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冒険者と喫茶店

Level.53 取扱注意

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Level.53 取扱注意
それからレイニーたちは広場から家へと帰宅した。その説明会から二日後。レイニーたちはグランドクエストに行く前最後の喫茶店の営業をしていた。この日も沢山のお客さんがレイニーたちの料理と喫茶店の雰囲気で休めるためにお店を訪れてくれていた。
「レイニーちゃん聞いたよ、今度冒険者たちが魔物と戦う、グランドクエストに行ってくるんだってね!頑張ってきてね!」
「カスミさん…、ありがとうございます!頑張ってきますね!」
「レイニーちゃんもそれだけ強くなってるってことだもんなぁ、喫茶店の営業開始を心待ちにしてるから、絶対帰ってきてくれよ!」
「ラルジュさんもありがとうございます。絶対生きて帰ってくるので、待っててください!」
 レイニーが一度ホールに出れば、ピーゲルの街のお客さんたちがレイニーに声を掛けてくれて、レイニーは嬉しくなった。そんな街の人たちを守るためにもレイニーは絶対に生きてこの街に帰ってきてみせる!と強く意気込んで、喫茶店の営業に精を出して料理を作ったのだった。
 ――――――
 土日の喫茶店の営業を終えてレイニーたちはグランドクエストの当日を迎えた。
 しっかり朝ごはんを食べたレイニーはいつもの青いワンピースとポンチョに軽いアーマーを装備して相棒の雷光の槍を携えてザルじいと別れのハグをしてから家を出発した。
 レイニーが集合時間の15分前に到着すると、既に街の広場には大勢の冒険者たちがひしめいていた。
 レイニーがキョロキョロと辺りを見渡していると、遠くの方でリトが手を振っているのが見えたので、レイニーはそちらへ向かった。
「リト!」
 レイニーがリトの元に行くとそこにはライクス、レイクス兄妹とキュリアが集まっていた。
「すごい、ゴールドランクが揃ってるぞ…。」
「近くにいるあの女の子もシルバーランクだろ?」
「凄すぎる光景だ…。」
 レイニーがリトと合流しただけで、周りの冒険者たちがざわつき始めてしまった。これにはレイニーもどう対応して良いか分からず、ワタワタとしていると、リトが"気にすんな"と言ってレイニーを話の輪の中に入れてくれた。今回ゴールドランク冒険者が集まっていたのは、キングコボルト軍の方とメデューサ軍の方で2対2に分かれて戦いに行くべきであろうとのクルエラからの話で4人はどういう別れ方をするか決めようとしていたのだった。
「俺はレイクスさんの遠距離攻撃で相手を倒しつつ、キュリアさんの氷結魔法で敵を凍らせてから戦った方が安全だと思います。」
「私もそう思ってた。」
「あにぃには悪いけど、ここは分かれた方がよさそうだね。」
 リトが提案した作戦に3人の賛成がある中、ライクスだけが何やら"むむむ"と不機嫌そうな顔で反論していた。
「俺は!レイクスと連携をとる方がたくさんの敵を排除出来ると思ってるわけ!俺とレイクスを引き離さなくても良くない!?」
「だから、あにぃの火属性の魔法はリトくんと同じで相性がいいんだから、火力でキングコボルトを押せばいいんだって、何度も言ってるじゃん!」
「いやでも、だって、レイクス…。」
「あー、もう!あにぃしっかりしてよ!いつまでも妹離れ出来ないとかダメだからね!?」
「うっ…はい…。」
 最後はレイクスに無理矢理丸め込まれ、ライクスの方が折れるとレイクスが困ったように眉毛を下げてレイニーの方を見て小さく謝った。"ごめんねぇ"と言うレイクスにレイニーは"大変ですね"と小さな声で返事をすると、レイクスはもう一度ため息を一つ溢したのであった。
 ――――――
 そして集合時間の9時になったところで、街の広場のお立ち台にジルビドが立った。
「これより魔界への転移魔法陣を発動する。各自名簿での参加確認をしたのちに飛んでもらう。魔界に着いたら一番最後に来る私の指示が出るまでその場で待機を命じる!それでは転移開始!」
 ジルビドの言葉と同時に冒険者たちが街の入り口に並べられた転移魔法陣に乗って次々と魔界へとテレポートしていった。レイニーもシルビーに見送られて魔界へと飛ぶと、直ぐにリトを見つけて2人で話していると、そこにノアリーが駆け寄ってきた。
「ノアリー!」
「レイニーも来たんじゃの。所でさっきからいい匂いがしておるが、これはもしかして…。」
「そうだよ!魔界との行き来を頑張っているノアリーのために作ったサンドイッチの詰め合わせだよ!いつでも食べて…って今食べるの!?」
「むぐむぐ…。」
 ノアリーがレイニーの持つカゴバックに興味を示していたのでレイニーがバックの中身を見せるとそこにはぎゅうぎゅうに詰められたレイニーとザルじい特製のサンドイッチの詰め合わせが入っていた。
 ノアリーはよだれを垂らしながらすぐにたまごサンドを手に取るともぐもぐと食べ始めた。レイニーはまさか魔界に着いてすぐに食べるとは思っていなかったが、ノアリーが美味しそうに食べてくれるのを見ると"まぁ、いっか"と許してしまうのであった。
 あっという間に空になったカゴバックは後方支援部隊に預けた頃、一番最後に魔界への転移魔法陣を潜ってきたジルビドとクルエラに気付くと、"2人と話をしなければいけないから、我はここまでだ。またな、レイニー、リト"と言ってスタコラサッサとその場を後にしたのだった。
 レイニーと別れたノアリーがクルエラと少し話をすると、クルエラがすぐに全冒険者の前に出て最後の状況確認をしてから、自身の武器である片手剣を鞘から抜き放ち、天に掲げた。
「皆武器を取れ!敵は近くに迫っている。今回も人界を守るため、皆の力を貸して欲しい!勝つぞ!」
「うおー!!!!」
 クルエラの宣言を聞くと、レイニーたちはキングコボルト軍とメデューサ軍に分かれて魔界の荒野を一斉に走り出した。
 事前の作戦会議でリトレイニーはキングコボルト軍を相手にしに行くことになっており、そこにライクスも加わって火力ゴリ押しチームとなっていた。
 ゴールドランクのリトとライクス、そしてキングコボルト軍殲滅部隊の隊長を務めるハルストが先導して大勢の冒険者が魔界の荒野を10分ほど駆け抜けると、数百メートル先にガシャガシャと鎧を鳴らしながら隊列を組んで歩いてくるキングコボルト率いるコボルド軍団が迫ってきていた。
 コボルト軍団を倒すための隊長を任されたハルストの指示で、レイニーたちはついにグランドクエストの火蓋が切って落とされたのだった。
 今回の敵のコボルトは前回のスケルトンたちみたいに魔法攻撃でなければ倒せないなどの制約がないため、レイニーはコボルト相手に槍の刺突攻撃を何回か繰り出すとコボルトは光の粒子となって四散して行った。
 シルバーランクとして知名度が上がってきているレイニーの活躍っぷりを見てライクスも"俺も頑張んなきゃな!"と言って特注で作ったであろう、アックスを豪快に振り回して次々とコボルトたちを倒していった。
 そして何十体か分からないほど倒し切ったところでレイニーは遠くの方でどっしりと構えている周りのコボルトよりも2回りほど大きいキングコボルトの姿を視認した。それはライクスも同じだったようで、直ぐに"キングのボルトを発見した!体力と魔力が残ってるやつは俺に付いてこい!"というのを見て、レイニーは戦う前に広場でレイクスからライクスの取り扱いについての説明を受けていたのであった。
 ――――――
「すみません、レイニーさん。今回は魔物との相性とかも考えての分け方になっちゃって…。あにぃの扱い方お教えしますね!まず直ぐに突っ走って力でゴリ押しするタイプなので時にはストッパーが必要になってきます。どうか、レイニーさんにあにぃのストッパー役になってくれませんか?」
 ――――――
 そう言われたことを思い出したレイニーはほぼ反射的にライクスに手を伸ばしてその首根っこを掴んで前に行こうとするのを引き止めた。ライクスが"ぐえっ"というのも無視してレイニーは直ぐにずるずるとライクスを引きずって指揮官のハルストの元まで戻らせた。
「おい!レイニー、何すんだよ!」
「私はレイクスさんからあなたが突っ走ってしまった時のストッパー役として任を仰せつかってます!ハルストさんの指示も仰がずに先に行くのは不用心です。ハルストさんと作戦を話し合う必要があります。」
「うっ…レイクスのやつ、レイニーをストッパー役にしたのかよ…。」
「何か問題でも?」
「イエナンデモ。」
 ハルストの元までライクスを引きずってくるとやっと歩みが止まったことでライクスが首元の服を立て直しながらレイニーに突っかかるとレイクスに頼まれたことを話した。ライクスは直ぐに悔しそうな表情になったが、レイニーの鋭い眼光に睨まれて何も言えなくなってしまったのだった。
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