輝くは七色の橋

あず

文字の大きさ
上 下
12 / 31

第12話 互いの思い

しおりを挟む
第12話 互いの思い
 それから喧嘩したその日のうちに、私はマレーの隣の部屋にいるといつまた鉢合わせるか分からなかったから、今の拠点であるカリステモンからラケナリアに拠点を移した。
 マレーと大喧嘩してから、私は一人でビリジアンの魔法使いとして色素の小瓶の納品をしたり、弱そうなアンノーンをラケナリアの商店で買った短剣で倒すようになった。だが、そんな生活をしている中でも、私の中ではマレーの心配をするようになった。私とマレーが大喧嘩をしてから1週間後。私がラケナリアの酒場で夕ご飯を食べていると、そこに踊り子の格好をしたサーシャさんがやってきた。そして開口一番、「マレーと喧嘩をしたんだって?」と言われたので、私は情報屋としての彼女の人脈と調査力が成せる力に脱帽するのだった。
「どうして私とマレーが喧嘩したって知ってるんですか。」
 私は夕ご飯のカレーを食べながら、なんでも情報として出回っていることに少しばかり怒っていた。私の態度を見て、サーシャさんケラケラと笑った。
「情報屋として使えそうな情報は買うんだよ。二人のことを知っているから、そんな噂話にも食いついたのさ。んで、本当に喧嘩したの?」
「…はい。」
 私はサーシャさんに隠し事はできないなと思いながら、最後の一口のカレーを飲み込んでから、1週間前のマレーとの大喧嘩の話をサーシャさんにした。真剣に相槌を打ちながら聞いてくれるサーシャさんは聞き上手なんだな、と思いながら私は不快な思いをすることもなく、自分の置かれた状況を整理しながら話すことができた。話終わった私は自分の中でマレーと話をしなければ、と思うようになった。
「ふむ…。私に話したことでスッキリしたのかな?」
「はい。心配をしてくれたマレーの気持ちを考えていなかった私が悪かったんです。双子を奪われてお姉ちゃんとしてしっかりしなくちゃ、双子を取り戻さなくちゃってそればっかりで…。一番近くで私を見守ってくれてるマレーの気持ちを無視してました…。」
「そこまで分かってるなら、和解ができるんじゃない?」
「でも、マレーはまだ怒っているかも…。」
「じゃあ、私から提案!アイリスとマレー、一人ずつ私と一緒にアンノーンと戦ってみる。そこで私が二人のお互いの戦いぶりを伝える。二人はお互いのパートナーとは違う人と組んでみて、そこから考えるものがあると思うの。どう?」
「それじゃサーシャさんが大変なのでは…?」
「私は日頃から世界各地を移動してるからね。二人と組むためにレディカの国中を動き回るのなんて造作もないわよ。さ、まずはアイリス、あなたとコンビを組んでみよっか!」
「よ、よろしくお願いします!」
 こうして、私はサーシャさんの提案で、一時的ではあるが、サーシャさんと一緒にアンノーンと戦ってみることになった。まだカリステモンにいるであろう、マレーにはサーシャさんが魔力鳩を飛ばして知らせてくれた。
「それじゃ、夜はアンノーンも活発化して危険だから、明日の9時にこの酒場で待っててくれる?明るくなってから私とアンノーン討伐に向かいましょ。」
「はい!おやすみなさい。」
「おやすみ。」
 私は明日のこともあるし、早めに寝るために夕ご飯を食べた後はすぐに宿泊している部屋に戻り、サクッとシャワーを浴びてから寝た。
 ――――――
 翌朝9時。私は7時に起床すると、朝ごはんを食べてから、身だしなみを整えて、昨日サーシャさんと約束した酒場で彼女が来るのを待った。時間通りに来た彼女の姿に私は驚いた。
「サーシャさん、かっこいい…。」
 彼女の姿はいつもの踊り子の衣装でも、チュニックとレギンス姿でもなく、アンノーンと戦うためだと言う、赤銅色のアーマーなどを身につけていた。私は雰囲気が違う彼女の格好をぽけーっと見惚れているとサーシャさんは珍しく恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべた。
「ふふ、ありがとう。久しぶりにこの格好をしたから、褒められるなんて思ってもみなかったわ。さ、アンノーン退治に行きますか!」
「はい!」
 私たちはラケナリアから次に解放する予定の都市、クラレットを目指して出発した。ラケナリアからクラレットまでは馬車が出ているので、それに乗り込むと私たちは適度に談笑しながら、セラサイトを抜け、クラレットに辿り着いた。
「さてと…、アイリスはここの解放に必要な色素の小瓶の解析は終わってるの?」
「はい、既に色素の小瓶集めも佳境に入ってますし、近々解放できるんじゃないかと思ってます。」
「うんうん。アイリスは勤勉だねぇ。それなら、今回のアンノーン退治はさほど重要性はないってことで、深追いは厳禁、無理せず私たちで倒せそうなアンノーンに絞って戦ってみようか。」
「分かりました!あ、サーシャさん、私の魔法の飴玉を舐めてください。色が失われた大地では魔力が吸われますし、私の飴玉を舐めればそれが緩和されます。」
「アイリスの飴玉にそんな効果があるなんて…。公にしない方がいいってことね。私はそんな簡単に情報は売らないわ。」
「ありがとうございます。それじゃ、行きましょうか。」
 二人でクラレットの街から程近くの森にやってくると、アンノーンが数体、ゾロゾロと移動しているのを発見した。
「サーシャさん、どうします?ちょっと敵の数が多すぎませんか?」
「そうね。ここは静かに見逃してもらいましょ。」
 二人で息を殺して大移動をするアンノーンをやり過ごしてから、再び森の中を歩いて、手頃な大きさの弱そうなアンノーン一体を見つけると、私たちは戦闘体制に入った。
 事前に渡しておいた私の魔法の飴玉を舐めてサーシャさんの魔力が強化され、彼女の魔法である、風属性の旋風が巻き起こり風の中に殺傷能力のある風が起こり、旋風がアンノーンを巻き込むと、アンノーンは“グアア…“と苦しそうな声をあげて、消滅した。その場には消えたアンノーンがドロップした色素の小瓶が落ちていたので、サーシャさんはそれを拾い上げて、私の方へと投げた。
「おっと…。」
 なんとか落とさないようにキャッチすると、私はその色素の小瓶を腰のポーチにしまってサーシャさんとの戦闘の感想を発表し合うことになった。
「アイリスの魔法の飴玉のおかげで私の魔法がいつもより攻撃力上がってる気がしたわ!アイリスの魔法はすごいわね。」
「いえいえ…、私の魔法は攻撃系の魔法ではないので、仲間をサポートするので精一杯で…。でも、私の魔法のおかげで仲間を守れるなら嬉しいです!!」
「うんうん。それじゃ、次のアンノーンを探しましょうか!まだ日は落ちないし、しっかり相性を感じてちょうだい!」
 サーシャさんがなんだかノリノリで言うのをみて、私はくすくすと笑ってしまった。そんな私の笑い声が気に食わなかったのか、サーシャさんは少し膨れっ面になりながらも、笑って歩き出した。こんな風に笑い合いながら旅をするのが懐かしく感じた私は今頃マレーは何をしているんだろう、と彼女のことが気になった。
 それから私とサーシャさんは10体ほどのアンノーンを倒して、ドロップした色素の小瓶の本数を確認してから、ラケナリアまでの馬車に飛び乗って帰宅したのだった。
 私が泊まっている部屋で今回の戦闘での感想をサーシャさんに伝えることになった。
「それで、アイリス。今日私と組んでみて、一緒に戦ってみてどうだった?」
「サーシャさんと組むのは初めてなはずだったのに、なんだか誰かと一緒に戦う懐かしさを感じました。でも、やっぱり攻撃系の魔法が使えるのがサーシャさんしかいないので、危険に晒すことが多くて…。私の力不足を痛感しました。」
「うんうん。正直でよろしい。私と組んで感じた懐かしさの根本はどこにあると思う?」
「それは…マレーと一緒に旅をして、戦ってきたからだと思います。」
「それが分かっているなら、それを正直にマレーに伝えてみなさい。懐かしさを感じたことも私を危険に晒してしまうような戦い方になってしまったのも、全部ね。マレーはそれを受け入れてくれるはずよ。」
「…はい、ありがとうございます、サーシャさん。」
「お礼はちゃんとマレーと仲直りしてから、聞きたいわね。さてと。今日はこの宿に泊まって、明日はマレーがいるカリステモンに行ってマレーと一緒にアンノーン退治をしてみるわ。マレーの様子については、魔力鳩を飛ばすから。あなたはその返事を書いたらここを発って、カリステモンにいらっしゃい。」
「分かりました。私たちの喧嘩の仲裁にサーシャさんを巻き込んでしまってすみません…。」
「いいのよ。私はあなたたちと友達だと思っているし、友達が喧嘩したままでは心配だもの。」
「友達…。」
 私はサーシャさんのいう“友達“という響きにジーンと感動した。私はプルウィウス・アルクス王国にいた時には商店エリアの同年代の友達は片手で数えるくらいしかいなかったので、サーシャさんが私のことを友達だと思ってくれていることに嬉しくなった。
 そして次の日、私に見送られながら、サーシャさんはカリステモンにいるマレーのもとに向けて旅立ったのであった。
 ――――――
 (マレー視点)
 先日私の元に届いたサーシャさんからの魔力鳩の手紙によれば、サーシャさんとコンビを組んでアンノーンを倒してみる…という事になったのだが、今の私はアイリスのことが心配で手一杯。戦闘になっても足を引っ張るだけかもしれない。そんな不安に襲われながら私はサーシャさんとの待ち合わせ場所の酒場で溜息を一つ吐いたのであった。
 それから約束の時間ちょうどにサーシャさんは私との待ち合わせ場所の酒場に姿を現したのだが、私はびっくりした。いつもの露出が多い踊り子の衣装や普段着のチュニックとレギンス姿ではなく、赤銅色のアーマーを付けてバルーンスリーブになっているトップスにショートパンツとニーハイソックスという今まで見たことがない装備だったので、私はポカンと口を開けて間抜けヅラを晒していた。
「あっはは!アイリスと同じ反応ね!びっくりしたでしょう?私がアンノーンと戦う時はこういう格好になるのよ。それにしてもあなたたち似てるわね。ポケーって顔がそっくりだったわ!」
 ケラケラと笑うサーシャさんに私は首を左右に振って間抜けヅラを整えた。そして、サーシャさんから出たアイリスの名前が気になって私はサーシャさんに質問をした。
「あの、アイリスの様子は…。」
「…やっぱりそれが気になるあたり、あなたたちの仲直りは直ぐだと思うんだけどねぇ…。」
「え?」
「こっちの話よ。さて、アンノーン退治に行く道すがらでアイリスの様子について話すわ。早速クラレットに向かいましょう。」
「はい!」
 カリステモンとクラレットは隣り合っている都市なので移動は徒歩でも出来る。今日は時間がたっぷりあるので、クラレットまでの道を歩きながら私はサーシャさんから最近のアイリスの話を聞いた。彼女は元気にしているらしく、私のことを心配してくれているらしい。その話を聞いただけで私は嬉しくなって涙ぐんでしまった。そんな私の肩を寄せてサーシャさんはポンポンと私の頭を撫でてくれた。お姉さんのようなサーシャさんに私は頭の力を抜いてそっと寄りかかった。
 私の涙が止まったところで運良く独り歩きしているアンノーンを発見したので私たちは戦闘体制に入り、あっさりとアンノーン1体を倒すことが出来た。だが、アイリスの魔法の飴玉を持っていないので色が失われた大地では魔力を吸われるため、そう長いことこの場所に滞在できないと思い、私とサーシャさんはアイリスの魔法の飴玉までとは行かないが、魔力を回復する薬を飲んでアンノーン退治を続行した。辺りが夕焼けに包まれたころ、アンノーンを20体ほど狩り、私たちはカリステモンの街に帰ってきた。そのタイミングでサーシャさんの元に魔力鳩がやってきた。
「噂をすれば、なんとやら…だね。」
「サーシャさん?」
 魔力鳩の足に巻かれた手紙の内容を読むとサーシャさんは苦笑いをして指を指した。その指が指す方向を見てみると、カリステモンの酒場の前にアイリスがいた。向こうも私たちに気付いたようで、少しびっくりした顔をしていたが、すぐに眉を下げて駆け寄ってきた。
「マレー。」
「アイリス…。」
 
しおりを挟む

処理中です...