先輩から恋人のふりをして欲しいと頼まれた件 ~明らかにふりではないけど毎日が最高に楽しい~

桜井正宗

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先輩と異世界弁当を食す

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あれから数人が来店するだけで、ほとんどヒマだった。
接客というか、カウンターでぼんやりしている時間の方が多かった。

現在は朝から居座っている三人組トリオと商人のコスプレをしたおじさん、それと優雅に紅茶を楽しむ貴族令嬢のコスプレをしたお姉さんがいた。

親父曰く、平日にしてはいる方らしい。

昼になって親父と交代。
俺と先輩は昼休憩に入った。

リビングに置かれている親父特製の『異世界弁当』を戴いた。

中身は、白飯にドラゴンの肉(唐揚げ)、ゴブリンの腕(ブロッコリー)、ドラゴンの卵(卵焼き)、スライムゼリー(ただの青いゼリー)という内容だった。

てか、ゴブリンの腕って……。

「これ、異世界弁当!」
「先輩、知っているんですね」
「もちろん、土日は通っているからね。でも、いつもお昼過ぎに来るから食べる機会がなかったんだよね」

「そういうことでしたか。では、一緒に初異世界弁当ですね」
「うん、美味しそうだし楽しみ」

いただきますをして、俺は割箸で唐揚げを摘まみ一口かじった。

「カリカリでうまっ……!」
「ジューシーだねぇ。ご飯が進んじゃう。――あ、そうだ、愁くんに食べさせてあげるね」
「……せ、先輩」
「ほら、遠慮しないで。あ~ん」

先輩からドラゴン肉をもらい、俺は涙が零れるほど幸福を感じた。やっぱり、先輩は優しいなぁ。


そうして甘い一時を過ごしながら、先輩とお昼ごはんを食べて――早くも午後。


結局、学校は休みにして仕事を続行することにした。たまには気分転換にいいだろう。先輩と一緒に過ごせる時間は貴重だし。

再びお店へ出ると、まだあの三人組トリオがいた。平和にTRPGをしているようだし、今のところ無害だけど。

けど、なんだろう……少し客が増えたか?


「愁、戻ってきたか」
「おう、親父。飯美味かったよ」
「味付けが濃いから心配だったが、口に合ったようで良かった。自分はこれから飯にする。しばらく任せたぞ」
「おう。ごゆっくり」


親父と入れ替わり、接客を続ける。

おっと来店だ。


「「いらっしゃいませ~」」


その後も次々にお客さんが来た。
……む? どうなっている。午前中はあんなかんどりが鳴いている状態だったのに、午後は客足が良いな。


「ねえ、愁くん。人増えてない?」
「そ、そうですね、先輩。テーブルが埋まってきていますよ」


俺もだが先輩も大忙し。
幸い、オーダーは最新のタブレットオーダー。注文を取る必要はないのだが……って、誰が調理とかするんだ?


「どうしよう、愁くん。注文いっぱい入ってるよ!」
「そ、そうですね。どうしましょう……」

困ったぞ。親父は休憩に入ってしまったから、料理を出せないぞ。てか、どんどん客も増えるし……本当にどうなっているんだ!?

このままではパンクする。
どうしたものかと焦り始めていると店の奥から声を掛けられた。

「お疲れ様~、新しいバイトさんかな?」
「え、どなたですか?」
「私は九十九つくも はる。この『冒険者ギルド』で働いている受付嬢第一号よ」

そんな人がいたんだ。しかも、とびっきりの美人じゃないか。まるでモデルだぞ。大人の魅力満載でキラキラしているなあ。

「俺はこのお店のオーナーの息子です。秋永 愁です」
「え、そうだったの! 店長の息子さん、初めてみた。可愛いね」

可愛いとか……お世辞でも大人のお姉さんにそう言われると照れるな。

「で、こっちの受付嬢が俺の先輩です」
「和泉 柚です。宜しくお願いします」

先輩は丁寧に頭を下げていた。

「へえ、いつの間に新人さん入っていたのー! しかも、めちゃくちゃ可愛いじゃん。お人形さんみたい」
「え、あの……わたしは一日限定で……」
「そうなの!? そんなのもったいないなぁ」

先輩は、九十九つくもさんに気に入られていた。というか、この九十九つくもさんって人、かなりフレンドリーで明るいな。

――って、そんな場合ではない!!

「そうでした、九十九つくもさん……オーダーが溜まりにたまっていて大変なことに!!」
「マジ! じゃあ、私が調理してくるね。二人は注文の品をお客様に届けて」


「「わ、分かりました……!」」


良かった。九十九つくもさんのおかげでオーダー問題は解決できそうだ。でも、しばらくは忙しいな。

客はまだまだ増えている。

いったい、どうしてこんなに増え続けているんだ……?

その原因は直ぐに判明した。


……こ、これは……あの三人組トリオの仕業だったのか!
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