輝くは七色の橋

あず

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第30話 旅路に幸あれ

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第30話 旅路に幸あれ
 火山の洞窟から出てくると山頂付近には沢山の見物客が集まっており、私たちが洞窟から出ただけで大歓声と拍手を貰った。私とマレーはこんなに注目されることは人生初めてなのでリキリスさんやヘルゼナさんたちに隠れるように洞窟の外に出た。
 最後に国王様が「みんな、これからも残る色素5カ国の解放、頑張ってくれ」と声をかけて国王様は専用の馬車で火山を降りて行かれた。私たちは人間用の火山の登山道を降りることとなった。
 ――――――
 翌日。私たちは宿屋でセラサイトの宿屋で目覚めると取材の記者からの質問が殺到しており、リキリスさんとオルキスさんのガードで私とマレーはなんとか宿屋を出発することになった。
 そんな時宿屋から出発するために馬車に乗ろうと思ったら私宛に魔力鳩が飛んできた。腕を曲げて魔力鳩が停まりやすいようにしてやると、腕に着地した魔力鳩の足に手紙が巻きつけてあるのに気がついた。
「誰からだらう?」
 私が首を傾げて手紙を広げていると、マレーがその様子に気付いて魔力鳩を抱っこしてくれた。そして一緒に手紙を黙読した。
 手紙の内容はお母さんからだった。やっとジンジャークッキーとカルダモンケーキが納得のいくものになったから、ヘリコニアの商店街にムアンダさんのお店を出すことになったのだとか。それでアイリスにはしばらくの間、ムアンダさんとリーナさんのお手伝いをしてあげてとのことだった。その手紙を最後まで読むと、そのにはムアンダさんの新しい店舗の場所が記載されていた。私は一緒に手紙を読んでいたマレーの顔を見た。
「このまま海街に行く前にヘリコニアに寄るのね!いいよ!アイリスのとこで修行したっていう人のスイーツも気になるし!」
 というわけでお母さんからのお願いとしてムアンダさんのお店に急遽行くことになった。乗合馬車でヘリコニアまで行くと、そこでは色を取り戻したこともあり、少しずつだが、商店街でお店を開く人がちらほらいた。
 だが、まだまだシャッターを閉めている空き店舗も多くと私たちは馬車から降りて商店街を見て回った。すると商店街の中でも飲食店が連なるお店の端っこにムアンダさんとリーナさんのお店、"ピリリ・ドルチェ"という名前のお店があった。
「ここがあの2人のお店かぁ…。お手伝いに入ってみようか!」
「うん!」
 私とマレーが頷いて店内に入ると、そこには新品のピッカピカのショーケースが並び、新築の香りがする店内に甘い香りが厨房から流れてきてて、私は実家を思い出していた。
 小さい頃から両親の手からは甘い香りがして、その手で小さい頃のぷくぷくほっぺをむにむにと揉まれるのが好きだった。
 そんな思い出に浸っていると、ショーケースの前で突っ立っている私とマレーに厨房から出てきたリーナさんが気付いてくれた。
「あら、アイリスちゃんと、マレーちゃん…だったわね!お店のお手伝いよね?少し悪いんだけど、厨房の荷物が多くて大変だから、販売スペースの物をいい感じにディスプレイしてくれないかな?まだまだスイーツショップの販売スペースが完成してなくって…、アイリスちゃんがいれば安心だわ。ムアンダには私から言っておくから仕事お願いね!」
 そういうとリーナさんは忙しなく厨房で働くムアンダさんのところに戻り、一言、二言話してからムアンダさんは私たちに気付いて手を上げて会釈をした。ムアンダさんたちのためにも、お店を綺麗に飾りつけるぞ~!と私とマレーは意気込んで飾り付けを始めた。ショーケースの中の拭き掃除から店内の家具の置く位置、クッキーなどの少し日持ちするスイーツの販売スペース作りなど…、私たちはやることが沢山あった。
 私たちは家具の配置などを相談しながら、仮決めをして時々リーナさんやムアンダさんの意見を交えつつ、なんとか家具の配置を終えた。するとすでに時刻は夕方。暗くなってた商店街に少しずつ明かりが灯し始められた頃に、私たちは一日目の作業を終えた。
「今日は来てくれてありがとうね、二人とも!開店準備が進んだし、スイーツの準備も順調よ!これはお礼なんだけど…。」
 そう言ってリーナさんが私たちに差し出したのは、ジンジャークッキーの詰め合わせだった。辛いものが好きなマレーは喜んだ。
「わぁ!これって新作のクッキーですか!?美味しそう…。」
 すでにじゅるり…と涎が止まらなくなっているマレーに私とリーナさんは苦笑いしつつ、明日も開店準備を手伝うことになった。ムアンダさんはスイーツの試作の最終段階に入っているようで、厨房から出られないらしく、私とマレーが販売スペースの設置をしたことでだいぶ開店準備が進んだのだとか。リーナさんが何度も感謝の言葉をかけてくれるので、私は両手を振って謙遜していた。
「アイリスちゃんたちは次は海街に行くって言っていたわね。海街には海底神殿っていうものがあるらしいんだけど、知ってる?」
「あ、その話聞いたことあります。でも、海底神殿っていうくらいだから、簡単には見に行けないですよね…。」
「そうなんだよねぇ…、国として観光名所として売り出したいらしいんだけど、なんせ深海にあるもんだから、そう簡単にはいかないみたい。ってごめんね、引き止めちゃって。今日はヘリコニアで宿を取ってるんでしょ?明日もお手伝いお願いしちゃってるし、早めに休んで。」
「いえいえ。ムアンダさんにもよろしくお伝えください。それじゃ、また明日来ますね。」
 私とマレーはそういうと、“ピリリ・ドルチェ“からヘリコニアの宿屋に向かった。ヘリコニアの商店街が少しずつ活性化しているのもあり、宿屋はダブルベッドルームが残り一部屋になっていた。宿屋の部屋でゆっくりしつつ、明日のこともあるので、私たちは宿屋から近くの酒場で夕ご飯を手軽に済ませ、シャワーを浴びて、早めに就寝したのであった。
 それから3日ほどムアンダさんとリーナさんのお店の開店準備を手伝い、ようやく開店する日がやってきた。その日は私たちもお店のレジに立って、接客の手伝いをした。意外だったのはマレーがこういう仕事が初めてだったからか、ガチゴチに緊張していて、お客様への言葉遣いがめちゃくちゃになっていることだった。
「マレーがこういう接客業苦手なの、初めて知った。」
「うう…、どうしてもこういうの緊張しちゃって…。アイリスは慣れてるから、流石だよね…。」
 開店初日なだけあって、私とマレーがそういう話ができたのは、閉店後。お店の前の掃除をしてから販売スペースの掃除をしながら、私たちは開店初日の忙しさを実感した。
「二人とも、今日はお疲れ様。売り上げは上々よ!マレーちゃんも初めてにしては上手だったわよ。悪いんだけど、明日も混みそうだから、明日もレジとか接客をお願いしてもいいかしら?」
「はい!大丈夫ですよ。」
「ありがとう!今日はありがとう。海街への出発はいつ頃の予定?」
「そうですね…、なるべく早い方がいいですけど…、海街までの馬車ってありますか?」
「今は海街はアンノーンに色を奪われた土地だから、誰も寄りつかないのよ。だから馬車も出ているかどうか…。」
「そう、ですよね…。海街までは徒歩で向かってみます。今日はありがとうございました。」
「いえいえ。それじゃ、明日もよろしくね。」
 リーナさんに海街までの交通手段を尋ねてみたが、やはりアンノーンが占拠してしまっている土地だからか、人の出入りは少ないらしく、海街までは徒歩で向かうことになりそうだった。
 ――――――
 そしてムアンダさんたちのお店、“ピリリ・ドルチェ“が開店して3日。私たちはリーナさんからいつまでの手伝いで引き止めてしまうのは忍びないから、ということで海街へ出発する日が明日になった。そこで私たちがレディカでの最後の晩餐をするために、酒場で祝杯をあげていると、酒場の一角で聞き慣れたバイオリンの音と軽快なステップを踏む、人の足音が聞こえてきた。
「これってもしかして…!」
 私とマレーが注文していたテーブルの上の料理を掻き込んでから、その酒場の一角まで向かうと、そこに優雅にバイオリンを弾くアメリアと私とマレーとアメリアで作った特注のドレスを着て、舞を踊るサーシャさんの姿があった。
 私たちは手拍子をしながら、サーシャさんの舞を見ていた。周りにいた酒場の客たちもクラレットの音楽祭で披露したドレスを身に纏っているサーシャさんを見て、ワラワラと集まってきた。やがて一曲が終わると、目を閉じてバイオリンを弾いていたアメリアが目を開けて私たちに気づいたようで、ニコッと微笑むと、次の曲を演奏し始めた。それから私たちはサーシャさんの舞とアメリアの演奏に聴き惚れながら、レディカでの最後の晩餐を堪能したのであった。
 翌日になると、私たちはヘリコニアを出発した。海街へと続く陸路を歩き始めると、後ろから“待ってください~!“と声がかかったので、振り返るとそこには息を切らしているアメリアと平然な顔で私たちに追いついてきたサーシャさんがいた。
「あなたたち、昨日酒場にいたよね?なんか嫌な予感がしてみれば、もう海街へ向かうの?」
「そうですけど…。」
「はぁ…、一言くらい私たちに教えなさいよね!一緒に戦ったこともあるんだから!」
「うっ、す、すみません…。」
 最後にサーシャさんからの特大なため息を聞いて、私とマレーはしゅんと落ち込んだ。それを見てアメリアが“サーシャさん、そこまでにしてあげてください…“と止めに入ってくれたので、サーシャさんからの説教は短くて済んだ。そして誰からともなく、みんなでプッと吹き出して、笑い始めた。こうしてサーシャさんに怒られては私とマレーがしゅんと落ち込み、アメリアがサーシャさんを嗜める…そんな光景を何度も見てきた。
「もう行くのね。」
「はい。私たちは前に進まないといけないので。」
「いつでもレディカに帰ってきてもいいのよ?私たちは待っているから。双子のことも私の方で情報が入り次第、魔力鳩を飛ばすから。」
「ありがとうございます。それじゃ、これで。」
「ええ。あなたたちの旅路に幸あれ。」
 最後にサーシャさんとアメリアと握手を交わして、私とマレーはレディカから海街へ向けて出発したのであった。海街まではアンノーンに占拠される前に開通している街道があるので、それに沿っていけば、問題なく海街へ辿り着けそうだだった。
「海街の最初の街ってどこ?」
「地図によれば、勿忘草って場所らしいよ。ここから街道に沿っていけば、勿忘草に入るって。」
「よし、徒歩は大変だけど、頑張ろう!」
「ええ!」
 遠くの方で海が見え始めたことで未知なる世界に飛び出そうとしているワクワク感とほんの少しの不安を抱えながら、私とマレーは次なる国の海街に向けて歩みを進めたのであった。
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