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第73話 パラドックス帰還

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 魔神王はこの世から消え去った。
 消滅したわけではないので、全ての魔神が消えることはなかった。だから、多少なりとも残党は残ったが、もうそれほど脅威ではない。

 世界はそれなりに平和になった――はずだ。


【 パラドックス 】


 家へ帰れば、俺は急激な眠気に襲われた。日頃の疲労が溜まっていたんだろうな。ベッドへ向かえば、コロンと一瞬で寝てしまった。

 そうして、新たな朝を迎え――

「……ん。おかしいな、身体が妙に重いな」

 違和感があった。
 体重増えたかなぁ? いや、そうではなかった。

「ユメ~」

 フォースが抱きついていたのだ。納得。

「おはよ。まったく、朝っぱらから甘えん坊の魔法使いだなぁ」
「だって、最近あんまり構ってくれなかったんだもん。だから、その分」

 いやいや、めちゃくちゃ構っていたけどな!?

 あれでもスキンシップが足りなかったか……ふむ。

 まぁ、でも意外と上機嫌そうで何よりだ。
 俺は朝からフォースの笑顔が見れて嬉しいしな。なんてな。


 ◆


 フォースをおんぶしながら、ダイニングへ向かうと、ネーブルとゼファがくつろいでいた。紅茶らしきカップを片手に。

「ほー、良い匂いだな。俺の分もあるのか」
「もちろん、ユメ様の分もご用意できていますっ」

 しゃきっとティーセットを出してくるゼファは、準備が良かった。
 フォースを背から下ろし、みんなと一緒に朝食を優雅に過ごす。

 最高だな……。

「へぇ、俺の大好きなホットサンドじゃないか。さすがゼファ、分かってるねぇ~」
「いえ、それはネーブルの案なのです」

「あ、すまん。ネーブルだったか」
「ユメの大好物でしょ。半熟卵をふんだんに使っておいたから、ボリューム満天よ」

 確かに、切れ目からはトロトロの黄身が見えていた。
 詰めすぎなくらいギュウギュウに詰まっており、贅沢の限りを尽くしていた。ネーブルめ、分かってるじゃないか……!

 テーブルにつき、まずは紅茶を戴いた。

 アメイジング……!

 次にホッドサンド。口に運んだ瞬間には、半熟のトロトロが口内に広まり……俺を天国へと誘った。うまい……うますぎる……!!!
 このサクっと絶妙な焼き加減の生地も、何もかも完璧に調和していた。

「よかったです、ユメ様が嬉しそうで!」
「そうね、朝から作った甲斐かいがあったわあ」

 ゼファもネーブルも満足気。
 いやぁ、こんな素晴らしい朝は久しぶりだね。幸せだぁ。

 最高の朝を迎えたなぁと紅茶を味わっていると――

 ゼファが突然こう言った。


「あの、ユメ様。赤ちゃん何人欲しいですか……?」


「ブッ――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 あまりの超新星爆発スーパーノヴァ級の発言に、俺は紅茶を盛大に吹いた。

「いいいいいいきなり、なにを言うんだい、ゼファ!? ……あぁもう、鼻から紅茶が……」

 不意打ちにも程があるぞ。

「ご、ごめんなさい、ユメ様。でも、魔神のことも落ち着きましたし……そろそろと」

 赤面するゼファはソワソワしていた。
 いや、まてまて。

「ゼファの言っていることは正しいわ。そうよ、ユメ、わたしは女の子が欲しいわ!」
「ネ、ネーブル……お前もかっ!」

 まったくもう、勘弁してくれ。
 俺はまだそういう歳じゃないっつーの!

「ユメ、あたしも赤ちゃん欲しい」


「ブッフォフォフォゲッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 フォースまで!
 おかげで紅茶を全て吹き出してしまったではないか……。
 あー…床が水浸し。


「……いいか、みんな。魔王最終決戦時も言ったけど、そういうのはまだ早いの。ま……でも、みんなの気持ちは嬉しいよ、ありがとう」


 どうやら、みんな素直に納得してくれたようだ。
 たまに暴走するから困っちゃうけど。


 ◆


 外へ出ると、ちょうど母さんが歩いて来ていた。

「よ、母さん」
「おはよう、ユメ。こうして話すのも何だか久しぶりね」
「そうだな、母さんたちいつも飛んで行っちゃうし。それに、ここ最近は魔神王に捕らえられていたんだからな。で、姉ちゃんとメイは?」

「二人はまだ寝ているわ」
「そうか」

 母さんは復活した。さすがだよ、回復が早い。
 けど、姉ちゃんと妹のメイはまだ眠ったままだった。あの『白い花』はどうも強力なアイテムらしく、母さんが言うにはこの世界の・・・・・ものではない・・・・・・という。

 そんなものがどうして――。

「母さん、俺はこれからどうすればいいと思う?」
「迷う必要はないわ。ユメには強大なソウルフォースが開花し始めている。彼らあるいは彼女たちが導いてくれる。だから、そうね……今はパラドックスで平和に過ごすのがいいと思うわ」

「分かった。そうするよ。あ、そうだ。母さん」
「?」
「よかったら、この国にダンジョン作ってくれよ。まだ土地余ってるし、フォースに言って地下ダンジョンを作ってもらう。で、そこのラスボスになってくれないかな。ほら、そういう専用ダンジョンがある方がさ、冒険者をもっと誘致できるしさ。観光業もうるおうってもんだよ」

「そうね、他にする事もなくなってしまったし、いいでしょう。メアとメイが目を覚ましたら、そこを住処にさせてもらうわね」

「交渉成立だな! じゃ、俺はフォースに依頼を掛けてくる」
「うん。じゃ、母さんは戻るわね。メアとメイの看病をしなければいけないから」
「分かった。たまに様子を見に行くよ」
「そうしてちょうだい。じゃあね」

 母さんは去った。
 よかった、元気そうで。

 母さんと別れ、ひとまずは独りでキャロルのところへ向かうことにした。

「国の事とレアの様子が気になるしな。行ってみよう」
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