



ある日屋上で弁当を食べようと階段を上がると途中でパタパタと走って階段を降りる彼女とすれ違った。

次の日も次の日も
同じようにすれ違っては離れていく。

そんな彼女に瑠海闍は好奇心から聞いた。
屋上で何をしているのかと。
彼女はご飯を食べて空を眺めているだけだと言った。
そう話す彼女はおどおどしている。
恐らく隠したいことでもあるのだろう。
そんな彼女に俺はますます興味を持った。


次の日から彼女の秘密に迫るためもう少し早く屋上に行くようになった。

彼女のとなりに腰掛け、他愛もない世間話をする。
初めは彼女もおどおどしていたが最近ではニコニコして自分から話題を振ってくれる。
いつの間にかそれが瑠海闍にとっての日常、当たり前となり心が埋まっていくような感覚さえもした。



ああ世界はこんなに綺麗だっけ?
いや違う。
世界が綺麗なんじゃない。
この彼女の少し黒いところも見せながらコロコロと笑うあの表情が綺麗なんだ。



「明日も一緒に食べような」


いつもは待ち合わせなんてしないが今日にかぎってどうしてそんなことを言ったのかは自分自身でも分からない。
彼女はただただ微笑んだ。
なにも言わずにーーー















次の日、彼女が学校を去った。

理由は事故。
放課後、下校中に車に跳ねられその場で死亡が確認されたそうだ。


現実を受け入れられない。
時間は瞬く間に過ぎいつの間にか瑠海闍は屋上にいた。

空は真っ白で色がない。
顔に太陽の光が降り注ぐ。
恐らく今日は曇りではなく晴れだろう。
胸に溜まる何かに遮られ空がよく見えない。
ぽっかりと心に穴が開いて何かがせりあげてくるような気がした。


「私ね、空の色好きなんだ。どこまでも広がってて・・・自由で・・・なんか青春の色って感じ?」


ふと、阿利翆(ありす)の顔と昨日の最後に話した顔が脳裏に浮かぶ。
阿利翆は最後に頭をこてんとかしげた。
表現のしかたに悩んだのだろう。


なんだそれ。
俺には何の色にも見えない。

青春の色。
青春ってなんだっけ。
累は自問自答する。
運動、友情、勉強、恋愛。
・・・恋愛・・・
恋・・・

・・・ああ俺はバカだ。
俺はお前のことが・・・


水道管が破裂したようにいろんな感情が溢れてきた。
鼻の奥がつんとして目が熱くなってくる。
視界がぼやけてくる。
誰か人のために浮かばせる涙は初めてだった。


阿利翆の葬儀の時は非現実的過ぎて涙も浮かばなかった。
それをこぼさないために目をつぶる。
けれどそれは足止めにもならずどんどん溢れ出てきた。
涙が口辺りまで到達する頃急に瞼の裏に満面の笑みを浮かべた彼女の姿が映った。


「この世界って楽しい?」


阿利翆の声は美しかった。
瞼を上げると彼女が目の前の手すりに立っていた。


阿利翆は死装束であった白の服とは真逆の真っ黒な胸元が開いているミニスカワンピを着ている。
胸を張り、瑠海闍の目をまっすぐ見ていた。
髪もおろしており、いつもみつあみをしていたせいかウウェーブが掛かっている。


本来の彼女ならあり得ない仕草だがそれが阿利翆の偽物とは思えない。

あまりの好みのドンピシャ具合に一瞬、瑠海闍自身が作り出した幻影かと思ったがどうでもよかった。


ただ、”本物”の彼女に会えたことだけが本当にどうしようもなく嬉しかった。


「楽しくなんかない・・・君がいない世界なんて・・・」


瑠海闍がそう吐き捨てるように少し毒のこもった台詞を言うと彼女は感情を変化させる。
彼女はより一層笑顔を深めているように見えたが瑠海闍には分かった。


彼女は悲しんでいる、俺の言った言葉に。
本格的につきあいを始めたのは一ヶ月程度だったが誰よりも彼女の感情を見抜く自信があった。
けれどこれだけは分からない。

どうして感情を押し殺そうとしてるのか。
分からない
分からない
分からない
瑠海闍の中で疑念が渦巻くなか、阿利翆が口を開く。


「ねえ瑠海闍。この世界が楽しくないのなら一緒にいきましょう」


そう言うと阿利翆は手を差し伸べた。
彼女は笑う。
まるで魔性の悪魔。
けれど瑠海闍はこの提案に乗った。
彼女と一緒に居れるのであれば何でもする。

勿論、瑠海闍も阿利翆の声にある副音声が聞こえなかったわけではない。
けれどは阿利翆と出会っていなければ既にここには居なかっただろうし、生き甲斐だった阿利翆もこの世にはいない。

心残りがあるとすれば一つ下の妹ぐらいだろうか。
まあ瑠季(るい)には父さんも母さんもペットの歌だってついてるんだから良いか。

瑠海闍は阿利翆の手を取った。


「ああ。君のいるところだったら何処へでもな。勿論、地獄でもいい」


阿利翆は一瞬驚いた顔を見せたが、今まで史上一番の柔らかい笑顔を見せた。
が、それもほんの数秒のことですぐに表情を強張らせ空を見つめる。

彼女の背からは真っ黒でコウモリのような羽が生え先が三角の尖った尻尾も出てきた。

ーー悪魔・・?これは流石に想定外だった・・・
けれど君が悪魔でも俺は絶対に受け入れる。


まあ本当に地獄に行くことになるとは・・ちょっと驚いたけど。

やっぱり君との毎日はいつも楽しくて飽きない・・
君がもし俺のことを嫌いになっても俺は何がなんでも君のそばにいる・・たとえこの身を手放してでもーー

急に体が軽くなった瑠海闍は手を引っ張られそのまま飛んでいった。

静かになった屋上にはカラスのような真っ黒な羽が何かを隠すように大量に落ちていたという。
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