異世界道中記(仮)

牛一/冬星明

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第1話 毎日、食べられています。

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見渡す限り鬱蒼とした木々が生えた世界。
樹齢1,000年は超える大木の覆われた世界が目に入った。
大木を見上げると、30mは聳え立つ。
辺りに民家やエルフの集落があるとかじゃない。
何もない。
薄暗い世界にポツンと出された。

ぼっ~~~としていた私も悪かった。
突然に木の陰から大きなモノが現れたと思うと、逃げようと考える間もなく食われた。
がし、がし、がしと大きな獣の牙が私の腹に噛みつく。
痛い、痛い、痛い。
マジで痛い。
長い牙を見ると、昔、図鑑で見たサーベルタイガーのような獰猛な獣だ。
転生して10分も経っていない。
私は食われていた。
がし、がし、がしと鋭い牙が私の腸を喰っていない。
滅茶苦茶に痛いが、腸ドコロか、学校公認のブレザー服も破れていない。
恐らく、1時間くらい骨をしゃぶるように嚙み付かれていたと思う。

「酷い目にあった」

体中が獣の涎でベトベトだ。
獣の涎から臭いが漂う。
死ななかっただけマシなのか?
誰か教えてよ。

“はい、はい、お教えします”

脳内で声が響く。
目の前に大きなコインに手足が付いた変なモノが浮いていた。
“変なモノとは失礼ですね。神々から貴方を案内ナビゲートするように仰せつかった精霊です。名前はまだありません。忍さんが付けて下さい”
「じゃあ、ナビちゃん」
「もっと真面目に考えて下さい」
「面倒だからナビちゃんでいいよ」
「嫌です。もっとカッコいい名前を・・・・・・・・・・・・?」
「どうしたの?」
「早く変更して下さい。駄目です。早くって、固定されました」
「じゃあ、ナビちゃんね」
「責めて姿も可愛い動物の姿を想像して下さい」
「どうして?」
「忍さんのイメージで私の姿が決まります」
「私が決めるの?」
「創造した姿で固定されます」

可愛い精霊と言われてもピンと来ない。
今はパックマンに目と鼻と口が付いたようなコインだ。
この儘でいいか。

“止めて下さい”
「別に今の儘で良いんじゃない」
“今すぐに他の動物を、女の子ならモフモフを想像して下さい”
「別にモフモフに興味ないし」
“うわぁ。固定されました。最悪です。こんな姿で、こんな姿で、こんな姿で………”
「じゃあ、ナビちゃん。現状を説明して頂戴」
“今、それを聞きますか?”

精霊の感情なんて判らないよ。
精霊は創造主の命令に逆らえず、私の命令に逆らえないらしい。
諦め顔でナビちゃんが説明を始めた。

“ここはモテリフォンと呼ばれる異世界です。魔物が徘徊し、剣と魔法が跋扈します” 
「ナビちゃん。このベタベタと臭いをどうかしてくれない」
“私にそんな機能はありません。左手に500mほど行くと小川があります。そこで自分で洗って下さい”
「ケチだ」
“私は案内する機能しかありません”

私は小川でベタベタに付いたよだれを落とした。
くんくんと鼻で臭いが取れたかを気にする。
ずっと嗅いでいたので鼻が馬鹿になっている気がする。
体をゴシゴシと洗って、ブレザーとスカートの上下も水洗いする。
本当に臭いが取れたのだろうか?

“忍さんは臭い以上に現状を気にするべきです”
「そうだった。ここはどこ?」
“ここは異世界の辺境の森の中です。一番近い辺境の村まで300kmもあり、まずはそこを目指しましょう”
「300km⁉」
“他にも隠れ里や隠れ家がありますが、行っても意味がないと思われます。次に近い村は400kmで盗賊の村ですからお薦めできません。普通の村なら1,000kmを超えます。普通の村を目指しますか?”
「どうしてこんな辺境に飛ばされたのよ」
“この世界の神も嫌がりました。神々も仕方なく、こちらの神がいない空白地に転移させました”
「村に行くまでに死んじゃうでしょう」
“その心配はありません。ステータス画面と叫んで下さい”

私は言われる儘に叫んだ。

名前:佐々木 忍。
種族:人種。
職業:未定。
レベル1
HP:15
MP:8
SP:3
ごうげき:3
しゅび:2
まりょく:3
ちから:2
みのまもり:2
すばやさ:9
きようさ:9
みりょく:1
うん:3
特殊能力:八百万の神々の加護。
称号:転移者。神々に毛嫌いされし者。
スキル:理解、翻訳。

これって凄いの?
もしかして、レアな数字なの?
私って、チート。

“この世界の5歳児程度の能力です”
「駄目じゃん」
“しかし、神々も嫌々ですが、少しずつ加護を与えてくれました。すべての神々の名を列記するのも面倒なので『八百万の神』と表示しました。塵も積もれば山となると言いますが、多くの神々がくれた加護です。脅威SSSクラスのドラゴンの牙でも忍さんを噛み切る事が出来ないでしょう”
「滅茶苦茶、痛かったわよ」
“痛みまで補完できません。動物の弱点は目です。あのドラゴンの牙でも忍さんの目を抉れません。それほど強力な加護となっています”
「目を抉るとか、怖い事を言わないよ」
“食事を取らないと空腹感で死にそうになりますが、死ぬ事もありません。この『八百万の神々の加護』は忍さんが希望したチート効果です。よかったですね”
「どこがチートよ。呪いのように聞こえてきたわ」

私は洗ったブレザーを着るとナビちゃんに向かう方向を聞いた。
深い森で迷わないだけマシか………じゃなかったわ。
痛い、痛い、痛い。
今度は熊みたいな奴に襲われた。
私はぽかぽかぽかと手で叩いて抵抗するが、熊にとってそよ風より弱い攻撃で全然効かない。
好きなだけ齧られて諦められた。
また、汚された。

“この辺りの魔物はBクラス以下がいません。今の忍さんのステータスで倒せる魔物はいませんから諦めて下さい”
「魔物を避けてよ」
“これでも危険な魔物を避けております。しかし、完全に避けられないのです。縄張りに入れば、襲ってくるので仕方ありません”
「私、生きて村に辿りつけるの?」
“ご安心下さい。忍さんを殺せる魔物もいません”

嬉しくない返事が返ってきた。
そこから空腹と疲労との闘いだった。
行けども、行けども、森は続く。
1日で10kmも進めない。
魔物に食われている時間の方が長い気がした。
それも毎日だ。
魔物に齧られて痛い目に合うのが日課となった。
痛いモノは痛い。
さらに、それより恐ろしいのが空腹と喉の渇きだ。
苦い草を食べて、少しだけ腹を満たす。
もう疲れた。
誰か私を殺して・・・・・・・・・・・・そんな事を考えるのは私らしくない。
でも、それ位に痛い目に会い、空腹と疲労に襲われて疲れていた。
10日近く、飲まず食わずの日々が続いた。
でも、日課は続く。
今日はディプロドクスのような首長竜だった。
痛い、痛い、痛い。
痛いけど嚙み砕かれる事はない。
私を飲み込むには口がちょっと小さい。
首長竜が垂らした涎を顔に掛かった。
その涎を飲み込んで、喉の渇きを抑える。
私も精神的に参っていた。

首長竜もいくら噛んでも噛み切れない事に苛立ちを覚えたのだろうか?
周囲に対して警戒が散漫になっており、無数の槍が飛んでくるまで気づかなかった。
私にも槍が襲っていた。
痛い、痛い、痛いよ。
でも、槍は一本も私に刺さらない。
首長竜は図体の割に皮が薄いのか、槍が無数に刺さって血だらけになっていた。
頭に刺さった槍から血が垂れてくる。
それをゴクリと飲むと美味しく感じた。
生血が美味しいなんて私もかなり病んでいるな。
ゴクリ、ゴクリ、ゴクリ、止められない、止まらないよ。
これ、美味しい。

“普通ならば、血に混ざっている寄生虫が腹で繁殖して死ぬ所です”
「嘘⁉」
“忍さんの腹を喰い破れる寄生虫はおりません。ご安心下さい”
「飲んでから言わないでよ」

私は何度齧られただろうか?
1日で5回以上が日課だ。
20回を超えてから数えるのを止めた。
一番恐ろしいのは大蛇らしく、私くらいなら丸のみしてしまう。
そして、排泄されるまで数か月掛かるらしい。
暗い腹の中で数か月も閉じ込められる。
そうならないようにナビちゃんが危険な魔物を避けてくれた。
でも、齧られるだけの魔物は避けてくれない。
そうなのだ。
私にとって、この首長竜も危険じゃない魔物になる。

その首長竜の背中が針千本だ。
痛そう。
遂に首長竜は私を咥える力を失ってボトリと落とした。
私は首長竜の血で血だけだった。
齧られていた痛みが消え、血をたらふく飲んだ私はお腹も満たされて眠気が襲われる。
人間の適応力って怖いな。
私は戦争の中で寝息を立てて眠ってしまった。
そして、気が付くと檻の中だ。
どうやらナビちゃんが言っていた辺境の村に到着したようだった。
もちろん、普通の村ではない。
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