異世界で勇者をすることとなったが、僕だけ何も与えられなかった

晴樹

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75話 散歩

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城内を出て行く笠井さんの後ろを、僕はついて行く。
一体どこに行くのだろう。
「街まで行くわよ」
「街?」
「そう、あんたもいるし街に行くわ」
それを喜ぶ所ではないと僕の頭が教えてくてれている。
「分かったけど、こんな夕方に行くの?」
「思い立ったが吉日よ」
それは、そうかもしれないけど、市場もやってないぞ。
城の敷地を出た先は街へと続く一本道。両側に森があり、大きな木々が立ち並ぶ。整備された街へと続く一本道を堂々と笠井さんと僕は歩いた。
行き交う人はおらず、貸切状態だ。その為、道の真ん中を2人並んで歩いていても誰の迷惑にもならなかった。普段なら馬車が通ったりするが、今は通る人おらずと言った感じだ。
そして、街に向かう道を歩くコト10分。
ようやく街の入り口となる露店が姿を現した。
「思ったよりも賑わってるんだな」
太陽が沈み始めて暗くなっているのに、人は明かりを灯し賑わっている。
祭りでもやっているのかと、思うくらいだ。
「そうよ、この街は夜も賑わってるの。露店では料理を売り始めて、アルコールを飲んで騒ぐ人もいるわ」
僕の知らない知識を披露し始めた笠井さんの顔は明るかった。
城の中では、人の声はするものの静かに近い環境。特に仲間と呼べる人達は今は心の傷を負っていて騒いだりしていないのだろう。
それにひきかえ街は騒がしく、僕たちまでも楽しませようとする。
来たくなるのもわからなくない。
「笠井さんは、よく来るの?」
「ええっ、よく来るわ。前は友達と一緒に来てたんだけど……」
そう言って笠井さんの表情は暗くなる。
「死んじゃったんだ。その子」
僕は予想外な答えに驚いた。
7人死んだ中に笠井さんの友達も居たらしい。
それなら、笠井さんも辛いんじゃないかと思った。僕はそんな素振りはなかったことに驚いてしまったのだ。
葬式の時、友達が死んだのに、僕に感謝していた事が不思議に感じた。
普通なら逆だ。どうして助けてくれなかったの? とか。できるならあの子が死ぬ前に行動してくれれば、死なずに済んだとか僕に当たってもおかしくない。なのに、どうしてそこまで理性を保っていられたんだ。
僕は聞いてはいけない質問をする。

「その友達が死んだ事を僕に当たらないの?」
聞いてしまった。こんなこと聞いても仕方ないのに。
笠井さんは僕の顔を見ては、静かに口を開いた。
「そんなことできないわよ。あんたがいなかったらあの場に居た人はみんな死んでただろうし。それに私も死んでたかもしれないから。あんたに感謝する事があっても、恨むことはないわよ」
と僕に恨みなどない事を説明した。
そうだった。彼女は優しいんだ。
普段怖い顔をしているから、勘違いしてしまいそうになるけれど、彼女の優しさは行動に現れている。
「そうなんだ。笠井さんは優しいんだね」
「普通よ、これくらい」
笠井さんは優しくて、強い女の子だった。
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