異世界道中記(仮)

牛一/冬星明

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第5話 異世界地獄巡り。

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「忍ちゃんの突撃インタビュー、今日は京都の地獄巡りにやって来ました。住職さん、地獄って、どんな所ですか?」
「地獄とは恐ろしい所です。現世で罪を犯した者が罰せられる。それは口にするのも恐ろしい。殺生をした者が落とされる地獄で鉄棒や刀で手は足を切り落とされ続ける等活地獄とうかつじごく、盗みをした者が落とされる地獄は鉄縄で縛られて熱鉄の斧で切り裂かれる黒縄地獄こくじょうじごく、してはならない性行為をした者が落とされる地獄で牛頭ごず馬頭めずに追い立てられて山に入ると山や大石に押し潰される衆合地獄しゅうごうじごく・・・・・・・・・・・・」
「どれも怖いですね。でも、私は殺した事も、盗んだ事も、いけない事もした事もないから大丈夫です」
「そうですが、蚊を殺した事はないですか?」
「顔を狙ってくる悪魔はパチンパチンです」
「ほぁ、殺していますな」
「蚊もダメって無理ですよ」
「あははは、嘘を付くのも、人を騙すのもダメです」
「ディレクターに要望です。受けないと番組がなくなります」
「理由はどうであれ、地獄行きは確定ですな」
「はぁ~~~~、そんな!?」

私は大袈裟に困った振りをしてお茶の間の視聴者に受ける大袈裟なリアクションを取った。
でも、本気で心配なんてしなかった。
あの時の寺巡りが思い出される。

住職から針の山で突き刺ささられて、火の山で炙り殺され、絶え間ない苦しみが永遠に続くとか言われて脅された。
この異世界ではノコギリのような歯でカミカミされ、針で体に突き刺さられたような痛みが突き抜けた。
すぐに噛み切れないと悟って止めればいいのに、スルメイカをしゃぶるように何時間も噛み噛みされた。
上下から針のムシロで突き刺される痛みに耐え続けさせられた。

サイのような凶悪な魔物群れが走って来て踏み潰す。
ハンマーで押し潰された衝撃が走る。
サイの群れが次々と通り過ぎて、ドドドドドッと何度もペチャンコにされた。
私はその度に「ふぎゃ、ふぎゃ、ふぎゃ」と奇声を上げた。

首の長い竜の奴に咥えられて空に放り投げられた。
何度も宙を飛び、地面に叩き落ちる。
潰してから食べるつもりなのだろうか?
首の骨や体の隅々までバラバラになってような痛みが走った。
でも、私の体は潰れない。
首長竜に何度も何度も空に放り投げられた。

魔物に追われて川に飛び込むと、そのまま激流に流されて滝に落ちた。
落ちたまで良かったが、その滝つぼでグルグルと舞って海面に上がれない。
窒息死するような息の出来ない苦しみが続いた。
何時間ほど洗濯機のように回ったか判らないが、川底から脱げ出すと川に流されて、巨大な巨木のエリアから脱出した。

何日も食べ物がなく、空腹でもう動けない。
近くの草が美味しそうに見えて食べると酷い味で何度も吐き出した。
それでも食べた。
そうすると腹の痛みが緩和されて動けるようになった。
私は異世界という地獄を巡っている。
これが地獄じゃなければ、何が地獄か?
誰か教えて欲しい。
今度は背中と頭の後ろが痛い。
ガタガタ地獄か?
うっすらと瞼を上げて、今度の地獄を見ようとした。

「忍、忍、忍、大丈夫にゃ?」

猫耳だ。
手を伸ばすともふもふしている。
頬に冷たいモノが当たる。

「忍、目を覚まして」

あぁ、サファイアだった。
緑色の目がうるうるしている。
心配しなくても大丈夫だよ。
私はおっくうな口を少し開き、かすれた声を出した。

「大丈夫」
「し、の、ぶ、目を覚ました。よかった」
「私は死なない。死ねないのよ。心配する必要がない」
「でも、動かなかった」
「体は平気なのよ。でも、気持ち的に起き上がれない。今も頭がガタガタして痛い」

サファイアがごそごそと動くと膝枕をしてくれた。
少し楽になった気がする。
このガタガタは馬車だった。
流石に、ガタガタ地獄はないか。
オーガのたこ殴りは堪えた。
痛みは巨木の魔物に比べると大した事がなかったが、餅つきの餅の気分を味わった。
僅かに沸く勇気と希望をペタンペタンと潰される気分だった。
今までずっと思わないようにしてけど、私は神様に騙されて地獄に落とされたのじゃないだろうか?
絶対にここは地獄だ。
たこ殴りは『ペタンペタン地獄だ』

「ペタンペタン地獄って、美味しいにゃ」
「美味しくないよ。辛いだけ、辛いけど、苦しいけど、アレが最善と思った。私の加護は物理攻撃の無効、魔法攻撃も無効になる」
「凄いにゃ」
「全然、凄くない。無効になるだけで痛みはあるよ。火を吐かれれば熱いし、体中に焼かれる痛みが走る。川に溺れれば、窒息死するような呼吸の出来ない苦しみが続く。永遠に苦しみだけ与えられている。これって地獄の罪人だよ」
「地獄の罪人って、何にゃ?」
「苦しみがずっと続くように死んでも生き返って苦しめられる事よ」
「それって絶対に嫌にゃ」
「私も痛いし、苦しいし、辛いから殺してくれって何度も願った。さっきも途中から殺して、そう叫びたかったけど、叫ぶ事すら許してくれない連打よ」
「忍。もっと早く助けにいけなくて御免にゃ」
「仕方ないわ。サファイアのスキルが発動しないと勝てないと思ったから。それを選択したのは私。もうしないけど、間違ったとは思ってないわよ。たこ叩きにあっている時は何度もやらなきゃよかったと考えていたけどね。だから、サファイアは悪くない」
「本当にゃ?」
「ホント、ホント、でも、もっと強くなって欲しい。二度とこんな策はやりたくない」
「判ったにゃ。サファイアは強くなるにゃ」

サファイアは何度も謝って泣いて、強くなると宣言した。
あのときは、皆を犠牲にして生き延びるのも辛い気がしたのよね。
後悔なんて私らしくない。
私はいつも暢気に馬鹿をしていればいい。
それが忍ちゃん。
異世界地獄巡りは勘違いだ。

「すまない。俺達が無力なばかりに無理させた」

えっ、首を少しずらすと皆がいた。
当然だ。
今までも皆が馬車に乗っていた。
私はその狭さに耐えきれずに御者に逃げていた。
今日は私の為に空けてくれていただけだ。

「なるほど、首狩り族の族長から広場で拾ったと聞いていたが、そういう訳でしたか」

御者台を挟む垂れ幕から顔を出して商人オプスが語り掛けてきた。
魔物から何とか逃げたと言って、加護の内容は誤魔化していたのにバレてしまった。
物理・魔法攻撃の完全無効って、かなりレアなスキルだ。
ナビちゃんが話すなと言っていたので黙っていた。
“もう逃げられません。オプスは忍さんを利用するでしょう”
拙いの?
“判りません。私の推測できる範疇を超えております。最悪、敵の本陣まで地雷を持って最前線を走る事を強要される未来もあります”
それは最悪でしょう。
“ですから、喋らないように忠告したのです”
私はサファイアに話したつもりだった。

ベルカらが感謝の言葉をくれた。
同情もしてくれた。
地獄の苦しみに耐えてきた悲惨な少女と思われたみたいだ。

「忍ちゃん。これ、私の秘蔵のドライフルーツよ。食べる」
「頂きます」
「今晩は美味い物を食べさせてやるぞ」
「ベルカ。しっかりと狩りをしてきなさい」
「任せろ」

この旅団の食事は洞窟より良かった。
同じ具なしスープでも、肉や野菜をしっかり煮込んでいるので味があった。
黒パンも付いた。
だが、その日から具が付くようになった。
サファイアが飛び上がるように喜んだ。
黒パンも2個までおかわりが出来る。
しかもベルカらが狩って来た肉を焼いて食べられる。
ウルフの肉とか硬いんだな。

「悪いが雇い主に報告しない訳にはいかない」
「そうですか」
「否定しないのか?」
「何となく判ります。無駄な事はしません」
「達観しているな」
「いいえ、ディレクターの無理に慣れているだけです。気にしないで下さい」
「なるべく悪いようにはしないつもりだ」
「宜しくお願いします」

商人オプスは王宮の夫人方々に請われて『蜘蛛の糸』を購入する為に定期便を出している。
この糸は伸縮性がある上に光沢が美しい。
丈夫で火に強く、水を弾く。
女性のドレスや下着、軍用では貴族用の雨合羽などに使われる。
スポンサーは王宮らしい。
あの野蛮な首狩り族と取引をするもの、この『蜘蛛の糸』を買う為だった。

「忍もサファイアも見た目は可愛い。王妃や王女に気に入られれば、近衛になれるかもしれん。そうなれば、戦場に出る事もなく一生安泰だ」
「そうだと良いですね」
「嬉しくないのか? 普通は喜ぶ所だろう」
「そういうシチュエーションって、家老とかが裏切って攻めてきます。姫は城から逃げるのが定番ですね。私、大河ドラマの子役で火の中を逃げた事があります」
「家老?」
「家臣の偉い人です」
「ないとは言えんな。家臣ではなく、皇太子だが・・・・・・・・・・・・げほん、げほん」
「やっぱり」
「心配するな。国王は高齢だが健康だ。しばらくは心配ない」
「だと良いですね」

私とサファイアの価値が上がり、服や装備も良いモノに変えてくれた。
待遇も冒険者と同等になった。
奴隷だが自由行動が許され、成果に報酬を払ってくる。
私は索敵を手伝って小遣いを稼ぎ、サファイアは狩りを手伝う。
ハーフエルフのティアと山菜摘みのついでに薬草と毒草を採取もした。
村で売るつもりだ。
それから10日ほど掛けて、私らの旅団はカタフェ男爵領に入った。

名前:佐々木 忍 (11歳)
種族:人種。
職業:未定。
レベル1
HP:22⇒36
MP:13⇒18
SP:12⇒22
ごうげき:7⇒8
しゅび:7⇒8
まりょく:5⇒5
ちから:7⇒10
みのまもり:7⇒10
すばやさ:16⇒20
きようさ:8⇒8
みりょく:20⇒20
うん:4⇒4
特殊能力:八百万の神々の加護。
称号:転移者。神々に毛嫌いされし者。悪食。獣人を救いし者、商人オプスの奴隷
スキル:理解、翻訳。眷属召喚〔使用不可能状態〕。

名前:サファイア(クンチ) (8歳)
種族:猫獣人種。
職業:猫戦士。
レベル5⇒8
HP:72⇒124⇒126
MP:10⇒20⇒20
SP:61⇒103⇒105
(143⇒247)
ごうげき:40⇒76⇒82
しゅび:22⇒40⇒48
まりょく:18⇒24⇒26
ちから:27⇒45⇒51
みのまもり:38⇒50⇒54
すばやさ:73⇒136⇒150
きようさ:17⇒31⇒31
みりょく:41⇒77⇒80
うん:4⇒4⇒4
(280⇒483)
特殊能力:八百万の神々の護符。
消えた特殊能力:ケット・シーの加護。
称号:奴隷猫騎士、忍の眷属。
隠蔽されている称号:猫獣人イーハトーブ国の王女 (王子)、猫勇者、国を滅ぼされし者。(新)大物食い。(新)大判狂わせ
消えた称号:ケット・シーの祝福。
スキル:剣術Ⅰ(スラッシュ、(新)回転斬り)、格闘術Ⅰ(猫パンチ)、気合い、猫の礼儀作法、バーサーカー。
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みんなの感想(1件)

A・l・m
2022.11.24 A・l・m

天猫?
しかし、主人公大変だな……。

少女→少女転生(転移?)で嬉しくない系チート持ちか……。
ディレクターの無茶振りにも耐える胆力を元々持ってる人気子役さんの今後のご活躍を期待しています。
(毒耐性無いのは危ないな……)

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