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第一章

第六話 ヴァランデル -7-

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 フォルターさんは一度王の元ヘ行き今回の顛末を話すということなので、戻ってきてから結婚を正式にする旨を伝えた。
 フォルターさんが再び店に戻ってきたのは2週間ほど経ってからで、その時には結婚祝いだという品を大量に持って店に現れた。
 その後、フォルターさんが戻ってきたことを聞きつけいつもの顔ぶれが店に押しかけてきた。アブゾルフ達は貴重な野草や薬の数々を、ロルフ達はギャング時代の隠し金庫の宝物の一部を祝いの品として渡してくれた。
 そのまま流れで結婚をアルに申し込んでしまったが、仕方ないと笑いながらもアルはそれを受け入れてくれた。






 それからというものの、それまでと同じように日々は過ぎていった。
 住む場所が変わったとはいえアブゾルフはマルファと共に暮らしているし、ロルフもレーアと暮らしている。
 フォルターさんも仕事の合間合間には酒場に顔を出してくれている。

 勿論変わったことも多い。俺はほとんど帰ることのなかった前の家を引き払い、この酒場の2階でアルと暮らすようになった。
 そして銀の薔薇は無くなった。9本の薔薇を鍛冶屋で鋳直しそれを買い取ってもらうことで俺とアルとの結婚資金としたのだ。
 ペンダントは、アルの希望でそのままにしてある。魔除けなんだから捨てられるわけないじゃない、ということらしい。
 ただ、今あの店は看板を下ろしてある。新しく看板を作っているから休業中なのだ。

 そして昨夜、看板が完成したということで取り付けて貰った。明日の朝の開店までは布を掛けてあるため、未だに俺は看板の姿を見ていない。

 開店初日の朝も昔と同じように太陽が昇るよりも前に家を出る。昔と違うのは隣にアルがいることくらいだろうか。
 外へと繋がる扉を開けると既に店の外には5つの影があった。アブゾルフと、彼に寄り添うマルファ、少しだけ眠そうなロルフとレーア、そしてフォルターさんだ。
 アルと共に屋根に降り、看板の方へと歩く。そしてアルと2人でそれぞれ看板の右側と左側にある布を止めている金具を外し布を持った。
 呼吸を合わせ、布を取り払う。そして、それを見計らってアブゾルフが声をかけてくる。
「なあ、ヴァラン。今日もこの店は閉まったままかよー」
「いや。ヴァランデル酒場、本日営業中だ」
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