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猛毒の紅茶

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「何者だとか、どうでもいいわ。そんなことより、今後のことを考えましょう。復讐だとか過去のしがらみだとか……そんなものは水に流してゼロからやり直すの」

 そう提案するとフェリックスは、地面に膝をつけて項垂れていた。

「オルタシア……君には敵わないな」
「考えを変えてくれた?」

「あぁ、分かった。君を殺せないのなら……諦める」

 良かった。フェリックスは話せば分かる人だと分かっていた。もう一度やり直せる。

 屋敷の中へ入って広間に腰掛けた。

 紅茶を淹れてくれるフェリックス。

 その表情は穏やかで、もう殺意はなかった。

「ねえ、教えてフェリックス。わたしを愛してる?」
「ああ……君を愛している。俺が間違っていたんだ……なにもかも」


 カップを手に取り、わたしは紅茶を飲んだ。

 その時だった。

 急に吐き気がして……寒気がした。


「……フェリックス、紅茶になにを……」
「な、なんのことだ? 俺はなにも淹れていないぞ。……! まさか、暗殺者共が余計なことを……」

「く、くるしい……」


 猛毒と聞いて即死かと思った。けれど、最後の切り札が勝手に発動して――わたしの毒は解毒された。

 ……ど、どうして?


「オルタシア! 大丈夫かい!?」
「ありがとう、フェリックス。貴方が入れたのではないのでしょう」
「入れていない。恐らく俺が雇った暗殺者集団が勝手に動いているのかもしれない。俺のせいだ……すまない。許してくれ」

 心からの謝罪だと感じた。
 フェリックスは、もう以前のフェリックスではない。復讐から解放され、今やわたしの味方をしてくれている。
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