輝くは七色の橋

あず

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第21話 廃れた温泉街

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第21話 廃れた温泉街
 音楽祭が終わり、クラレットの街にも人が増え始めた頃。私とマレーは次に解放する都市について会議をしていた。
「まだ解放してない都市はゴデチア、ヘリコニア、セラサイト…だよね。どこから行く?」
「そうねぇ…、ここからだとゴデチアが1番近いわ。ゴデチアは一度訪れたけど、あの時は枯れた魔力の泉しか見てなかったから…情報が足りないわね。サーシャさんに聞いてみましょうか。」
「そうだね!」
 ゴデチアについてサーシャさんなら何か知っているかもしれないと期待に胸を膨らませて今日サーシャさんが舞を披露する酒場に向かった。そこでは今夜のステージの音楽確認をしているサーシャさんとアメリアがいた。
「2人ともこんにちは。」
「アイリスさん、マレーさん!2人ともどうしたんですか?」
 私たちに先に気付いたアメリアがトコトコと私に近づいて来た。
「次の色の解放をする都市について、サーシャさんから情報をもらおうと思ってね。って、今は忙しそうね…。」
 私とアメリアが会話している間にもサーシャさんは酒場の人と一緒に音楽の種類を選んだり楽器のコンディションのチェックをしていた。
「サーシャさんなら直ぐに情報をお二人にお渡ししますよ?声を掛けてきますね。」
「ごめんね、アメリア。お願いします。」
 私はアメリアに頼んで仕事熱心なサーシャさんに話を付けてもらい、次なる都市ゴデチアの情報を聞き出すことにした。サーシャさんがこちらに気付いてやって来ると、申し訳なさそうに眉を下げていた。
「ごめんなさい、気付くのが遅くなって。音楽祭以来、私の踊りを見れるって話が溢れててレディカの各地の酒場からオファーが来てて。もうてんやわんやなの。アメリアも協力してマネジメントしてくれてるし、なんとかやってるけど…情報屋の踊り子として情報収集もしたいんだけどね…。」
「お疲れのようですね…、そんな時に悪いんですけど、私たち次に解放する街をゴデチアにしようと思ってるんです。それでゴデチアの情報を何か貰えないでしょうか?」
「ゴデチアね…、私の住んでたフロックスからは遠いから印象は薄いんだけど、確か温泉施設で賑わってた街だって記憶してるわ。でも、今は色を失ってるし、魔力の泉も枯れてるし…、街の色を解放しても集客出来るかしらね…。」
「温泉施設…。マレー、私たちで何か出来ることはないかな?」
「アイリスは温泉施設を復活させたいのね。私も温泉が好きだし街が解放出来れば嬉しいし!まずは色素の小瓶集めね!」
 私が不安そうな瞳でマレーに訴えかけるとマレーも温泉には興味があるようで、乗り気になってくれたので、私たちは本格的に温泉があるゴデチアの色の解放のため、まずはゴデチアに向かうことにした。
 ――――――
 クラレットの南に位置するゴデチアには直ぐに辿り着くことができた。到着すると私たちは改めてそこが元は温泉旅館やホテルがあったんだと思い知った。
「旅館とかホテルの廃墟だらけね…。でも、この荒れ具合…アンノーンたちに襲撃されただけではないような…?」
「マレー、これ見て!」
「ん?」
 色が失われた街の中を見て回っていると、私はとあるものを見つけたので、マレーを手招きした。
 そこには温泉街のパンフレットがあった。時間が経ちすぎて文字や絵が所々禿げているがかろうじて温泉街のパンフレットだと確認できる。
「この、ゴデチアの温泉協会の会長さんに会ってみようよ!お話を聞いてゴデチアの復興について話し合ってみよ!」
「ゴデチアが復活すれば、また気持ちいい温泉に入れるんだものね!会長さんは~、えっと、マルーンさん?だね。今はどこにいるのかな…。」
「ラケナリアとかカリステモンで情報を聞き出しましょ!この絵を使って聞き込みをしよ!」
「うん!」
 こうして私たちはゴデチアの温泉協会の会長さん探しを始めた。私はカリステモン、マレーはラケナリアで会長さんのイラストを道ゆく人に見せて、何か知っていることはないか情報収集をした。そこでラケナリアで聞き込みをしていたマレーから魔力鳩が飛んできて、手紙を運んできてくれたので、私はその場で直ぐに確認した。
「!マレーが見つけてくれたみたい!よし、ラケナリアへ行こう!」
「クルッポー!!!」
 私に手紙を届けてくれた魔力鳩も道案内する気十分で、飛びったので、私も勢いよくカリステモンからラケナリアまでの道のりを急いだ。馬を借りることも出来るのだが、あいにく私は馬に乗ったことがなく、手綱を握れる自信が無いので、乗り合いの馬車に乗り込んだのだった。
 翌日になってようやく着いたラケナリアに私は街に溢れる人を見て"ここもだいぶ栄えるようになったな~"と感心した。そんなことを思っていると、遠くからマレーの姿が見えたので、私は手を振りながらマレーの元へ走り寄った。
「マレー!会長さん見つけたんだって!?」
「うん!ちょうど昔にゴデチアの温泉旅館で働いていた人が聞き込みをしてる私に話しかけてきてくれてね。その人の伝手で会長さんにアポ取ってくれてアイリスを待ってる間に返事が来て、会ってもいいって!」
「話が早くて助かるよ!早速会長さんに会いに行こ!どこで待ち合わせ?」
「直ぐそこの酒場だって!」
 私とマレーは合流すると簡単に今回の経緯を聞き、温泉協会の会長さんの話や話しかけてきてくれた旅館の関係者の人の話などを聞いた。目的の酒場に着くとカーマインだと思われる鎧を着た戦士やローブを羽織った魔法使いで溢れていた。プルウィウス・アルクス王国への玄関口であるラケナリアならでは光景だな、と思っているとマレーが目的の人物を発見したようで、私の肩をちょんちょんと小突いた。マレーの指さす方を見てみると、あの温泉施設のパンフレットの絵とそっくりな恰幅のいいもこもこの髭を生やしたメガネの男性がいたので、私たちはそろそろと近付いた。
「あの…、もしかしてゴデチアの温泉協会の会長のマルーン・メジッキさん、ですか?」
「ん?ああ、君たちが僕を探していた若いお嬢さん方か。僕でよければお話をするよ。どうぞ、席についてくれ。」
「ありがとうございます。」
 人の良さそうな印象のマルーンさんに促されて私たちはマルーンさんと向かい合う形で椅子に座った。そして、飲み物を注文してから私たちはマルーンさんに温泉施設があったはずのゴデチアの今の惨状を伝えた。
「…というわけなんですが…。マルーンさん、アンノーンに襲われる前にゴデチアでは何が起きていたんですか?」
「………それは…。」
「私たちはこの国を復活させるために尽力しています!もちろんそれはゴデチアも同じです!温泉旅館やホテルを復活させてれば前のように…。」
「今はもう、ダメなんだよ…。」
「ダメ…とは?」
「噂を聞くとゴデチアの魔力の泉が枯れていると聞いているし、アンノーンに襲われる前からゴデチアの温泉街は経営難に陥ってたんだ…、今更復興したところで…。」
 私の説得でマルーンさんは話してくれたが、彼は頭を垂れたまま、ポツポツと呟くように話した。
「ということは魔力の泉が復活すれば、いいんですね!?」
「えっ?」
 私がマルーンさんの手を握ってまっすぐ瞳を見つめた。マルーンさんの瞳にも温泉街を復活させたいという気持ちが少なからずあるのだと私は感じ取った。だからこそ、諦めないで欲しい、その気持ちをマルーンさんに伝わるように手をぎゅっと握って、マルーンさんを説得した。
「ゴデチアの魔力の泉の復活は私たちに任せてください!マルーンさんは旅館やホテルで働いていた人をかき集めて温泉街の復興に尽力してください!」
「ほ、本当にやるのかい?」
「ええ、もちろん!私は温泉に来て疲れを癒したいし、癒されている人の笑顔を見るのも好きなんで!」
「!!」
 私の言葉にマルーンさんも心を突き動かされたようで、ガタリと椅子から立ち上がると髭がモコモコと動くほどの鼻息で意気揚々と拳を握った。
「ゴデチアの温泉協会会長として、復興に尽力しよう!魔力の泉のことは、お嬢さんたち2人に任せることになるが…、無理はしないでおくれよ?何か手伝えることがあればいくらでも言ってくれ!」
「分かりました!こちらも頑張ってみます!」
 こうして私とマレーは温泉協会の会長さんを焚き付けて、温泉街の復興に向けて動き出したのであった。
 私とマレーに課せられたのは枯れた魔力の泉の復活だ。ゴデチアの温泉の源泉は元を辿れば魔力の泉が源泉であるらしい。だから、魔力の泉が枯れてしまっていては、温泉の名物である源泉掛け流しなどができないことになってしまう。そこで私たちは色素の小瓶には魔力が豊富に含まれていることを思い出した。そして魔力の泉の中に大量の色素の小瓶を入れれば魔力の泉も活性化されて復活するのでは無いかと思ったのだ。
「まずは色素の小瓶を50本が目安ね。50本でダメなら100本よ!」
「ひぇ~!頑張らなきゃ~!」
 マレーのスパルタで1日の平均的に3,4体のアンノーンを15分で倒し5分の休憩のルーティーンを繰り返す特訓が始まり、私たちは強くなれるのと同時に色素の小瓶も着々と進めていった。そんな生活が2ヶ月続いた頃。ようやく魔力の泉に注ぐ色素の小瓶を50本集め切ることが出来た。
 私は直ぐにマルーンさんに魔力鳩を飛ばして手紙を読んでもらいゴデチアの魔力の泉の前に集合することになった。
 ――――――
 翌日。魔力の泉の周りに集まったのは私、マレー、サーシャさん、アメリア、マルーンさんとお付き?の女性と男性がいた。
「マルーンさん、そちらのお二方は…?」
「ああ、説明してませんでしたね。私が経営していた温泉旅館の女将をしていたイコリスです。」
「初めまして、イコリスと申します。本当にこんなに可愛いお嬢さんたちが復活させてくれるなんて…。すごいわね!」
「そしてもう1人は昔の温泉施設の先頭で番台をしていたミロクさんだ。」
「ミロクです、初めまして、お二人さん!いやぁ、ゴデチアの色の解放と共に魔力の泉も復活させちゃうなんて最近の子はすごいねぇ!」
 マルーンさんから紹介されたイコリスさんは50代くらいの見た目で焦茶の髪の毛をくるりとお団子にしていて、"THE仲居!"って感じの見た目と雰囲気を持っている方だった。
 そしてもう1人紹介されたミロクと紹介された人は濃い緑色の髪の毛を首の辺りでひとまとめにした優しそうだけど、話してみると飄々としてる…そんな印象を受けた人物であった。
 その2人の自己紹介も終わり、いよいよ私たちは、集めた色素の小瓶50本を枯れた魔力の泉の中に入れ始めた。50本全てを入れると、ゴゴゴゴゴと地面が揺れ始め、"地震か!?"と身構えていると、色素の小瓶の中身を泉の井戸の中に入れた場所から虹色に輝く光の柱が空に向かって伸びた。
 そして、次第にその光は消えた。
「な、なんだったんだろう、今の…。」
「ま、魔力の泉は!?」
 私がポカンと空を見つめている中、マレーは本来の目的の魔力の泉の井戸の中を覗き込んだ。するとそこにはコンコンと魔力を多く含んだ水が流れる魔力の泉が復活していた。
「アイリス、大成功よ!」
「やったー!これで第一関門クリアだね!」
 私とマレーはハイタッチを交わしてこれから始まる温泉街復興プロジェクトが始動し始めたのだった。
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