【完結】番じゃなくても愛してる

秋良

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25. 唯一の人 *



 アンリの愛撫はこれでもかというほどに優しく、じっくりと、たったの少しであっても痛いことをなどないように、時間をかけて行われていった。

「ん、はぁ……あ」

 胸をさんざん堪能されたあと、もう先走りの蜜でてらてらに濡れた性器に手を伸ばされる。きゅっと大きな手に覆われて、やわやわと触られると、性器はすぐに張り詰めた。その形を確かめるように指や手のひらで擦られる。たったそれだけでも気持ち良くて……。

「あ、ああっ」

 気がつけば、俺は白濁を吐き出していた。
 唐突に訪れた、呆気ない吐出に自分自身、一瞬何が起きたかわからないほど。体も欲望もわずかな時間で高まってしまって、息ははぁはぁと上がっていた。

「ごめ……早すぎ、だよね」

 早漏にも程があるだろうと、俺は慌てて謝った。アンリだって心構えしていなかっただろうし、手だって汚してしまった。それが恥ずかしく、申し訳ない。
 発情期だから、敏感になっちゃうのは仕方がないんだけれど。それでも、触れられただけで達してしまうなんて、あまりにも早い。

 なのに、アンリは気にするどころか、嬉しそうに微笑んだ。

「いいや、可愛いよ。もっと鳴いて、乱れてくれ」
「ん……ひゃ、あっ」

 頬や額に唇を落とされ、そのうちに手を拭ったらしいアンリによって、一度欲を吐き出した性器を再び、ゆっくりと扱かれ始める。
 今度はすぐに達してしまうことはなかったものの、巧みな手淫にすぐに硬さを取り戻して、とろとろと蜜を漏らしていた。

 強引さと繊細さを持ち合わせた手つきに、内側に灯った欲は高められるだけ高められていく。

「は、あ……あっ」
「すごいな……想像以上だ。可愛い。可愛いよ、リスト」

 アンリは、可愛いと何度も繰り返しながら、漏れた俺の精液を塗り込めるようにして、鈴口を弄る。今まで、一度だって、アンリから性行為をねだられたことはないのに、想像以上だなんて言われて、やっぱりアンリだって人並みに欲があったのかなと思うと嬉しくなった。
 きちんと愛し合えるんだと、愛しさが込み上げる。

「あっ、あぁ、んぅっ」

 性器と胸を擦られ、合間合間にキスで舌を絡ませて。口の端から漏れる嬌声にはしたなさを覚えたけれど、止められない。それに、恥ずかしい気持ちよりも、自分をほんの少しでも多く、アンリにあげたくもあった。
 前を擦っていたアンリの手はいつしか後ろへと伸びていて、くちくちと濡れた音を立てながら、俺の中を長い指で掻き回す。はじめて体を重ねているというのに、彼は俺のいいところを巧みに引き当てるから、俺の敏感すぎる体は面白いくらいに溶けていく。

「あっ、アンリさ、好き、好き……っ」
「私もだ。私もきみを愛しているよ」

 体だけじゃ、とても想いが伝わりきれず、ぐずぐずになりながら、いつしか愛を言葉にしていた。その言葉に同じ分……いや、それ以上の愛が返ってきて、また愛を返す。その繰り返し。

 じっくり、ねっとりと前戯を続けられて、結局は挿入されないうちに俺は三度、精を放った。アンリの手で解された後孔はしとどに濡れて、妖しく蠢いているのが自分でもわかる。

 さすがの俺も、発情した体がいよいよ足りないものを求めていた。

「もう、だめ……おれ、限界、だからぁ」

 本能のままに動く腰。とろとろに溶けきった体。
 この体に、熱い杭を打たれたい。

「いれて……お願い、アンリさん。もう待てない、おねがい……っ」

 もとより発情期の症状は重いほうだ。そう、つまり、あられもなく乱れやすい。淫らな欲に染まった体は熱を求めてしまう。
 気持ち良すぎて潤んだ瞳で見つめれば、ごくりと生唾を飲むアンリの瞳に飢えた獣の色が浮かんだ。アルファらしい独占欲に、愛情を混ぜこんだみたいな、ぞくぞくする目だ。

 ぐっと両膝を割り開かれ、腰を引き寄せられながら、後孔の入り口には硬いものが押し当てられる。背の高い身を屈めて、耳元に唇を寄せられて「挿れるよ」と甘く囁かれた直後、ぬぷっとアンリの猛った性器が俺の中へと入ってきた。

「あっ、あっ!」

 柔らかく解れている隘路を分け入ってくる熱い杭にびりびりと甘い痺れが走る。みっちりとした質量が、隙間を埋めるように奥へ奥へと、ゆっくりと入ってくる。性急さとは真逆の、焦ったいほどの慎重な動き。思わず腰を揺らして、早く早くとねだりたくなるくらいには、アンリは優しく俺を抱いた。

「ぜんぶ、はいった……?」
「ああ……。きみの中に、私がいるな」
「んっ。あっ、はいって、る」

 そっと下腹を押されると、きゅうっと中が蠢く。熱い性器に絡みつく内壁がアンリの形を否が応でも感じさせて、喘ぎ声が漏れた。

「あ……すご……あ、あんっ」

 早く中を強く穿って、激しくしてほしいという欲望とは裏腹に、アンリは俺の中をじっくりと堪能しているようだった。挿れられているだけで、俺の息は上がって、甘ったるい声が出てしまうというのに、彼は何かに——おそらく、俺と体も結ばれたってことに——感動して、感じ入っている様子だった。
 その姿が思いのほか愛おしく、愛され尽くそうとされている体はなおのこと、アンリを求める。

 やがて、どちらからともなく腰を動かし始め、肌と肌がぶつかる音と、ぐちゅぐちゅと濡れた音が部屋に響いた。

「あっ、あっ……もっと、もっと……っ、あぁっ」

 とっくに発情期が本格的になっている体は、アンリを貪欲に求める。それに応えるように、アンリも俺を喰らい尽くさんばかりに激しく揺さぶる。
 太く硬い性器で中をこれでもかと言うほどに擦られて、俺は中だけで何度も何度も達していた。

「あーっ、あ……あっ、だめ、だめ……いく、あー……っ」
「いいよ、リスト……ほら、もっと……」

 何度も何度も、前も後ろもわからなくなるほどに達し続けては、また求める。
 始まったばかりの発情期は甘く深く、二人の匂いをめいっぱい部屋に満たしながら更けていった。



 ◇◇◇


 ようやく発情期が終盤に差し掛かった頃。
 まだ劣情が完全には引かないものの、さすがに三日三晩どころか五日、六日と昼夜問わずまぐわい続けた体は怠く、疲れもあって、緩やかなスローセックスを行うくらいになってきた。

 飛んでいた理性も戻ってきていて、互いを慈しみながら残りの発情期を過ごしていく。もう明日か明後日には、発情期も終わるだろう。

「アンリさんは、その……楽しく過ごせた?」

 寝台の上で、啄むようなキスをされながら、俺はアンリに訊ねた。
 掛け布団の中は、俺もアンリも一糸纏わぬ状態で、触れ合う素肌が心地良い。

 発情期中はセックスしては意識を飛ばすように寝て、たまにアンリが食事をとらせてくれて、風呂に入れてくれてをしながら、また起きればセックスをするという状態だった。はじめに服を脱いでからは、服を纏う間もなく、愛撫と世話を受けている。

「十分すぎるほどに。リストは? 気にかかったことはあったか?」
「ん……っ。ううん、全然。アンリさんと過ごせて、嬉しかった」

 素肌の上を滑る手のひらに体を震わせ、吐息を漏らしながら、アンリの頬に手を伸ばす。ありがとう、と伝えれば、手のひらにキスをされる。手のひら、手首、肘の内側と辿られて、鎖骨へとのぼってきて、首を飛び越えて顎先に唇を落とされる。

(ああ、優しいなぁ……)

 首やうなじをあえて避ける形で、彼は愛撫するのだ。
 激しい行為の最中も、決して、うなじに唇を寄せることはしなかった。

 アルファであれば、発情したオメガを前にして「自分のモノにしたい」という欲望が強く出る。それこそ発情期のオメガを目の前にして、理性を失う者もいるほどなのだから、アンリとしても多かれ少なかれ「うなじを噛んで、オメガをモノにしたい」と思ったはずだ。あるいは、本能的なものでなくとも、アルファの性を持つ者は独占欲が強いので、やはり似たような衝動はあったはずだ。

 なのに、アンリはしなかった。
 そこにどうしようもないほどの、深い愛を感じた。

 きっとアンリは、俺の番はヴィヒトリだということを知っているから。認めてくれているから。たとえ、うなじの噛み痕がなくなったとしても、俺のうなじには消えない証が刻まれていることをアンリは伝えてくれているのだ。
 そこに愛を感じなくして、いったいなんだというのだろう。

「アンリさん」

 挿入が目的ではない、緩やかなセックス——もはや、愛の戯れと言ったほうがいいかもしれない——をしながら、俺の胸元に頬を埋めているアンリの頭部にキスを落として、名前を呼んだ。暗くて、優しい色の髪からは銀木犀に似た匂いがする。その匂いを嗅ぎながら、俺はそっと言葉を続けた。

「発情期が明けたら、ヴィヒトリのところへ行こうと思うんだ。そのときは、アンリさんも付き合ってくれる? 今度は二人で、ヴィヒトリに話をしに行きたい。だめかな?」

 癖のある黒髪がさわり、と動いた。
 アンリが目を丸くして顔を上げて、俺をまじまじと見ていた。

「私も同行していいのか?」
「うん。一緒に行こう。ヴィヒトリもきっと喜ぶ」

 それは、心からの言葉。
 ヴィヒトリはきっと、ちょっとは嫉妬するとは思うけれど、「いい男に愛されて良かった」と笑ってくれると思う。独占欲が強いから、「でも俺のほうがいい男だけどな」くらいは言ってのけるかもしれないけれど。でも、そういう話をしてくれるほどには、俺の幸せを望んで、認めて、喜んでくれると思うのだ。

「礼服を用意しないとな……」

 嬉しそうに笑ったかと思えば、慌てたような表情で言う。

「礼服?」
「きみの番に失礼はできないだろう」

 もっともらしい顔で言うアンリに、俺はあはは、と笑い声を上げた。

「いいって、いいって。たしかにヴィヒトリは俺の番だけどさ、アンリさんも俺のもう一人の番でしょ? 立場は一緒なんだからさ」

 だから、いつも通りでいいって、と言えば、アンリは再び目を丸くした。

 ——アンリさんと、俺のもう一人の番でしょ?

 それもまた、俺の心からの言葉だった。
 唯一無二の俺の番はヴィヒトリなのだけれど。でも、俺にはもう一人、愛している男がいる。どんな俺でも愛し、支えてくれるアンリとは婚姻もしていないし、うなじを噛まれて番になっているわけではない。はたから見れば俺たちはただの恋人。
 でも、俺はアンリを愛している。ヴィヒトリと同じように、ヴィヒトリとは違う形で、とても深く。アンリもまた番と言わずして、なんと言うんだろう。
 
 ヴィヒトリはヴィヒトリとして。アンリはアンリとして。
 俺は二人を愛している。その想いは比べようもない。どちらも大切な人なのだ。

 ヴィヒトリはどうだとか、アンリはどうだとか、そういうことは考えてしまうことは無いわけではない。それはもう仕方がない。それでも俺は、ヴィヒトリのことをとても愛しているし、アンリのことをすごく愛している。
 それは紛れもない俺の心。それも含めて、アンリに愛されている。だから、ヴィヒトリも今のこんな俺を愛してくれているだって……そう思う。

「ワインを持って行こうか。それから、シニリントゥのパンも」
「あとさ、一緒にクッキー作って持ってくのはどう?」

 そういえば、俺の作った料理や菓子をヴィヒトリは幸せそうに食べてたっけ。一緒に作ることもあった。甘いものは彼よりも俺のほうが好んでいた気がするけれど、愛する人と何かを一緒に作り上げるっていうのは、幸福なことだった。

 素朴なクッキー、毎日の朝ごはんに夜ごはん。休日らしい少しだけ手の込んだ料理や、仲間内での楽しい時間に添える酒のあて。笑い声の満ちる家。
 そんなものをたくさん積み重ねて、なんてことはない日々を作っていく。何気ない時間が、ありふれた日常になるように紡いでいく。幸せを織り込んでいくように、愛を詰め込むように、大切な人と一緒に。

「いいな。今探している家も、明るく広いキッチンがあるところにしようと思っていたんだ。きみと何かを作るのは、きっと、とても楽しいだろうから」

 アンリが思い描いてくれている未来は、俺がこうだったらいいなと思うものと同じ形をしているみたいだ。それが、なによりも嬉しい。

「楽しみだね」

 そう言えば、アンリも深く頷いた。
 発情期明け間近の時間は、甘やかに流れていった。


 ◇◇◇
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