輝くは七色の橋

あず

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第13話 仲間への勧誘

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第13話 仲間への勧誘
 (アイリス視点)
 サーシャさんに魔力鳩で手紙を出してからすぐに私はカリステモンに向かった。サーシャさんは手紙が来たらカリステモンにおいで、と言っていたが、私は1人で時間を過ごすうちに早くマレーに会いたい。謝りたいと気持ちが膨らんできてしまったので、居ても立っても居られずに、カリステモンに来てしまったのだった。
「マレー。」
「アイリス…。」
 互いに無言の空間が流れる中でサーシャさんは私たちの表情を交互に見ると、溜息を一つ吐いてから、私たちの手をぎゅっと握った。
「こんなところで立ち話もなんだから!どっかお店に入ってお話ししましょ!」
「そ、そうですね…。」
 サーシャさんが今のこの空気感をなんとかしようとしてくれたのがヒシヒシと伝わってくるので、私は意見に賛成して、サーシャさん行きつけのお店に行くことになった。
「レディカの料理は比較的みんな、辛いものが多いんだけど、その中でもカリステモンは央都と呼べるラケナリアから離れてる分、辛いものの刺激を求める人が多く集まっちゃってね~。カリステモンは激辛の街になってるのよ。」
 そう話しながらサーシャさんはオススメの料理があるから、と言ってパパッと注文をしてしまったので、私たちの中には再び微妙な空気感が流れ始めた。またサーシャさんに気を遣わせてしまってはダメだと思い、私は意を決して顔を上げるとそれはマレーも一緒だったようで2人で顔を上げて視線がパチリと合った。
 気まずくなって視線を逸らしてしまった私は心の中で自分をポカスカ殴って"何してるんだろ~!!"と自分自身を責めた。だが、このままでは一生喧嘩したまま。サーシャさんの後押しも無駄になってしまう。それだけは嫌だと思い、私は口を開いた。
「あ、あのね、マレー…、私、マレーと喧嘩して、離れてから気付いたことがあって…。サーシャさんが提案してくれたことでマレーじゃない人と戦う時の懐かしさを感じたの。それと同時に私は後方支援としてみんなの様子をちゃんと見て、飴玉の支給のタイミング、撤退の合図のタイミング…一緒に戦う人の命を預かっているんだなって。1人の時間を過ごしてみて、考えたことなの。」
 私はマレーの表情を見ながら話すのが怖くて俯いたまま、ポツリポツリと話し始めた。マレーもサーシャさんも静かに描いてくれていた。そんな2人の空気に心の中で"ありがとう"と思いながら私は話を続けた。
「私は飴玉を作ることしか出来ないから、1人でいる時の危険性が身に染みて分かった。1人でなんでもやろうとしない、何もかもを背負い込まない。それがようやく分かったの。ここまで来るのに遠回りをしたし、心配してくれたマレーの気持ちを考えずに突っぱねちゃって、本当にごめんなさい。マレーと一緒に双子を救うために旅に行きたい。マレーの気持ちを聞かせて?」
 私は全ての言葉を紡ぐと頭を下げてテーブルに頭をつけた。そんな私にマレーは黙ったままだった。でも数秒間静かに深呼吸をしてから、彼女は私の頭に手を置いた。
 そして、ゆっくりと左右に手を滑らせて私の頭を撫でてくれた。
「私もキツく言い過ぎちゃってごめん。1人で何もかもを背負うことはないんだって、気付いてくれてありがとう。私もアイリスと一緒に戦った方が心強いし、楽しいから。私で良ければまた一緒に旅に出て双子ちゃんを取り返そうよ。」
「マレー…。」
 マレーが私の頭を撫でる手を止めたのを確認してから私は顔を上げた。するもそこにはとても優しい笑顔で涙ぐみながら、私のことを見つめているマレーがいた。思わず彼女の名前を呼んで手を伸ばすと私も彼女の頭を撫でてあげた。こうしてあげた方がいいと直感的に思ったのだ。こうして私とマレーは仲直りをして、手を繋ぎあった。
「やれやれ、仲直り出来たみたいね。私に感謝して欲しいわ。」
「ふふ、そうですね。サーシャさんにはお世話になってしまって…。」
「私も友達のお節介焼くの好きだから。私のことも忘れずに今後は頼って欲しいわ。アイリスのためにも双子ちゃんの情報を集めて回るし。」
「ありがとうございます、サーシャさん。」
 サーシャさんが私たちを友達として接してくれているのが嬉しくて3人で笑い合っていると、そこにちょうど良く頼んでいた激辛料理がやってきたので、マレーを除く私とサーシャさんは意を決してパクリとスプーンで激辛のチャーハンを食べた。マレーの方はスープが真っ赤の坦々麺を頼んでいて、麺を慎重に啜る様子を見ながら私とサーシャさんはは"はひはひ"言いながら激辛料理を食べきったのだった。
 喧嘩の後の辛い料理で涙目になったことで私が泣きそうだったのを誤魔化すことができた。それを2人が知っているとは思ってもみなかったが。
 ――――――
 それから私とマレーは今までラケナリア、フロックス、カリステモンと連続して都市の解放に尽力してきたので、たまには休みなさいとサーシャさんから怒られてしまった。私たちは2,3日は色の開放から離れてレディカで解放した3都市の観光に行くことにした。その中にサーシャさんも混ざって3人でレディカの街を巡ったことはとっても楽しくて私の記憶に色濃く深く刻まれたのだった。
 それからまたサーシャさんが情報屋の踊り子として酒場巡りを始めるとのことだったので、私とマレーはサーシャさんの応援をするために酒場を訪れ、夕食を食べていた。
 2,3日の休暇を経て、元気が出てきた私はマレーと共に次なる都市の解放のために、所持してる色素の小瓶の本数を確認していた。するとそこにガシャガシャと鎧が擦り合う音が酒場に響き、私とマレーもその音が自分たちの方に向かってきているのに気付くと小瓶の本数を確認していた顔を上げた。
 するとそこには銀色に光る鎧を全身に着込み、鎧の所々にはアンノーンとの戦闘で付いたのであろう、傷やへこみがあった。そんな彼は短く刈り上げた金髪に藍色の瞳で、私がその鎧を着込んでいる人物の頭から足先まで見てからどうして私たちのところへ来たのだろうと思っていると、鎧を着ていた屈強そうな男性が声を掛けてきた。
「相席しても宜しいかな?」
 私とマレーが視線を合わせてアイコンタクトを取るとマレーが言った。
「断る理由も無いので、どうぞ。」
「感謝する。」
 そうして私とマレーの向かい側に座った男性は腰に下げていた剣をテーブルに立てかけると、彼は私たちの顔を見て話しかけてきた。
「君たちが噂のビリジアンの魔法使いか?」
「噂の?」
「今巷では若い女の子の2人組がレディカの都市の色を次々と解放している、と…。それは君たちのことだろう?おっと、自己紹介が遅れたな。私はフォンツベルン。誇り高きカーマインの魔法使いだ。君たちの名前を聞いても?」
「…アイリス・シュガーツといいます。」
「マレー・クラウドです。」
 私たちは前にプルウィウス・アルクス王国のカーマインの本部前の門番との一件で彼らが口にしていた"誇り高きカーマイン“という言葉を再び聞くことになるとは思っておらず、面倒臭い相手に話しかけられたかもしれない、と少しだけ苦笑いをした。
 自己紹介が終わった頃から酒場のステージでサーシャさんが踊り始めたのを横目で確認しつつ、私たちはフォンツベルン氏と夕食をとりながら話をした。
「君たちの活躍は我ら魔法使いの中でも注目されているんだ、どうだろうか、俺たちの仲間に入らないか?」
「私たちは都市の色の解放だけが目的では無いので…。」
「ギルドは私たち2人ともビリジアンなんです。アンノーンと戦うのは二の次です。」
 私とマレーがそれとなーく拒否をしたのだが、フォンツベルン氏は引き下がる様子もなく、私たちにベラベラと喋ってきた。
「色の解放以外に目的があるのか?それは色の解放よりも大事なことなのか?国の色を全解放するのが我らが魔法使いの使命だろう!それよりも大切なことなどない!そんな目的など二の次三の次だ!」
「!!」
 フォンツベルン氏は私とマレーの旅の目的がなんのか聞かないまま、無理矢理仲間にしてこようとするので、私たちはあからさまに眉を吊り上げた。
「私たちの旅の目的を勝手に決めつけないでください、優先順位はこちらで決めます。申し訳ありませんが、私たちは貴方のような人に命を預けることなど出来ません。」
 私がはっきりとそう言うと、目の前のフォンツベルン氏は私の言葉を聞いてから沸々と怒りが込み上げてきたのか、次第に顔を真っ赤にして激昂した。
「誇り高きカーマインの俺の誘いを断るのか!?俺の仲間になるのは名誉なことなんだぞ!?」
「それ、自分で言っちゃう?」
 激昂したフォンツベルン氏の言い分にマレーはぼそっと言葉を溢した。だが、それは地獄耳なのかフォンツベルン氏の耳に入り、更に感情を昂らせる燃料になってしまった。
 フォンツベルン氏が椅子から立ち上がって罵詈雑言を浴びせてくるので、酒場の中では"何事だ?"と野次馬が群れ始め、先ほどまでサーシャさんが優雅に情熱的に踊っていた音楽もサーシャさん自身もステージから降りていた。
「(面倒臭い人に会っちゃったな~。どうしよう。)」
 私が小さく溜息を吐いて、これからどうしようと思っていると、そこに踊り子姿のサーシャさんが野次馬を掻き分けて私たちのテーブルまでやってきた。
「酒場で盛り上がるのはありがたいけど、喧嘩は良く無いわね。」
「サーシャ!そうだ!情報屋の踊り子を我らが誇り高きカーマインで活躍する俺の仲間に入れば俺たちは更に強くなれる!どうだ、サーシャ。俺たちの仲間になれ!」
「お断りよ。私は自分で必要な情報を仕入れて私の情報が本当に欲しい人に売るの。貴方の評判なんて知ったこっちゃないわ。」
「な、なにぃ!?この、小娘が!」
 サーシャがツンとした態度できっぱりと言い放ったのが決定打となったのか、フォンツベルン氏が手を挙げてサーシャさんに殴りかかろうとしたので、私とマレーが武器を構えるとその状況は一変した。
 先ほどまでフォンツベルン氏はサーシャさんに殴りかかろうとしていたのに、いつのまにか立場が逆転していて、フォンツベルン氏はサーシャさんと場所が入れ替わったようで殴りかかろうとした相手が目の前からいなくなり、彼はガッシャン!皿が割れる音を立てながらテーブルに顔から突っ込んだ。
 今のはサーシャさんの魔法だ。彼女の魔法属性の色はグリーンとインディゴだ。魔法強化で風魔法を使って彼女は短い距離なら瞬間移動並みの速さで移動することが可能になる。その力を使ってフォンツベルン氏の攻撃を避けたのだった。
 テーブルに顔から突っ込んだことで振り返ったフォンツベルン氏は鼻血を出していて、顔を押さえてはいたが、ポタポタと血が垂れているので、私はやりすぎでは…?と思っていると、フォンツベルン氏の取り巻きたちがフォンツベルンを宥めていた。
「お前たちの顔、しっかり覚えたからな!」
 と捨て台詞を吐いて彼らは酒場から出て行ったのであった。
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