魔王様は俺のクラスメートでした

棚から現ナマ

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12 高橋視点③

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ミルは賭けをしようと言った。自分が誰なのかを見つけろと。
だから俺も賭けをしよう。ミルを見つけるために。

今生で生活が全て変わってしまった俺達は、前世と全く同じとはいえない。生きていくために、前世の自分とは様々なことが変わってきている。
でも、本質は変わらない。
自分は自分。ミルはミル。
だから、ミルを見つけ出すために俺は賭けをする。
あの俺の心に浮かび上がるクラスメートとミルが同じ人物なのか知るために。


ミルは本が読みたいと思っているらしい。
でも文盲のミルは本を読むことができない。文字を習ったとしても、本が読めるようになるのは少し先になるだろう。
だから俺が本を書こう。日本語の本を。

用意させた紙とペンを取る。
そして記憶に残っている物語を書き始める。

ミルとの約束の時間が迫っているから、長い小説を書くことは出来ない。
前世で読んでいた小説。暇つぶしに読んだ電子書籍の小説。
ミルの好みは分からないから、記憶の中に残っている小説の中から短いものを選ぶ。
ストーリーを思い出していくが、さすがに一言一句憶えてはいない。
なんとか文章にして紙に書き出していく。

大量な執務の合間を見つけては書き綴っていく。
ストーリーを憶えているとは言っても、初めてということもあり、文章に書き起こすのは、なかなか難しい。
時間が差し迫っているという思いが焦りを呼んで、なおさら上手くいかない。
たった1篇の小説を書き出すだけに、ミルの言った期日ぎりぎりまで掛かってしまった。

出来上がった小説を手に、はやる心のままに家庭教師から勉強を習っているミルの元へと向かう。

「うえー。この歳になって勉強するとは思わなかったよ。文字分かんねー。何この文体、理解できないっての」
鼻の下にペンを唇で挟んでブーブーと文句をいっている。
家庭教師は、孫よりも幼いミルを微笑ましく見ているし、アルバンはお茶とお菓子を準備して待機している。
ミルを甘やかしたくて、たまらないようだ。

「勉強は、はかどっているか?」
「おう、高橋」
ミルが俺に向かってヒラヒラと手を振る。

賭けの話しをしてからのミルは、帰れる日にちが決まったと思ったのか、もう帰るとは言わなくなった。
俺に対しては、クラスメートの気安さで接してくれる。
接触禁止令は出たままだが。

「今日の授業はここまでにしましょう。次の授業までに3ページ書き写しておいてくださいね」
家庭教師は先に俺に挨拶し、次にミルに声を掛けるとミルの頭を撫で、部屋から出て行った。

「うわ~。宿題とかマジかんべん」
「とても覚えが早いとエイダ先生も褒めていましたよ」
アルバンがお茶とお菓子をテーブルへとセットすると、ミルの頭を1つ撫で、一礼して出て行った。

お前達ミルに対して、親しすぎないか? なぜ触る必要がある。
二人が出て行った扉を恨みがましく見てしまう。

「おう高橋どうした。変な顔して」
「いや、何でお前は誰にでも頭を撫でられているんだ」
「へ。じいちゃん先生とアルバンさん? 優しいよ」
「だから、どうしてそう簡単に触らせるんだ」
「??」
首を傾げるミル。分かっていない顔だ。全然分かっていない。
自分の狭量さが嫌になる。

「そうだ。これをお前にと思って持ってきた」
自分が書いた小説をミルへと渡す。
全部で42枚。思ったより長くなった小説。
ただ紙を綴じ、厚紙の表紙と裏表紙を付けただけの物だ。

「何?」
ミルは不思議そうに、渡された物を手に取り表紙を見る。

「日本語じゃんか……え、これ何?」
表紙を見て驚きの声を上げると、急いで表紙を開き、中をめくって見る。

「えええっ。これ本? うそっ。高橋、これ小説じゃないか? それも日本語だよ。日本語の小説。本だよっ本っ! 高橋、これどうしたのっ」
「俺が書いた」
「高橋が……」
ミルは呆然とした顔を俺に向ける。

「すごいっ!! 凄いよ高橋。本を書くなんて、お前凄いな。本だよ本。これ読んでいいの? この本、読んでいい?」
「勿論だ」
ミルはテンションMAXに興奮しまくりだ。
薄い本を胸に抱き、いそいそと窓辺に置いてある椅子の元へと行く。
お茶やお菓子に目も向けずに、椅子に座ると本を読みだした。
余程嬉しいのか、俺のことも眼中にないようだ。

窓辺に座るミルを見る。
その美しく伸びた姿勢。華奢な首筋。少し微笑んで、本に視線を落とす横顔。
ああ、そうだったな――。
クラスメートとピッタリと重なる。
いつも窓際で一人本を読んでいたクラスメートがここにいる。
ミルとクラスメートが重なって、一人になった。

「伊織……。三島伊織」
思わず零れた言葉に、ミルが弾かれたように振り向く。

「ど、して……」
信じられないものを見るような顔。
大きく見開かれた瞳には、徐々に涙が盛り上がってきている。

「お前が窓際でいつも本を読んでいたのを知っていた。俺が挨拶したら小さい声だけど、必ず返事してくれていたのを知っていた。俺はちゃんと伊織を憶えているよ」
「たか、は、し……」
ボロボロと涙を溢れさせながら、動けない伊織に俺はゆっくりと近づいて行く。

「伊織。やっと見つけた」
そっと華奢な身体を抱きしめた。
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