異世界道中記(仮)

牛一/冬星明

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プロローグ

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カンカンカン。
裁判長のような奴が裁判や議会で叩く甲高い音を出す木製のハンマーの『ガベル』の音が会場中に響いた。
私はコロシアムか、評議会の被告人席のような場所に立たされていた。
何が起っているのかも判らずに記憶が混乱していた。
えっと私は何をやっていたのだっけ?

ぼんやりとする霧のかかった脳を強制的に動かす。
幼稚園の頃に劇団に入団させられ、元気な笑顔とはっきりとした物言いが気に入られて、子役としていくつかの仕事を熟し、大河ドラマのヒロイン役の子供時代を演じた。
それがヒットしたお陰で一躍の子役スターだ。
一気に仕事が増えた。
そんな仕事の中に子役や歌手の卵を集めた教室のような番組企画があり、大人を馬鹿にしたような芸風の私が一番に輝いた。
何人かのグループに分かれて、色々な体験アクションをお茶の間に届ける。
ナイアガラ滝をドローンにぶら下がって滑空、気球でエベレストに登頂なんて、馬鹿な事をする。
ロボットの制作や何もない無人島で一週間がウケた。
でも、一年もすれば飽きられる。
そんなちょっと倦怠期に『バンジージャンプを体験しよう』に参加して、私は鉄棒の後方二回宙返り一回ひねり『ムーンサルト』をバンジージャンプで決めた。
〔良い子は絶対に真似をしないでね〕

「あはははは、目が回る。気持ち悪い。きゃははは、もうダメだ。吐きそう」

上下に激しくバウンドするバンジージャンプに回転と不規則な動きが加わった。
訳の判らない体験を心の儘に声に出す。
視聴率が一気に飛び跳ねる。
編集のない生放送が仇となった。
浮き上がった体に体を支えるゴム綱が首に絡んだ。
そして、その儘で落ちていった瞬間に『ゴキリ』と私の首の骨が折れる音が集音マイクに入った。

「あっ、思い出した。番組の生放送中だった」
「そろそろ良いかね」
「あの議長。私はどうなったのですか?」
「まだ、そんな事を言っているのか。君の顔があらぬ方向に曲がった映像が生放送されて、全国で卒倒した人を大量に作った」
「視聴率も最高ですか?」
「最高だ。それを気にする事か。だが、番組は慌てて放送を中止した。放送事故という奴じゃな」

うわぁぁぁ、やってしまった。
絶対にやっていけないと言われた放送事故だ。
最悪だ。私の芸能生活が終わった。

「待て、待て、悲しむのはそこではないだろう」
「もう芸能人として、もうやっていけません」
「それ以前に其方は死んでいる」
「そっか。私、死んだんですね」
「気が付いておらんだのか?」
「あははは、放送事故の方が気になって………? あっ、お母さんになんて言い訳すれば、良いですか?」
「もう会う事はない。その心配は無用だ」

鬼のような母の説教を聞かなくて済んだ。
この前の失敗した時は永遠に24時間耐久レースの説教が続いたからね。
よかった。

「よかったのか?」
「ダメですか」
「駄目ではないが、悲しむ所が違うじゃろう」
「所で裁判長はどうしてそんな変な服を着ているのですか?」
「儂は裁判長ではない」

裁判長はあのハリーポッターの学校で出てくる厳格な黒の制服ではなく、仙人が着ているような古代ローマのトガーに近いファッションだった。
どう見ても白一色は流行遅れだ。
隣にいる人は太陽のような髪飾りをおでこに付けて、赤と白のシンプルな服を着ている。
美人さんなのに勿体ない。

「其方とファッションセンスを議論する気はない。確かに我らはファッションを気にする者は少ないのは確かだ。奇抜過ぎては威厳がなくなる」
「お爺さんの白く長い髭は中々です。手入れが行き届いていて凄いと思います。完璧です」
「其方は物怖じせぬ性格と知っておるが、判っておるのか。死んだのじゃぞ」
「あははは、11歳で死ぬつもりはなかったですが仕方ないですね」

その他の傍聴者も呆れ顔だ。
裁判官が多い。
左右に100人ほどの裁判官が座り、それが10段くらい重なっていた。
多すぎない?

「儂は裁判官などではない。天之御中主と言う。右手に並んでいるのが、中津国の神々であり、左手にいるのが天照をはじめとする神々じゃ。上におるのは外ノ国の神々だ」

何と⁉
インドの神様の大黒天様から中国の神様の弁財天様とか、西欧のゴット、東欧の雷神、ギリシャのゼウスまでいた。
世界中の神様がいるのはどういう事?

「其方の映像は動画サイトで全世界に配信された。そして、世界中の人々が其方の死後の世界である冥福を祈ったのじゃ」
「それはありがたい事です」
「流石にこれだけの祈りが届けば、無視もできない。かといって、どこの神も其方を天国に受け入れてくれない」
「どうしてですか?」
「胸に手を当ててみよ」
「心臓がドキドキいっていません」
「そこではない。其方の行いを思い出してみよ。子供に悪癖を広げ、嘘のコマーシャルで多くに命を奪っただろう。ウソ泣きで被害者ぶったのを忘れたのか」
「あれは上から広報です。私の所為じゃないです」
「無知の知を知れ。さらに言えば、反省もしておらん」
「そんな酷いですよ。責任転換です」
「良いか。天国は静かな所だ。其方にかき乱されては堪らん」
「天之御中主様。よろしいですか?」
「閻魔か。言ってみよ」
「佐々木 忍。嘘により世間を騒がした罪で本来なら一番浅い『等活地獄とうかつじごく』で反省するまで口を焼かれる刑に処する所だ」
「私⁉ 何か、悪い事をしました」
「まだ、言うのか」
「あっ~~~~~~~、何となく覚えがあります。だから、許して下さい」
「まったく、反省しておらん。人々の祈りで罪一等を減じたとしても、そんな奴を天国に迎えたい神はおらん」

神様は冷たかった。
神様に愛されているとは思っていなかったけどね。
そこから神々から自分の天国がどんなに凄いかという自慢のプレゼンテーションが始まった。
皆、自分の天国が一番と言う。
その度に他の神が否定して、自分の天国の方が素晴らしいと主張した。
神様同士は仲が良い訳ではないらしい。

「そういう訳で君を受け入れる訳にはいかない。他の下賤な神の天国に行くが良い」
「下賤とは何ですか。其方の天国は胸の小さく背丈も低い者ばかりではないか。このちっこいのを受け入れるには丁度良いであろう」
「我が天国は心が澄んだ者しかおらん。この心の濁った者は入らん。其方の世界は肉欲まみれの世界だ。このちっこいのを受け入れてやれ」
「愛し合うのは本来のあり方であろう」
「毎日が乱交パーティーの酒池肉林しゅちにくりん
「不潔ですわ」
「何もする事もないのだ。仕方ないであろう」
「どちらも醜い。やはり美男子のみを集めた妾の世界が一番じゃ」
「「其方の世界が一番腐っておるわ」」
「何じゃと⁉」 

どこの天国ものどかで争いもなく平和な所らしい。
でも、神様同士は違った。
ともかく、ゲーム、読書、テレビも芸能活動もない。
私もそんな退屈な世界は願い下げだ。

「そこで祈りのアンケートの結果にあった。『異世界で幸せになって欲しい』という要望が多い。異世界に転生するのはどうじゃ」
「行きます。異世界チートスキルで無双できるのですか?」
「そんなモノはやらん」
「そんなケチな事は言わないで下さい。異世界転生と言えば、チートじゃないですか?」
「異世界の神から請われて行く訳ではない。そんなモノを与えれば、向こうの神から苦情が来る。却下だ」
「そんな~~~」
「では、多数決で決めよう。其方にも一票を与えるぞ」

どこかの天国に送るには一票も入らなかった。
異世界に追放。
私以外が全員賛成で可決し、『私にチートを』は完全否決だ。

「よって、異世界に島流しとする」

滅茶苦茶に酷い事を言われた。
全世界の人々の祈りで、地獄に一本の糸が垂れたのに天国じゃなく、島流しだよ。
異世界でも生き返らせてくれるからいいけどね。
私にチートを………『ダメじゃ』
私は異世界に島流しにされた。
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