83 / 206
083 制裁準備
しおりを挟む
ニューロックの建国宣言から三日。
世界中にも放送されたニューロックの建国宣言の様子は、各地で波紋を呼んでいた。
表面上は否定的な見解や反発が多いように見えたが、それはいわゆる建前で、実際のところは現在の王政に表立って不満を言えなかった者達のほうが多く、ニューロックを賞賛したり、水面下で支援を行う動きも出てきていた。
しかし当然ながら王都では、ニューロック建国に対して『厳正な措置』を取る動きを見せていた。
すなわち、国家転覆の愚行を働いたニューロックに制裁を加えるべく、軍事行動を取ることが決定していた。
かくして、王と関係領地はニューロック制圧に向けて動き出していた。
王城にいるバルゴ王の元に現れたのは一人の男だった。
「ご無沙汰しております、バルゴ王」
「フェイム。久しいな。グレース領の様子はどうだ?」
「かつて、バルゴ王が統治していた頃と変わりません。ひとえに王のご威光のおかげかと」
フェイムは現在のグレース領を治めている太守だ。
グレース領は、王都管理区の西にある大陸の北側を領しており、土地は広く、人口も多い。
王都管理区とも近い場所にあった。
一年中気温が低めのグレース領だが、寒さを利用した産業や作物の収穫が盛んであることと、北側の海に出没する大型魔獣の退治をするために海軍が充実していた。
『王都の剣』の異名を持ち、王都に危機が訪れた際にはすぐに駆けつけられる高速の軍船を多く有していた。
そして、グレース領は元々バルゴが太守を務めていた領地でもあった。
バルゴが王に即位した後、腹心の一人であったフェイムをグレース領の太守に任命して統治させていた。
そのため、グレース領は『王の意向をよく汲んだ統治』が行き届いているという特徴があった。
「王都は相変わらず暑いですね。グレース領とは大違いです」
「そうだな。俺はグレース領の気候はあまり得意ではなかった。だがいずれグレース領も暑くなるかも知れぬぞ」
「はあ。それは一体どういう・・・?」
フェイムの疑問には答えず、バルゴは本題を切り出した。
フェイムを呼んだ理由、それはニューロックへの武力制圧のためだった。
「ニューロックへの制裁はお前に任せる。潰してこい」
「お任せください。連絡をいただいた時は嬉しさで震えましたよ。すぐにニューロックを制圧し、王に歯向かう不届きな首謀者共を王の御前に連れて参りましょう。生きている保証はありませんがね」
「お前は昔から血の気が多いからな。だが構わん。存分にやってこい。フラウス、あれを」
バルゴが王都管理区の騎士隊長であるフラウスに声をかけると、フラウスは部下の騎士に指示して、台車を使ってやや大きめの魔道具を持ってこさせた。
「フェイム、この魔道具を持っていけ。起動すればどこでも俺と通信ができる機能に加えて、お前の船を守る機能がある。奴らには水の精霊が味方についている可能性が高い。これがあれば、水の精霊の攻撃からお前を守るだろう」
「それはそれは・・・なんと素晴らしい。ありがたく頂戴します。もはや勝利しか見えませんな」
「戦況は逐一報告しろ。ニューロックを制圧した暁には、グレース領の飛び地としてお前にニューロックもくれてやる」
「はっ!必ずやご期待に応えてみせましょう」
フェイムは王の御前から下がると、部下に魔道具を運搬させ、王城の軍港に向かった。
◇
フェイムは自分の旗艦に乗り込むと、バルゴ王から賜った魔道具を艦橋に設置させた。
魔道具を見たフェイムの部下からは怪訝そうな目と共に疑問の声が上がった。
「フェイム様、これは一体なんですか?」
「バルゴ王からの賜り物だ。今回のニューロック制圧作戦で役に立つとの仰せだ」
「なるほど、さすがバルゴ王ですね。それで、こちらの状況ですが、先ほど食糧と武器、弾薬の補給を王城の補給庫から賜りました。海上で待つ他の船の分も軍港に入れた船に分散して積んでありますので、海上で分配する手筈となっています」
グレース領から出撃した軍船、八十隻。
この星の領地で第二位の艦隊数を誇るグレース領から、領地防衛のために残っている軍船と、首都から遠方にある地域を守る軍船を除く、残りの軍船の全てが出撃しての軍事行動だった。
遠距離から攻撃できる大砲を有する軍船、陸地を制圧するための強襲揚陸船、水中からの攻撃も可能な駆逐船、その他、補給船等を含む多様な船で大艦隊を構成していた。
「フェイム様、出撃の準備はできております」
「よし、海上で補給物資の分配を終えた後、ニューロックに急行して叛徒共を討つ。ニューロックまでの所要日数は?」
「十日ほどかと」
「よし。では出撃だ。新年にはグレース領に別荘地ができるぞ」
グレース艦隊はニューロックに向けて進軍を開始した。
◇
王城では、バルゴがフラウスと護衛を連れて、王城の魔道士団の儀式の間を訪れていた。
儀式の間は、大掛かりな魔術を行う場合に使う広間で、由里を召喚した場所でもある。
現在、儀式の間では、召喚の魔道具の他に別の魔道具も置かれており、それぞれに魔道士が数名ついて作業をしていた。
「それで、召喚の魔道具は起動できないままか?」
バルゴが魔道士団の長に召喚の魔道具についての状況を聞いていた。
「はっ。魔力をいくら注ぎ込んでも、起動の兆候すら現れなくなりました。前回の召喚で壊れてしまったか、あるいはバルゴ王が仰っていた通り、外部からの妨害かもしれません」
(・・・どうだ、火の精霊よ)
(ああ。恐らく起動を妨げられている。今は動かせそうもないだろう)
(そうか。わかった)
「バルゴ王、いかがされましたか?」
目を瞑り、口元を押さえて動かないバルゴに、魔道士団の団長が心配そうに声をかけた。
「いや、なんでもない。召喚の魔道具については引き続き調査をせよ。例の魔道具の方はどうだ?」
バルゴは召喚の魔道具ではないほうの、別の魔道具に目を向けて質問した。
「はっ。そちらの魔道具ですが・・・現在、魔力の充填量は約半分程度です。既に魔道士数名が倒れるほどですが、満充填には至っておりません」
「何人倒れても構わん。続けろ」
「はっ!」
あまりにも大量の魔力が必要な魔道具の充填に、城の魔道士でも充填には苦労しているようだった。
バルゴは、火の精霊に命令して魔力の充填を行えば早く済むだろうと考えたが、その考えは早々に破棄した。
バルゴは火の精霊の力を完全に掌握している訳では無かった。
「・・・できない事はないが、最後の手段だな」
「バルゴ王?何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない。気にするな。戻るぞ、フラウス」
バルゴは儀式の間を出て、玉座の間に向かって歩き始めた。
フラウスと護衛騎士もバルゴの後を追って、儀式の間を後にした。
◇
その頃、ニューロックのカークの館の談話室では・・・
「ねえ、ディーネちゃん。バルゴって火の精霊を使役してるじゃない?」
「うむ。そうじゃが、それがどうかしたかの?」
わたしは談話室で、午後の会議を終えて休憩をとっていた。
今日はニューロック防衛における、精霊の力を使った防衛方法の組み込みについてカーク達と話をしていた。
そのため、風の精霊の協力を得ているアキムも同じ会議に出席した後、わたしと一緒に休憩して、お茶を飲んでいた。
「わたしの世界では、『火は水に弱い』みたいな感じで、属性の強さの位置付けがあるのだけど、この世界ではどうなの?」
由里の問いにディーネは即答した。
「確かに火は水で消すことができるが、強すぎる火に対しては水の方が消されてしまう。相性の良し悪しは多少あっても、結局は魔力の強さがものをいうのじゃ」
「なるほどねー。じゃあやっぱりわたしがもっと強くならないといけないんだね」
「そうじゃな。とりあえず風の精霊、もとい、サラちゃんの風の刃の攻撃を防ぐ程度は出来るようにならぬとな」
ディーネがアキムに目を向けた。
実際はアキムではなく、その近くにいるサラを見ているのだろう。
わたし達の話を近くで聞いていたアキムがディーネの視線を拾うと、わたしにアドバイスをくれた。
「魔力を使う時、魔力の核を意識しているか?」
「はい、アキム様。ディーネちゃんにいつもそう言われていますので意識はしています」
「よろしい。では、魔力の核から魔力を取り出したら、全身を巡らせて、その魔力をふたたび魔力の核に戻す感じで、魔力を循環させてみなさい」
「魔力を循環、ですか」
試しに魔力を手のひらに集めてから、核に戻そうとしてみた。
・・・難しいなこれ。
「ユリよ。魔力が手から流れ出てしまっておるよ」
「うん。そうなのよ。ディーネちゃんはできる?」
「妾達は存在自体が魔力みたいなものじゃ」
「あ、さいですか」
参考にならなかった。
「アキム様、何かコツはありますか?」
「最初は魔力の核に近いところで魔力を循環させてみるがいい。慣れてきたら距離を増やしていけ。そして、普段から意識せずとも魔力を全身に巡回されられるようになるのが理想だ」
「呼吸法みたいなもんですかね」
とりあえずちまちまと体内で魔力の巡回をさせてみることにした。
あ、肝心なことを聞いてない。
「アキム様、この練習でどんな効果があるのですか?」
「魔力の循環速度が早くなれば、一度に放出できる魔力の量が多くなるし、放出速度も上がる。魔力の核が成長するようなものだと思って良い。個人差はあるがな」
なるほど、魔力の核を常に動かす事で核を成長させて、おまけに潤滑を良くして魔力をドバッと使えるようにということか。
すごくいいアドバイスをいただいた。
さすがアキム様、頼りになる。
アキム様の魔力もすごいし、サラちゃんもいるし、なんかニューロックが攻め込まれたとしても負ける気がしないね。
「よし。たくさん練習して、今度こそサラちゃんに勝ちますね」
「うむ、精進せよ。そういえば、先の相性の話で言うと、サラは火と相性がやや悪い。中途半端な風は火の勢いを強めるからな。そんな理由もあって、儂とサラではバルゴと対峙しにくいのだよ」
その時、しゅるっと風が舞った。
そしてサラがうっすらと姿を現した。
「べっ別に火なんて怖くないし!負けないし!だいたい火の精霊はいつも『お前なんか興味がない』みたいな態度で気に入らないのよ。何よちょっとカッコいいからってお高く止まっちゃって、少しは私を・・・」
「サラちゃん?」
「サラ?」
「!!」
余計な事まで口走ってしまったサラは、部屋の中で突風を巻き起こして再び消えていった。
・・・サラちゃん、実は火の精霊に気があるとか?
精霊に恋愛事情とかあるのか知らないけど。
まあ、それならばなおさら早いとこバルゴから解放してあげないとね。
しかし・・・
「どうします?これ」
「儂が謝罪しておく。気にするな」
サラが起こした突風のせいで、談話室の調度品が派手に飛ばされたり壊されたりしてしまった・・・
何してくれてんだよ・・・
世界中にも放送されたニューロックの建国宣言の様子は、各地で波紋を呼んでいた。
表面上は否定的な見解や反発が多いように見えたが、それはいわゆる建前で、実際のところは現在の王政に表立って不満を言えなかった者達のほうが多く、ニューロックを賞賛したり、水面下で支援を行う動きも出てきていた。
しかし当然ながら王都では、ニューロック建国に対して『厳正な措置』を取る動きを見せていた。
すなわち、国家転覆の愚行を働いたニューロックに制裁を加えるべく、軍事行動を取ることが決定していた。
かくして、王と関係領地はニューロック制圧に向けて動き出していた。
王城にいるバルゴ王の元に現れたのは一人の男だった。
「ご無沙汰しております、バルゴ王」
「フェイム。久しいな。グレース領の様子はどうだ?」
「かつて、バルゴ王が統治していた頃と変わりません。ひとえに王のご威光のおかげかと」
フェイムは現在のグレース領を治めている太守だ。
グレース領は、王都管理区の西にある大陸の北側を領しており、土地は広く、人口も多い。
王都管理区とも近い場所にあった。
一年中気温が低めのグレース領だが、寒さを利用した産業や作物の収穫が盛んであることと、北側の海に出没する大型魔獣の退治をするために海軍が充実していた。
『王都の剣』の異名を持ち、王都に危機が訪れた際にはすぐに駆けつけられる高速の軍船を多く有していた。
そして、グレース領は元々バルゴが太守を務めていた領地でもあった。
バルゴが王に即位した後、腹心の一人であったフェイムをグレース領の太守に任命して統治させていた。
そのため、グレース領は『王の意向をよく汲んだ統治』が行き届いているという特徴があった。
「王都は相変わらず暑いですね。グレース領とは大違いです」
「そうだな。俺はグレース領の気候はあまり得意ではなかった。だがいずれグレース領も暑くなるかも知れぬぞ」
「はあ。それは一体どういう・・・?」
フェイムの疑問には答えず、バルゴは本題を切り出した。
フェイムを呼んだ理由、それはニューロックへの武力制圧のためだった。
「ニューロックへの制裁はお前に任せる。潰してこい」
「お任せください。連絡をいただいた時は嬉しさで震えましたよ。すぐにニューロックを制圧し、王に歯向かう不届きな首謀者共を王の御前に連れて参りましょう。生きている保証はありませんがね」
「お前は昔から血の気が多いからな。だが構わん。存分にやってこい。フラウス、あれを」
バルゴが王都管理区の騎士隊長であるフラウスに声をかけると、フラウスは部下の騎士に指示して、台車を使ってやや大きめの魔道具を持ってこさせた。
「フェイム、この魔道具を持っていけ。起動すればどこでも俺と通信ができる機能に加えて、お前の船を守る機能がある。奴らには水の精霊が味方についている可能性が高い。これがあれば、水の精霊の攻撃からお前を守るだろう」
「それはそれは・・・なんと素晴らしい。ありがたく頂戴します。もはや勝利しか見えませんな」
「戦況は逐一報告しろ。ニューロックを制圧した暁には、グレース領の飛び地としてお前にニューロックもくれてやる」
「はっ!必ずやご期待に応えてみせましょう」
フェイムは王の御前から下がると、部下に魔道具を運搬させ、王城の軍港に向かった。
◇
フェイムは自分の旗艦に乗り込むと、バルゴ王から賜った魔道具を艦橋に設置させた。
魔道具を見たフェイムの部下からは怪訝そうな目と共に疑問の声が上がった。
「フェイム様、これは一体なんですか?」
「バルゴ王からの賜り物だ。今回のニューロック制圧作戦で役に立つとの仰せだ」
「なるほど、さすがバルゴ王ですね。それで、こちらの状況ですが、先ほど食糧と武器、弾薬の補給を王城の補給庫から賜りました。海上で待つ他の船の分も軍港に入れた船に分散して積んでありますので、海上で分配する手筈となっています」
グレース領から出撃した軍船、八十隻。
この星の領地で第二位の艦隊数を誇るグレース領から、領地防衛のために残っている軍船と、首都から遠方にある地域を守る軍船を除く、残りの軍船の全てが出撃しての軍事行動だった。
遠距離から攻撃できる大砲を有する軍船、陸地を制圧するための強襲揚陸船、水中からの攻撃も可能な駆逐船、その他、補給船等を含む多様な船で大艦隊を構成していた。
「フェイム様、出撃の準備はできております」
「よし、海上で補給物資の分配を終えた後、ニューロックに急行して叛徒共を討つ。ニューロックまでの所要日数は?」
「十日ほどかと」
「よし。では出撃だ。新年にはグレース領に別荘地ができるぞ」
グレース艦隊はニューロックに向けて進軍を開始した。
◇
王城では、バルゴがフラウスと護衛を連れて、王城の魔道士団の儀式の間を訪れていた。
儀式の間は、大掛かりな魔術を行う場合に使う広間で、由里を召喚した場所でもある。
現在、儀式の間では、召喚の魔道具の他に別の魔道具も置かれており、それぞれに魔道士が数名ついて作業をしていた。
「それで、召喚の魔道具は起動できないままか?」
バルゴが魔道士団の長に召喚の魔道具についての状況を聞いていた。
「はっ。魔力をいくら注ぎ込んでも、起動の兆候すら現れなくなりました。前回の召喚で壊れてしまったか、あるいはバルゴ王が仰っていた通り、外部からの妨害かもしれません」
(・・・どうだ、火の精霊よ)
(ああ。恐らく起動を妨げられている。今は動かせそうもないだろう)
(そうか。わかった)
「バルゴ王、いかがされましたか?」
目を瞑り、口元を押さえて動かないバルゴに、魔道士団の団長が心配そうに声をかけた。
「いや、なんでもない。召喚の魔道具については引き続き調査をせよ。例の魔道具の方はどうだ?」
バルゴは召喚の魔道具ではないほうの、別の魔道具に目を向けて質問した。
「はっ。そちらの魔道具ですが・・・現在、魔力の充填量は約半分程度です。既に魔道士数名が倒れるほどですが、満充填には至っておりません」
「何人倒れても構わん。続けろ」
「はっ!」
あまりにも大量の魔力が必要な魔道具の充填に、城の魔道士でも充填には苦労しているようだった。
バルゴは、火の精霊に命令して魔力の充填を行えば早く済むだろうと考えたが、その考えは早々に破棄した。
バルゴは火の精霊の力を完全に掌握している訳では無かった。
「・・・できない事はないが、最後の手段だな」
「バルゴ王?何かおっしゃいましたか?」
「いや、なんでもない。気にするな。戻るぞ、フラウス」
バルゴは儀式の間を出て、玉座の間に向かって歩き始めた。
フラウスと護衛騎士もバルゴの後を追って、儀式の間を後にした。
◇
その頃、ニューロックのカークの館の談話室では・・・
「ねえ、ディーネちゃん。バルゴって火の精霊を使役してるじゃない?」
「うむ。そうじゃが、それがどうかしたかの?」
わたしは談話室で、午後の会議を終えて休憩をとっていた。
今日はニューロック防衛における、精霊の力を使った防衛方法の組み込みについてカーク達と話をしていた。
そのため、風の精霊の協力を得ているアキムも同じ会議に出席した後、わたしと一緒に休憩して、お茶を飲んでいた。
「わたしの世界では、『火は水に弱い』みたいな感じで、属性の強さの位置付けがあるのだけど、この世界ではどうなの?」
由里の問いにディーネは即答した。
「確かに火は水で消すことができるが、強すぎる火に対しては水の方が消されてしまう。相性の良し悪しは多少あっても、結局は魔力の強さがものをいうのじゃ」
「なるほどねー。じゃあやっぱりわたしがもっと強くならないといけないんだね」
「そうじゃな。とりあえず風の精霊、もとい、サラちゃんの風の刃の攻撃を防ぐ程度は出来るようにならぬとな」
ディーネがアキムに目を向けた。
実際はアキムではなく、その近くにいるサラを見ているのだろう。
わたし達の話を近くで聞いていたアキムがディーネの視線を拾うと、わたしにアドバイスをくれた。
「魔力を使う時、魔力の核を意識しているか?」
「はい、アキム様。ディーネちゃんにいつもそう言われていますので意識はしています」
「よろしい。では、魔力の核から魔力を取り出したら、全身を巡らせて、その魔力をふたたび魔力の核に戻す感じで、魔力を循環させてみなさい」
「魔力を循環、ですか」
試しに魔力を手のひらに集めてから、核に戻そうとしてみた。
・・・難しいなこれ。
「ユリよ。魔力が手から流れ出てしまっておるよ」
「うん。そうなのよ。ディーネちゃんはできる?」
「妾達は存在自体が魔力みたいなものじゃ」
「あ、さいですか」
参考にならなかった。
「アキム様、何かコツはありますか?」
「最初は魔力の核に近いところで魔力を循環させてみるがいい。慣れてきたら距離を増やしていけ。そして、普段から意識せずとも魔力を全身に巡回されられるようになるのが理想だ」
「呼吸法みたいなもんですかね」
とりあえずちまちまと体内で魔力の巡回をさせてみることにした。
あ、肝心なことを聞いてない。
「アキム様、この練習でどんな効果があるのですか?」
「魔力の循環速度が早くなれば、一度に放出できる魔力の量が多くなるし、放出速度も上がる。魔力の核が成長するようなものだと思って良い。個人差はあるがな」
なるほど、魔力の核を常に動かす事で核を成長させて、おまけに潤滑を良くして魔力をドバッと使えるようにということか。
すごくいいアドバイスをいただいた。
さすがアキム様、頼りになる。
アキム様の魔力もすごいし、サラちゃんもいるし、なんかニューロックが攻め込まれたとしても負ける気がしないね。
「よし。たくさん練習して、今度こそサラちゃんに勝ちますね」
「うむ、精進せよ。そういえば、先の相性の話で言うと、サラは火と相性がやや悪い。中途半端な風は火の勢いを強めるからな。そんな理由もあって、儂とサラではバルゴと対峙しにくいのだよ」
その時、しゅるっと風が舞った。
そしてサラがうっすらと姿を現した。
「べっ別に火なんて怖くないし!負けないし!だいたい火の精霊はいつも『お前なんか興味がない』みたいな態度で気に入らないのよ。何よちょっとカッコいいからってお高く止まっちゃって、少しは私を・・・」
「サラちゃん?」
「サラ?」
「!!」
余計な事まで口走ってしまったサラは、部屋の中で突風を巻き起こして再び消えていった。
・・・サラちゃん、実は火の精霊に気があるとか?
精霊に恋愛事情とかあるのか知らないけど。
まあ、それならばなおさら早いとこバルゴから解放してあげないとね。
しかし・・・
「どうします?これ」
「儂が謝罪しておく。気にするな」
サラが起こした突風のせいで、談話室の調度品が派手に飛ばされたり壊されたりしてしまった・・・
何してくれてんだよ・・・
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで
ChaCha
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したことに気づいたアイナ・ネルケ。
だが彼女はヒロインではない――ただの“モブ令嬢”。
「私は観る側。恋はヒロインのもの」
そう決めて、治癒魔術科で必死に学び、気合いと根性で仲間を癒し続けていた。
筋肉とビンタと回復の日々。
それなのに――
「大丈夫だ。俺が必ず君を守る」
野外訓練で命を救った騎士、エルンスト・トゥルぺ。
彼の瞳と声が、治癒と共に魂に触れた瞬間から、世界が静かに変わり始める。
幼馴染ヴィルの揺れる視線。
家族の温かな歓迎。
辺境伯領と学園という“日常の戦場”。
「……好き」
「これは恋だ。もう、モブではいたくない」
守られるだけの存在ではなく、選ばれる覚悟を決めたモブ令嬢と、
現実しか知らない騎士の、静かで激しい溺愛の始まり。
これは――
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまでの物語。
※溺愛表現は後半からです。のんびり更新します。
※作者の好みにより筋肉と気合い…ヤンデレ落ち掛けが踊りながらやって来ます。
※これは恋愛ファンタジーです。ヒロインと違ってモブは本当に大変なんです。みんなアイナを応援してあげて下さい!!
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
捨てた騎士と拾った魔術師
吉野屋
恋愛
貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる