刺殺からはじまる侯爵令嬢、カロリナだってがんばります!

牛一/冬星明

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21.カロリナ、食い物の恨みは忘れません。

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重装を背負って山を歩く。歩く。歩く。
イアスト山脈の頂上にはもう雪が積もりはじめている。
その中腹まで行くとなると装備が大変だ。
川を渡って、まだ1つ目の山だというのに荷物の重みがずっしりと肩に食い込んだ。
いっその事、アンブラヴェン木葉フォウフロスに頼んで、屋敷で待ってくれた方がどんなに楽だったか。
冒険ギルドのルールでは召使いを使って調べさせるのは合法だ。
だが、それを許してくれるカロリナではなかった。

そもそも、カロリナの漁村の依頼を受けるつもりはなかった。
だから、数週間以上も放置された。
慈善事業で人気取りをしようとするカロリナなら、すぐに喰いつくと思っていたエリザベートの読みを裏切った。

「どうして受けないのよ」

花瓶に八つ当たりするエリザベートも珍しい。
カロリナの思考は完全にエリザベートとの斜め上を行っていた。
失敗したと考えたエリザベートが他に何か意地悪ができないかと頭を悩ましはじめると、突然に依頼を受けた。
もう訳が判らなかった。

「あの子は何を考えているの、アンドラ?」
「僕にはさっぱりです」
「わたくしもよ」

判るハズがない。
カロリナは久しぶりに河魚を食そうと市場で買って塩焼きで食べることにした。
取り立ての魚を塩焼きで食べるとおいしいのだ。
堪能しようと齧りついた。

「何ですか? このヌル臭い味は!」

カロリナは売っていた猟師を責めた。

「こんな魚を売っていいと思っているのですか?」
「すみません。どうしてもこういう魚しか捕れないのです」
「この味は…………そう泥臭い味です。河が濁っているのですか?」
「濁るほど汚れておりません。少し霞が掛かっている程度です」
「この季節は河の水が冷たくなり、身が引き締まって美味しくなる時期ですわ。こんな拙い物を売って許されると思うのですか!」
「お許しく下さい。俺はただ魚を捕っただけです」
「これは調査の必要があります」

決心すると素早い。
翌日には調査依頼を受けて川を渡った。
王都の南関・北関の内側には魔力スポットがなく、魔物が出現する場所がない。
しかし、川を渡ると流れ魔物が徘徊する。
決して、安心できる地域ではない。

 ◇◇◇

偵察に行っていたヴェンが戻ってきた。
その顔が引き締まっている。

「申し上げます。山を下った先にゴブリンに集落を発見しました。危険を避けるなら、迂回することをお奨めします」
「集落とはどこか?」
「下った川辺りです」
「なるほど、迂回とは?」
「一旦戻り、逆岸から川の上流を目指すルートになります」
「出直せということか」
「その方が安全と思われます」
「アンブラ、後ろに連れてきた兵は何人か?」
「60人です。もう少し連れてくるべきでした」
「十分です。ゴブリンを討伐します」
「カロリナ様、討伐に反対する気はございませんが、兵を整える時間を下さい」

アンブラが食い下がった。
ゴブリンが怖いとは思わない。
しかし、上位種がいる場合、全員の安全が保障できない。
ハイやメイジ、リーダーまでなら問題ない。
しかし、キング、ロードがいれば、討伐に時間が掛かる。

「エンペラーやゴットがいるとか考えている訳ではないのでしょう」
「はい」
「なら、問題ないわ」
「では、責めて半数の兵と後方で待機して頂けませんか!」
「私がそんなに臆病に見えるかしら?」

いつになくカロリナが燃えていた。
アンブラはカロリナが言い出せば、覆らないことを知っている。
カロリナは戦うと決めた。

ふふふ、川を汚したのがゴブリンなら徹底的に潰してやるわ。

泥臭い魚を食べさせられた恨みを忘れていなかった。
だが、ゴブリン集落の近くの川が汚染されたという事例はない。
カロリナの勘違いだ。
ゴブリンも迷惑なご令嬢に目を付けられた。


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