僕の兄は◯◯です。

一章

⑦

　喋るたび、強くなっていくアイアンクロー。ちょっ、痛い痛い痛い！


可笑しい、初対面時のときでさえ敢えて自己紹介を避け、執拗に求められれば水瀬と嘘をついたはず。


苦し紛れの嘘だ、バレるのなんざ承知の上で行った行動がまさかこんな早くバレてるなんて。しかも一番知られたくなかった情報のおまけ付きで。


田村の姓はこの学園でも少なくない。なのに何故、バレている？


驚く僕の思考を読んでいたのであろう。クッと笑いを噛み締めた赤髪先輩は、アイアンクローした手を離してそのお綺麗な顔を近付け、口を開いた。


「幸君を盲目的に、脇目もふらず、追い求めるのは単なる屑のすること。確実に手に入れるには、ここも必要だと……そう思うやろ？　な、弟君」


「………。」


自身の頭をトントンと人差し指で小突く赤髪先輩の笑みは、まるで獲物を捕食する前の野獣のよう。


ゾクゾクッと背筋を駆け巡るこの感覚は正しく……っ。


「ぜひ協力させてください」


この感覚は正しく興奮ですっっ。


まさかこんなとこで、腹黒オカンという素敵スペックを備え持つ人が存在していたとは。なんたることだ、素敵!!


汚れなきキラキラとした眼で興奮気味に強制握手を交わしたら、物凄く驚かれた。なぜに？


「……あんさん、利用されるって分かっててソレ言うてんの。アホなん？」


「え、協力するのに何故罵倒された？」


理解できないものを見るような眼差しを向けてくる相手から、スッと横へ顔をそらす。やめてその視線。心を閉ざす。


ぶっちゃけアレ（兄）が誰と付き合おうが、興味関心がこれっぽっちもない。アレ対策に僕の存在が誰かしらに利用されようが、手酷く捨てられようが本当にどうでも良いのだ。


僕の視界からアレを消してくれるのなら、なんだって。


　僕の態度でなんとなく察したのだろう。赤髪先輩は少しだけ思案すると小さく息を吐き、いつも浮かべている貼り付けた笑顔を、またこちらに向けた。


「変わってるな、あんさん」


一番変わってる人に言われたくない台詞を零して。