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54話 死3
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広場に到着すると、人がものすごい数集まっていた。
広場が人で覆いつくされている。
それほど、大変なことが起きているという実感を感じさせられる。
広場には、大きな王の自画像があり、その前に棺桶が置かれていた。
人の波はその棺桶を先頭に、連なっている。
貴族たち、庶民の順番で並んでいる。
庶民の人たちは、貴族より後方に位置し、その間には柵が用意されている。
なので、王の近くにいるのは王族関係と貴族の連中ということになる。
よくよく見ると、貴族の列の後ろの方で、見覚えのある顔の連中もいた。
僕たち勇者一行の姿だ。
僕は、彼らに近づいた。
先頭にいる男に話しかける。
「なぁ、何があったんだ?」
突然後ろから話しかけれた男は、振り向く。
「え、結城君! 君もう大丈夫なのかい!」
質問の内容と返答の内容が合致しないが、今は仕方ない。
「大丈夫だ。それよりも何があったんだ? 僕が眠っている間に」
「あぁ、君は知らないんだね……少し離れて話そうか。あっちに行こう」
そうさそわれるがままに、僕とイケメンは列から離れて、城の柱の陰に場所を移した。
「それで、何があったんだ?」
「王様が亡くなられた」
「それはさっき聞いた」
「えっ誰から?」
「知らんおっさんから」
「そうなのか。だから正装に着替えているのか」
ここに来る前に正装に着替えてきたのだ。
一応勇者という身分なので、服装だけはちゃんとしてきた。
寝巻のまま、この場所に来るわけにはいかない。
目立って仕方がないからだ。
「それで、王様は病死したのは聞いたが、僕が知りたいのはそれよりも前、僕たちが襲われた時の話だ」
「そっちか。でも今は立て込んでいる。後にしよう」
「分かった」
イケメンからは真剣さしか感じてこなかった。
顔は少し、いや結構やつれているように見えた。僕が寝ている間に何か、あったのだろうか。
いや、王が亡くなったのだ。大変だったに違いない。あまり眠れていないだろう。目の下のクマがそれを物語っている。
「そうだ、あそこに八雲君もいるよ。顔を見せてあげるといい」
そういって、イケメンは指をさした。
確かにその指の差す場所にはフードを被った黒っぽい服を着た八雲の姿があった。
「ほんとだ」
僕はその八雲っぽいやつに手を軽く振ってみた。
すると、向こうも気が付いたらしく、こちらに視線を向けた。
そして、一瞬驚いた表情を見せると、こちらへ急いでやってきた。
呼んだわけではないんだけどな……
到着して早々、僕の手を握った。
「目が覚めたのか、体は大丈夫か! もう動いていいのか」
質問攻めにあう。
その陰で、ひっそりとイケメンは離れていった。
僕に何も告げず。「離れるのが遅れた……」とか言葉を吐きながら……
そんなイケメンのことなど気にしていない様子の八雲を相手する。
「大丈夫だって、それにしても心配してくれたのか、珍しいな」
と僕が茶化すと、八雲は顔を赤らめながらそっぽを向く。
「そ、そんなわけないだろう。ボクは何も心配などしていなかったさ」
どこに向かって話しているのだろう。
僕とは真逆の方向を見ながら、八雲は話している。
まぁ、普段から視線を合わせながらしゃべるやつではないが、今日はすごいな。
顔も見えないや。
その時、僕のお腹が鳴った。そういえば、食堂に行ったものの何も食べずに来てしまった。
「腹が減ったな」
僕は、天を仰いだ。
腹が減って力が出ない。
「仕方ないな」
八雲はそうつぶやくと、手から黒いものを生み出した。
「何これ」
薄い板状の黒いもの。
「チョコレートだ」
「なに、そんなもの出せるの!!」
「チョコレートを生み出したのさ、魔力を使ってな」
なんと便利な力だろうと感心する。
それにしてもこの世界にないチョコレートまで出すことができるなんて知らなかった。
大好物を目の前にして、興奮してしまう僕にチョコレートを差し出す八雲。
僕は、感謝を告げて、久しぶりに口にするチョコレートをひとかけら口の中に放り込んだ。
に、にがい……
ビターチョコレートだった。
「甘くないぞ……」
僕の苦情を聞いても八雲は気にしてない様子。
「それは、カカオ95%だからな」
「どうして、カカオ95%なんだよ、もっと甘いのにしてくれよ。ミルクたっぷりの!!」
「そんなこと言われも困るな、ボクはダークチョコレートが好きなんだ。だからそれ以外生み出せない」
なんて、融通の利かない力なのだろう。
でも、腹の虫は収まった。チョコレートひとかけでも、胃に入れると空腹は収まる。
感謝したいような、したくないような。複雑な心境だった。
広場が人で覆いつくされている。
それほど、大変なことが起きているという実感を感じさせられる。
広場には、大きな王の自画像があり、その前に棺桶が置かれていた。
人の波はその棺桶を先頭に、連なっている。
貴族たち、庶民の順番で並んでいる。
庶民の人たちは、貴族より後方に位置し、その間には柵が用意されている。
なので、王の近くにいるのは王族関係と貴族の連中ということになる。
よくよく見ると、貴族の列の後ろの方で、見覚えのある顔の連中もいた。
僕たち勇者一行の姿だ。
僕は、彼らに近づいた。
先頭にいる男に話しかける。
「なぁ、何があったんだ?」
突然後ろから話しかけれた男は、振り向く。
「え、結城君! 君もう大丈夫なのかい!」
質問の内容と返答の内容が合致しないが、今は仕方ない。
「大丈夫だ。それよりも何があったんだ? 僕が眠っている間に」
「あぁ、君は知らないんだね……少し離れて話そうか。あっちに行こう」
そうさそわれるがままに、僕とイケメンは列から離れて、城の柱の陰に場所を移した。
「それで、何があったんだ?」
「王様が亡くなられた」
「それはさっき聞いた」
「えっ誰から?」
「知らんおっさんから」
「そうなのか。だから正装に着替えているのか」
ここに来る前に正装に着替えてきたのだ。
一応勇者という身分なので、服装だけはちゃんとしてきた。
寝巻のまま、この場所に来るわけにはいかない。
目立って仕方がないからだ。
「それで、王様は病死したのは聞いたが、僕が知りたいのはそれよりも前、僕たちが襲われた時の話だ」
「そっちか。でも今は立て込んでいる。後にしよう」
「分かった」
イケメンからは真剣さしか感じてこなかった。
顔は少し、いや結構やつれているように見えた。僕が寝ている間に何か、あったのだろうか。
いや、王が亡くなったのだ。大変だったに違いない。あまり眠れていないだろう。目の下のクマがそれを物語っている。
「そうだ、あそこに八雲君もいるよ。顔を見せてあげるといい」
そういって、イケメンは指をさした。
確かにその指の差す場所にはフードを被った黒っぽい服を着た八雲の姿があった。
「ほんとだ」
僕はその八雲っぽいやつに手を軽く振ってみた。
すると、向こうも気が付いたらしく、こちらに視線を向けた。
そして、一瞬驚いた表情を見せると、こちらへ急いでやってきた。
呼んだわけではないんだけどな……
到着して早々、僕の手を握った。
「目が覚めたのか、体は大丈夫か! もう動いていいのか」
質問攻めにあう。
その陰で、ひっそりとイケメンは離れていった。
僕に何も告げず。「離れるのが遅れた……」とか言葉を吐きながら……
そんなイケメンのことなど気にしていない様子の八雲を相手する。
「大丈夫だって、それにしても心配してくれたのか、珍しいな」
と僕が茶化すと、八雲は顔を赤らめながらそっぽを向く。
「そ、そんなわけないだろう。ボクは何も心配などしていなかったさ」
どこに向かって話しているのだろう。
僕とは真逆の方向を見ながら、八雲は話している。
まぁ、普段から視線を合わせながらしゃべるやつではないが、今日はすごいな。
顔も見えないや。
その時、僕のお腹が鳴った。そういえば、食堂に行ったものの何も食べずに来てしまった。
「腹が減ったな」
僕は、天を仰いだ。
腹が減って力が出ない。
「仕方ないな」
八雲はそうつぶやくと、手から黒いものを生み出した。
「何これ」
薄い板状の黒いもの。
「チョコレートだ」
「なに、そんなもの出せるの!!」
「チョコレートを生み出したのさ、魔力を使ってな」
なんと便利な力だろうと感心する。
それにしてもこの世界にないチョコレートまで出すことができるなんて知らなかった。
大好物を目の前にして、興奮してしまう僕にチョコレートを差し出す八雲。
僕は、感謝を告げて、久しぶりに口にするチョコレートをひとかけら口の中に放り込んだ。
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ビターチョコレートだった。
「甘くないぞ……」
僕の苦情を聞いても八雲は気にしてない様子。
「それは、カカオ95%だからな」
「どうして、カカオ95%なんだよ、もっと甘いのにしてくれよ。ミルクたっぷりの!!」
「そんなこと言われも困るな、ボクはダークチョコレートが好きなんだ。だからそれ以外生み出せない」
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