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本編
ぼくのパパは美しい人だ。息子のぼくから見てもしっとりとした艶めく髪、透き通るような白い肌、潤んだような瞳。だけどそれも口を開かなければだ。
今日もぼくの手をつないだまま、八百屋のおっちゃんと熱いバトルを繰り広げている。
「おっちゃんこのナスビまけてくれよぉ。ちょっとかたち悪いやん。安でけへんのやったらもう一本足してくれ~。」
そして、いつものウインク。一本増えたようだ。普段人に媚びたりするのが嫌いなくせに、ナスビ一本のためにウインクをする。びっくりするほどの守銭奴だ。
うちは値切らないとご飯が食べれないほど貧乏じゃない。多分。でっかい家ではないけれどそこそこキレイなマンション暮らし。パパはうちでパソコンをバタバタ打ってお金を稼いでる。なんの仕事かわからないけど『うひょ~』とか『オレ天才~』とか楽しそうな声がいつもしてるし、順調なのだろう。
八百屋さんの次は駅前のお肉屋さんで魔法のコロッケを手に入れる。パパが1個買うと3個おまけがついてくるから魔法のコロッケ。やれやれ。鼻の下をだれ~んと伸ばした肉屋の兄ちゃんはパパのことが好きらしい。報われないのにご苦労なこった。
パパは時間にもシビアだ。時は金なり。時間さえも値切る対象だ。どんなことでも即断即決。迷うのは三秒で十分らしい。三秒なんて実際見てるぼくには一瞬だ。
そんなパパとぼくの日課はスーパーへ毎日行くこと。お肉屋さんからママチャリでスーパーまで疾走し到着するや否やぼくを下へと降ろす。ぼくはすぐにポケットからストップウォッチを取りだし、パパが入口でぼくの顔をみたら「よーいスタート!」。
ぼくはパパが店内へと突進していくのを右目でチラッと確認するとお菓子コーナーへと早足で急ぐ。予め決めておいたお菓子と特売のお一人様1つ限りのたまごを掴むとレジへ並んだ。精算を終えエコバッグを広げて待機していると、パパがもう精算を終えやってきた。そしてエコバッグを置いたまま次に向かうのはチャリンコ。すぐに鍵をあけてパパを待ち到着と同時にストップウォッチをとめた。
「何分だ?」
「5分25秒!」
「よっしゃ!最高タイムだ!」
パパは片手で顔を覆うと天を仰ぎそのまま静止した。これは自分に酔っているのだ。パパは何も言わないけど、『オレマジ天才!今日もスーパータイムだ。』そう心の中の声が聞こえた。
パパはお気づきの通りかなり変な人だけど、何気ない日常を楽しむ天才なのだ。ぼくはそんなパパが大好き。
スーパーからでっかい声で歌を歌いながら家へ戻り、パパが冷蔵庫に戦利品を片付けている間に仏壇へ行く。
「父ちゃんただいま。今日もパパは楽しそうだったよ。」
そう今日の報告を仏壇の中の写真に告げた。ぼくの父ちゃんは去年亡くなった。3歳になってすぐだった。
ぼくのパパと父ちゃんはおぎゃあと産まれた産院からずっと小中高と同じ時を過ごした幼馴染だ。
高校を卒業する間際になって父ちゃんに病気が発覚した。先がない自分にパパを巻き込まないよう一度は別れようとしたらしいがパパは拒否した。
父ちゃんはぼくに何度もその話をしてくれたからパパがなんて言ったか覚えている。こんな時アルファは便利。記憶力も抜群だから。
『オレたちは今までずっと一緒だったんだから、他の夫婦に比べたって過ごした時間は全然短くない。前払いしてもらっただけじゃねぇか。それに、お前がオレの処女頂いたのだって13歳。精通して速攻だ。お前と番って、妊娠して、未亡人になっても、そのあと速攻で再婚してやる。だから、オレの先が心配だとかグダグダ言ってないでとっとと覚悟決めろ!
お前が死んでも絶対に泣かないし、一生笑って過ごしてやる。お前はなんでも考えすぎなんだよ。決断は3秒。それ以上は時間の無駄だ。もったいねえ。
それに、お前だってわかってんだろ?オレとお前は二人で一つだ。たとえ肉体が滅びようともオレたちの絆は誰にも断ち切れねぇ。お前ができなかったこと叶えられなかったこと全部オレが代わりにやってやる。』
父ちゃんはこの話をする時いつも照れくさそうなちょっと泣きそうな顔をしていた。でも、二人は結婚してぼくは産まれたけど最後の最後までパパの項は噛まなかった。だから、パパに噛み跡はなくプロテクターで保護してる。
パパは毎日『おはよー。噛め。』『いただきまーす。噛め。』と父ちゃんに迫ったがこれだけは絶対に折れなかった。
父ちゃんはぼくが3歳になるまで必死になって生きて死んだ。亡くなる時ぼくのことを頼む。パパを愛してると言う父ちゃんに笑って『任せとけ。オレも愛してる。』とパパは泣かなかったけど、亡くなった父ちゃんの口を開けると自分の手首を押しつけ歯をグイグイとおした。血が出てもギュウギュウ押し付けた。
『ケケケ。これで番成立だ。』
そんなことをしても番は成立するわけないのに。でも、それ以来パパはフェロモンも発情期もなくなった。
結局、未亡人になったら速攻再婚する約束は生涯守らなかった。それどころか恋人も作らないし、そんな気などサラサラなかったのだろう。ぼくが大学を出ると『世界一周してくる』と言って旅立っていった。どうやらなすびは旅費に化けたらしい。世界一周は父ちゃんの夢だった。
時々生存確認のようなライムが送られてくるけど、ぼくが知ってるようなアルファのハリウッドスターを椅子にしてふんぞり返ってるような謎の写真がいつも添付されている。パパはいつだって人生を楽しんでいたし、笑ってた。
そんなオメガなパパとぼくの話。
今日もぼくの手をつないだまま、八百屋のおっちゃんと熱いバトルを繰り広げている。
「おっちゃんこのナスビまけてくれよぉ。ちょっとかたち悪いやん。安でけへんのやったらもう一本足してくれ~。」
そして、いつものウインク。一本増えたようだ。普段人に媚びたりするのが嫌いなくせに、ナスビ一本のためにウインクをする。びっくりするほどの守銭奴だ。
うちは値切らないとご飯が食べれないほど貧乏じゃない。多分。でっかい家ではないけれどそこそこキレイなマンション暮らし。パパはうちでパソコンをバタバタ打ってお金を稼いでる。なんの仕事かわからないけど『うひょ~』とか『オレ天才~』とか楽しそうな声がいつもしてるし、順調なのだろう。
八百屋さんの次は駅前のお肉屋さんで魔法のコロッケを手に入れる。パパが1個買うと3個おまけがついてくるから魔法のコロッケ。やれやれ。鼻の下をだれ~んと伸ばした肉屋の兄ちゃんはパパのことが好きらしい。報われないのにご苦労なこった。
パパは時間にもシビアだ。時は金なり。時間さえも値切る対象だ。どんなことでも即断即決。迷うのは三秒で十分らしい。三秒なんて実際見てるぼくには一瞬だ。
そんなパパとぼくの日課はスーパーへ毎日行くこと。お肉屋さんからママチャリでスーパーまで疾走し到着するや否やぼくを下へと降ろす。ぼくはすぐにポケットからストップウォッチを取りだし、パパが入口でぼくの顔をみたら「よーいスタート!」。
ぼくはパパが店内へと突進していくのを右目でチラッと確認するとお菓子コーナーへと早足で急ぐ。予め決めておいたお菓子と特売のお一人様1つ限りのたまごを掴むとレジへ並んだ。精算を終えエコバッグを広げて待機していると、パパがもう精算を終えやってきた。そしてエコバッグを置いたまま次に向かうのはチャリンコ。すぐに鍵をあけてパパを待ち到着と同時にストップウォッチをとめた。
「何分だ?」
「5分25秒!」
「よっしゃ!最高タイムだ!」
パパは片手で顔を覆うと天を仰ぎそのまま静止した。これは自分に酔っているのだ。パパは何も言わないけど、『オレマジ天才!今日もスーパータイムだ。』そう心の中の声が聞こえた。
パパはお気づきの通りかなり変な人だけど、何気ない日常を楽しむ天才なのだ。ぼくはそんなパパが大好き。
スーパーからでっかい声で歌を歌いながら家へ戻り、パパが冷蔵庫に戦利品を片付けている間に仏壇へ行く。
「父ちゃんただいま。今日もパパは楽しそうだったよ。」
そう今日の報告を仏壇の中の写真に告げた。ぼくの父ちゃんは去年亡くなった。3歳になってすぐだった。
ぼくのパパと父ちゃんはおぎゃあと産まれた産院からずっと小中高と同じ時を過ごした幼馴染だ。
高校を卒業する間際になって父ちゃんに病気が発覚した。先がない自分にパパを巻き込まないよう一度は別れようとしたらしいがパパは拒否した。
父ちゃんはぼくに何度もその話をしてくれたからパパがなんて言ったか覚えている。こんな時アルファは便利。記憶力も抜群だから。
『オレたちは今までずっと一緒だったんだから、他の夫婦に比べたって過ごした時間は全然短くない。前払いしてもらっただけじゃねぇか。それに、お前がオレの処女頂いたのだって13歳。精通して速攻だ。お前と番って、妊娠して、未亡人になっても、そのあと速攻で再婚してやる。だから、オレの先が心配だとかグダグダ言ってないでとっとと覚悟決めろ!
お前が死んでも絶対に泣かないし、一生笑って過ごしてやる。お前はなんでも考えすぎなんだよ。決断は3秒。それ以上は時間の無駄だ。もったいねえ。
それに、お前だってわかってんだろ?オレとお前は二人で一つだ。たとえ肉体が滅びようともオレたちの絆は誰にも断ち切れねぇ。お前ができなかったこと叶えられなかったこと全部オレが代わりにやってやる。』
父ちゃんはこの話をする時いつも照れくさそうなちょっと泣きそうな顔をしていた。でも、二人は結婚してぼくは産まれたけど最後の最後までパパの項は噛まなかった。だから、パパに噛み跡はなくプロテクターで保護してる。
パパは毎日『おはよー。噛め。』『いただきまーす。噛め。』と父ちゃんに迫ったがこれだけは絶対に折れなかった。
父ちゃんはぼくが3歳になるまで必死になって生きて死んだ。亡くなる時ぼくのことを頼む。パパを愛してると言う父ちゃんに笑って『任せとけ。オレも愛してる。』とパパは泣かなかったけど、亡くなった父ちゃんの口を開けると自分の手首を押しつけ歯をグイグイとおした。血が出てもギュウギュウ押し付けた。
『ケケケ。これで番成立だ。』
そんなことをしても番は成立するわけないのに。でも、それ以来パパはフェロモンも発情期もなくなった。
結局、未亡人になったら速攻再婚する約束は生涯守らなかった。それどころか恋人も作らないし、そんな気などサラサラなかったのだろう。ぼくが大学を出ると『世界一周してくる』と言って旅立っていった。どうやらなすびは旅費に化けたらしい。世界一周は父ちゃんの夢だった。
時々生存確認のようなライムが送られてくるけど、ぼくが知ってるようなアルファのハリウッドスターを椅子にしてふんぞり返ってるような謎の写真がいつも添付されている。パパはいつだって人生を楽しんでいたし、笑ってた。
そんなオメガなパパとぼくの話。
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