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しおりを挟む目がポッカリと開く。
俺、寝てた? 見慣れない天井だ。いつの間にかベッドに移動している。
体中が痛い。全身だるい。特に下半身が痺れたように重くてだるい。
起き上がろうとして気が付く。
俺の腹の上に何かが乗っている。腕?
腕をたどって見ていけば、腕の持ち主は高橋だった。
高橋が俺に腕をガッツリ回して寝ている。
俺を体調不良にした原因のくせして、気持ち良さげに寝やがって。俺は高橋の鼻をつねった。
もちろん思いっ切り。
「うわっ」
高橋は一気に目を覚ますと、自分の鼻をつねっている俺を見てフニャリと笑う。
あら可愛い。なんてね……思うかっ!
「高橋っ。お前どういう了見だよ。なんなの。いったい何なの。人をお婿に行けない身体にしやがって! 前世だったらおまえは強制わいせつ罪? 未成年保護法違反? とにかく犯罪者っ! おまえ犯罪者だからなっ。いたいけな少年に何してくれちゃってんだよっ」
ビシリと指を突きつける。
一応この世界の俺は15歳で成人はしているが、前世では未成年だ。
高橋は俺に捲し立てられて、一瞬ポカンとしたが、すぐに指差した俺の手を両手で包みこむと、自分の頬に擦り付ける。
行動が解せぬ。犯罪者が嬉しそうな顔を見せるな。
いくら魔王様だといっても、こんなことしちゃ駄目だ。
そうは言っても俺は下男で高橋は魔王様。どんな犯罪行為だろうが無体なことをされようが、俺は高橋を罰することはできない。
理不尽なことは、この世界に生まれてきてから幾度も体験してきたことだ。平等なんて考え自体が、この世界には存在しない。
高橋が何故こんな行為に走ったのか謎だ。とは思わない。だいたい分かるから。
俺が帰るって言った途端に高橋は豹変したからな。高橋は俺がいなくなることを恐怖したんだろう。また孤独になると思って。
他にもいるのかもしれないけど、今この世の中に前世持ちは俺と高橋だけしかいない。
本当の自分を知っていて、共感してくれる唯一の存在が俺だけだから。
偽らなくていい相手が俺だけだから。
高橋は俺を手放せない。
だからといって、こんな行為、許さないけど。
そういえば前世の高橋は陽キャな一軍男子だった。彼女は通常装備品みたいに、いつもいた。回転率は速かったみたいだけど。
そんな高橋だから、俺を引き止める手段がこれしか思い浮かばなかったんだろうなぁ。
焦ったのか、他の方法を知らなかったのか……。
間違っている。
やり方が間違っているぞ高橋。陽キャの常識は前世陰キャだった俺には通じない。押し付けるんじゃない。
俺はため息を一つ吐くと、高橋から掴まれていた手を振りほどき、起き上がろうとシーツを剥ぐ。
びっくり。
俺は素っ裸だった。
高橋はバスローブみたいなのを着ているのに、俺はすっぽんぽん。
あんなにグチョグチョだったのが、サラリとしているけど、手間をかけるなら下着ぐらい着せとけ。
「ぐがっ」
何か着る物を探さないと。
ベッドから出ようと身体を動かすと、思いがけない所に思いがけない痛みが走って、ベッドへと突っ伏してしまった。
腰が死んでいる。
「大丈夫か?」
慌てて高橋が俺の身体を支えてくれる。
ありがとう。とは言わない。お前が原因だからな。
「触るな高橋。パンツを履かせろ」
身体に無理できないから力が入っていない手で高橋を振り払う。
「ああ、分かった」
俺の対応に、嫌な顔どころかご機嫌な高橋が、手をパンと一つ叩いた。
お姫様ベッドっていうの? ベッドの周りに紗みたいな半透明の布が垂れているやつ。
その布が支柱ごとに、どんどん括り付けられていく。
いきなりのことに俺は固まる。だってベッドの周りに人がいた。同じ室内に人がいたんだよ。それも何人も!
侍従みたいな人が数人いて、作業が終わると高橋の前に膝を付く。
ちょっと待って。いつから君たち居たの?
ずっと居た? もしかして、ずーっと同じ部屋の中に居た?
いくらベッドに布が掛かっていたとはいえ、見えたよね? やっていたことは分かったよね。
俺、声が出てた。メチャクチャ声が出てたよ!
「うわあっ高橋。人が、人がいるっ。聞かれた。絶対に聞かれたよっ。どうする。どうすりゃいいんだよ。恥ずかしいっ。メチャクチャ恥ずかしいぃ!」
俺はパニックになる。
「うがっ!!」
俺は慌ててシーツの中に潜り込もうとして、またも痛みに撃沈する。
憶えてろよ高橋!
高橋がそっと俺をシーツで包んで、そのまま抱きしめる。
「お前たちは部屋から出ていけ」
「ですが……」
侍従さん達の先頭の人が何か言おうとして、高橋から睨まれ口をつぐむ。
そして、全員が音も立てずに部屋から出ていく。
凄い身のこなしだ。隠密とか?
「高橋……」
「どうした。痛むか?」
「パンツ」
「ああ、そうだったな」
高橋はテーブルに準備されていたらしい下着一式を俺に渡してくれた。
残念なことに自力では着ることができず、高橋から手伝ってもらう。
凄いな、このパンツ絹じゃないか? ツルツルしてる。
下着を身に着け、ひと段落できた。
服も着たいが、服は見当たらない。それに高橋に抱きしめられていて動けない。
高橋は、俺の頭にチューしたり、ほっぺをプニプニしたりと、やりたい放題だ。
この状態は何だ?
俺が陽キャだったら『一度ヤッたぐらいで彼氏ヅラすんな』とか言っちゃうのかな。残念なことに俺は筋金入りの陰キャだ。
今から高橋を説教しよう。
こんなことをされて俺は黙っちゃいない。高橋に真摯な謝罪を要求するし、なんなら賠償もさせよう。
俺は仕事をさぼってしまったのだから。
「いいか高橋、よく聞けっ「コンコン」」
続く言葉はノックの音で遮られた。
「陛下。予定が詰まっております。お急ぎください」
扉の向こうから、男性の声がする。
考えてみれば高橋は魔王様なのだから、仕事は庭師見習いの俺よりも比較できないほど多いだろう。
こんな所で下男を抱きしめている暇なんて無いはずだ。
「チッ」
高橋が顔をしかめて舌打ちしている。
高橋さん。魔王様が下品なことをしてはいけないと思います。
美形がしてはいけない態度だと思います。
高橋は俺の頭にチューを一つすると、部屋から出て行った。
人払いをした部屋の中に俺だけが残された。どうすればいいんだ、この状況。
動けないから高橋を追って行くこともできない。
しょうがないから、俺はまたも寝ることにした。
だから動けないんだよ。
それに、この世界で初めてのフカフカのお布団。
寝るしかないだろう。
家族が心配しているだろうから連絡したいし、仕事も残ったままだから、早く帰らなきゃいけない。
身体が少しマシになったら部屋から出ようとは思うけど、下着しか着てないからどうするべきか。
まあ、今は歩いて帰れといわれても無理だし。ひとまず現実逃避して寝ることにする。
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