「7人目の勇者」

晴樹

文字の大きさ
22 / 41

第21話 迷子と教室

しおりを挟む
「ほんと不完全燃焼だよな~」
「…そうね」
無愛想に返事を返す。
「またやろうな」
「ええ、いつでも相手になるわ」
「…」
「……」
僕とヴェロニカは並んで廊下を歩いていた。
「ねぇ? 何で付いてくるの」
「え、それはお前…僕が女騎士に置いていかれたからに決まってるだろ?」
「そんなこと知らないんだけど…なら、1人で帰ったら?」
「それは…」
帰り道が分からなくて、1人で帰れないとか言えない…

模擬戦が終わった後、その場で解散となった。
僕とヴェロニカは汗をかいていていたので、シャワーを浴びることになり、僕がシャワーを終え、シャワー室を出てきた時には女騎士の姿がどこにも無かった。
帰り道の分からない僕は考えた末、ヴェロニカがシャワーを浴び終わるのを待って出てきた後、付いていくことにしたのだ。

「もしかして、帰れないの1人で?」
「ギクッ」
「まじ?」
と驚いた顔をして僕の顔を下から覗いていた。
「し、仕方ないだろ! まだ、この国に来て日が浅いんだから」
言い訳ともとれる言い訳をした。
「そう」
急に冷たい態度をとる。
そしてヴェロニカは立ち止まった。
「ん、どうした。トレイか?」
「ちがうわよ! ここ、私の教室 」
ヴェロニカが止まったところはどこかの部屋に通ずるドアの前だった。ヴェロニカはそのドアに手を触れた。
「じゃあ…」
ニヤリと笑を浮かべて、教室の中に入っていった。
「まじか…」
廊下にはポツンと僕1人が取り残されていた。



……
「あのさぁ、どうしていんの?」
「ん? 何のことだ?」
と、すっとぼける。
「だ、か、ら」
と大きな声で
「どうして、私の横に座ってるのかって、聞いてるのよ!」

「うるさいぞ! お前ら、今は授業中だ!!」
黒板の前に立っていた女騎士が、こちらに振り向き注意する。
ヴェロニカは席から勢いよく立ち上がり
「す、すいません」
と、椅子を倒しながら誠心繊維謝った。

ヴェロニカとは思えないくらい素直に謝る姿に僕は驚いた。思ったより真面目な性格らしい。
「分かったら、座っていいぞ」
「はい…」
ヴェロニカは静かに返事をして、倒れた椅子を起こし座った。
「怒られちゃったな」
と、僕は茶化すように言った。
「あんたののせいでね!」
ヴェロニカは怒りの形相でこちらを睨みつける。
先程注意されたからだろう、声のボリュームは下げて喋っていた。
「悪かった」
と軽く謝る、
しかし、ヴェロニカはぷぃっと顔を窓の外の方に向けてしまった。それだけ怒っているのかもしれないので、ヴェロニカに構うのは少し控えることにした。
僕は静かに女騎士が進める授業を聞くことにした。
 だが、その内容は1ミリも理解できなかった。女騎士が教えているのは、この国の歴史についてだった。今のこの国のことも分からない自分にとっては、歴史について理解できるはずも無かった。
 数分後には眠り、夢の世界へと旅立ってしまっていた…


パンッ!
突然頭に衝撃が走った。
痛っ!
衝撃により、夢の世界から現実世界へと連れ戻される。
僕は何事かと辺りを見回すが、そこはまだ女騎士が進める授業中だった。
黒板の前では、まだ女騎士が立って授業をしていた。
僕はヴェロニカの方を見る。だが、ヴェロニカはまだ窓の外を見ていた。

…誰が頭を叩いたんだ。

周りを見渡しても僕のことを気にしている人はいない。
なら、一体誰が…
僕はもう1度眠りの体制に入った。
犯人を炙り出すために。


そして少し立つとまた頭に衝撃がくる。
誰だ!
僕は勢いよく上体を起こし、左右を見渡す。すると、その動きにビックリしたのか、横にいるヴェロニカが急いで窓の外を向いた。体制が変わってないと思わせたかったらしいが、動いたのを見てしまった。

「おい」
「何?」
ヴェロニカはこちらに向いた。その顔は不機嫌そのものだった。
「今叩いたろ?」
「何の事?」
ととぼける。
「いや、とぼけるなって…証拠はあるんだからな」
「証拠?」
「あぁ、その手にあるものが証拠だ!」
僕が指さした先にあるヴェロニカの右手には、丸められた教科書が握られていた。

しかし、次の瞬間…
「何、証拠なんてないけど?」
一瞬の隙に右手の力を緩めた。丸まっていた教科書は一瞬の間に元の姿に戻って机の上に置かれる。
「いや、だから…」
僕は追求しようとして止めた。
これは勝てない…
そう思ったのだ。
女って強いな…
僕は残りの時間、目を開けて眠ることにした…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...