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冒険者と喫茶店

Level.76 新メンバー

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Level.76 新メンバー
 孤児院の子供たちはホットプレート料理が気に入ったようで、次から次へとおかわりを要求する声が止まらなかった。レイニーは嬉しい悲鳴を上げながら、子供たちにお好み焼きや焼きそば、ペッパーランチをよそってあげた。ようやく子供が満腹になってきたことでレイニーたちはやっと自分たちもお昼ご飯としてホットプレート料理を食べることができた。
 レイニーが座っていた隣の女の子に今回の料理について感想を聞いてみた。
「あのね、このお好み焼きっていう?お料理がとっても美味しかった!お姉ちゃんありがとう!」
「お好み焼きを気に入ってくれてよかった!もっといっぱい食べてね!」
「うん!」
 そんな会話をしていると、次から次へと子供たちがレイニーやナシュナたちにお礼を言いに来てくれた。料理がどれも美味しくて、温かくて久しぶりにこんなに美味しい料理を食べたよ!という子供までいた。レイニーはそんな子供たちの正直な感想に心を打たれた。そんなレイニーたちの元にシドがやってきた。
「レイニー、今日は本当にありがとう。ガキたちが喜んでくれて、あんなに満面の笑みを浮かべているの、久しぶりに見たよ。それで…、考えたんだけど、俺をレイニーの店で働かせてくれないか?」
「え…?」
 シドのお願いにレイニーは一瞬固まってしまった。そんなレイニーの反応に隣にいたザルじいが代わりに訊ねてくれた。
「わしらの店までどうやって通うつもりじゃ?」
「あ…、それは…。」
「考えなしに俺らの店で働きたいと言って通える環境が整ってないんじゃ、話は受けられない。」
「リト、少し言い方がきついよ。」
「だって、本当のことじゃないか。それに俺はまだお前がレイニーを何も言わずに誘拐しかけたこと、許してないぞ。」
「あ、あれは…。」
「孤児院のためだからって人を何も言わずに連れ去ろうとするのは犯罪だぞ。レイニーがお咎めなく許してくれたのは、特例だからな。」
 シドのお願いから、リトがシドに対して、きつく物言いをするのがレイニーを連れ去ろうとした一件が関わっていると知るとレイニーは間に入ってリトを説得しようかと思った。だが、次第にリトの言い方がきつくなってきたことで、不穏な気配を察知したのか、子供たちが泣きそうになり始めた。
「リト、そこまでにして。」
「レイニー…。」
「周りの子供たちが怯えているじゃない。連れ去られかけたのも振り払えなかった私の落ち度だよ。私自身が許してあげたんだから、リトも分かって。」
「う…、分かった…。」
「うむ、よろしい。さて、シド。どうやって私たちのお店に通うかだけど…。」
 レイニーはそういうとシドに他腰のポーチからテレポート結晶を渡した。
「レイニー、それは貴重なテレポート結晶!」
「リト、静かに。」
「…はい。」
 レイニーがテレポート結晶を渡したことでリトが突っかかってきたが、レイニーはリトを制した。そしてシドがそれを受け取ると、こう言った。
「それは貴重なテレポート結晶。私が作り出した魔道具。使い方は簡単だから。私の分だけど、私はいくらでも作り直せるから、これはシドにあげる。」
「俺が貰っていいのか…?」
「うん。それがあれば、ここハインツィアからピーゲルの街まで一瞬で着くからね。それを使って、来週の土曜日、9時にピーゲルの街外れにある喫茶レインまで来てもらえるかな?ミルネットさんいいですか?」
「ええ。シドが決めたことですもの。孤児院で過ごす時間が歩少し減りますが、またここに帰ってくることができるのなら、私は止めませんよ。」
「シスター…。」
「シド、周りの人に迷惑をかけないように。いいですね?」
「は、はい…。」
 シドは早速リトの方をチラリと見たが、いまだにシドのことを受け入れてないのか、リトがガンを飛ばしているので、レイニーが"はぁ…"とため息を吐いて、"リト、それ以上やったらまかないで肉料理出さないよ"というとそれがリトには大ダメージなのか、しょんぼりと眉を下げて"すみません…"と謝った。
「よし!シドが仲間に入るから、みんな来週の土曜日からは忙しくなるよ!頑張ろうね!」
「はい!!」
 レイニーがしょげるリトを強引に引きずって来させると、円陣を組んで、皆で順番に手を重ねた。
「喫茶レイン、今年も頑張るぞー!」
「おー!!!!」
 無事に円陣で気合を入れて今年も喫茶レインを繁盛させていく決心をしたレイニーはナシュナと共に子供たちのお昼寝の時間のお手伝いをして、男性陣は食器洗いをしてくれた。子供たちが寝静まったところでレイニーたちはお暇させてもらうことにした。
 ――――――
 そして、シドが初出勤する日、シドは時間通りに出勤してきてくれた。問題なくテレポート結晶が発動してくれたことをレイニーが感心していると、シドを厨房の方へと案内した。シドには接客要員よりも厨房での皿洗い担当から始めようということが決まり、シドの初仕事はどんどん来る洗い物をすることだった。
 初めての仕事が皿洗いばかりなのも気が滅入るかと思い、レイニーはその日の賄い飯はシドと一緒に料理をしてみた。初めて作った料理はチキンライスだった。野菜を切ったのはレイニーだったが、炒める作業はシドがした。味付けもレイニーから教わりつつ、少しずつ感覚で覚えていこうねというレイニーにシドがぼそっと「才能マンこわ…」と呟いたので、レイニーは目を光らせて振り向くとシドは何もなかったかのようにそっぽを向いた。
 そして、1日の営業が終了するとシドはぐったりした様子で厨房の机にぐたーっと体を椅子に預けていた。そんなシドにレイニーが近づいてきた。
「シド、喫茶店の仕事どうだった?」
「思ったよりもハード。」
「うんうん。そうだよね。でも初めて働いたにしては手際が良かったよ。さすが年長さんのお兄さんとして孤児院で子供たちの食器を洗っていただけはあるわね。」
「それ、シスターから聞いたのか?」
「うん。シドの取り扱いには気をつけてくださいねって。」
「俺は機械か犬なのか。」
「まぁ、明日もあるし今日はもう上がっていいよ。仕込みは私とザルじいがやっておくから。」
 レイニーはシドに"明日も頑張ってね、新人くん"と言うと厨房でザルじいと一言二言喋ると直ぐに何かを作り始めた。
 その様子を見てシドは「すげえ」と声を漏らした。その声をホールで掃除していたナシュナとリトがやってきて、厨房で仕事をするレイニーとザルじいの連携を見ていた。
「あの2人ならできる連携もありますが、シドさんにもいつかレイニーと呼吸を合わせてできる連携が生まれると思いますよ。」
「俺とレイニーの連携…。できるかな…。」
「それは、まず信用を勝ち取らないといけないんじゃないのか?」
 手厳しいリトの言葉にシドは考え込んだ。そしてナシュナとリトはホールの掃除が終わったことをレイニーに伝えて帰っていってしまった。
 リトは明日も喫茶店の営業があるので、早めに帰宅して寝た方がいいと言ってシドを帰らせることにした。
「シド、今日はありがとうね。助かっちゃった、やっぱ洗い物溜めるのは衛生上あんまりよろしくないしね…。」
「そう、なのか…。」
 シドは何気なくレイニーが溢した言葉を自分用のメモ帳に書き記しておいた。そうしてレイニーが少しずつシドに調理のアドバイスを加えていると、シドはどんどんレイニーが知る料理を完成させ、お店の料理もシドが作ったものが提供されることも増えてきたのだった。
 
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