輝くは七色の橋

あず

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第28話 試作を重ね

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第28話 試作を重ね
 元気のない私を心配してお母さんが部屋に来て話を聞いてくれることになった。
「アイリス、マレーちゃんのとこの道場に行ってから様子が変よ?何かあった?」
「えっと…、双子のことで…。」
「シダヤとノゼル?」
「うん…、2人の魔法についてなんだけど…。」
「ああ…、あの2人もアイリスも複雑な魔法属性を持っているものね…、私は最初双子が攫われたと聞いた時魔法のことを知られているんだと1番に気付いたわ。悪用されるかもしれないっていう恐怖があった。でも、双子はまだ7歳。自分の魔法がどんなものかその全容を把握しきれてないと思う。だから、未知なる力で戸惑ってるんじゃないかってね。アイリス、双子のこと、悪用される前になんとか助け出せないかしら…?」
 お母さんの不安げな瞳に私は直ぐに"うん"と頷くことができなかった。私はまだまだ弱い。ガレットさんとの組み手で勝ったことが無い。力不足なのだ。だから、これからもっともっと強くなって黒づくめの男を倒せるようにならないと双子は助け出せない。だから、すぐに頷くことが出来なかったのだ。
「…時間かかっちゃうかも。」
「それでも、双子のためにアイリスは立ち上がるんでしょう?」
「うん。双子を助けたい気持ちは本物。悪用されたら世界が壊されちゃう。それだけは阻止したい。」
「アイリスのその気持ちを尊重するわ。双子のことよろしくお願いね。」
「うん…!」
 私は弱いことを認めた上で双子を助けるためにもっと強くなると決意し母に元気付けて貰った。流石は自分と双子を産んだ母。強いなぁと思いながら私は眠りについた。
 翌日。私はお店の手伝いをお昼までやってからマレーの実家の道場に向かった。
「こんにちはー!アイリスです!」
「アイリス、いらっしゃい。次の国についての作戦会議?」
 ひょっこりと玄関に現れたマレーに私はこくりと頷いた。先日ガレットさんから聞いた"複雑な魔法属性の可能性を研究している"という魔法使いについて少々興味があったからだ。
「アイリスは研究者さんの出版した本とか好きだもんね~、今回お父さんが言ってた人のことも気になってるんでしょ?勉強熱心だなぁ。」
「興味のあることにはとことん勉強するのが好きだからね。」
 道場までのマレーの家の廊下を歩きながらそんな話をしていると、道場ではガレットさんが待っててくれた。
「ガレットさん、こんにちは。先日話していた研究者さんのことで相談が…。」
「アイリスさん、よく来てくれたね。その研究者のことなんだが…、研究熱心過ぎて最近はスカイの研究棟の部屋から一歩も出て来ないらしくてね。話を聞ける状態ではないらしいんだ。」
「えっ…、一歩も?」
「ああ、元々人と関わるのが苦手なようで研究を言い訳にして引きこもっていると俺にその子のことを伝えてくれた友人がぼやいていたよ…。」
「なら会える可能性は低い…。」
「だが、可能性はゼロではない。アイリスさんの魔法の飴玉を作る魔法について話せば、彼は部屋から出てきてくれるかもしれない。」
「私の魔法?」
「アイリスさんの魔法は特別だ。色を失っている色素6カ国で魔法の吸収の影響を受けずに魔法が使えるようになる飴…そんなものが実在するなら研究熱心な彼なら食いつくんじゃないかな。」
「私の魔法についてなら研究対象になるってことですね。」
「次に行くなら沈黙と自由の街、海街がいいだろう。名前の通り海に面していて海底神殿があると有名だった国だ。昔スカイの研究者たちが1番住んでいた所だ。ここからだとレディカにのヘリコニアを経由していくのがいいだろう。」
 私の魔法が研究対象になればガレットさんのいう研究者の彼が部屋から出てきてくれるかもしれないという可能性に賭けて私たちは次なる国は海街にすることにした。地図で場所を確認してから私はマレーと出発の準備について話していた。
「海街に行く前にリキリスさんからレディカの完全復活の儀式の案内が来てたから、ヘリコニアを経由する時に火山の麓のセラサイトに行って儀式に参加してこよっか。」
「そうだったね。どんな儀式なんだろ…。」
「国王様も参加するっていうからそれなりの規模なんだろうね。」
 私とマレーは儀式への期待を膨らませながら、出発を明後日に決めて私は帰路へついた。
「ただいま~。」
「お帰りなさい、アイリスちゃん。」
「リーナさん、ただいまです。」
 私がお店に入るとお店を閉店する準備をしていたリーナさんに遭遇した。彼女がいるということは今日はムアンダさんも来ているのであろう。私も閉店の手伝いをしていると、厨房からお母さんが出てきて、私を手招きした。
 私が首を傾げながら、残りの閉店の作業をリーナさんに任せると、私は普段入らない厨房に入った。
「アイリス、帰ってきたばかりで申し訳ないんだけど、この間言っていたスパイスを使ったスイーツの試作ができたから、食べて欲しいのよ。」
「もうできたの!?お店の仕事もあるのに…。」
「お店に並べるお菓子は朝早くから作っているから午後になれば試作の時間を少しずつ確保していたのよ。それで、今回試作で作ったのは、ジンジャークッキーとカルダモンのケーキね。カルダモンを使うのはムアンダさんの提案よ。」
 厨房に入ると、お母さんとお父さん、そしてパティシエとしてお店のお手伝いをするようになったムアンダさんが待っていた。みんなの前の作業台にはいくつかのクッキーとホールのケーキが並べられており、お父さんたちはすでに試作品を食べたようで、感想を述べ合っていた。
「アイリス発案のものだから、食べて欲しくってね。ぜひ、率直な感想をちょうだい。」
「ん、分かった。いただきます。」
 私はまず可愛い形に生地が抜かれたジンジャークッキーを食べた。しっとりとした食感で、ジンジャーのピリリとした辛味がアクセントになっていて、美味しかった。
「このジンジャークッキー美味しい!ジンジャーの独特の辛味と風味が後を引くね。でもこのクッキーはしっとりした食感より、サクサクほろほろの食感のクッキーの方が美味しいんじゃないかな?」
「アイリスは痛いところを突くなぁ…。俺たちも食べてみて、しっとり系よりもサクサク食感がいいんじゃないかって話していたんだ。」
「あ、そうなの?ジンジャーの配合はこれでいいとは思うけど…、食感の問題だけかなぁって…。」
 ジンジャークッキーを食べた率直な感想を言うとお父さんが苦笑いをしながら、コーヒーを飲んでいた。私はそこで一つ閃いた。
「そうだ…、紅茶とかの茶葉にスパイスを配合したものをお店でも販売したらどう?スパイスが効いた茶葉とか手軽にレディカの特産品を取り入れられるし…。」
「ふむ、茶葉か…。お母さん、試しに取り寄せてみようか。」
「そうね。スパイス入りの茶葉なんてオシャレだわ。若い女の子たちに受けそう。」
 みんなで試食をしながら、今後のお店の戦略とムアンダさんのお店で販売するスイーツの話をしていると、閉店をしてきたリーナさんも加わり、皆んなで意見交換をして夜は更けて行ったのであった。
 ――――――
 翌日。私は今日もお店の手伝いをしていると、マレーのお母さんのラーフさんがお店に来てくれた。
「アイリスちゃん、こんにちは。」
「あっ、ラーフさん、こんにちは。今日はマレーじゃないんですね。」
「私が直接アイリスちゃんのご両親に挨拶したいと思ってね。私も今日中にはレディカの魔力の泉の護衛に回らなくちゃいけなくなって。最後にアイリスちゃんの家のスイーツが食べたくなったんだ。」
「そうなんですね。両親を呼んできます。少々お待ちください。」
 私が接客をしている時間だったので、私はすぐに厨房にいる両親に話をつけて、ラーフさんの元に案内した。私が厨房に行っている間にリーナさんが代わりにラーフさんの注文を聞いてくれたようで、私たちが戻ってくると、リーナさんは梱包の作業をしていた。
 ラーフさんと私の両親が話している横で私は別のお客様の対応をしたりしていると、すっかり意気投合したらしいラーフさんと私のお母さんは仲良く娘の話に花を咲かせていた。閑古鳥が鳴く昼下がりだったので、しばらく話し込んでいた二人はお父さんに注意を促されるまで、お店のショーケースの前を陣取っていた。そんなお話し好きのお母さんたちに私は苦笑いをしていると、お父さんがお昼休憩の時間だから、ご飯を食べてきなさいというので、私はラーフさんに挨拶をしてから、2階に上がったのだった。
 お昼ご飯を食べた後も、私はお店に立って接客業をこなした。外が暗くなってきたころに私とリーナさんで閉店準備をしていると、ムアンダさんが私とリーナさんを呼びつけた。
「今日も試食会ですか?」
「ああ、連日でごめんよ。僕たちのお店に並べるのに、なるべく納得のいく出来にしたいからね。」
 そう言って苦笑いをしながら、ムアンダさんが私たちを厨房に案内すると、そこにはすでに試食をしているお父さんとお母さんがいた。
「二人とも連れてきました。」
「ありがとう、ムアンダさん。二人とも悪いんだけど、また感想をくれる?昨日から改良をしたんだけど…。」
 申し訳なさそうに眉を下げながら、お母さんが言うのでリーナさんが“いえいえ!“と両手を振って否定をした。私もお父さんたちの作るスイーツは大好物なので、むしろ試食会に参加させてもらえて嬉しいくらいなのだ。私は厨房の作業台に置かれたジンジャークッキーとカルダモンケーキを見て、お皿に一口ずつ乗せると、パクリと食べた。
 サクサクとした食感のジンジャークッキーは前回から改良されているのが顕著に現れており、サクサクほろほろとした食感が楽しく、ジンジャーのピリリとした辛みと独特の風味が口の中に広がり、とても美味しかった。
「今度のジンジャークッキーはすごく美味しいと思う!前よりもサクサク感がアップしてて、ジンジャーの配合も少し変えた?」
「よかった。サクサクした食感を出した方がいいってアドバイスをもらったから、今度はバターの量とかを調節したんだ。ジンジャーの配合は後で、ドルセスさんに少なめにした方が初めて食べる人には受け入れてもらえるって言ってもらったから、少なめにしたんだ。」
 私がジンジャークッキーの感想を述べると、ムアンダさんが微笑みながら、制作の話をしてくれた。ドルセスというのは私のお父さんの名前だ。ムアンダさんが試行錯誤をして作り上げた、ジンジャークッキーはとても美味しくて、私は何個もパクパクと食べてしまった。すぐにみんなの視線に気づいて、照れ笑いを浮かべながら、次にカルダモンケーキを食べた。これもムアンダさんが作ったものらしく、カルダモンの特徴でもある刺激的な辛みと清涼感のある風味に私はケーキなのにすっきりとした感じで食べられることに驚いた。
「うん、これも美味しい!カルダモンってこんなにスイーツと合うんだね。驚き。」
「ピリッとしつつも、独特の風味が邪魔していないのがいいですね。」
 私とリーナさんから絶賛の嵐を受けて、ムアンダさんは嬉しそうに微笑んだ。そしてお父さんとお母さんの方を見た。二人の感想を聞きたいんだろう、緊張した面持ちで二人を見ていた。
「うん。昨日よりも美味しくなっているね。だけど、今は辛みの方が強くなっている気がするね。もう少しスイーツとしての甘みを感じても良さそうだ。」
「お父さんの言うとおりだと思うわ。スパイスを入れ過ぎると、辛いだけの食べ物で美味しくはないし、スパイスを入れなさすぎて甘さだけが勝っていてもスパイスを入れた意味がないわ。これは黄金比を探すしかなさそうね。」
「そ、そうですか…。私もまだまだですね。」
 流石は本職がパティシエなだけあって、二人の意見は厳しく、そして的を射ていた。私とリーナさんがそう言われてみれば…と思っていると、お母さんが私の方を見た。
「アイリスは明日出発って言ってたわね。明日の準備もあるだろうし、もう上がっていいわよ。」
「分かった。明日の準備のために早めに寝るよ。じゃあ、お先に。」
 私はみんなに挨拶してから、2階に上がりシャワーを浴びた。明日にはまたレディカに行くことになっているので、私はシャワーを浴びた後は旅の準備をし始め、早めに就寝したのであった。
 ――――――
 そして翌日。私はムアンダさんたちより一足先にレディカの戻り、国の復活の儀式に参加するべく、馬車でプルウィウス・アルクス王国をマレーと一緒に出発したのであった。
 
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