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16.贈り物
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ソーンダーズ学院で、授業を終えたハイジが出てくると、ジェフリーが校門前に車を止めて、運転席のドアにもたれるようにして待っていた。
「アデレイド!」
「ジェフリー様」
ハイジは、一緒にいるデニスに驚いたふりをしてみせ、ジェフリーのほうへ駆け寄る。
「家に連絡を……」
彼女が言うと、ジェフリーは「さっき電話した!」と言って、約束を守ってくれたようだ。彼は、ハイジを助手席に乗せると、すぐに運転席に座る。
「でも、あんたを送った後に俺の口から詳細を話すって言ったけど、断られたよ」
ジェフリーは、少しでもハイジの負担をなくそうとして、申し出たのだろう。だが、召使いを通して、侯爵夫人は”遠慮する”とやんわりと拒否したようだ。
「大丈夫です。少し恥ずかしいだけで、言いたくないことでもありませんから」
「ああ。侯爵夫妻は、アデレイドを大事にしているんだろうな」
彼は、ハイジと会話しながら、車を繁華街に向けた。
ジェフリーが車を止めたのは、ゼクレスと同じ系列であるミューエの宝飾店だ。王都の商業一等地にこじんまりとした店を出しているが、商品はどれも人気で価格もけた違いだ。アデレイドのクローゼットの中では見かけたことがない。店内のガラスケースの中には、指輪やネックレス、時計など、いろんなアクセサリーがきれいに並んでいる。
「両親に相談したら”学院の卒業後は社交界デビューも控えているから、アクセサリーを贈ったらどうか”って。この店のものなら間違いないって勧められたよ。アデレイドはどれがいい?」
アクセサリーならいくつあっても困るものではない。それに、品質とデザインがいいことで有名なミューエの宝飾品は、女性の憧れのブランドだ。
「こちらは新作のものです。どうぞお試しください」
店員が、ピンク色の宝石が付いた可愛らしい指輪を出してくる。
「お嬢様のすらりとした細い指に、このピンクダイヤモンドがとても映えますね。よくお似合いですよ」
ハイジはうっとりとしたが、そっと値札を見て、あまりの高額にびっくりした。ハイジのお給料全額を、十年かけてやっと買えるくらいだ。
「気に入った? これにしようか」
ジェフリーがにこにこしていうが、今日彼と会っていることは、アデレイドにも連絡が行く。
何を買ってもらっても彼女に渡さなければいけないし、こんな高価な宝石をこっそり自分のものにすれば泥棒扱いされてしまう。
「申し訳ありません。今日は指輪よりも、ほかのものがいいです」
ハイジは、そういって指輪を外す。アデレイドの好みもわからないし、ジェフリーに買ってもらう指輪を彼女に渡したくない。
「そうか? じゃあ、ネックレスとかイヤリングにしよう」
彼は店員にほかのアクセサリーを出してくれるように言った。
「こちらは定番のデザインで、こちらは今流行のものです。石も色々取り揃えておりますので、お好きなデザインと組み合わせ出来ます」
オリジナルの注文もできると、店員はルビーにサファイヤにエメラルド、アレキサンドライトなどのネックレスやイヤリングを次々と出してくる。そして、その中には、希少な色の宝石もあってどれも高額だ。
「ネックレスとイヤリングがセットになったものなんかどうだ? 気に入ったらいくつでも買っていいぞ」
いくらハイジが遠慮しても、ジェフリーは放っておいたら出されたものすべて買ってしまいそうな勢いだ。子爵家の裕福さがよくわかる。仕方なく、ハイジは定番のデザインの中で比較的安価な宝石のネックレスとイヤリングのセットを選んだ。
レストランで夕食を取って、ハイジが侯爵家に送ってもらったのは、最初のデートの時と同じくらいの時間だった。
呼び鈴を鳴らすと、ウルリヒではなくギーゼラが出てきて、ハイジだけを中に入れる。ジェフリーが「侯爵夫妻に、ひとことご挨拶がしたい」と言っても、丁寧に断られた。
心配そうに見つめる彼に、ハイジは「大丈夫です」と笑顔で言い、お休みの挨拶を言って帰ってもらった。
ジェフリーが車に乗って帰っていくのを見送ると、ギーゼラがせかすように言う。
「お嬢様。大旦那様が首を長くしてお待ちです。すぐに執務室へ行っていただけますか?」
ハイジとしては、一度離れに寄ってからにしたいが、この前はそれでウルリヒに迷惑をかけた。ハイジが離れのほうをちらりと見ると、ギーゼラは困惑するようにため息をつく。
「お嬢様。夕食の後に、ハイジが離れのクローゼットの整理を頼まれたと申しておりましたが、それが気になるのですか?」
ハイジのふりをして厨房で夕食を取ったアデレイドが、そういって今も離れにいるらしい。ハイジを待っているのかもしれないが、詳細を話す間もないから、この前の時と同様に、侯爵への報告はハイジに任せるだろう。
「え? ア……ハイジが、そういっていたの?」
「はい。遅くなったらそのまま離れに泊まると言っておりましたが、自室へ戻るように伝えましょうか?」
「いいえ。大丈夫よ。そのままにしておいて」
ハイジはそういうと、ギーゼラと一緒に屋敷に入った。
執務室で、ギーゼラはお茶を入れ終わると、さっさと帰っていき、ハイジは侯爵夫妻の前に宝石店の紙袋を置く。
「今日、ジェフリー様に買っていただきました」
「まあ! あのミューエじゃない」
侯爵夫人は宝石ケースを開いて、中身を見ると、目を輝かせる。
「素晴らしいアクセサリーね。これだけのものをプレゼントするということは、どうやらアデレイドを気に入っているみたね」
「そうだな。ドレスを贈ってきたきり、まったく音沙汰がなかったから心配したが、うまくいっているようで安心したぞ」
夫人と一緒に宝石をのぞき込み、侯爵も満足そうにうなずく。
高価な宝飾品を買ってもらったことで、上機嫌になった侯爵夫妻は、おざなりの報告だけ聞いて、早々にハイジを解放した。
侯爵の執務室を出ると、ハイジはアデレイドの部屋へ行って衣裳部屋に入る。クローゼットを順番に開けてみたが、以前ジェフリーが贈ったと言っていたゼクレスのドレスはどこにも見当たらない。
(どこかに片づけたのかしら?)
お礼状を書いたというから、アデレイドが受け取っているのは間違いがない。探しているうちにハイジは、クローゼットの奥に、山積みになっている箱に気が付く。
それは、中学の制服や、流行遅れになってもう着なくなった服を片付けた箱ばかりで、その中に金箔でゼクレスのロゴが描かれている箱を見つけた。
ジェフリーから贈られてきたのはこれだと思って箱を開けると、薄葉紙に包まれてタグもついたままのドレスが入っている。
(なんて素敵なドレス)
彼が選んだというドレスは、流行にとらわれず、長く着られるような落ち着いたデザインのものだった。けれど、こんな風に片づけているところを見ると、アデレイドは、気に入らなかったのかもしれないし、着る気もないのだろう。
ハイジは、新品のまま古着と一緒に放置されていたドレスを手に取って胸に抱きしめる。
(私がアデレイドだったら、喜んで、すぐにでもこのドレスを着るのに!)
ジェフリーの心遣いを捨て置かれたように感じて、ハイジは悲しかった。
(私が、アデレイドだったら……)
そう思った時、以前に打ち消した黒い考えがよみがえる。
たった五分の差で侯爵令嬢になれなかったハイジは、いくらジェフリーに気に入られても、彼と結婚できない。
政略結婚を受け入れている彼は、どれだけハイジと会っていようと、結局はフォールコン侯爵令嬢であるアデレイドと結婚するのだ。そして、おそらくジェフリーも、ハイジとアデレイドを見分けられないだろう。アデレイドが何食わぬ顔をして彼の隣に立つかと思うと腹立たしい。
(いずれ、アデレイドに成り代わってやる……!)
学生の内は、恋人のデニスが毎日下僕と称してハイジにもくっついているから無理だが、卒業すれば、アデレイドは彼と別れる。ハイジは、いつかアデレイドと本当に入れ替わろうと、チャンスを待つことにした。
ドレスを元通りに片づけて、ハイジは宝石店の紙袋を持つと、こっそり厨房へ向かう。召使いたちはすでに帰っているので、誰にも見とがめられることなく裏口から出られた。
離れの書斎で、アデレイドはいつものようにゲームをしている。
「あら? どうしたの?」
ハイジが来るとは思っていなかったようで、彼女は首を傾げた。
「ギーゼラから、私が今夜ここに泊まるって聞いていない? おじい様たちへの報告が済んだら、そのまま私の部屋で休んでいいわよ」
寝支度も調えていて、アデレイドは離れに泊まるつもりだったようだ。
「もう、侯爵様への報告は済みました。お嬢様へ報告するためにジェフリー様からの贈りものも持ってきたのです」
ハイジは、宝石店の紙袋をテーブルの上に置いた。
「あら、ミューエのアクセサリー? ジェフリー様もやるわね」
紙袋から宝石ケースを取り出して、中のアクセサリーを一瞥すると、アデレイドはぽいっとケースを投げ置く。
「デザインはいいけれど、石が今一つね。どうせならダイヤモンドがよかったわ」
「すみません、どれでもいいと言われたのですが、私の好みで選びました」
ハイジは値段で選んだだけだが、ジェフリーのせいにされるのは心外だ。
「ふうん。それにしても、ジェフリー様にも困ったものね。いっつも急に誘うのはやめてほしいわ」
ハイジがそういう風に装わせたなどとは思ってもいないだろうが、アデレイドが大きなため息をつく。
「仕方がないから、これからは私が毎日学院へ行くわ」
卒業式まで、あと二週間ほどだから、もう身代わりをしなくていいといわれた。まさかそういわれるとは思ってもみなくてハイジは驚いたが、自分から身代わりがしたいとも言えない。
「もう、おじい様たちへの報告が済んでいるのなら、このまま入れ替わってもいいわね。私が部屋に戻るわ」
アデレイドはそういうと、無造作に宝石ケースを戻すと紙袋を持って書斎を出ていった。
「アデレイド!」
「ジェフリー様」
ハイジは、一緒にいるデニスに驚いたふりをしてみせ、ジェフリーのほうへ駆け寄る。
「家に連絡を……」
彼女が言うと、ジェフリーは「さっき電話した!」と言って、約束を守ってくれたようだ。彼は、ハイジを助手席に乗せると、すぐに運転席に座る。
「でも、あんたを送った後に俺の口から詳細を話すって言ったけど、断られたよ」
ジェフリーは、少しでもハイジの負担をなくそうとして、申し出たのだろう。だが、召使いを通して、侯爵夫人は”遠慮する”とやんわりと拒否したようだ。
「大丈夫です。少し恥ずかしいだけで、言いたくないことでもありませんから」
「ああ。侯爵夫妻は、アデレイドを大事にしているんだろうな」
彼は、ハイジと会話しながら、車を繁華街に向けた。
ジェフリーが車を止めたのは、ゼクレスと同じ系列であるミューエの宝飾店だ。王都の商業一等地にこじんまりとした店を出しているが、商品はどれも人気で価格もけた違いだ。アデレイドのクローゼットの中では見かけたことがない。店内のガラスケースの中には、指輪やネックレス、時計など、いろんなアクセサリーがきれいに並んでいる。
「両親に相談したら”学院の卒業後は社交界デビューも控えているから、アクセサリーを贈ったらどうか”って。この店のものなら間違いないって勧められたよ。アデレイドはどれがいい?」
アクセサリーならいくつあっても困るものではない。それに、品質とデザインがいいことで有名なミューエの宝飾品は、女性の憧れのブランドだ。
「こちらは新作のものです。どうぞお試しください」
店員が、ピンク色の宝石が付いた可愛らしい指輪を出してくる。
「お嬢様のすらりとした細い指に、このピンクダイヤモンドがとても映えますね。よくお似合いですよ」
ハイジはうっとりとしたが、そっと値札を見て、あまりの高額にびっくりした。ハイジのお給料全額を、十年かけてやっと買えるくらいだ。
「気に入った? これにしようか」
ジェフリーがにこにこしていうが、今日彼と会っていることは、アデレイドにも連絡が行く。
何を買ってもらっても彼女に渡さなければいけないし、こんな高価な宝石をこっそり自分のものにすれば泥棒扱いされてしまう。
「申し訳ありません。今日は指輪よりも、ほかのものがいいです」
ハイジは、そういって指輪を外す。アデレイドの好みもわからないし、ジェフリーに買ってもらう指輪を彼女に渡したくない。
「そうか? じゃあ、ネックレスとかイヤリングにしよう」
彼は店員にほかのアクセサリーを出してくれるように言った。
「こちらは定番のデザインで、こちらは今流行のものです。石も色々取り揃えておりますので、お好きなデザインと組み合わせ出来ます」
オリジナルの注文もできると、店員はルビーにサファイヤにエメラルド、アレキサンドライトなどのネックレスやイヤリングを次々と出してくる。そして、その中には、希少な色の宝石もあってどれも高額だ。
「ネックレスとイヤリングがセットになったものなんかどうだ? 気に入ったらいくつでも買っていいぞ」
いくらハイジが遠慮しても、ジェフリーは放っておいたら出されたものすべて買ってしまいそうな勢いだ。子爵家の裕福さがよくわかる。仕方なく、ハイジは定番のデザインの中で比較的安価な宝石のネックレスとイヤリングのセットを選んだ。
レストランで夕食を取って、ハイジが侯爵家に送ってもらったのは、最初のデートの時と同じくらいの時間だった。
呼び鈴を鳴らすと、ウルリヒではなくギーゼラが出てきて、ハイジだけを中に入れる。ジェフリーが「侯爵夫妻に、ひとことご挨拶がしたい」と言っても、丁寧に断られた。
心配そうに見つめる彼に、ハイジは「大丈夫です」と笑顔で言い、お休みの挨拶を言って帰ってもらった。
ジェフリーが車に乗って帰っていくのを見送ると、ギーゼラがせかすように言う。
「お嬢様。大旦那様が首を長くしてお待ちです。すぐに執務室へ行っていただけますか?」
ハイジとしては、一度離れに寄ってからにしたいが、この前はそれでウルリヒに迷惑をかけた。ハイジが離れのほうをちらりと見ると、ギーゼラは困惑するようにため息をつく。
「お嬢様。夕食の後に、ハイジが離れのクローゼットの整理を頼まれたと申しておりましたが、それが気になるのですか?」
ハイジのふりをして厨房で夕食を取ったアデレイドが、そういって今も離れにいるらしい。ハイジを待っているのかもしれないが、詳細を話す間もないから、この前の時と同様に、侯爵への報告はハイジに任せるだろう。
「え? ア……ハイジが、そういっていたの?」
「はい。遅くなったらそのまま離れに泊まると言っておりましたが、自室へ戻るように伝えましょうか?」
「いいえ。大丈夫よ。そのままにしておいて」
ハイジはそういうと、ギーゼラと一緒に屋敷に入った。
執務室で、ギーゼラはお茶を入れ終わると、さっさと帰っていき、ハイジは侯爵夫妻の前に宝石店の紙袋を置く。
「今日、ジェフリー様に買っていただきました」
「まあ! あのミューエじゃない」
侯爵夫人は宝石ケースを開いて、中身を見ると、目を輝かせる。
「素晴らしいアクセサリーね。これだけのものをプレゼントするということは、どうやらアデレイドを気に入っているみたね」
「そうだな。ドレスを贈ってきたきり、まったく音沙汰がなかったから心配したが、うまくいっているようで安心したぞ」
夫人と一緒に宝石をのぞき込み、侯爵も満足そうにうなずく。
高価な宝飾品を買ってもらったことで、上機嫌になった侯爵夫妻は、おざなりの報告だけ聞いて、早々にハイジを解放した。
侯爵の執務室を出ると、ハイジはアデレイドの部屋へ行って衣裳部屋に入る。クローゼットを順番に開けてみたが、以前ジェフリーが贈ったと言っていたゼクレスのドレスはどこにも見当たらない。
(どこかに片づけたのかしら?)
お礼状を書いたというから、アデレイドが受け取っているのは間違いがない。探しているうちにハイジは、クローゼットの奥に、山積みになっている箱に気が付く。
それは、中学の制服や、流行遅れになってもう着なくなった服を片付けた箱ばかりで、その中に金箔でゼクレスのロゴが描かれている箱を見つけた。
ジェフリーから贈られてきたのはこれだと思って箱を開けると、薄葉紙に包まれてタグもついたままのドレスが入っている。
(なんて素敵なドレス)
彼が選んだというドレスは、流行にとらわれず、長く着られるような落ち着いたデザインのものだった。けれど、こんな風に片づけているところを見ると、アデレイドは、気に入らなかったのかもしれないし、着る気もないのだろう。
ハイジは、新品のまま古着と一緒に放置されていたドレスを手に取って胸に抱きしめる。
(私がアデレイドだったら、喜んで、すぐにでもこのドレスを着るのに!)
ジェフリーの心遣いを捨て置かれたように感じて、ハイジは悲しかった。
(私が、アデレイドだったら……)
そう思った時、以前に打ち消した黒い考えがよみがえる。
たった五分の差で侯爵令嬢になれなかったハイジは、いくらジェフリーに気に入られても、彼と結婚できない。
政略結婚を受け入れている彼は、どれだけハイジと会っていようと、結局はフォールコン侯爵令嬢であるアデレイドと結婚するのだ。そして、おそらくジェフリーも、ハイジとアデレイドを見分けられないだろう。アデレイドが何食わぬ顔をして彼の隣に立つかと思うと腹立たしい。
(いずれ、アデレイドに成り代わってやる……!)
学生の内は、恋人のデニスが毎日下僕と称してハイジにもくっついているから無理だが、卒業すれば、アデレイドは彼と別れる。ハイジは、いつかアデレイドと本当に入れ替わろうと、チャンスを待つことにした。
ドレスを元通りに片づけて、ハイジは宝石店の紙袋を持つと、こっそり厨房へ向かう。召使いたちはすでに帰っているので、誰にも見とがめられることなく裏口から出られた。
離れの書斎で、アデレイドはいつものようにゲームをしている。
「あら? どうしたの?」
ハイジが来るとは思っていなかったようで、彼女は首を傾げた。
「ギーゼラから、私が今夜ここに泊まるって聞いていない? おじい様たちへの報告が済んだら、そのまま私の部屋で休んでいいわよ」
寝支度も調えていて、アデレイドは離れに泊まるつもりだったようだ。
「もう、侯爵様への報告は済みました。お嬢様へ報告するためにジェフリー様からの贈りものも持ってきたのです」
ハイジは、宝石店の紙袋をテーブルの上に置いた。
「あら、ミューエのアクセサリー? ジェフリー様もやるわね」
紙袋から宝石ケースを取り出して、中のアクセサリーを一瞥すると、アデレイドはぽいっとケースを投げ置く。
「デザインはいいけれど、石が今一つね。どうせならダイヤモンドがよかったわ」
「すみません、どれでもいいと言われたのですが、私の好みで選びました」
ハイジは値段で選んだだけだが、ジェフリーのせいにされるのは心外だ。
「ふうん。それにしても、ジェフリー様にも困ったものね。いっつも急に誘うのはやめてほしいわ」
ハイジがそういう風に装わせたなどとは思ってもいないだろうが、アデレイドが大きなため息をつく。
「仕方がないから、これからは私が毎日学院へ行くわ」
卒業式まで、あと二週間ほどだから、もう身代わりをしなくていいといわれた。まさかそういわれるとは思ってもみなくてハイジは驚いたが、自分から身代わりがしたいとも言えない。
「もう、おじい様たちへの報告が済んでいるのなら、このまま入れ替わってもいいわね。私が部屋に戻るわ」
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