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しおりを挟む監禁継続中の俺ですが暇です。何にもすることがありません。
アルバンさん曰く、俺は部屋の中に監禁されているわけではないから、王宮から出ないなら、どこに行ってもOKとのこと。
だけど無理。
何が無理って部屋から一歩出ようものならゴツイ騎士達が、いつの間にか集まってくるんだよ。そして俺の周りに壁を作る。
それで集団行動って勘弁してください。部屋から出るのはパスの方向で。
いったい、いつになったら帰れるんだろう。高橋に聞く耳は無いし、アルバンさんにそれとなーく帰りたいって訴えても、それとなーく話を逸らされるし。
ため息を吐きたくもなるよね。
「無聊をお慰めする物をお持ちしたいのですが、本や遊戯道具など何か希望の物はございますか」
アルバンさんが俺を気にかけてくれるけど ”ぶりょう“ って何?
アルバンさんはボードゲームみたいなものをいくつか用意してくれたけど、やり方が分からないし、一人ではできないものばかりだ。
忙しそうな侍従さんに相手をしてもらうのは気が引ける。
オセロを手作りして高橋が来た時に対戦したことがあったけど、一回も勝てなかった。
わざと高橋が負けそうになった時は、また高橋の鼻をつまんでやった。高橋は笑っていたけど。
高橋は楽しそうだったけど、忙しい魔王様を暇つぶしに付き合わせたらいけないだろう。止めておく。
アルバンさんは本も用意してくれると言った。
本!! 俺は本が大好きだ。前世では本の虫でした。いっつも本を読んでいる、もやしっ子陰キャでした。
ああ、本が読みたい。
読みたい、読みたい、読みたい。
本が読めるなら、いっくらでも監禁されていてもいいっ!
そう、本が読めればね……。
この世界は格差社会。今生での俺の身分は下男。
下男の俺は教育なんて受けてはいない。
俺は文盲だ。
本があっても読めない。こんなチャンスは、もう2度と訪れないだろうに。
朝から晩まで働いている時は、そんなこと考える暇はなかったけど……。
本が読めない。大好きな本が一生読めない。
結構キツイ。
今生は生きていて辛い。
「あの……。紙を、紙を貰ってもいいですか。それとペンを」
「すぐにご用意いたします」
たぶん俺は、泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
アルバンさんが、少しほっとしたような顔をして請け負ってくれたから。
この世界では紙もペンも高級品だ。
生活にやっとの親に、高い嗜好品を頼むなんてことは出来ない。
それに文盲の俺が紙やペンを欲しがったって、何のためにと相手にはされなかっただろう。
アルバンさんは、あっという間に紙とペン(高級品)を用意してくれた。
この部屋に来てからの俺は、何かを欲しいと言ったことは無い。前回高橋が俺に貢いだ(?)品物は、部屋の隅に積まれたままだ。俺には必要ない物ばかりだったから。
何箱かあった食べ物だけは、そのままにしておくこともできないから、遠慮する侍従さん達をなんとか説得して一緒に食べた。侍従さん達は美味しいと言って喜んでくれたけど、俺には高級すぎて美味しいとは感じられなかった。味覚も貧乏人なんだろう。
目の前にドーンと何枚もの紙と何本ものペン。それにインク壺。
凄い。
一体幾らするんだろう。値段のことを考えたら、気が遠くなりそうだ。
でもね、紙だよ紙。それも上質そうなやつ。
「あの、これ使ってもいいんですか?」
「もちろんでございます。」
アルバンさんが、イケおじ様の笑顔で答えてくれる。
俺は早速ペンを取る。
そして、書く。書く。書く。
文盲な俺が書くのは勿論日本語だ。
侍従さん達は、俺が謎の記号を延々と書いていると思うだろうけど、楽しいから見ないフリでお願いします。
メチャクチャ楽しい。
ひらがな書いたりカタカナ書いたり。
思いつく限りの文字を書いていく。
前世を思い出しながら、小さな文字で隙間なく書いていく。
紙がもったいないからね。
あ、“薔薇”ってどう書いたっけ?
うーん、“鬱”は無理だな、思い出せない。
やっぱり使っていなかったから、忘れている文字が多い。漢字がなかなか思い出せない。
監禁されてから、初めて俺は楽しく過ごしている。
あんまり熱中しすぎて、落書きしながら寝落ちしてしまった。
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