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114 太守に会うために
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ライオット領の太守に会いに来たものの、太守は病気のために臥せっており、面会できないと言われた。
代わりに太守次官が対応してくれているものの、勇者が来ていないなら帰れの一点張りで取り付く島がない。
勇者、つまりわたしが今ここに来ていることを明かせば会談の場を設けてくれるとは思うが、太守不在で会談をしても、後で言った言わない問題になりそうだし、太守の正確な意図が太守次官や他の側近に伝わっているとは限らない。
さてどうしよう・・・
「あの、太守次官殿。本当に短時間で構いませんので、太守にお目通りさせてくれないでしょうか。やはり直接太守殿とお話をさせていただきたいと思うのです」
「ならぬ。太守は流行り病なのだ。客人に病をうつしたとあっては大問題になりかねん」
そう来たか・・・
そう言われると無理は言いにくい・・・
「勇者殿が同行しているのであれば面会を考えなくもなかったがな・・・」
なんでよ!
勇者に病気をうつすほうが大問題でしょうよ!
「エリザ・・・」
「・・・」
アドルがエリザに返答を促すが、エリザは何も言わない。
迂闊なことは言えない雰囲気を感じているのだろうか。
わたしもこの太守次官はちょっと胡散臭いと感じ始めている。
『そうです、わたしが勇者です』と言ってしまっていいのか、正直悩ましい。
そんな時、太守次官の所に一人の文官がやってきて、なにやら耳打ちをした。
太守次官はこちらをチラチラと見ながら話を聞いている。
話が終わり、文官は下がっていった。
「ニューロックの使者よ。そこに連れている動物だが、そこの鳥・・・鳥でよいのだよな?その鳥は勇者の連れている鳥ではないのか?」
「えーと、それは・・・」
「先の文官はニューロック建国の事やその後の状況、そして勇者について色々調べていてな。多少事情に通じておる。それでその鳥がここにいるということは、ライオットに勇者も来ているという事ではないのか?」
建国宣言の放送を見ていれば、わたしとディーネが一緒にいる事を見ていてもおかしくない。
シルエットだけど国章にもなっている鳥だしね。
一応、わたしの変装には気がついていないようなので『勇者はこの場には来ていないが、この領地には来ているのでは』と探られているのだと推測した。
いっそ、これに乗ってみるか・・・
わたしはエリザとアドルに向かって、予め決めておいた『話の主導権をわたしに任せてもらう合図』を送った。
ふたりとも頷き、わたしにこの後の話の展開を託してくれた。
わたしは一歩前に進み、一礼した。
「恐れ入ります、次官殿。わたしは勇者様の従者です。こちらのディ・・・鳥は仰るとおり、勇者様の使いです。大変失礼ながら、まずは勇者様の安全を第一にと考え、わたし達が先遣させていただきました。もしもよろしければ、明日改めて勇者様をこちらにお連れしますので、その際には太守殿にお目通りさせていただけますでしょうか」
わたしの言葉に、次官は目を大きく見開いた。
「ニューロックの勇者は・・・勇者殿はライオットに間違いなく来ておるのだな?」
「はい、今は町に滞在していまして・・・」
「分かった。では明日だ。明日改めて勇者殿を連れて来てもらおう」
「では明日お連れした時には・・・」
その時、バンッと音を立てて奥の扉が開いた。
そして一人の少女が現れた。
美少女と言っていい風貌で、黒髪で・・・ポニーテールだ。
容姿に髪型が似合っていてとても可愛い。
少女は早歩きでこちらに近づいてきたが、途中で武官に阻まれ、足を止めた。
少女は怯えているようにも、思い詰めているようにも見える表情をしている。
「ロティナ様・・・こちらには来ないようにと言ったはずです」
次官が溜息まじりに少女に注意をした。
「で、でも・・・わたしも、やっぱりニューロックの勇者様にご挨拶を・・・」
「勇者殿は来ておりません。さ、お下がりください」
「ですが・・・」
「ロティナ様、これ以上は・・・」
ロティナと呼ばれた少女は必死な顔でこちらを見ている。
向こうの事情なのだろうけれども、太守次官が困っているのがちょっと小気味良いので、わたしは少女に助け舟を出してみることにした。
「あの、太守次官殿、そちらの少女はどなたでしょうか?差し支えなければご挨拶させてください」
「あの、わたしはっ・・・」
「ロティナ様、私がご紹介しますので・・・こちらはロティナ様、太守の姪にあたるお方です。ロティナ様はご両親を事故で亡くされておりまして、太守がその後見を引き受けております」
太守次官は、もう紹介は終わったとばかりにロティナをとっとと下がらせようとしている。
わたしも負けじと引き止める。
「ロティナ様、はじめまして。わたし達はニューロックから参りました。お会いできて光栄です。よろしければご挨拶させてください」
胸に手を当て、一礼して待つ。
次官の溜息が聞こえる。
折れたかな?
「・・・では、ロティナ様。ご挨拶だけですよ、くれぐれも・・・いや、客人は帰るところでしたので、手短に」
「はい・・・」
ロティナをブロックしていた武官が下がると、ロティナがこちらに近づいてきた。
ロティナは次官とわたし達を交互に見ながら歩いている。
そして適当な距離をおいて足を止めると、意思を感じる目でキッとこちらを見てからスーッと深呼吸をすると、わたし達に一礼した。
緊張はしているようだが、よく通る大きな声で、ロティナの挨拶が始まった。
「たい・・・大変遠いところからようこそおいでくださいました!」
「いえいえ、こちらこそお招きいただき、ありがとうございます」
「酒宴を・・・酒宴を用意しているとのことですのでぜひ楽しんでいってください」
「酒宴、ですか?」
聞いていませんが、と言いかけたところで『勇者殿が来ている場合は準備するつもりだった』と太守次官に補足された。
「お・・・お互い、よい関係が作れればと思います」
「はい、是非に」
「助け合いが!助け合いができる関係を築きたいです!」
「ええ、そうですね・・・」
・・・なんか必死だね。
暗記した台詞を必死に思い出しているのだろうか。
「け・・・け・・・」
・・・け?
「・・・手を差し伸べていただければ嬉しいです」
「はい、わたし共も、良い会談ができることを望んでおります」
暗記した台詞、飛んじゃったのかな?
ちょっと微笑ましい。
「・・・ください」
「・・・はい?」
急に声が小さくなり、前半が聞きとれなかった。
ください?
何を?
「いえ・・・その・・・よろしくお願いします、と」
「ロティナ様、そこまでで良いでしょう。お気持ちは伝わったと思いますよ」
「・・・はい」
次官に背中をポンと叩かれたロティナは、再びわたし達に一礼すると、さっき入ってきた扉に向かってトボトボと戻っていった。
途中、こちらをチラチラと見る目が気になった。
「では、お客人もお帰りを」
◇
城を後にして、予定よりもぜんぜん早く『黒豚亭』に戻ることになったわたし達は、ロゼッタにお願いして、夕食を用意していただくことにした。
たしかこの時期は美味しい鳥料理が出せると言っていたので楽しみだ。
「予定していた用事が無くなってしまいまして・・・急な夕食のお願いですみません」
「いいんだよ!美味しいやつを用意してあげるから待っててな!いい豚肉が入ったんだよ!」
「え!?鳥肉料理じゃなかったんですか!?」
「予定は予定通りに行かないもんさ。あんたらと一緒だろ?」
「あはは・・・」
夕食は美味しかった。
豚肉を濃いめのスープで煮込んだものや、カリッと焼き上げたものなど、種類も多彩だった。
食べながら皆で談笑し、途中からロゼッタと宿のご主人も話に参加して、ライオット領全般の事やアコニールの町の事を教えてもらったりした。
そんな話を聞きながら、わたしは今日の出来事を頭の中で整理していた。
ひとつ、とても引っかかる事があったからだ。
楽しい夕食を終えて、わたし達はアドルの部屋に集まった。
食事を終えたら明日の作戦会議をすることになっていたからだ。
会議で開口一番、わたしは皆に提案した。
「今日の夜、太守の城に潜入しましょう」
「は!?」
「アドル、声が大きい!」
「いや、だって潜入って・・・」
わたしはエリザとアドルに伝えた。
ロティナが必死で助けを求める声をあげていた事を。
「助けって、『お互い助け合いましょう』みたいな事を言ってたやつだろう?」
「ううん、違うの。ロティナ様が本当に言いたかったことはそれじゃないのよ。ロティナ様、何か変だと思わなかった?すごくたどたどしたかったでしょう?」
「そうね、途中で言いたいことを忘れていたみたいだったし」
「そうだな、なんかすごく緊張していたな」
「緊張していたのは別の理由なの。たぶん」
・・・これがただのすごい偶然じゃなければいいんだけど。
「ロティナさんの挨拶、一語一句覚えてる?」
「いや、細かいところまでは覚えていないけど・・・」
「わたし、必死に思い出してみたの。で、気が付いたの」
・・・これ、縦読みじゃね?って。
ー たい・・・大変遠いところからようこそ・・・
ー 酒宴を・・・酒宴を用意しているとのことですので・・・
ー お・・・お互い、よい関係が作れればと・・・
ー 助け合いが!助け合いができる関係を築きたいです!
ー け・・・け・・・
ー 手を差し伸べていただければ嬉しいです
ー ・・・ください
たい、しゅ、お、たす、け、て、(ください)
「『太守を助けてください』・・・か」
「ユリ、あんた本当に凄いね!よく気がついたもんだ!」
「いや、凄いのはロティナ様ですよ。凄い賢い子なんだと思います。是非そろばんを習ってほしいです」
「そろばんの事は置いとくとして、もしもこれが本当に助けだとすれば・・・」
「アドル、侵入は得意でしょ?」
王城に忍び込んだ実績もあるしね。
アドルも自信に満ちた笑顔で頷いた。
「しかし、本当に太守が助けを求めるような状況だとすれば、いよいよあの次官が怪しいよな」
「それでもしも明日、勇者の素性を明かしてノコノコ行ったところで罠にでも嵌められたら・・・」
「事前に確かめておく価値はあるかもね」
「よし、作戦を練ろう」
わたしたちは早速、城に侵入する計画を立て始めた。
◇
暗い部屋にポツリと光る魔道具の前で、男が誰かと会話していた。
「・・・どうやら勇者はライオットに来ているようです」
『ほう、確かか?』
「はい、明日、こちらの城に連れてくるとの事で。使いの動物もいたので間違いないかと」
『つまり、今ニューロックにいるのは影武者ということか』
「そうなるかと・・・」
『それは良い知らせだ。よくやった、ベルノよ』
「ありがたきお言葉・・・王に忠誠を誓うものとして当然の事をしたまでです。せっかくですので、このまま勇者を仕留めてご覧に入れます」
『お前が勇者に手を出す必要はない』
「はあ、しかし千載一遇の機会ですし、お任せいただければと・・・」
『・・・好きにするがいい。明日、続報を待つ』
通話の魔道具から光が消えた。
ベルノと呼ばれた男は私室から出ると、兵舎に向かった。
・・・王の敵はこの手で排除してやる。
莫大な報酬と権力を手にするのだ。
待っていろ、自称勇者よ・・・
代わりに太守次官が対応してくれているものの、勇者が来ていないなら帰れの一点張りで取り付く島がない。
勇者、つまりわたしが今ここに来ていることを明かせば会談の場を設けてくれるとは思うが、太守不在で会談をしても、後で言った言わない問題になりそうだし、太守の正確な意図が太守次官や他の側近に伝わっているとは限らない。
さてどうしよう・・・
「あの、太守次官殿。本当に短時間で構いませんので、太守にお目通りさせてくれないでしょうか。やはり直接太守殿とお話をさせていただきたいと思うのです」
「ならぬ。太守は流行り病なのだ。客人に病をうつしたとあっては大問題になりかねん」
そう来たか・・・
そう言われると無理は言いにくい・・・
「勇者殿が同行しているのであれば面会を考えなくもなかったがな・・・」
なんでよ!
勇者に病気をうつすほうが大問題でしょうよ!
「エリザ・・・」
「・・・」
アドルがエリザに返答を促すが、エリザは何も言わない。
迂闊なことは言えない雰囲気を感じているのだろうか。
わたしもこの太守次官はちょっと胡散臭いと感じ始めている。
『そうです、わたしが勇者です』と言ってしまっていいのか、正直悩ましい。
そんな時、太守次官の所に一人の文官がやってきて、なにやら耳打ちをした。
太守次官はこちらをチラチラと見ながら話を聞いている。
話が終わり、文官は下がっていった。
「ニューロックの使者よ。そこに連れている動物だが、そこの鳥・・・鳥でよいのだよな?その鳥は勇者の連れている鳥ではないのか?」
「えーと、それは・・・」
「先の文官はニューロック建国の事やその後の状況、そして勇者について色々調べていてな。多少事情に通じておる。それでその鳥がここにいるということは、ライオットに勇者も来ているという事ではないのか?」
建国宣言の放送を見ていれば、わたしとディーネが一緒にいる事を見ていてもおかしくない。
シルエットだけど国章にもなっている鳥だしね。
一応、わたしの変装には気がついていないようなので『勇者はこの場には来ていないが、この領地には来ているのでは』と探られているのだと推測した。
いっそ、これに乗ってみるか・・・
わたしはエリザとアドルに向かって、予め決めておいた『話の主導権をわたしに任せてもらう合図』を送った。
ふたりとも頷き、わたしにこの後の話の展開を託してくれた。
わたしは一歩前に進み、一礼した。
「恐れ入ります、次官殿。わたしは勇者様の従者です。こちらのディ・・・鳥は仰るとおり、勇者様の使いです。大変失礼ながら、まずは勇者様の安全を第一にと考え、わたし達が先遣させていただきました。もしもよろしければ、明日改めて勇者様をこちらにお連れしますので、その際には太守殿にお目通りさせていただけますでしょうか」
わたしの言葉に、次官は目を大きく見開いた。
「ニューロックの勇者は・・・勇者殿はライオットに間違いなく来ておるのだな?」
「はい、今は町に滞在していまして・・・」
「分かった。では明日だ。明日改めて勇者殿を連れて来てもらおう」
「では明日お連れした時には・・・」
その時、バンッと音を立てて奥の扉が開いた。
そして一人の少女が現れた。
美少女と言っていい風貌で、黒髪で・・・ポニーテールだ。
容姿に髪型が似合っていてとても可愛い。
少女は早歩きでこちらに近づいてきたが、途中で武官に阻まれ、足を止めた。
少女は怯えているようにも、思い詰めているようにも見える表情をしている。
「ロティナ様・・・こちらには来ないようにと言ったはずです」
次官が溜息まじりに少女に注意をした。
「で、でも・・・わたしも、やっぱりニューロックの勇者様にご挨拶を・・・」
「勇者殿は来ておりません。さ、お下がりください」
「ですが・・・」
「ロティナ様、これ以上は・・・」
ロティナと呼ばれた少女は必死な顔でこちらを見ている。
向こうの事情なのだろうけれども、太守次官が困っているのがちょっと小気味良いので、わたしは少女に助け舟を出してみることにした。
「あの、太守次官殿、そちらの少女はどなたでしょうか?差し支えなければご挨拶させてください」
「あの、わたしはっ・・・」
「ロティナ様、私がご紹介しますので・・・こちらはロティナ様、太守の姪にあたるお方です。ロティナ様はご両親を事故で亡くされておりまして、太守がその後見を引き受けております」
太守次官は、もう紹介は終わったとばかりにロティナをとっとと下がらせようとしている。
わたしも負けじと引き止める。
「ロティナ様、はじめまして。わたし達はニューロックから参りました。お会いできて光栄です。よろしければご挨拶させてください」
胸に手を当て、一礼して待つ。
次官の溜息が聞こえる。
折れたかな?
「・・・では、ロティナ様。ご挨拶だけですよ、くれぐれも・・・いや、客人は帰るところでしたので、手短に」
「はい・・・」
ロティナをブロックしていた武官が下がると、ロティナがこちらに近づいてきた。
ロティナは次官とわたし達を交互に見ながら歩いている。
そして適当な距離をおいて足を止めると、意思を感じる目でキッとこちらを見てからスーッと深呼吸をすると、わたし達に一礼した。
緊張はしているようだが、よく通る大きな声で、ロティナの挨拶が始まった。
「たい・・・大変遠いところからようこそおいでくださいました!」
「いえいえ、こちらこそお招きいただき、ありがとうございます」
「酒宴を・・・酒宴を用意しているとのことですのでぜひ楽しんでいってください」
「酒宴、ですか?」
聞いていませんが、と言いかけたところで『勇者殿が来ている場合は準備するつもりだった』と太守次官に補足された。
「お・・・お互い、よい関係が作れればと思います」
「はい、是非に」
「助け合いが!助け合いができる関係を築きたいです!」
「ええ、そうですね・・・」
・・・なんか必死だね。
暗記した台詞を必死に思い出しているのだろうか。
「け・・・け・・・」
・・・け?
「・・・手を差し伸べていただければ嬉しいです」
「はい、わたし共も、良い会談ができることを望んでおります」
暗記した台詞、飛んじゃったのかな?
ちょっと微笑ましい。
「・・・ください」
「・・・はい?」
急に声が小さくなり、前半が聞きとれなかった。
ください?
何を?
「いえ・・・その・・・よろしくお願いします、と」
「ロティナ様、そこまでで良いでしょう。お気持ちは伝わったと思いますよ」
「・・・はい」
次官に背中をポンと叩かれたロティナは、再びわたし達に一礼すると、さっき入ってきた扉に向かってトボトボと戻っていった。
途中、こちらをチラチラと見る目が気になった。
「では、お客人もお帰りを」
◇
城を後にして、予定よりもぜんぜん早く『黒豚亭』に戻ることになったわたし達は、ロゼッタにお願いして、夕食を用意していただくことにした。
たしかこの時期は美味しい鳥料理が出せると言っていたので楽しみだ。
「予定していた用事が無くなってしまいまして・・・急な夕食のお願いですみません」
「いいんだよ!美味しいやつを用意してあげるから待っててな!いい豚肉が入ったんだよ!」
「え!?鳥肉料理じゃなかったんですか!?」
「予定は予定通りに行かないもんさ。あんたらと一緒だろ?」
「あはは・・・」
夕食は美味しかった。
豚肉を濃いめのスープで煮込んだものや、カリッと焼き上げたものなど、種類も多彩だった。
食べながら皆で談笑し、途中からロゼッタと宿のご主人も話に参加して、ライオット領全般の事やアコニールの町の事を教えてもらったりした。
そんな話を聞きながら、わたしは今日の出来事を頭の中で整理していた。
ひとつ、とても引っかかる事があったからだ。
楽しい夕食を終えて、わたし達はアドルの部屋に集まった。
食事を終えたら明日の作戦会議をすることになっていたからだ。
会議で開口一番、わたしは皆に提案した。
「今日の夜、太守の城に潜入しましょう」
「は!?」
「アドル、声が大きい!」
「いや、だって潜入って・・・」
わたしはエリザとアドルに伝えた。
ロティナが必死で助けを求める声をあげていた事を。
「助けって、『お互い助け合いましょう』みたいな事を言ってたやつだろう?」
「ううん、違うの。ロティナ様が本当に言いたかったことはそれじゃないのよ。ロティナ様、何か変だと思わなかった?すごくたどたどしたかったでしょう?」
「そうね、途中で言いたいことを忘れていたみたいだったし」
「そうだな、なんかすごく緊張していたな」
「緊張していたのは別の理由なの。たぶん」
・・・これがただのすごい偶然じゃなければいいんだけど。
「ロティナさんの挨拶、一語一句覚えてる?」
「いや、細かいところまでは覚えていないけど・・・」
「わたし、必死に思い出してみたの。で、気が付いたの」
・・・これ、縦読みじゃね?って。
ー たい・・・大変遠いところからようこそ・・・
ー 酒宴を・・・酒宴を用意しているとのことですので・・・
ー お・・・お互い、よい関係が作れればと・・・
ー 助け合いが!助け合いができる関係を築きたいです!
ー け・・・け・・・
ー 手を差し伸べていただければ嬉しいです
ー ・・・ください
たい、しゅ、お、たす、け、て、(ください)
「『太守を助けてください』・・・か」
「ユリ、あんた本当に凄いね!よく気がついたもんだ!」
「いや、凄いのはロティナ様ですよ。凄い賢い子なんだと思います。是非そろばんを習ってほしいです」
「そろばんの事は置いとくとして、もしもこれが本当に助けだとすれば・・・」
「アドル、侵入は得意でしょ?」
王城に忍び込んだ実績もあるしね。
アドルも自信に満ちた笑顔で頷いた。
「しかし、本当に太守が助けを求めるような状況だとすれば、いよいよあの次官が怪しいよな」
「それでもしも明日、勇者の素性を明かしてノコノコ行ったところで罠にでも嵌められたら・・・」
「事前に確かめておく価値はあるかもね」
「よし、作戦を練ろう」
わたしたちは早速、城に侵入する計画を立て始めた。
◇
暗い部屋にポツリと光る魔道具の前で、男が誰かと会話していた。
「・・・どうやら勇者はライオットに来ているようです」
『ほう、確かか?』
「はい、明日、こちらの城に連れてくるとの事で。使いの動物もいたので間違いないかと」
『つまり、今ニューロックにいるのは影武者ということか』
「そうなるかと・・・」
『それは良い知らせだ。よくやった、ベルノよ』
「ありがたきお言葉・・・王に忠誠を誓うものとして当然の事をしたまでです。せっかくですので、このまま勇者を仕留めてご覧に入れます」
『お前が勇者に手を出す必要はない』
「はあ、しかし千載一遇の機会ですし、お任せいただければと・・・」
『・・・好きにするがいい。明日、続報を待つ』
通話の魔道具から光が消えた。
ベルノと呼ばれた男は私室から出ると、兵舎に向かった。
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