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連載
69. 王宮にて
しおりを挟むクレアは未だ王宮暮らしを続けている。
意識が戻ってすぐ、学園の寮に戻ると言ったのだが、クレアの意見は聞き入れられることなく現在に至っている。
クレアが意識不明から回復した時、目覚めた場所は、王子妃の部屋だった。
ライオネルの私室と内ドアでつながっており、行き来自由だ。
超豪華な部屋で慌てふためいたクレアが、学園の寮に帰りたいと申し出たのだが、ライオネルから「看病しやすいから」の一言で却下されてしまった。
ライオネルがクレアのことを大切な家族と思ってくれているのは凄く嬉しいのだが、お嫁さんが来た時、姑が部屋を使っていたと知ったら気持ちのいいものではないだろう。
クレアはライオネルにちゃんとその旨を伝えたのだ。
それなのにライオネルには「え、内装気に入らなかった?すぐに替えさせるよ」と、見当違いの返事をされてしまったのだ。
今日も今日とて超豪華な部屋のソファに並んで座り、攻防が続く。
「そろそろ学園の寮に戻ろうと思うの」
「分かった。なにか足りない物があるんだね。ごめんね、気が付かなくて。何でも言って、すぐに揃えるよ」
「違うの、そうじゃないのよ。私みたいな下級貴族の娘が王宮にいるなんて身分不相応でしょう」
「フフフ、またそんなことを言って。クレア以外この部屋を使う人はいないよ」
ライオネルは柔らかな笑みを浮かべながらクレアの頬をそっと撫でる。
クレアはまだ知らない。
ライオネルが様々な手を使い、クレアの外堀を埋めていっていることを。
ライオネルはクレアが女の子だと知った時から、クレアを自分のお嫁さんにすることに決めていた。
そしてそれは決して変えることのない決定事項であり、クレアと再会した時に、もっと強い思いとなったのだ。
「だいたい僕の側近たちと仲が良いって、どういうこと?」
ライオネルの胸に暗い思いが渦巻く。
自分はクレアがこの学園に入学していたことを知らなかった。
クレアは一生懸命自分に会うため、様々な努力をしてくれていたみたいだが、あの教会にクレアが来てくれるまで、1年近くも会えなかったのだ。
その上、いつの間にか自分の側近たちと敬称無しで呼び合うほどの仲良しになっている。
「許せないよねぇ」
側近たちが見たら青い顔を白くさせる程の笑顔を浮かべる。
「ねえライ、聞いてる?」
「うん、もちろんだよ」
クレアの呼びかけに、蕩けるような瞳を向ける。
柔らかな優しい貌だ。決して胸の内の黒い塊はクレアには見せない。
王宮の生活の中で、少しずつライオネルの胸の中に澱んでいったものだ。
だが、これが役に立つだろう。
クレアをこの手から離さないためなら、なんでも使うまでだ。
クレアが意識不明から目覚めてすぐ、国王陛下が見舞いに来た。
クレアはパニックになり『不敬が~、不敬が~』と、念仏のような言葉を延々と発していたが、ライオネルは逃げ出しそうなクレアを捕まえながら、にこやかに国王陛下と対峙した。
「クレイ、父上がいらしたよ。
父上、クレイを見舞ってくださり、ありがとうございます」
にっこりと笑顔を国王へと向けた。
入室してきた国王が固まる。
国王だけではない。部屋にいた全ての者たちが固まった。
侍女長のナナカしかり、侍女たちしかり、護衛騎士たちしかり。
ライオネルが人形のような顔をしていない。
それどころか国王へ笑顔を向けた。
そして、そして、なんと国王のことを『父上』と呼んだのだ。
今までライオネルは感情の無い顔で、国王のことを『陛下』と呼んでいた。決して自分の親とは認めていなかったのだ。
国王は、そのことに対して苦言を呈することはなかった。
荒んでしまったライオネルの心をおもんばかり、何も言うことはなかったのだ。
(父上、父上、父上……)
国王の心の中で、ライオネルの言葉がリピートされる。
そして、じわじわと喜びが湧き上がってくる。
長年の王様業のたまもので、国王は無表情だった。いや、柔らかい笑みを口元に湛えたままで、平静に見えた。
外見上は。
だが、心の中は暴風雨だった。
(ライオネルが私のことを父と。父と言ってくれたっ!父上だと、父親だと、ライオネルがーーーっ)
国王は愛するラーラとの子であるライオネルのことが可愛くて堪らない。だが、最初の出会いから失敗してしまい、親子としての触れ合いができずにいた。
ライオネルから徹底的に拒否されていたのだ。
それなのに、それなのに。
クレイと一緒にいるライオネルは自分のことを父と呼んでくれる。
それどころか笑顔を向けてくれるのだ。
もうクレイ一生王宮に居ていいよ。ライオネルの側に居てよ。
国王の心は暴走しだす。
ライオネルがあれ程会いたいと願っていたクレイが見つかったのだ。
一緒にいるのは決定でいいだろう。
ならばどうする?
クレイという少年だと報告を受けていたが、蓋を開けてみると、少女だった。
女性だったのだ。
いくら探しても見つからないはずだ。
クレイ少年をライオネルの側近にしようと思っていた。だが女性ならばどうする?
嫁か?
クレイをライオネルの嫁にするのか?
国王は二人に視線を向ける。
ライオネルは逃げないようにとクレアを抱きしめ、クレアの頭や頬に小さいキスを送っている。
クレアは国王陛下を前に、完全にパニックになっており、ライオネルが何をやっているか、気づいていない。
わざと国王に見せつけているのだろう。
ライオネルのクレアに対する思いはあからさまだ。
二度とクレアを手放さないと。
二度とクレアに手出しさはさせないと。
国王はライオネの意図を十分にくみ取った。
国王は思う。ライオネルには自分の子どもというだけで、どれ程の苦労を強いただろうかと。
浮浪児となり死と隣り合わせのような生活を送らなければならなかった。
そんな中で、やっと愛する人たちと巡り合い、共に生活できるようになったのに、それさえも奪われてしまった。
国王は、自分の意志で伴侶を選べない苦しみを知っている。
愛する人と共に歩むことが出来ない苦しみを知っている。
我が子には、そんな苦しみを知ってほしくはない。
苦労をかけてきた子だ、幸せになってほしい。
そのためにはできる限りの手助けをしてやろう。そう思ったのだ。
ここに『クレイ嬢をライオネル王子妃に迎えよう』プロジェクトが発足したのだった。
因みに、プロジェクトリーダーはジュライナ公爵に白羽の矢が立った。
話を聞いたライオネルは、ジュライナ公爵に命じていた接見禁止令を解くと、『ジュライナよろしくね』と言葉までかけたのだった。
ジュライナ公爵は感動の余り男泣きにくれ、身命を賭して、このプロジェクトを成功させることを誓ったのだった。
“ちょろい”誰に対してなのか、ライオネルはそっとほくそ笑んだのだった。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
※ クレアが目覚めたすぐの時は、ライオネルはまだ”クレイ”呼びです。
国王が見舞ったときは、まだクレイでした。なので、国王もクレイと思ってい
ます。
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