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SSS級の弓・インビジブルアーバレスト

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 順調に進んでいくと、地下十三階まで降りて来られた。
 アイスゴーレムの脅威度は依然いぜん高い。油断をすれば『ブリザード』を受けて氷漬け。状態異常の『凍結』になる。

 更に、十三階からモンスターの種類が増えた。

 エルダーメイジという“魔法使い”が現れた。人型のモンスターが出現するとは。しかも強力な魔法を浴びせてくるし。


【エルダーメイジ】
【Lv.79】
【念属性】
【詳細】
 HP:12333。
 ゴーレムを作り続ける魔法使い。
 ダークエルフの思念体。


「まったく、ゴーレムダンジョンに他の種族のモンスターがいるとはな」

「もともとダンジョンを作ったのはエルフらしいです。事故とかで亡くなったダークエルフの怨念があの“エルダーメイジ”だとか」


 エルフ族であるミランダの説得力ある説明に俺は納得。そうか、ダンジョンとはエルフが作った物だったんだな。

 だから、あんな風にモンスターとなって化けているわけか。氷の通路を歩いていくと、先行していたパーティが苦戦していた。


「あのエルダーメイジってヤツ、念属性のせいか攻撃が当たらないぞ!」「無属性じゃダメだ。属性付与するんだ!」「魔法でいきましょ!」「なら、俺が壁となろう」


 マジかよ。物理攻撃は効かないのか。


「念属性ってなんだ?」
「教えて欲しいですかぁ~、アビスさん!」


 ローザが聞いて欲しそうに笑顔になる。まあ、いつもの事だから良いけどさ。


「教えてくれ、ローザ」
「アビスさんって、案外素直なんですね。昔はツンツンだったのに」
「な、なぜそれを……ああ、そうか」

 俺とローザは子供の頃に会ったことがあるらしい。俺は覚えてないけどな。
 俺にはその記憶がない。
 曖昧どころか空っぽ。

 本当にあった過去なのかすら怪しいけど――俺の脳に問題あるのかもしれない。いつか、思い出す日が来るのかな。


「大丈夫。その日はいつかきっと訪れますから、ご心配なく」
「どういう意味だ?」
「さあ、それは運命が導いてくださいます。それより、念属性ですよね」

「あ、ああ……」

「まず、属性ですが、無、火、水、風、地、闇、聖、不死、念の九種類があるんです。それぞれに特性があり、弱点もあります。
 ――で、念属性の場合、無属性が効かないんです」

「つまり?」
「念とは“幽霊”みたいなものと考えて下さい」
「なるほど、分かりやすい」

 そりゃ攻撃が当たらないわけだ。
 けど、無属性以外なら攻撃が当たるようになるようだ。なら、俺は攻撃を当てられるな。

「アビスさんの場合、聖属性攻撃が可能ですし、倒せると思いますよ」

 その通り、俺は余裕でエルダーメイジを倒せた。ただ、敵は射程のある魔法を使ってくる為、接近攻撃はリスクが高い。だから俺は槍を投げて倒した。

 ひたすらエルダーメイジを排除していると、さっきのパーティが悲鳴をあげていた。……なんだかヤバそうだぞ。

 仕方ない、俺が助けに行ってやるか。

 地面を蹴り、苦戦しているパーティの元へ向かう。すでに三人が死亡。蘇生不可能なほどやられていた。リザレクションは無理だな。


「……た、助けて!」


 残ったのは男だけか。
 せめてあの人だけでも助けるか。

 コールブランドを放ち、エルダーメイジを撃破した。


『――ギャアアアア!!』


 雄叫びをあげ、消滅。
 俺は男の元へ向かい、ケガの状態を確認。


「大丈夫かい、君」
「……た、助けていただきありがとうございます。でも……仲間が……」
「ああ……魂も残らずか。蘇生は無理だな」

「そんな、そんな! あんた、S級冒険者だろ!? なんとかならないのか!」

「無茶言うな。そんな奇跡を起こせるのは神様くらいだ」
「そうだ、君のパーティのカーディナル様なら蘇生できるんじゃないか!」

 男は、ローザを頼る。
 近寄っていくが、俺が阻止そしした。

「辛いだろうが、ローザには近づくな」
「話だけでも!」

「諦めろ。蘇生は不可能なんだ。そうだろ、ローザ」


 俺は、一応ローザに訊ねた。
 すると反応は思っていた通り、首を縦に振った。つまり、蘇生不可能。そもそも、霊魂がないんだ。どうしようもない。


「そんなのウソだ! そこの銀髪の女の子は、何人も蘇生していただろ!」
「それは蘇生可能な霊魂がいたからだ。今の状態とはまるで違う。帝国へ送ってやるから、せめて仲間をとむらってやれ」

「ふざけるな!! 僕は諦めない!」


 男は、ローザの腕を引っ張り走っていく。……野郎、俺の仲間ローザを連れていく気か。


「アビス様、ローザ様が!!」
「ああ、あの男……。ミランダ、行くぞ」
「はいっ」


 * * *


 男を追っていくが、どんどん離れていく。なんてこった、あの男の移動速度早いな。ついに見失ってしまった。

「どこへ行った?」
「あっ、アビス様。地下十四階へ行ったみたいです。足跡が」

 地下階段の近くに複数の足跡。他の冒険者のも混じっているが『A級ガラハッド社製ブーツ』は、独特な足跡をしていた。実に分かりやすい。

 ミランダを守りつつ、地下十四階へ。

 どうやら、ここもアイスゴーレムとエルダーメイジがうようよしているようだ。まずいな、ローザの身が心配だ。


「あ! そうでした!」
「どうした、ミランダ」
「大変重要なことを失念しておりました。アビス様、パーティを組んでいる場合、仲間の位置が分かるのです!」

「え、マジ?」


 教えて貰うと――まず、左手でバッテン×を切る。そして、例のマップボタン【MAP】を押す。

 すると、青く点滅していた。

 そうか、これがローザの位置情報というわけか。


「ごめんなさい。わたくし、もっと早く気づければ……」
「いや、ミランダはよくやってくれた。急ごうか」

「あ、あの……」
「ん?」

「わたくしって歩くのが遅いですし、その……アビス様がよろしければなのですが、抱えてくださると……嬉しいかなと」


 顔を真っ赤にして、そう提案するミランダ。あまりに可愛くて、俺は……頭が真っ白になってしまった。
 そんなクネクネと照れられると、こっちまで照れるって。

 いやいや、動揺している場合ではない。一刻も早く、ローザを助けないと。


「わ、分かった。今はあれこれ言っている暇はないよな」


 ドキドキしてヤバいけど、俺はミランダをお姫様抱っこした。……体重、軽っ。まるで紙のようだな。


「こ、こうされるの憧れだったんです。それがアビス様だなんて、幸せすぎてどうかなりそうです」

「……っ!」


 俺の方こそこんな美しいエルフを抱えられて……だめだ。頭がどうかなりそうだ。前だけを向け、俺よ。


 ただひたすらに前進あるのみ。


 マップの点滅を追っていく。
 襲ってくるモンスターは基本的に無視し、倒せるものは倒した。ミランダを抱えていても、なんとかなるな。

 どんどん先へ進むと、ようやく男の後ろ姿を捉えた。


「あれは、ローザ様!」
「あれか。しかし追いつけんな。ヤツの足を止める方法はないのか。インビジブルランスではローザを巻き込むかもしれないし」

「そういえば、アビス様は弓も使えるのですか?」

「あ、ああ、インビジブルアーバレストだな。そういえば、まだ一回も使ってないや」
「では、矢はありますので、一緒に矢を放ちましょう」


 ミランダは、アイテムボックスから『エルフの矢』を取り出した。矢尻が“エクサニウム”で出来ているようだ。


「どうすればいい」
「弓を出していただけますか?」
「分かった」


 俺は、はじめて『インビジブルアーバレスト』へ変形させた。これが弓か。貴族時代、親父にやらないかと誘われて少しだけ触れたことがある程度だが。


「そ、それが弓……素晴らしい造形です」

 同じパーティのミランダには、俺の“弓”が見えている。


「かなりデカイし、ゴツいな。で、どう射ればいい?」
「では、わたくしがアビス様のお手に添えますので……その、よろしいですか」

「あ、ああ……頼む」


 かなり密着してくるミランダ。
 良い匂いがする。
 心なしか、背中に柔らかいものも当たっている気がする。だけど、そんな感触を味わっている暇もない。

 重ねてくれるミランダの手に身を任せ、俺は弓を引く。

 すると、エルフの矢が凄まじいスピードで飛んでいった。それはあの男の足へ見事に命中。転倒させた。


「うあああああああああ!!」


 その隙に俺は、ローザを救出した。


「ローザ! 無事だったか!」
「アビスさん!! 必ず見つけ出してくれると信じておりました」

 鼻水を垂らしてわんわん泣くローザを俺は受け止めた。

「すまないな、まさか連れ去られるとは思わなかったんだ」
「わたしも驚きました。でもですね、この男性……えっと、アーリーという方なんですが、なんと――」


 俺は、ローザから意外な真実を聞かされて驚いた。……そうか、それでローザを連れ去ったのか。
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