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一章
⑤
しおりを挟む……人間は、どうにもならない危険を目の前にすると、現実逃避に走るらしい。
「よぉ、おかえりハニーちゃんよぉ~」
「……テンメェ…!!」
午後の授業を全て終えさぁ、愛しの我が部屋へとスキップで向かうこと数分。
ルンルン気分で玄関の鍵を解除、乙ゲーのキャラソンを鼻歌まじりにリビングの扉を開けた瞬間、目の前で広がる光景に持っていた学生鞄を落とした。
何故だ。
「お前にどうしても会いたがってたからさぁ、良心の塊である俺は断れなかったんだよなぁ」
「お帰りー、お邪魔しとるで」
「邪魔してると思ってるなら帰ってください。帰れ」
「ヒドいお人やなぁ。もうちょい愛想よくせんとモテへんでー」
「…………。」
四つん這いでその場に項垂れる僕を見て、ニタニタ笑う二人の男。
一方は親友だと思っていた元薬指、広太。
もう一方は…ミジンコ(兄貴)とはまた違った良く言えば苦手意識をもつ赤髪男、またの(あだ)名をオカンである。
何やら仲睦まじく、茶を啜りながら隣り合わせでソファーへ腰掛けている野郎共の姿に、イライラします。あれ?いとうあ○こ?
ニタニタニタニタ気色悪いことこの上ない状況に、とりあえず落ちた鞄を両手で拾い上げ、抱き締めて小さく俯いた。
「そんなっ……浮気、なのね…っ。僕というものがありながら…!!」
視界の先でピクッと動いた広太に、心の中でニヤリと笑う。
「なっ……!? 違うんだ、これは…!!」
駆け寄って、誤解を解こうと腕を掴んできた広太の手を払った。
「いいの……僕が悪いんだから。広太は僕に愛想尽かしただけっ…ふっ」
小刻みに震える身体。唇を噛み締め、こぼれ落ちそうになる涙をぐっと堪える。
さっき注した目薬だけど。二度注ししたFXネオだけど。
「っ、慶次……すまない。泣き止んでくれ、誤解なんだ」
僕の涙を優しく指の腹で拭い、両肩に手を置く広太を黙って見つめた。
「俺は…ただちょっと…………違う味が試してみたかっただけなんだ!!」
「だと思ったぜ死ねゴラァー!!」
「ごぶっふぁ!?!?」
隙だらけの奴のお腹に膝蹴り一発。
痛みで唸り転がる広太を放置して、置かれていたお茶を豪快に飲みほした。
浮気者には死を。これ鉄則。
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