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13.
しおりを挟むヤバイ。
高橋がヤバイ。
ベタベタのイチャイチャだ。接触禁止令の存在すら無くなってしまっている。
高橋が俺の名前を思い出し、俺が賭けに負けてしまったから高橋が図に乗っている。
おかげで家には帰れない。
だけど家族を王宮に呼んでもらって、会うことは出来た。
俺が家族に会って里心がついて、家から戻ってこないかもしれないと、高橋が恐れてこうなった。
表向きには俺は王宮で働いていることになっているから、家族を呼んだのは使用人控室だったけど、家族との感動の再会にはならなかった。
家族の待つ控室にやってきた俺に、高橋が抱き着いたままだったから。高橋が俺を放さなかったんだよ。
逃亡阻止の意味合いもあったんだろう。控室にまで付いてきやがった。
こんなのを見せられれば、家族からは俺が王宮で働いているんじゃなくて、王宮関係者に囲われて帰ってこられないんだと思われたはずだ。
それが正解なんだけど、俺を抱きしめたまま、渡さないと言わんばかりに家族を威嚇していたのが魔王様だとは誰も分からなかっただろう。
俺の家族は遠目にも魔王様を見たことはないから、俺から『うっとおしい』と殴られている人物が魔王様本人だとは思わないだろう。身なりからして身分の高い人だとは分かるけど。
家族は俺との再会を喜ぶよりも、高橋に気をつかっていた。それでも久しぶりに会えたから俺は嬉しかった。
賭けに負けた俺は色々と受け入れている。
受け入れているが……。こんな状態、受け入れられるかーっ! 俺はちゃぶ台をひっくり返したい。この世界にちゃぶ台は無いけど。
なぜなら今の高橋は、俺を膝の上に乗せて上機嫌でお食事中なのだ。
「高橋、いいから俺の言うことを、うぐっ!」
「ほらほら、こぼれるぞ」
人が喋っている時に、料理を口の中に突っ込むな。
「モグモグ……だから、俺の話を、むぐっ!」
「今度のはどうだ。お前の好みに合うように、少し甘口にするように言ってある」
「モグモグ……うん、美味しい。じゃなくって、俺はこんな食事方法を受け入れていない」
もうヤダこの人。
賭けに勝ったからって、図に乗りすぎ。
高橋にすれば、楽しい食事時間かもしれないが、俺には羞恥心ってもんがあるんだよ。
大量の仕事があって、なかなか俺との時間がとれないから、食事を一緒にって言われた時は、俺も素直に喜んだのに。
俺に会いたいと思ってくれたのは嬉しいから。
だけど、これ(膝抱っこ、あーん付き)は無い。
周りの白い目をお前も少しは感じろ。なんなの、そのスルースキルの高さ。俺の身にもなってみろ。
侍従さん達の生温い視線から、早く逃れたい。
「伊織。俺の名前を憶えているか、苗字じゃなくて名前」
「名前? 透……。高橋透だろう」
「正解」
食事がやっと終わった後、高橋の部屋へと場所を替える。
今日は仕事に戻らなくてもいいらしい。高橋が嬉しそうにソファーに座った俺を、またも膝の上に乗せる。
「今度から透と呼べ」
「えっ?」
透と呼べって……。なにを言い出しているんだよ。
元クラスメートとして、まあ名前を呼んでもいいかもしれないけど、陰キャの俺にはハードルか高い。
恥ずかしいじゃないか。
「た、高橋は、高橋でいいじゃん」
「ダメ」
「なんでだよっ」
「だって、同じ苗字になるのに、おかしいだろう」
「同じ苗字って、何が?」
高橋を仰ぎ見て、首を傾げてしまう。
「お前も高橋になるんだから」
にっこりと高橋。
「た、高橋さん。それは、どど、どーゆーことで」
なんかこれ以上聞いちゃいけない気がする。
逃げた方がいい気がする。
それなのに、高橋の手はガッチリと俺の腹に回されていて、膝抱っこから逃れられない。
てゆうか、手の力が強くなってない?
「だって結婚するから」
「ふぁっ?!」
俺の顔を覗き込むようにして放たれる、高橋の魅惑の微笑みが恐ろしい。
俺と一緒にいることが多くなってきて、高橋は前世のチャラさが戻ってきていると思う。
簡単にかるーく、怖いことを言ってのける。
だから、だから、リア充とは付き合いきれないんだよーっ!
「た、たたたた、高橋さんっ。な、なななな何を。なにを仰っているんですか」
「ぶはははっ。どうした伊織。お前、喋り方おかしいぞ」
「おかしい違うわ。笑うな高橋。おまえこそおかしいことを言っているぞ。冗談はやめろ」
「透ね。冗談じゃないし」
「じょ、冗談じゃないって……。マジ?」
「マジ。俺は賭けに勝ったからね」
「それはそうだけど」
俺の返事に高橋がニイと笑う。その笑い方、何かヤダ。
「賭けをする時、伊織が言ったんだよ。伊織が賭けに負けたら、愛人でも嫁にでもなってやるって」
「え、俺そんなこと……」
「言った」
きっぱりと断言する高橋。
俺、そんなこと言ったっけ? あの時は勢いで高橋に啖呵を切ったから、何を言ったのか、ハッキリとは憶えていない。
「俺は愛人が欲しいわけじゃない。伊織と一生添い遂げる。ぜったい結婚する」
高橋が俺の左手を取って、薬指にキスをする。
「で、でも、高橋は魔王様で、俺は人族の下男だし。だって俺男だし、だって子どもだって出来ないし。高橋そんな結婚なんて、どうするんだよ」
「透ね。だって多すぎ。俺は魔王で伊織は下男だけど、それが何か?」
「それが何かじゃねーだろ。普通無理だって」
ふん。と嫌そうに高橋は鼻を鳴らす。
「伊織。俺の職業は何」
「え、職業……。魔王様?」
「何で疑問形。そう俺は王だよ。この国で一番偉い王様だよ。俺に指図できる奴はいない。それに、俺は国王だから俺が法律ね」
偉そうな高橋。いや、偉いんだけど。偉いんだろうけど。
国王ってだけで、ごり押しで人族の男を嫁にしようって、間違ってない?
「それにさぁ、俺って魔族じゃん」
高橋がまたもニィと嗤う。
怖い。
俺は逃げ道が奪われていっている気がして、冷や汗を浮かべるのだった。
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