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50 トニー
しおりを挟む「トニー、これを受け取ってほしいんだ」
やっと気が済んだのか、抱き着いて離れなかったルロイが身体を離すと、斜め掛けにしていた鞄から袋を取り出した。
そのまま勢いで受け取ってしまったが、袋は革製で、ずっしりと重い。どうみたってお金が入っているようにしか見えない。
中を開けてみると、やっぱり金貨がこれでもかと入っていた。もの凄い大金だ!
「ど、どうしたんだよこれ?!」
「やっとトニーに借金を返すことができた。あの時はありがとう。凄く嬉しかったし、本当に感謝している。遅くなってごめんなさい」
「へ? あの時って……。もしかしてルロイのご両親がいなくなった時のことか?」
「うん。トニーのおかげで俺は売られずに済んだ。そのうえトニーが入籍までしてくれて、俺は幸せになれた」
ルロイは本当に嬉しそうに笑う。
ルロイが両親から売られそうになったのは、ルロイが10歳の時だった。そんな昔のことを、ルロイが気にしていたなんて思ってもいなかった。
俺は革袋を握りしめる。こんな大金を、成人したばかりのルロイが稼ぐのは、どれほど大変だっただろう。
まさか家を出たのは、金を稼ぐためだったのか? 右も左も分からない遠い王都にたった一人で出て行くほど思い詰めていたなんて。
わずか二年という短い期間で稼ぐなんて、ルロイの苦労を思うと、涙が出そうになる。
「ルロイ……。お前が気にすることなんて何も無かったのに、気づいてやれなくてゴメンな。でもこの金は受け取れない」
俺は革袋をルロイに戻す。
「え、どうして!」
「俺には受け取る理由なんて無いからだよ」
「だって俺のためにトニーは結婚できなくなったじゃないか」
「結婚できなくなったんじゃなくて、結婚しなくてよくなったんだよ。ルロイのおかげだ。それに俺はルロイを助けたなんて少しも思っていない。当たり前のことをしただけだよ。いや違うな、一人暮らしで寂しかった俺が、ルロイと一緒に暮らせるようになったんだから、俺の方が助けてもらったんだ。お礼を言わなきゃならないのは俺の方なんだよ。だから金は受け取れない」
「礼を言うなんて、おかしいよ。トニーは俺を助けてくれたじゃないか」
「いいや違う。ルロイを助けたんじゃなくて、ルロイと家族になるために、あのならず者を追い払っただけだ。丁度手元に金があったから使っただけ。そんな当たり前のことのために、ルロイが一生懸命稼いだ大切な金を受け取れるはずがない。そんなことをしたら、俺はルロイを金で買ったことになる。あのならず者と同じになってしまう。俺は家族を金で買ったりしない」
「トニー……」
「分かってくれ」
俺は戸惑ったままのルロイの顔を両手で挟むと、額と額を合わせる。
ルロイが小さい頃、ルロイに分かってほしいことがあった時に、よくやっていた。
「ルロイ、夕飯を食べようか? いつもの黒パンとスープしか無いけど」
「うんっ、食べる! トニーの料理は美味しいから大好き!!」
大金の入った革袋を鞄に戻させると、俺はベッドから起き上がる。
ルロイが王都で、どんな食事をしていたか分からないが、ずいぶんと大きくなっているから、食事は足りていたのだろう。ひもじい思いをしていなかったと思いたい。
「じゃあ、食事をしながら、この2年間のことを話してくれるかな。ルロイが自警団に行ったところから教えてくれると嬉しい。仕事はどんなことをしていたのか、王都ではどんな生活をしていたのか、色々と教えてほしい」
俺の問いに、ルロイは嬉しそうに頷いてくれる。
ルロイは俺の大事な息子だ。
だから聞かなければならない。こんな大金をどうやって稼いだのか。
頼る者もいない王都で、いくら騎士団に入っていたとはいえ、給料だけで稼げる金額じゃない。
悪い考えが浮かび上がって来る。
ルロイは誰かに騙されたりしていないだろうか。こんなに綺麗なルロイは、女性どころか男性にも目を付けられるだろう。
もう成人しているが、まだまだ幼さが残っている。悪い大人にかかれば、簡単に騙されてしまうだろう。
もしかしたらルロイは犯罪に巻き込まれているんじゃ……。そのために騎士様達がルロイを村まで送って来てくれたのかもしれない。
それともルロイのことを監視するためや、逃がさないためなのだろうか。
ルロイを送り届けたのに、そのまま騎士様達が残っているのはおかしい。
そう言えば、ルロイに何度も連絡をするように言っていた。
俺はルロイに気づかれないように、自分の胸元をギュッと握りしめる。
大丈夫。ルロイは俺の元に帰ってきてくれた。どんなことがあっても、これからは俺が護る。
騎士様達に家バレしているけど、分からないような遠い場所にルロイを連れて逃げてもいい。
ルロイに会いに王都に行こうと思っていたから小金は貯めている。逃亡資金はある。
俺が騎士様達に敵うことなんて無いけど、ルロイを逃がすための足止めぐらいにはなってみせる。
俺は決意を固めるのだった。
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