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一章
③
しおりを挟む軽蔑の眼差しを送り続ける山形君の視線が痛いがまぁ、いい。
「人間はどうせ、自分の事しか考えられない生き物なのさ」
「………うーん、慶次君がそれで良いなら構わないけど、後で謝っておいた方が良いと思うよ。色々と」
「え、何故に?」
理解不能といった様子でおちゃらけていたら、深い溜め息をつかれた。解せぬ。
「…………。慶次君」
本の整理が終わり、漸く一息ついた様子で、イスに腰掛ける山形君に呼ばれて、ぼんやりと窓の外を眺めていた顔を上げる。
「んー?」
「不躾な質問だって分かってはいるんだけど……慶次君はさ、このままお兄さんと和解する気、ないの?」
「………はい?」
一瞬、何を訊かれたのか理解が遅れた。
いきなり何をそんな、と山形君をガン見したが、質問をする山形君の方はただ一般的な世間話を振るように、純粋な疑問をぶつけてきただけのようで。
むしろ話題を振られて咄嗟に動揺してしまった僕を見て、しまったとばかりに慌てて謝ってきた。
「あ、ごっ、ごめんね。いきなりこんな質問…!」
「いや、平気だけど。いきなりどうしたの?」
頭を何度も下げてアワアワと慌てる山形君を宥めて、頭を掻く。
アレ(兄)と僕の事情を知っているのは、何も広太だけではない。山形君とは軽くではあるものの、お互いの身の上を語れるほどの仲だ。
事情を知っているからこそ、この質問を投げかけてきたのだろう。
だけど、当の僕がその質問の意味を理解することが出来なかったんだ。
何故、そんな今更どうにもならなくて、どうにかしようとする気もない事をやる意味が。
「和解って、和解するもなにも僕とアレは最初から他人も同然に育ってきたからなー」
「それは……血の繋がりはあるのに、不思議な話だよね」
「そうかー?そんなに珍しくもないと思うけど」
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