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第35話 死の大監獄・イグノラムス
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ベケットはボロボロになって地面へ倒れていた。虫の息だが、死んではいない。
「この人、どうするんですか、カイリさん」
「アルデバラン王国の衛兵に引き渡しても、また買収して出てくるだろう。なら、王国ではなく、別の国に任せる」
「別の国……ですか?」
「アークトゥルス帝国だよ」
「でも、どうやって?」
「簡単さ。爆炎の錬金術師アシャと交渉する」
「そんな無茶な!」
ヴァルハラは驚いて呆れるが、これしかない。
これ以上、ベケットを逃がさない為にも監視の厳しい『大監獄』へ収監してもらうしかない。
「俺、先生から聞いたことがあるんだ。帝国には『死の大監獄・イグノラムス』という監獄があるんだって」
「死の監獄ですか。なるほど、死を操るというネクロマンサーの錬金術師が作ったという地獄の監獄ですね」
「知っていたのか」
「死霊魔術師は、魔法使いなんですけどね。でも、錬金術師は人造生命・ホムンクルスの研究もしていますし、なにか通ずるものがあるのかもですね」
「とにかく、ベケットをそこへぶちこむ」
「アシャと交渉するとか正気ですか、カイリさん!」
かつて追いかけられていたヴァルハラは、ぷんぷんと怒る。下手すりゃ爪で引っ掛かれそうだな。
「許してくれ、ヴァルハラ」
「むぅ……。仕方ないですね」
「いいのか!」
「いいですよ。その代わり、特上マタタビ買ってください」
「それでいいなら大歓迎だよ」
「やった!」
なんだ、案外条件が緩いな。
ホッとして、俺は家へ向き直った。
……ずっと住んでいた家が全焼してしまった。子供の頃から住んでいたのにな。思い出もたくさんあったのに。
「って、そうだ!! 父さんと母さん!!」
叫ぶと、近隣の住人であるアンダーソンさんが駆けつけてくれた。
「カイリ、大変なことになったな!!」
「アンダーソンさん!」
「そういえば、さっきご両親を見かけたぞ」
「父さんと母さんを!?」
「ああ、誰かに連れ去られていた」
「なんだって!? 誰に?」
「さあ……そこまでは。けど、あれは錬金術師だったと思う。素顔までは見えなくてね。知り合いかと思ったが……違ったか」
「う~ん、どうだろう。最近、顔見知りは増えたけど、でも無事って分かって良かったよ。少なくともこのアルデバラン王国にいるってことだよね」
「恐らくな。私も探すから、見つけたら直ぐに連絡する」
「ありがとう、アンダーソンさん」
俺はひとまず、ズタボロのベケットを背負って騎士団を目指した。
* * *
騎士団に到着し、俺は衛兵を交渉した。
「な、なんだそのボロボロの物体は……怪しいぞ、お前」
「コイツはともかく、俺はアシャに話があるんです。会わせてください」
「お前のような不審者を入れるわけには――む?」
俺は分かっていた。ベケットが言っていたからな、こいつらは簡単に買収できると。不本意ながら俺は金貨をチラつかせた。
「これ、なんだと思う?」
「ハーシェル金貨!! そ、それをいただけるなら通してやらんことも……ないです」
「ありがとう、衛兵さん。はい、金貨。ナイショだよ?」
「あ、ああ……こちらこそ」
買収ってこんなに簡単なんだな。そりゃ、大金を積めば簡単に抜け出せるわけだ。
通路を進み、アシャの収容されている牢屋を探した。……どこだ、どこにいる。
一番隅まで辿り着くと、そこには優雅に紅茶を啜るアシャの姿があった。俺に気づくと赤い髪をかき上げ、笑う。
「あら、来たのね。まさかあなた自ら会いに来てくれるだなんて……光栄の極みですわ。それで、何の用かしら?」
「随分と余裕があるんだな。ティーセットは買収か」
「ええ、そんなところ。わたくしはあなたに敗れ……この鳥籠に囚われてしまった憐れな小鳥。でもきっとアークトゥルス帝国が助けてくれると信じていた――けれど」
赤い瞳を向けてくるアシャは、まるで俺のこれから話すことを悟っているようだった。……分かっていたのか。それとも。
「交渉がある」
「へえ? わたくしに交渉。なるほど、これは面白くなりそうです。それで?」
「この殺人鬼ベケットをアークトゥルス帝国の死の大監獄・イグノラムスへぶち込みたい。こいつを二度と表に出せないようにしたいんだ。手伝ってくれ」
「……そういうこと。報酬は?」
「乗ってくれるのか」
「ええ、いいですよ。でも、ヴァルハラはどう思うかしらね」
さっき、特上マタタビで交渉済みだが、俺は頭上にいるヴァルハラに改めて聞いた。
「ヴァルハラ」
「分かっています。アシャは……正直苦手ですし、仲間とかも勘弁して欲しいくらいです。ですが、そうも言っていられませんね。カイリさんの生活を脅かすベケットをなんとかしましょう」
「ありがとう」
「い、いいんです。わたしだって平和が欲しいですから」
「ああ、ヴァルハラのことは俺が守る」
「……は、はい。信じていますよ、カイリさん」
てっきりヴァルハラは怒るかと思ったんだが、なんとか納得してくれた。
「というわけだ、アシャ。ヴァルハラもオーケーだ。報酬は金貨三枚でどうだ」
「なかなかね。いいわ、ここの衛兵の買収で結構お金も使ってしまったし、少し稼がなきゃね。事が終わるまではヴァルハラは狙わないでおく」
格子の隙間から手を伸ばすアシャ。
まさか握手を求められるとは……でも、これは契約だから。
「よろしく頼む」
俺は握手を交わした。
これでアシャを取り入れることには成功した。あとはベケットを大監獄へ……!
「この人、どうするんですか、カイリさん」
「アルデバラン王国の衛兵に引き渡しても、また買収して出てくるだろう。なら、王国ではなく、別の国に任せる」
「別の国……ですか?」
「アークトゥルス帝国だよ」
「でも、どうやって?」
「簡単さ。爆炎の錬金術師アシャと交渉する」
「そんな無茶な!」
ヴァルハラは驚いて呆れるが、これしかない。
これ以上、ベケットを逃がさない為にも監視の厳しい『大監獄』へ収監してもらうしかない。
「俺、先生から聞いたことがあるんだ。帝国には『死の大監獄・イグノラムス』という監獄があるんだって」
「死の監獄ですか。なるほど、死を操るというネクロマンサーの錬金術師が作ったという地獄の監獄ですね」
「知っていたのか」
「死霊魔術師は、魔法使いなんですけどね。でも、錬金術師は人造生命・ホムンクルスの研究もしていますし、なにか通ずるものがあるのかもですね」
「とにかく、ベケットをそこへぶちこむ」
「アシャと交渉するとか正気ですか、カイリさん!」
かつて追いかけられていたヴァルハラは、ぷんぷんと怒る。下手すりゃ爪で引っ掛かれそうだな。
「許してくれ、ヴァルハラ」
「むぅ……。仕方ないですね」
「いいのか!」
「いいですよ。その代わり、特上マタタビ買ってください」
「それでいいなら大歓迎だよ」
「やった!」
なんだ、案外条件が緩いな。
ホッとして、俺は家へ向き直った。
……ずっと住んでいた家が全焼してしまった。子供の頃から住んでいたのにな。思い出もたくさんあったのに。
「って、そうだ!! 父さんと母さん!!」
叫ぶと、近隣の住人であるアンダーソンさんが駆けつけてくれた。
「カイリ、大変なことになったな!!」
「アンダーソンさん!」
「そういえば、さっきご両親を見かけたぞ」
「父さんと母さんを!?」
「ああ、誰かに連れ去られていた」
「なんだって!? 誰に?」
「さあ……そこまでは。けど、あれは錬金術師だったと思う。素顔までは見えなくてね。知り合いかと思ったが……違ったか」
「う~ん、どうだろう。最近、顔見知りは増えたけど、でも無事って分かって良かったよ。少なくともこのアルデバラン王国にいるってことだよね」
「恐らくな。私も探すから、見つけたら直ぐに連絡する」
「ありがとう、アンダーソンさん」
俺はひとまず、ズタボロのベケットを背負って騎士団を目指した。
* * *
騎士団に到着し、俺は衛兵を交渉した。
「な、なんだそのボロボロの物体は……怪しいぞ、お前」
「コイツはともかく、俺はアシャに話があるんです。会わせてください」
「お前のような不審者を入れるわけには――む?」
俺は分かっていた。ベケットが言っていたからな、こいつらは簡単に買収できると。不本意ながら俺は金貨をチラつかせた。
「これ、なんだと思う?」
「ハーシェル金貨!! そ、それをいただけるなら通してやらんことも……ないです」
「ありがとう、衛兵さん。はい、金貨。ナイショだよ?」
「あ、ああ……こちらこそ」
買収ってこんなに簡単なんだな。そりゃ、大金を積めば簡単に抜け出せるわけだ。
通路を進み、アシャの収容されている牢屋を探した。……どこだ、どこにいる。
一番隅まで辿り着くと、そこには優雅に紅茶を啜るアシャの姿があった。俺に気づくと赤い髪をかき上げ、笑う。
「あら、来たのね。まさかあなた自ら会いに来てくれるだなんて……光栄の極みですわ。それで、何の用かしら?」
「随分と余裕があるんだな。ティーセットは買収か」
「ええ、そんなところ。わたくしはあなたに敗れ……この鳥籠に囚われてしまった憐れな小鳥。でもきっとアークトゥルス帝国が助けてくれると信じていた――けれど」
赤い瞳を向けてくるアシャは、まるで俺のこれから話すことを悟っているようだった。……分かっていたのか。それとも。
「交渉がある」
「へえ? わたくしに交渉。なるほど、これは面白くなりそうです。それで?」
「この殺人鬼ベケットをアークトゥルス帝国の死の大監獄・イグノラムスへぶち込みたい。こいつを二度と表に出せないようにしたいんだ。手伝ってくれ」
「……そういうこと。報酬は?」
「乗ってくれるのか」
「ええ、いいですよ。でも、ヴァルハラはどう思うかしらね」
さっき、特上マタタビで交渉済みだが、俺は頭上にいるヴァルハラに改めて聞いた。
「ヴァルハラ」
「分かっています。アシャは……正直苦手ですし、仲間とかも勘弁して欲しいくらいです。ですが、そうも言っていられませんね。カイリさんの生活を脅かすベケットをなんとかしましょう」
「ありがとう」
「い、いいんです。わたしだって平和が欲しいですから」
「ああ、ヴァルハラのことは俺が守る」
「……は、はい。信じていますよ、カイリさん」
てっきりヴァルハラは怒るかと思ったんだが、なんとか納得してくれた。
「というわけだ、アシャ。ヴァルハラもオーケーだ。報酬は金貨三枚でどうだ」
「なかなかね。いいわ、ここの衛兵の買収で結構お金も使ってしまったし、少し稼がなきゃね。事が終わるまではヴァルハラは狙わないでおく」
格子の隙間から手を伸ばすアシャ。
まさか握手を求められるとは……でも、これは契約だから。
「よろしく頼む」
俺は握手を交わした。
これでアシャを取り入れることには成功した。あとはベケットを大監獄へ……!
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